🍞11〗ー1ー「地理総合」。途上国が焼畑農業を続ける理由。~No.47 

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・   
 2024年1月30日 MicrosoftStartニュース プレジデントオンライン「「途上国が焼畑農業を続ける理由」をスッと答えられるか…50年ぶりに復活した必須科目「地理総合」の考え方
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 2022年から高校の必履修科目に地理総合が加わった。大阪大学の佐藤廉也教授は「地理はかつて暗記科目として嫌われていたが、地理総合は論理的思考力を問うものになっている。自然環境を含めた現代世界の成り立ちを総合的に学ぶ唯一の科目といっていい」という――。
 なぜ50年ぶりに地理が必履修科目に復活したか
 2022年4月から、およそ50年ぶりに高校で地理の必履修科目が復活しました。必履修化された地理総合では、地図とGIS(地理情報システム)、生活文化の多様性、地球的課題と国際協力、防災といった項目が大きな柱となっています。
 なぜ今、地理の必履修化なのでしょうか。私は、グローバルな現代世界がどのように結びつき、成り立っているのかを理解すること、それによって私たちが現在立っている位置を知ることの必要性が強く認識されるようになった結果だと思っています。自然環境も含めた現代世界の成り立ちを総合的に学ぶ科目は、地理だけしかありません。
 熱帯林はなぜ、いつから減少し続けているのか。経済的に貧しい人がとりわけアフリカに多いのはどうしてなのか。ロシアがウクライナに侵攻した背景は何なのか。そして、かつて人類が経験したことがないほどの少子高齢社会に、日本や先進諸国が突入しつつあるのはどうしてなのか。駅前商店街がさびれ、地方が衰退していくなかで東京一極集中が進むのはどうしてなのか。これら全ての問いを互いに関連づけながら一つの科目のなかで学ぶとしたら、地理しかありません。
 世界の成り立ちをロジカルに理解する
 地理は、これらの現象をただ知識として知るだけの科目ではありません。地理という科目の特徴は、さまざまな現象を結びつけ、関連づけるところにあります。別のことばで言えば「世界の成り立ちをロジカルに理解する」ことだと言えるでしょう。
 ここが肝心なところです。よく誤解されていることですが、地理は暗記科目ではありません。地球上に普遍的に存在する「地理の原理」を念頭におきつつ、さまざまな現象の関係性を読み解き、理解する「論理の科目」なのです。
 このことは、ここ最近の共通テスト(旧センター試験)の地理の問題をみればよくわかるでしょう。かつてあったような「単純な知識を問うだけの問題」はほぼ絶滅しました。かといって、単に地図やグラフ、表などの資料を「読むだけで解ける問題」でもありません。資料を読みながら、地理の論理、すなわち地理的思考力を働かせて解くような問題になっているのです。
 板書を書き写して暗記するだけの作業が嫌で仕方なかった
 偉そうなことを言いましたが、実は私自身、高校生の頃は地理という科目が好きではありませんでした。
 鉱物の産地とか、小麦の生産国ランキングとか、そういった板書をノートに書き写して覚えるような作業が嫌で仕方がなかったし、夏休みの宿題の地域調査も、そもそも何のためにするものなのかも理解していなかったため、ただ近くの工場にぼんやりと話を聞きに行って終わった思い出があります(先生が雑談でインド貧乏旅行の話をしてくれたりするのを聞くのは大好きでしたが……)。まさに、暗記科目だと思い込んでいたがゆえに、地理が嫌いだったのです。
 大学に入って地理学という学問にふれると、そのような地理に対する誤解が払拭されることになりました。地理学という学問が、一見ばらばらにみえる地球上の森羅万象を結び、関連づけ、世界の成り立ちに関するさまざまな「なぜ」を追究することができる科学だと理解したからです。
 海外のフィールドを歩き、「なぜ」を追究するうちに、地理嫌いだった高校生の私はいつしか地理学者と呼ばれるようになりました。
 「暗記科目だから地理は嫌い」という学生は多い
 大学で教えるようになると、毎年入学してくる学生たちが中学・高校でどのように地理を学び、何を身につけてくるのかが気になるようになります。
 ある年、地理学専修の私の学生が卒業論文のための研究で、大学1年生に「地理好き・地理嫌い」に関する質問紙調査をおこなったことがあります。いろいろ面白いことがわかりましたが、やはりと言うか、地理が嫌いだという学生のほとんどが、暗記科目だから嫌いだと考えていることがわかりました。
 必履修化された高校の地理総合で地理の魅力を伝えることさえできれば、地理好きは今後どんどん増えてくると確信したのです。
 「なぜ熱帯の国では焼畑をするのか」への答え
 地理的思考力といいますが、具体的にどんなことを指すのでしょう。その一つは、文化の地域的多様性が生まれる原動力として、環境への文化的な適応と呼ばれるはたらきがあることです。
 多くの皆さんにとって良くないイメージがあるであろう「焼畑」を例にとってみます。焼畑は現在でも熱帯の国々でさかんにおこなわれている農耕文化の一つです。なぜ、熱帯では焼畑がさかんなのでしょうか。
 この質問に対してよくある答えは、熱帯の国々は発展途上国で、焼畑はそうした発展途上の社会でおこなわれる「原始的農業」だからというものです。熱帯の焼畑については、過去にいろいろな偏見が積み重なり、そうした偏見が私たちの合理的な思考を妨げています。
 例えば、「熱帯の土壌は貧栄養なので、耕作を続けると短期間で不毛になってしまう。だから次々と新しい土地を開墾しなければならないのだ」とか。東南アジアやラテンアメリカで森林火災がニュースになると、焼畑によるものだという報道がなされることも珍しくありません。
 でも、これらは全て間違いです。熱帯土壌の性質と焼畑との間に直接の因果関係は認められていませんし、熱帯林で起こる火災の原因の多くは焼畑とは直接関係のない、プランテーション造成などの土地開拓に由来するものです。これらの偏見は、「熱帯の文化は遅れており、ヨーロッパの文化は進んでいる」という19世紀の思想の名残だと言えます。
 焼畑は、実は熱帯の気候に高度に適応した農耕技術です。植物の繁殖力が旺盛な熱帯では、農業は「雑草とのたたかい」になります。焼畑は、作物の収穫に深刻な影響を与える強害雑草を死滅させるために、自然の力で畑を森にかえし、雑草を死滅させた後で再び農耕をおこなうものです。
 環境に適応した結果として文化の多様性が生まれる
 これが熱帯という気候のもとで焼畑がおこなわれている理由で、文化の多様性は、それぞれ異なる環境に適応した結果だというわけです。このような例をみると、地理的思考は、人種・民族の優劣で文化を説明しようとしたかつての偏見や差別思想にとって、天敵と言えるものかもしれません。
 もちろん、西アジアやヨーロッパでおこなわれている小麦を中心とした農業も、同じように環境に高度に適応した農耕文化です。焼畑や、アジアモンスーン地域でおこなわれる水稲耕作が「雑草とたたかう農業」だとすると、麦農耕は「乾燥とたたかう農業」だと言えます。
 このように、環境への適応の仕方の違いによって大きく世界を分けてみると、世界の文化の多様性が、論理的で意味のあるものにみえてきます。農業区分図をみて、ただ小麦地帯とかトウモロコシ地帯とかを暗記する勉強法では、学びの喜びは決して味わうことができません。
 地理学が「ブリッジ・サイエンス」と呼ばれる理由
 地理学は「ブリッジ・サイエンス」だと言われることがあります。あらゆるものを橋のように結びつけ、関連づける総合的な学問分野ということです。「自然環境と人間の営みを結ぶ」「自然科学と人文・社会科学を結ぶ」というように。実際、よく言われる「理系と文系」といった区分は、地理という科目にはもっとも相性の悪いものかもしれません。
 仕事柄、自然科学も含め、さまざまな分野の研究者と話をしますが、「自分の専門は地理学です」と言うと、「私も学生の頃は地理が大好きでした」と返ってくることも多いです(残念なことですが、年配の方ほどそのように言われることが多いように思います。高校で多くの生徒が地理を履修しない時代が続いたことが原因かもしれません)。地理は知的好奇心の強い人にとって魅力的な科目なのだと思います。
 私は学術を安易に実益に結びつけて評価することはあまり好きではないのですが、地理を学ぶことは、他のさまざまな科目にも良い波及効果をもたらすことも知っていただきたいと思います。
 例えば、高校でおこなわれる探究学習では、テーマを決めて研究論文を作成するなどの学習がおこなわれていますが、そこで選択されるテーマの多くは地球的課題や身近な地域問題など、地理の学習に深くかかわるものです。大学入試の小論文も同様で、これらは地理的思考を体得した生徒にとっては難なく対処できるものです。
 何より、これからの時代を生きていく若い世代に、地球という森を迷わず歩いて行くための地図として、地理的な思考を身につけて欲しいと思っています。

                    • 佐藤 廉也(さとう・れんや) 大阪大学教授 1967年東京都生まれ。京都大学大学院修了、博士(文学)。九州大学准教授などをへて、現職。共編著に『人文地理学からみる世界』『現代人文地理学』(以上、放送大学教育振興会)、『身体と生存の文化生態』(海青社)、『朝倉世界地理講座11 アフリカⅠ』『朝倉世界地理講座12 アフリカⅡ』(朝倉書店)など。 ----------

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