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2023年7月28日 MicrosoftStartニュース ダイヤモンド・オンライン「世界競争力ランキングで日本は35位と過去最低に、「凋落」に耳をふさぐ本当の深刻さ
野口悠紀雄
© ダイヤモンド・オンライン
アジア太平洋地域では11位
日本より低いのは3カ国だけ
スイスのビジネススクール・国際経営開発研究所(IMD)が、世界64カ国を対象にした2023年の「世界競争力ランキング」を6月20日、発表した。日本は、総合指標で昨年より一つ順位を下げ、過去最低の世界第35位になった。
とりわけアジア太平洋地域での日本の競争力の凋落ぶりは驚くばかりだ。ここでの日本の順位は、14カ国・地域中で第11位だ。アジア太平洋地域で日本より下位は、インド、フィリピン、モンゴルだけだ。
ところが、このニュースはあまり話題になっていない。日本の地位がこのように低いことは、もうニュースバリューがなくなってしまったのだろうか?
もちろん、これは日本人にとって愉快なニュースではない。知らないで済ませればそうしたいと考える日本人も少なくないかもしれない。しかし、だからと言って、このニュースに耳を塞いではならない。
1990年代の中頃までは世界でトップを争っていた日本が、なぜここまで凋落したのか。それには明確な理由がある。
マレーシアやタイなども
日本より競争力は上位
アジア太平洋地域での第1位は、シンガポール(世界第4位)だ。続いて第2位が台湾(世界第6位)、第3位が香港(世界第7位)だ。そして中国は第5位(世界第21位)、韓国は第7位(世界第28位)だ。
日本より上位には、これらのほかに、マレーシア、タイ、インドネシアなどの諸国がある。日本より下位にあるのはインドなど3カ国だけだ。
1989年の第1回目のランキングでは日本は世界第1位だった。その後、低下はしたものの96年までは5位以内を保っていた。しかしそれ以降、順位を下げ、2023年は過去最低の順位となったのだ。
目立つ「政府の効率性」と
「ビジネスの効率性」の低さ
このランキングは、以上で見た総合指標以外に、次の四つの指標で評価が行われている。
「経済状況」(国内経済、雇用動向、物価などのマクロ経済評価)では、日本は世界第26位だ(前年は第20位)。
「政府の効率性」(政府の政策が競争力に寄与している度合い)は、2010年以降、第40位前後で低迷しているが、今年は第42位にまで下がった(同第39位)。
「インフラ」(基礎的、技術的、科学的、人的資源が企業ニーズを満たしている度合い)では、第23位(同第22位)だった。
「ビジネスの効率性」は、昨年の第51位から第47位に上がったが、低い順位であることに変わりはない。
このように、「政府の政策が適切でないためにビジネスの効率性が低下する。その結果、全体としての競争力が低下する」という状況に、日本が落ち込んでしまっていることが分かる。
マイナ問題や防衛費・少子化財源
政府の能力低下浮き彫りに
政府の政策が適切でなく、政府が非効率的であることはさまざまな面について指摘される。ここ数カ月のマイナンバーカードを巡る政府の迷走ぶりを見ていると、いまの日本政府は基本的なことが実行できないことがよく分かる。
今後、マイナ保険証に関してさらに大きな混乱が発しないかと懸念される。
デジタル化が経済の効率化のために必要なことは明らかだ。しかし、それを実現するための基本的な制度を日本政府は整備することができないのだ。
マイナ保険証のような技術的問題だけでなく、政治的な政策判断の問題もある。少子化対策のように効果が疑わしい政策に多額の資金を投入しようとしている。しかも、そのための財源措置を行なっていない。防衛費も増額はするが、安定した財源の手当てがされていない。
日本政府は迷走しているとしか言いようがない。
そして、このような無責任な政府に対して野党が有効なチェック機能を果たしていない。日本の野党勢力は2010年頃に政権を取って政権担当能力がないことを露呈してしまった。その後は批判勢力としてさえも機能していない。民主主義国家で、野党がこれだけ弱いのは世界でも珍しい状況ではないだろうか?
高齢化は続く、諦めてはいけない
IT化でアイルランドは世界2位に
われわれの世代は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と世界から賞賛された時代を経験した。だから、日本がインドネシアやマレーシアに抜かれてしまったと聞けば、異常事態だと捉える。そして早急に対処が必要だと考える。
しかし、いまの日本では諦めムードが一般化してしまったようだ。「世界競争力ランキング 2023」のニュースは日本ではほとんど話題にならなかった。しかし、実はこれこそが最も危険なことだ。
なぜなら日本経済の今後を考えると、少子化対策を行なっても、そしてそれが仮に効果を発揮して出生率が上昇したとしても、日本の人口高齢化は間違いなく進行するからだ。
それによって経済の効率性は低下せざるをない。その厳しい条件下で人々の雇用と生活を支え、社会保障制度を維持していくためには、生産性を引き上げて日本の競争力を増強することがどうしても必要だ。だから決して諦めてはならない。いまの状況は当たり前のことではなく、何とかして克服しなければならないのだ。
実際、一度は衰退したにもかかわらず、復活した国は、現代世界にも幾らもある。その典型がアイルランドだ。アイルランドは製造業への転換に立ち遅れ、1970年代頃までヨーロッパで最も貧しい国の一つだった。
しかし、IT化に成功して90年代以降、奇跡的な経済成長を実現した。2023年の世界競争ランキングで同国は世界第2位だ。
日本人の基礎学力は
世界のトップクラス
競争力ランキングが落ちたとはいえ、日本人の基本的な能力がわずか30年間でこれほど急激に落ちてしまったはずはない。OECDが行なっているPISAという小中学生を対象にした学力テストの結果を見ると、これが分かる。
2018年調査(現時点で結果が公表されている最新の調査)では、数学的リテラシーは世界第6位、科学的リテラシーは第5位だった。読解力が前回から下がったものの、OECD平均得点を大きく上回っている。
このように、日本人の基礎的な能力は依然として世界トップクラスなのである。日本人は、このように高い潜在的能力を持ちながら、それを発揮できない経済・社会環境に置かれてしまっているのだ。
責任は誤った「円安政策」に
政策如何で状況変えられる
言い換えれば、日本が凋落した原因は1990年代の中頃以降に取られた政策の誤りにある。90年代の中頃以降、政策面で何が起こったかは明らかだ。「円安政策」を進めたのだ。
これによって企業のイノベーション意欲が減退した。企業がイノベーションの努力を怠ったために、日本人が能力を発揮する機会を失ってしまった。これこそが日本経済衰退の基本的なメカニズムだ。
この意味で、いまの日本経済の状態は異常なのだ。そしてこの状況は政策のいかんによって変えられるものだ。
(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)
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