📉37】─2・B─「選択と集中」で日本の学術研究力は低下し論文の質は劣化した。〜No.80 

   ・   ・   ・   
 関連ブログを6つ立ち上げる。プロフィールに情報。
   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・  
 バブル崩壊後の日本は、経済低迷からの処方箋として経済アナリスト、メディア、学者、教育者ら提言した「選択と集中」を採用したが、その結果、日本は学術・技術のレベルが劣化して将来ノーベル賞が取れなくなった。
   ・   ・   ・   
 10月11日 YAHOO!JAPANニュース ABEMA TIMES「「選択と集中」をするから日本はノーベル賞が取れなくなった?━━「最高の研究費の撒き方」を徹底解説
 「ノーベル賞級の研究成果」と「研究費」の関係
 「ノーベル賞級の研究成果」と「研究費」の意外な関係が明らかになった。
 ダイナマイトの発明者として知られるアルフレッド・ノーベル氏の遺言、「人類に最大の利益を与えた5分野に賞を贈る」「国籍を問わず、最も価値ある人に授与して欲しい」に従って、1901年から始まった世界的な賞、ノーベル賞
 【映像】グラフで分かる 5000万円以上の研究費はムダ?
 受賞した5つの研究結果がどのような研究なのか注目を集めているが、世界中では日々様々な研究が行われている。その様々な研究をするにあたって必要不可欠なのが「研究費」だ。
 研究費の大小はその成果にどれだけ結びつく?
 「研究費の大小」がどれだけイノベーションを導くのか、また、ノーベル賞級の発見に結びつくのかについて、筑波大学医学医療系の大庭良介准教授らのチームが研究した。
 生物医科学分野における、研究費金額帯別の研究代表者一人当たりに対するノーベル賞級の研究成果を示したグラフがある。
 緑色で色分けされた3本のグラフは「研究費受給前3年間」、「研究費受給開始後3年間」、「研究費受給開始後4~6年目」を表し、右に行くほど多くの研究費をもらっていることになる。
 研究費と研究成果のグラフ
 このグラフを踏まえて、「研究費が多ければ多いほど、革新的な研究成果が期待できるわけではない」と大庭氏は話す。
 「まず一つ言えるのは、もらった後は少し伸びるが、4~6年目には(成果が)出せなくなってくる。また、研究費受給により成果が高まるのは5000万円まで。それ以降は“狙った金額を積めばより(成果が)出てくる”という結果にはならないようだ」(大庭氏、以下同)
 グラフを見ると、5000万円以上の研究費を受けた場合、研究費を受ける前の方が成果が大きく、「4~6年目」の成果はさらに大きく下がっていることが分かる。
 「これまでも、高額な研究費を特定の分野・研究者に投資した方がよいのか、あるいは、少額でもいいから幅広く多くの研究者に渡したほうがいいのか、どちらの効果が高いのか長年議論されてきた」
 大庭氏が行った研究では、500万円以下の研究費を様々な研究者に広く渡した方が、より研究成果が出やすいという結果も出たという。
 また、近年、科学的理論向上を目的とした、すぐに成果が望めないような基礎研究を進めために支給される研究費は年々減っている問題に対し、大庭は「しかし、今回の研究で、基礎研究の分野においては過去の業績に関係なく、低額でよいのできちんと配った方が投資効果は上がることがわかった」と明らかにした。
 大学の研究費事情について、東京工業大学の西田亮介准教授に話を聞いた。
 “研究費と成果”の分析
━━この調査結果をどう見る?
 「研究費を“広く薄く配る”か、既存の政策である“特定の研究者に集中的に投資する” のかという選択への関心は研究者の間でも高く、良くも悪くも選択と集中が規定路線だった。ところが、研究者はそれに対して『ベースの研究費が少なくなりすぎているので、広く薄く配ることが重要ではないか』と主張していた。そういったある種の肌感をサポートしてくれる重要な研究結果の1つという印象だ」(西田氏、以下同)
 「特に、今回の研究は医療・生命分野に限ったものだが、色々な研究分野がある中でも、これらは特に“選択と集中”と整合性が高いと考えられていた。しかし、VTRのニュアンスと少し違うが、わかりやすくコスパという言葉を使えば、その分野においても広く薄く配った方がコスパは高いという結果のようにみえる」
 東京工業大学の西田亮介准教授
━━他の分野でも調査は可能?
 「研究成果をデジタル化している理系全般は可能ではないか。文系の中でも、経済学や心理学の分野は、研究成果をデジタル化して論文で共有し、引用しやすくすることが常態化しているので、そういった分野においては同様の研究ができる可能性がある」
 大庭氏は、大学が法人化したときに運営費交付金が削られていき、その代わり競争的資金に変わったと話す。基盤的に活動できる所に配られるお金はどんどんなくなっているのが一つの現状だという。
 「これには少し補足が必要だ。現在の国立大学は国立大学法人という独立法人のような仕組みになっている。運営費交付金は研究費も含めた基盤的な予算で、研究費そのものではない。施設の改修や我々の給料にあたる人件費も含む、ペースになる資金。これは削減しないという国の公約だったが、過去20年間、削減傾向が続いていて、特に地方の国立大学などで研究費のみならず基盤的な資金が決定的に不足している。ちなみに規制も厳しく、また国立大学の性質からしても安易な授業料値上げも好ましくない」
 「最近の大学では、ベースで配られる研究費がとても少ないので、各研究者が多くの書類を書き、種類によって異なるが3~5倍程度の採択率の科学研究費補助金などに応募している。それがなければ研究を遂行するどころか、PCすら満足に購入できない。文系はあまりお金がかからないと思われがちだが、理工系の研究者たちもそういう状況だ。運営費交付金が無ければ特に国立大学は経営が成り立たない状況だが、これを減らし続けている一方でどうやって世界と戦えというのか大変不思議だ」
━━そもそも競争的資金とは?
 「コンペ形式の研究費獲得競争のようなもので、分野、金額の規模毎に費目が分かれ、研究計画書と予算計画を準備し審査を受けて採択されれば研究費が配分される。倍率がそこそこ高いので結構落ちる。所定の研究費というの極めて少ないので、学会に成果を報告しに行くこともできないし、他の研究者がどんな新しい研究をしているのか勉強しに行くこともできない。背に腹は変えられず、自腹を切ることも以前から状態化している。私大に所属する研究者の研究費は大学によるので一概にはいえないが、一般に所定の研究費は国立大より少ないとされる」
━━研究費とはどういう資金なのか?
 「どんな成果が出るのか、用途や社会実装、応用可能性があるのか事前にわからない。斬新な研究ほどすでにわかっている評価軸に乗りにくいという難しさもある。競争的資金に乗るのはトレンドに乗り始めたような研究で、0を1にするよりも、1.2を2や3と大きくしていくようなものが評価されやすい。こういったものは確かに選択と集中が適切かもしれない。同時に、0を1にする研究がいつ、どこで、誰によって行われるかわからないので、ある程度の金額を幅広く配らないと研究の裾野や層の厚みは広がらないはずだ。日本は今そこが揺らいでいる。直感的には、1人の研究者に対して100~200万円程度の研究費をベースで配るとよいように思えるがどうか」
 (『ABEMAヒルズ』より)
   ・   ・   ・   
 10月11日 MicrosoftStartニュース 現代ビジネス「「日本の学術研究」が危機的状況に…論文数は多いのに「質の高い」論文が少なくなっている理由
 A4studio
 論文数は多いが「結果」を出せていない?
 日本の研究力低下が囁かれている。
 8月8日、文部科学省の科学技術・学術政策研究所が公表した「科学技術指標2023」によれば、引用回数が上位1%に入るトップ論文数を表す「Top1%補正論文数」が日本は319本となり、国別順位で12位。実はこれは過去最低クラスの記録なのである。
 ちなみに1位の中国は5516本、2位のアメリカは4265本と二大国に日本は圧倒的な差を付けられており、スペインや韓国にも抜かれる結果となった。
 論文数だけで言えば、日本は7万775本と世界5位にランクインしている。しかし、論文とは一般的に引用が多いほど価値が認められるもの。総論文数に比例する形で、質の高い論文数が高順位につけていないため、総体的に見ればアベレージで優秀な研究結果を出す力が低迷している感が否めない。
 © 現代ビジネス
 近年では、国による研究費の配分を一部の研究者に集中させる「選択と集中」の政策が進められており、全体にまで研究費が行き届いていない状況が続いているという。文部科学省からすれば、日本の研究力は低下していないとのことだが、状況は深刻なのではないだろうか。
 そこで今回は国内の科学技術政策に詳しい、千葉大学大学院社会科学研究院教授である長根裕美氏に日本の科学技術研究の現状について伺った(以下、「」内は長根氏のコメント)。
 すでに日本の研究環境は世界トップクラスではない
 日本の研究力低下の一因として、研究環境の水準が下がっていることが指摘されているという。
 「科学技術大国である中国、アメリカに比べて日本は、公的研究機関に投入している金額がはるかに少ない。そして他国の科学技術政策の発展により、相対的に日本の研究力が下がったと捉えることもできます。
 そのうえで選択と集中が進んでいるので、研究機関全体に研究費が行き渡っていないのです。国としては、社会保障など優先的に予算を使いたい項目がありまして、科学技術政策は後に回されがち。
 しかも予算を有効活用しようとして、成果が見込める研究に資金を投じようとするので、結果的に一部の研究者にばかり研究費がいき届くいびつな構造になっています。地方の大学を視察してみると、非常に古い設備で持ちこたえている研究室も少なくなく、国内全体の研究水準というのはすでに世界トップ水準とは言えない状況にあるのです」
 研究力低下の分水嶺は、2004年度の国公立大学法人化にあるという。
 「国公立大学の法人化が進み、基盤経費が徐々に削減されていきました。これは研究にかかる人件費や光熱費量などに充てる経費でして、使える金額が減るとなれば、当然ながら研究水準は落ちます。一方で競争力が強い分野ですと、科学研究費の枠組みも広がり、種類も充実しつつあるのですが、用途が限定的な場合が珍しくない。
 たとえば、年度を超えて繰り越しで利用できないせいで継続的に人件費に充てられなかったり、専用の実験施設の建設に使ってはいけなかったりと使いづらさが目立ち、十分に研究できる環境を整備できるとは言いがたいんです」
 【後編】『日本の「学術研究」には“食える研究”と“食えない研究”の二極化が起きている…「科学技術政策」の根本的な失敗』では、研究費をもらいやすい分野とそうでない分野に分かれている現状とその問題点について解説してもらう。
   ・   ・   ・   
 10月11日 MicrosoftStartニュース 現代ビジネス「日本の「学術研究」には“食える研究”と“食えない研究”の二極化が起きている…「科学技術政策」の根本的な失敗
 A4studio
 日本の研究力低下が囁かれている。
 8月8日、文部科学省の科学技術・学術政策研究所が公表した「科学技術指標2023」によれば、引用回数が上位1%に入るトップ論文数を表す「Top1%補正論文数」が日本は319本となり、国別順位で12位。実はこれは過去最低クラスの記録なのである。
 ちなみに1位の中国は5516本、2位のアメリカは4265本と二大国に日本は圧倒的な差を付けられており、スペインや韓国にも抜かれる結果となった。
 【前編】『「日本の学術研究」が危機的状況に…論文数は多いのに「質の高い」論文が少なくなっている理由』
 若手も中堅以上の研究者も苦しい環境に陥っている
 前編でも言及したように、日本は論文数の割には質の高い論文がそれほど出ていない。長根氏は、自身の仮説をもとに次のように語る。
 「近年では、任期の定めがなく長期的に在籍できるパーマネント職のポストが減り、代わりに任期制のポストが増えてきました。法人化前であれば、大学のほうで人件費を確保することができ、若手研究者をパーマネント職として採用する余裕がありましたが、現在は採用枠がどんどん狭くなっています。
 © 現代ビジネス
 そのため現在の若手研究者は、実績を作るためにとにかく論文を多く発表しようとするインセンティブが働き、ポストに就こうとする傾向にあります。こうした動向によって、じっくりと腰を据えて質の高い研究に取り組む余裕がなくなっているのでしょう」
 また中堅以上の研究者も決してよい研究環境にあるとは言えないそうだ。
 「現場に人手がいなくなり、若手が担当していた作業量を自分で行わなければならず、研究どころではなくなっている中堅研究者も少なくありません。現在は優秀な学生が学部や修士課程で就職してしまい、博士課程まで人材が残らなくなっているので、人材確保が課題になっています。書類作成などの雑務や、講義のための資料準備などの時間も年々増加しており、研究時間を確保できなくなっている先生方もいます。
 今日では研究費も期限付きのものがあり、期間内で成果を出さなくてはならず、毎年コンスタントに研究報告を行う必要があります。したがって、短期的に成果を出すことに尽力しようとし、質の高い論文が生まれにくくなっているという悪循環が起こっているのだと推察できます」
 “食える研究”と“食えない研究”の二極化傾向
選択と集中により、研究費をもらいやすい、もらいにくい分野が生まれているとも長根氏は指摘する。
 「ノーベル賞を獲得して話題になった分野、世紀の大発見が生まれた分野など注目度が大きい、かつ将来的な成長が見込める研究領域は、翌年から予算が出やすくなります。現在の潮流を考えると、AIはホットな分野でしょうね。
 逆に研究成果が出るまで時間がかかる分野、研究成果がどのように社会に還元できるのかという視点が見えづらい分野は、予算が出にくい。特に基礎研究はその対象になりやすいです。
 戦後の日本は貧しくて基礎研究にかけるお金がなかったのですが、高度成長期には基礎研究を応用した技術を発展させることができ、経済的にも豊かになってきました。しかし1970年代に入ると、アメリカが『日本が我が国の基礎研究にただ乗りしている』と批判したことをきっかけに、日本でも基礎研究に予算をかけるようになりました。
 以後、基礎研究にはそこそこお金をかけ、ノーベル賞を受賞する研究者も現れるなど成果を出していましたが、何せ先が見えない研究となるので現在の科学技術政策では優先度が低めに設定されやすいのです」
 研究費がもらえ、注目度も高い研究分野であれば、ポストにも就きやすく、自分の行いたい研究に思う存分打ち込める、ということなのか。
 「“食える研究”と“食えない研究”に二極化しつつあると私は考えています。研究者という職業は、たいてい自分が興味のある分野をより深く追求しようとして志す方が大半ですが、キャリアを考えて食える研究に鞍替えするケースもあるようです。選択と集中は、分野による研究者の偏りを発生させるだけではなく、研究モチベーション低下の遠因にもなり得ます」
 研究力向上の策として、長根氏はパーマネント職の拡大と中長期的に研究できる環境が急務になると語る。
 「短期的に結果を出し続ける単年度主義ではなく、中長期的なスパンで研究費を支給し、腰の据えた研究をできるような環境を整備することが、質の高い論文を出す現実的な策になると考えています。選択と集中は、一部の分野を飛躍的に伸ばす可能性がありますが、全体でパイを与え合わないと日本の科学技術政策は衰退の一途を辿るばかりでしょう。
 今の研究者は、常に成果を残さなければ終わり、というプレッシャーに駆られています。切迫した状況下ですと、イノベーションは生まれませんし、身心的にも負担になりやすい。『失敗は成功の母』という言葉があるように、失敗を恐れずどんどん新しい研究にチャレンジできる土壌を用意することが、結果として質の高い研究成果を生み出すことにつながるでしょう」
 (取材・文=文月/A4studio)
   ・   ・   ・