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日本人は、自然を愛し、自然を大事にし、自然を護っている、はウソである。
2024年4月26日6:02 YAHOO!JAPANニュース WEDGE Online(ウェッジ・オンライン)「【蝕まれる日本の国有林】積み上げた債務は3.8兆円!知られざる国有林の姿とは?
多くの国民が国土の3分の2が森林であることを意識しないで、見かけは安穏な都市生活を享受している現代である。国有の森林だってあるだろう程度の認識はあっても、その実態について関心があろうはずがない。
しかし、かつては国民的関心を受けた時代もあったのだ。昭和30年代、いわゆる高度経済成長期の入口に差しかかったころ、木材需要の急増と木材価格の高騰によって、世論は国有林に対して木材増産迫っていた。そしてその木材増産がもたらした副作用ともいうべき大規模な森林の皆伐が、自然保護を訴える国民的運動の標的となり、悪役として有名を馳せた。
もっとも良くも悪くも脚光を浴びたことは、国有林にとって幸せなことだった。とてつもない科学技術の進化によって見果てぬ経済成長を追い求める現在、国有林など身の置き所もなく、世間から忘れ去られている。
しかし、わが国の森林の30%、国土の20%、760万ヘクタール(ha)を占める国有林の潜在的価値には金銭的尺度では測りえないものがある。しかも、その価値が、国民的理解もなく、政治的議論もなく蝕まれていくとしたら、禍根を千載に残すであろう。そうした事態を避けるために私たちがなすべきことを考えてみたい。
国有林の分布の偏りとその歴史
国有林は、江戸時代に各藩が所有していた藩有林や幕府の直轄地である天領の森林を引き継いだものが多い。しかし、主に西日本では国に引き継がなかった藩も多く、図1のように中部地方以北に偏在している。
戦前は、農林省山林局所管の内地国有林、皇室財産の御料林、内務省所管の北海道国有林だったものが、1947年(昭和22年)に1つに統合されて農林省山林局(現在の農林水産省林野庁)所管の国有林となっている。
それと同時に一般会計(財源は税金)に頼らず民間企業的な効率的経営を行うために特別会計制度(独立採算制)を導入し、山林局長などの主要ポストは事務系官僚に代わって、林業技術に関する専門教育を受けた林学出身の技術系官僚が務めるようになった。
森林の維持回復から積極的経営へ
白神山地
戦後しばらくは、戦時中の乱伐のためはげ山だらけだった国有林を早急に回復することに主眼がおかれていた。昭和30年代に入り、木材需要の急増に対処して森林生産力の増強を図るため、民有林と歩調を合わせて積極的に森林の改良を進めることになった。これが拡大造林政策で、成長量の低い広葉樹を伐採してスギ、ヒノキ、カラマツなどの建築用材向けの針葉樹を植栽したのである。
明治期にドイツ林学から移入された保続理論が長らく国有林経営の基調であった。特定の年に過度な伐採をするのではなく、毎年の伐採量を抑制的かつ均等にして、森林資源の枯渇を防ぎ、安定的な収入を維持していこうとするものだ。
今風に言えば森林の持続的経営だろうが、保続の方がたった2字で言い得て妙である。具体的には、年間収穫量(伐採量)を年間成長量以下に抑えることによって荒廃森林の回復を目指したのである。
ところが、それでは増大した木材需要に到底応えることはできない。林野庁は保続理論のタガを外して増伐に踏み切ろうとするが、これに対して林学界が猛然と反発した。ここに森林経理学論争と呼ばれる日本林学史上最大のイベントが起きた。森林経理学とは保続理論を基礎とする学問であり、その有効性をめぐって大家である東京大学教授相手に論陣を張ったのは何と林野庁の一係長だった。
もともと河野一郎農林大臣(当時)の強権で木材増産が打ち出されていたから、この論争の帰趨(きすう)は明らかであった。それに国有林としてもまったく保続理論を無視したわけではなく、拡大造林によって広葉樹天然林から針葉樹人工林に転換することによって将来的に増加するであろう成長量を見込んで、収穫量の増加を正当化したのである。
さらに、早成樹種の開発、林地への施肥など技術的な確証もないまま成長量増加の根拠にした。何やら昨今の少花粉スギの導入や早成樹の開発と瓜二つである。
果たして妙手と思われた将来成長量の増加はやはり机上の空論だった。国有林における拡大造林は一般に奥地の天然広葉樹林を皆伐して針葉樹を植栽したのだが、寒冷や風害などによって不成績造林となることが多く、思うように成長量の増加は果たせなかった。
結果論ではあるが、最初から保続理論を捨てて必要な木材を増産し、木材需要が緩和されるか、森林資源が枯渇した時点で伐採を休止して、事後はもっぱら森林の再生に専念すべきだったのである。江戸時代には、過伐によって森林が荒廃して連年のように洪水が発生する事態はよく起きたが、領主はその流域を留(と)め山にして伐採を禁じ、森林の回復に努めた。
青森の津軽藩の白神山地や岐阜の天領裏木曽(うらぎそ)などにそうした事例がみられる。特段ドイツ林学の精緻な理論によらなくても、日本流でよかったのだ。
この森林経理学論争が残したものは、実態を反映せずともよくできた机上理論を珍重する悪習を林野技官に植え付けたことである。現在でも机上理論は林野技官を支配し続けており、ともすれば理論に溺れ、予算をかけて逆に森林を劣化させる事態が散見される。
また、これ以後の学界に精彩が失われ、現在に至るまで机上理論の後付け証明をする、行政の脇役に成り下がったとしか思えない。行政と学界が現場実態を踏まえた真の論争に立ち返ることを期待したい。
国有林経営の破綻と累積債務
図2は、国有林野事業をめぐるさまざまな要素を時系列に示したもので、林野庁が作成したものである。なかなか秀逸で、資料作成能力は高い。このような能力を現場で発揮してもらうとうれしいのだが。
3つのグラフを遠目に見てもらえばそれぞれの要素が相関を持って変動しているのが一目瞭然である。ポイントは上の図の濃紺の折れ線で示されている収穫量である。
1961~1971(昭和36~46)年にかけて2000万立法メートル(㎥)を超える量を収穫してピークを迎えた。このころの成長量(赤線)は収穫量のほぼ半分程度である。当然収入は増大して国有林野事業は活況を呈する。収入が支出を上回って生じた剰余金は、試験研究(林業試験場)、林木育種(新しい品種の開発)、官行造林(民有地を借りて国が行う造林)、治山など関連事業に当てられたほか、一般会計への繰入も行った(下の図の青い棒グラフ)。
上の図を見ると濃紺の収穫量、緑の新植(苗木の植栽)面積、水色(定員内)と黄色(定員外)の職員数はぴったり相関している。収穫量が増えれば、皆伐面積が増え、造林面積も増える。それらの事業を実行するための要員も増加する。経営を圧迫した1番の要因は人件費であるが、この図を見るかぎり収穫量と連動して要員数は調整されていると見るべきであろう。
しかしながら、高度経済成長下での賃金単価の上昇、国の事業であるがための事務量の多さに対応するための定員内職員の比率の高さが足枷となる。また、労働運動の高まりで、雇用条件や労働条件等の待遇改善要求も厳しくなって、それに伴う支出の増加と作業能率の低下に苦しむようになった。
もっとも山村に対する貢献度は大で、2300カ所を超える担当区事務所(森林官の駐在所)、350の営林署は山村の雇用(請負事業も含む)と地域経済におおきく寄与していた。
しかしながら1971(昭和46)年以降、明治・大正期に造林された優良な人工林は少なくなり、加えて自然保護運動の高まりで1カ所当たりの皆伐面積の縮小、奥地の原生的な天然林の伐採は大幅に制限され、収穫量は急激に減少した。収入不足によって1976(昭和51)年度以降は借入金(財政投融資資金)を導入するようになった。
ここがターニングポイントだった。一般会計化して政治レベルで環境庁(現環境省)に移管するような提案もあったようだが、平たく言えば官僚の縄張り争いで実現しなかった。財政投融資資金は当時の郵便貯金を財源とするもので大蔵省が年8%の高利で貸し付けており、行き場のなかった当資金が国有林に押し付けられたとも言われていた。
これらの諸対応によって、農林省は国土の20%の国有林を確保し、林野庁は融通の利く特別会計制度を維持でき、労働組合は3公社5現業並みの権利を維持し、消費者金融のような大蔵省は貸付先を確保して、同床異夢ながら官庁間ではめでたく収まった。
しかし、当座しのぎの解決策は巨大な借金地獄と化して、累積債務は1998(平成10)年には約3.8兆円という途方もない額に達してしまった。林業という利益の薄い事業において、このような超巨額の債務が生じたことは政治家や行政官庁の無策と場当たり的対応、根本的解決を先延ばしした結果であった。膨らんだ累積債務のうち2.8兆円が一般会計(国税)で、1兆円(その後1兆2,796億円まで増加)が利子補給を受けつつ木材販売代金等で50年かけて返済されることになった。
2013(平成25)年に至ってようやく国有林野事業は一般会計化されたが、2022(令和4)年度末で1兆125億円の債務を残し、2048(令和30)年度末までに林産物収入等により償還することとなっている。このことは未だ国有林経営に対する足枷となっているだけでなく、林業全体さらには国民生活にも及ぶ災厄の恐れをはらんでいる。
次回以降、このように膨らむ債務を孕みながら、環境問題、林業振興、山村活性化、労働条件の改善などさまざまな角度からもたらされる社会的要請・政治情勢に対応し、多くの功罪を残した有様を紹介できればと思っている。たかがマイナーな林業界のしかも今では絶滅した国営企業の足跡であるが、他山の石としてもらえる要素を含んでいると確信している 。
中岡 茂
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4月15日YAHOO!JAPANニュース Wedge REPORT「【あなたの山林が狙われる!】日本で蔓延頻発する違法伐採、盗伐被害で山崩れを誘発、世界が日本を問題視
田中淳夫( ジャーナリスト)
世界中で違法伐採による森林破壊が問題になっている。サミットなど国際会議でも議題となり、違法な伐採による木材製品の流通を止めるための枠組が話し合われている。そうした事情を紹介する日本の林業研究者が、口走った言葉がある。
「ようは国産材を使えばよい。国産材はみんな合法だから」
これを聞いて筆者は愕然とした。どうやら違法伐採は発展途上国で起きているのであって、日本国内にはない、国産材はみんな合法だと思い込んでいるようだ。仮にも違法木材問題の専門家がその程度の認識なのか。日本の林業現場をあまりにも知らなさすぎる。
日本の盗伐の実情
日本でも盗伐は頻発している。筆者は、ここ数年その状況を追ってきたのだ。
盗伐と言っても森の中の1本2本程度を抜いて盗むような古典的なレベルではない。他人の山に道をつくって重機を入れ、何ヘクタールもの面積を皆伐してしまう所業だ。
宮崎県の盗伐の現場。このような被害は日本全国で起きているとみられる(筆者撮影)
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しかも道の入れ方も伐り方も荒っぽくて、山崩れを誘発している。当然ながら跡地に再造林は行わない。また伐採届の偽造や発覚を遅らせるための隠蔽工作も行われる。バレても「誤伐(場所を間違った)」と主張し、わずかな賠償金で強圧的に示談を迫る。
被害者からすれば、数十年間も育ててきた木々が根こそぎ奪われてしまうわけだから怒り心頭なのだが、自治体も警察も取り合わない。知らぬ存ぜぬを通して取り締まらない。それが被害者をより苦しめる。そんな交渉過程で鬱病を発症した人も多くいる。
とくに目立つのは宮崎県だ。スギ生産量日本一を32年続くと誇るが、その裏で盗伐が横行している。2017年に結成された宮崎県盗伐被害者の会に現在170世帯が加入するが、全被害者は1000世帯を超えるだろうと言われている。
特徴的なのは、伐採業者に加えて盗伐に好適な山林を見つけ出すブローカー、素性が怪しげな木材でも平気で買い取る木材市場や製材所、バイオマス発電所などが関わっていることだろう。そして盗伐業者にも行政から補助金が交付される。そんな点から業界挙げての組織的な犯行が疑われる。
宮崎県だけではない。他県でも盗伐が頻発しているのは確実だ。林野庁が集計した全国の無断伐採に関した相談状況を見ると、北海道から沖縄まで全都道府県にわたる。
とくに南九州は多く、東北や北海道も目立つ。木材生産量の多い地域ほど増えている傾向がある。
盗伐という犯罪の特殊性
盗伐は表沙汰になりにくい犯罪である。まず地元に住んでいない森林所有者は、盗伐されたことに気付きにくい。盗伐(森林窃盗罪)の時効は3年だから、発覚したときには手遅れだった事例もある。
見つけても、森林境界線が不明確だったり相続時に名義を変えていなかったりすると、盗伐されたのが自分の山林であることを証明しづらく泣き寝入りになりやすい。何より警察は、山奥の犯罪で捜査や立件が難しいことを嫌がり、被害届を受理しない。
それに木材価格が下落している昨今では、数十年育てた木であろうと損害額は1本当たり数千円程度に見積もられる。育ててきた山主の思いは斟酌されないのだ。
ちなみに国際的には、他者所有の木を盗む行為だけでなく、保護林や保護樹種の伐採や、役人への賄賂で得た許可、産地や樹種などの偽造、そして密輸など法律を犯して木を収奪した行為はすべて違法伐採・違法木材として扱われる。
日本もその定義に従えば、違法木材の幅は一気に広がる。たとえば必要な伐採届を出さない、伐採届に記載した再造林をすっぽかす、産地を偽装する……などを含めたら、国産材の過半が違法木材になる可能性がある。
輸入材にも違法性の高いものが多く紛れ込んでいる。東京2020オリンピック・パラリンピックでは、メイン会場となった新国立競技場の建設に使われたコンクリートパネル(型枠材)が、違法伐採された木でつくられた可能性が高いと世界中の環境NGOから批判を浴びた。日本に違法木材の輸入を止める法律がない点も指摘された。
東京五輪に違法木材を使われたことに抗議するNGO(FoEJapan提供)
クリーンウッド法は18年に制定(23年に一部改正)されたが、これは合法木材利用推進を謳うだけで、違法な木材を扱うことを禁止していない。しかも努力義務であり、違反しても罰則はない。
そもそも登録制だから、登録していない業者は、この法律を適用されないという不思議な代物である。取引する木材に添付される合法証明書も、発行するのは販売する当事者なのだから、何の証明にもなっていない。
輸入材にも“違法性”の疑い
世界に目を向けると、違法な森林伐採が進んでいるのは発展途上国だけではない。先進国でも近年破壊的な伐採が進行しているのだ。
米国やカナダでは、一カ所で数万ヘクタールもの皆伐が進んでいる。ヨーロッパでは旧東欧諸国を中心に、法律の整備が進んでいないことに付け込み、国立公園など保護林を含めて大規模な伐採が進行中だ。森林法規がしっかりしている北欧でも、過剰伐採が進み、皆伐地が広がりだした。
近年の特徴としては、バイオマス発電所の燃料となる木質ペレット製造のための伐採が増加していることがある。業者側は森林全体の成長量以下だから合法だと主張するが、環境NGOは森林成長量を過剰に見積もるなど疑わしい点が多々あるという。実際に見渡す限りの伐採跡地を目にして、自然破壊ではないと言われても信じられないだろう。
そして日本は、そうした国から大量に購入しているのだ。バイオマス発電の燃料はカナダやベトナムからの輸入に頼る。ヨーロッパ製集成材は、ルーマニアやウクライナ産の木材で生産されるものが多いが、合法性が極めて疑わしい。
山積みされたバイオマス発電用燃料。盗伐材が混ざっている可能性が高い(筆者撮影)
さらにマホガニーなどの銘木や大径木材の輸入元は、多くがアフリカや南米など政情不安で汚職が蔓延している国だ。そうした国々のガバナンスを信じて、輸入材を合法だとする主張はむなしい。
世界は取り締まりへ舵を切る
そこで米国の改正レイシー法、豪州の違法伐採禁止法など次々と違法木材の輸入を禁止する法律を成立させてきた。なかでも厳しいのは欧州連合(EU)である。
EUおよび周辺国は、23年に森林破壊防止規則(EUDR)を施行した。これが画期的なのは、合法・非合法を問わず、森林の持続可能性に関する要求事項を満たさない農林畜産物をEU市場へ輸入すること(さらに圏外に輸出することも)禁止した点である。輸出入業者は、森林破壊の是非を確認する義務(デューデリジェンス)を負う。もちろん罰則もある。
対象は木材だけでなく、大豆やパーム油、ココア、コーヒー、天然ゴム、牛肉と幅広い。つまり森林を開発された農地や牧場から生産されたものも輸入禁止なのだ。
パーム油を使用した商品は化粧品や洗剤まで広がるし、天然ゴム商品には自動車タイヤも入る。こうした商品の原材料の生産状態を調べて確認をとらないと輸入できなくなる。EUと取引する日本企業は他人事の話ではないはずだ。
欧米が森林破壊に厳しく臨むのは、それが脱炭素や生物多様性をむしばむ環境破壊であり、激化する気候変動による災害発生を招くとする危機感があるからだろう。
世界の趨勢は、合法・非合法を問わず森林破壊を厳しく取り締まる方向に舵を切った。盗伐という明らかな違法行為にさえ甘い対応しかしない日本への目は厳しくなるばかりだ。
これまで日本の木材の違法リスクは小さく見積もられてきたが、国際的な機関も日本の盗伐問題に目を向け始めている。抜本的に意識を変えるべきだろう。
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