📉37】─1─「科学技術立国」日本の危機、論文の質「途上国並み」という現実。〜No.79 

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 2022年12月22日 YAHOO!JAPANニュース ビジネス+IT「データで徹底分析「科学技術立国」日本の危機、論文の質「途上国並み」という現実
 図8:人口あたりの論文数(2008年-2021年)
 工業資源が限られていることから科学技術立国として邁進してきた日本。これまでノーベル賞受賞者も数多く輩出してきた。しかし今、徹底した定量データに基づいて各国の論文情報を分析すると、極めて危機的な状況にあることがわかる。中でもトップ10%論文率という論文の質の指標では、58カ国中52位と開発途上国レベルにまで下落しているという。『科学立国の危機: 失速する日本の研究力』を上梓した豊田長康氏(鈴鹿医療科学大学学長)が一般社団法人システムイノベーションセンター(SIC)で語った。
 【詳細な図や写真】図1:主要な指標における日本の動向(出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所、科学技術指標2022、報告書P19、2022年8月)
●客観的なデータと「システム」という見方
 文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は8月、「科学技術指標2022」を発表した。客観的・定量的データをもとに各国の科学技術活動を体系的に把握しようというもので、リリース等で特記されている動向として、
・日本の研究開発費、研究者数ともに主要国(日米独仏英中韓の7カ国)中で第3位
・日本の論文数は世界第5位、注目度の高い論文数のうち「トップ10%論文数」は第12位、「トップ1%補正論文数」は第10位
・日本の博士号取得者数は2006年度をピークに減少傾向にある
 などの点がある。
 このような科学技術活動の数値化および分析によって、日本の科学技術を取り巻く現状を捉え、そこから改善するヒントを得ることができるわけだが、ここで豊田氏は研究活動をシステムとして捉える考え方を提示する。
 研究開発費や研究者数などを「入力」、論文・成果などを「出力」として全体をイノベーションのシステムとして捉えることで、何が原因となっているか、何を解消すれば問題の解決がなされるか、そのヒントを見つけることができるのではないかということだ。
 独立した存在である政府、企業、大学が連携しあっているところに研究資金・研究人材という入力があり、それに対し出力は、企業の場合は新製品、新サービス、新システム、特許、学術界の場合は論文ということになる。さらに付加価値にも貢献する。するとGDPが上がり、その一部がまた入力に還元される。企業の場合は企業研究に、あるいは税金として国に還元されたうちの一部が公的な研究費として大学や研究所に、という形だ。
 ただし、このような研究・イノベーションを取り巻くシステムを意識しつつ、科学技術指標の数字が示す意味をひも解いていくには、より本質的なデータの捉え方が必要だろう。そもそもデータの中には誤差や変動が存在するし、カウントの方法や指標の割り出し方で値が変わってしまうからだ。
 豊田氏がベースとするのは、Clarivate社のデータベース「Web of Science Core Collection」のデータをもとに、分析ツール「InCites Benchmarking & Analytics」を使って作成した量的指標および質的指標だ。
 論文をカウントする際の方法にはいくつかの種類があるが、ここでは2008年以降の論文に対しては「責任著者カウント」を、2007年以前の論文に関しては「整数カウント」「分数カウント」「責任著者カウントの近似法」を用いる。
 そして、今回、論文の質を測る評価軸として用いるのが、1論文当たりの被引用数の世界平均に対する比率「CNCI」、被引用数上位10%(1%)の注目論文の割合「トップ10%(1%)論文率」、上位1/4のジャーナルに採用された論文の割合「Q1論文率」。いずれも被引用数に基づく指標である。
 また、競争力を測る指標として、対G6比率(米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ)を用いている。その他のデータとして、OECD.Sat、Times Higher Education(THE)のWorld University Ranking、文部科学省、国立大学が公開するものを適宜使っている。
 これらの指標をもとに、これから日本の研究競争力の現状ということで豊田氏の分析を見ていく。
●日本の研究競争力の現状
 2008年から2021年の論文数の推移は次のグラフのとおり。
 右のグラフでは近年どの国も増えているように見えるが、これはデータベースの論文数が増えているということと、ある種の誤差や変動が含まれているためだと豊田氏は指摘する。こうした場合、G6諸国の比率で比較するほうが研究競争力の変化をより適切に評価できるという。
 他国と同様に緩やかな上昇傾向に見える図6に対し、図7では2008年から2016年までかけて低下し、そのままの状態が維持していることがわかる。
 次に、人口あたりの論文数。図8で見ると日本は30位で、たとえば韓国は日本の2倍以上の論文を出していることになる。
 トップ10%論文数は、先にあげた科学技術指標2022が示すものと同じで13位、減少していることがわかる(図9参照)。また、図表は省略するがトップ1%論文数では日本は14位。いずれも、韓国はもちろんイランにも抜かれている状況だ。そして図10に示すように、人口あたりで計算するとさらに順位は下がり、日本は35位。
 トップ10%論文率という質の指標では58カ国中52位と開発途上国レベルとなる(図11参照)。
 また、Clarivate社が毎年選出している高被引用論文著者(Highly Cited Researches:HCR)、いわゆるトップ1%論文を産生する研究者の推移を見ると、2014年から日本は激変している(図12参照)。これがデータから見る、日本の研究競争力の現状だ。
●研究競争力の向上に必要なこと
 こういうふうに分析をしていくと、やはりシステム思考のような一段高い位置から全体を俯瞰するという視点が重要になってくる。これは裏を返せば、一面的な視点から政策を実施することは危ないということだ。
 日本の政府の認識は「大学の研究者数や政府が予算措置する研究費などの研究基盤は海外に比べて遜色がない」というもので、だからこそ生産性を高めるための競争的環境の強化と経営効率化という政策を推し進めてきた。現状の潮流もそうなっている。日本の大学の研究競争力が弱い原因は諸外国のような厳しい研究環境になく、生産性が低いからだ。より生産性を高める政策を、と。
 2004年の法人化はその流れの1つで、民間資本の導入による研究の経営の効率化を図ったものだ。基盤的交付金の削減は競争的資金への移行を促し、さらに大学間および大学内の「選択と集中」で、成果が出ていない大学の研究資金を減らして成果の出ている大学に配布する「成果指標に基づく資源傾斜配分」を行っている。そして、教員の流動化を促進するほうが、生産性が上がるということで任期制や年俸制を導入したのだ。
 では、日本の大学の研究基盤は本当に海外と遜色ないのだろうかと言うと、2002年から2008年にかけて、日本のFTE研究従事者数は先進国の中で最低水準である。研究者1人あたりのテクニシャン(技術補佐のスタッフ)の数は他の先進国に比べて極めて少なく、人口あたりの博士課程の学生数も激減している。
 主要国における政府支出大学研究費も日本は先進国で最低水準だ。この政府支出大学研究費と論文数は正相関にあり、日本の場合、非常に少ない資金に応じた論文数しか産生していないと言うこと。実際、HCRが増えている国がどうしているかというと、そうした国々では政府支出の研究資金を増やしている(図20)。
 たとえば韓国は非常に政府支出大学研究費を増やしており、日本との差は8,500億円もある。いま、国も10兆円ファンドを作って3,000億円、700人支援しようとしているが、それでもまだ5,500億円の差だ(図21)。
 「選択と集中」が本当に有効なのかというと、すでに大学間傾斜は日本が最も急激なカーブを描いている(図22)。一方、韓国はどうしたかというと、この10年間で大学の中間層を分厚くした。次に示す図は蔚山科学技術大学と東京工業大学の比較だが、韓国は突出した研究者を「選択と集中」によって限定的に育てるのではなくて、中間層を育てた結果、突出した研究者が増えたという形だ(図23)。これが日本と韓国の差で、日本がさらに大学間傾斜を急峻にしても韓国とは戦えない。
 日本が韓国に追いつくためには「研究従事者 × 研究時間」を、大学への公的研究資金を先進国の水準レベルに上げるべきだし、博士課程の学生数を増やしていかなければならないとの考えを豊田氏は示した。
●企業における研究活動はどうか
 最後に、企業の論文数について。日本は1998年をピークに減少しているが、その内訳を見ると、国内共著、国際共著、企業内論文のうち、最も減少しているのは企業内論文だ。国内共著、これは産学連携の位置づけだが、日本ではちょうど大学の論文が減り始めたときに企業との共同研究も減ったということになる。米国はやはり企業内論文は減っているという状態だが、全体数や国内共著、国際共著は増えている(図24)。
 実は、GDPと一番相関するのは国内論文数だと言う。国内論文数と企業共著率を組み合わせると、極めて高い相関係数で正相関が見られる(図25)。因果関係が証明されたわけではないことに留意が必要だが、これらの指標が示す関係は日本の産業回復のヒントになるのではないか。
 豊田氏は企業に向けてのメッセージとして、本業の研究開発の国際競争力をさらに向上して欲しいと言う。
 また、韓国のサムスングループによる未来技術育成事業(本業と関係のない多様な研究も含めて、さまざまな大学や研究所に研究資金として寄付をしている)を例に挙げ、このように国が支援しにくい多様な挑戦的研究を柔軟に支援するような、研究支援事業を広く行う企業が日本にも現れてほしいと述べた。
 執筆:フリーライター/エディター 大内孝子」
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