🐟24〗─4─日本を「漁業大国」と思っている人が時代遅れな訳。~No.98No.99 

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 2023年5月3日 YAHOO!JAPANニュース 東洋経済オンライン「魚の値段がどんどん高く・・・日本を「漁業大国」と思っている人が時代遅れな訳
 ノルウェーのマダラ。小さいマダラは獲らない(写真:筆者提供)
 サンマやサバなどの不漁が報じられるのを目にして、「日本は漁業大国のはずなのになぜ?」と疑問を抱く人は少なくありません。しかし、日本の漁業が世界と比較して優位に立っていた時代はすでに過去のものになりました。
 【ランキング】世界の漁業・養殖業の生産量で日本の位置は?
 国連食糧農業機関(FAO)によると、2021年における世界全体の漁業・養殖業の生産量は、前年比で2%増の2億1800万トンでした。1980年の約1億トンから倍増しており、徐々に増え続けています。
 ところが日本の生産量は、増えるどころか減り続けており、前年比3%減の411万トンとなっています。そしてついに統計が残る1950年以降で、初めてトップ10から陥落しました。
 1980年代の1200万トンから、約3分の1に激減し、さらに減り続けています。皆さんが知らないところで、世界とまったく対照的に悪化が続いています。国内では、こうした世界の傾向との比較で日本の漁業・養殖業の非常に厳しい現実が紹介されることは、ほとんどありません。
■どんどん枯渇に向かう日本の水産資源
 日本は1972年~1988年の長期にわたり、世界最大の漁獲量を誇る漁業国でした。当時は魚が当たり前に安く手に入っていました。しかし、サバ、サンマ、スルメイカ、シシャモ、イカナゴ、サケなどをはじめ、自国の魚の資源を管理するシステムができていないことから獲りすぎてしまい、水産資源はどんどん枯渇に向かっています。
 一方、人口増加に伴い世界中で水産物の需要が増え続けています。このため日本の「買い負け」が常態化し、自国の魚が減った分を補ってきた輸入という手は、今後ますます難しくなります。
 そこで本来最後に頼るのは、国内の水産資源です。しかし、今のままでは減る一方なので、国は2020年に70年ぶりといわれる漁業法の改正を行いました。
 北欧やオセアニアをはじめ、漁業・水産業で成長を続ける国々では、水産資源管理を漁業者でなく、国が「国民共有の財産」として自ら行っているのに対し、日本では必ずしも科学的根拠に基づかない自主管理が広く普及してしまっています。世界で自主管理により資源が持続的になっている例は聞いたことがありません。
 また、魚が減少している本当の理由や、世界での成功例についても、多くの誤った情報で国内水産業は混乱しています。その代償を国民が払い続けされられていることに、ほとんどの人は気づいていません。
■かつては世界最大の漁業国だった日本
 東日本大震災で被災した三陸沖も含め、日本の海は世界3大漁場の1つである北西太平洋海域に含まれています。
 大陸棚や寒流と暖流が出会う漁場は、非常に資源が豊かな好漁場でした。他の2漁場は、ノルウェーアイスランドを含む北東大西洋海域と、アメリカ・カナダ東海岸を含む北西大西洋海域です。今回日本を追い越したノルウェーは、北東大西洋海域にあります。
 ただし、日本の順位が落ち続けているのは、他国の生産量が伸びていることよりも、むしろ日本の生産量が減り続けていることにあります。
 なぜなら漁業・水産業で成長を続ける国々では、実際に獲れる数量より大幅に漁獲を減らすことで漁獲量を制限しています。一方で、日本はできるだけ獲って資源を減らしてしまう例外的な国になっています。世界銀行やFAOが予測する日本の漁業の未来は非常に悲観的で、そのとおりどころか前倒しして悪化しています。
 日本とノルウェーの資源管理を比較すると、日本の問題が明らかになります。ノルウェーの資源管理は、2020年に70年ぶりの改正といわれた漁業法にも参考にされました。比較に際し、ノルウェーと日本は環境が違うといわれることがあります。しかしながら違うのは水産資源管理を適切に実施できているか否かという点で、その違いが「繁栄」と「衰退」という対照的な結果を招いています。
■魚が高くなる2つの異なる理由
 魚の価格が高くなったなと感じられている方は少なくないと思います。一尾、1杯100円で購入できていたサンマやスルメイカは、ほぼ姿を消しました。たとえ安いなと思っても、よく見るとそれらはかつて購入していたサイズより小さいはずです。切り身にしても、同様に当たり前のように一切100円で販売されていたサケもほぼ姿を消しています。
水産物の価格上昇には2つの理由があります。1つは輸入水産物の価格上昇です。
 上のグラフをご覧ください。輸入水産物の単価が上昇を続けていることがわかります。2020年はコロナの影響で一時的に前年より下がりましたが、その後は再び上昇。2022年には、円安という要因も加わり、初めてキロ900円を超えています。
 価格上昇の背景には、世界的な水産物の需要と人口の増加があります。短期的には輸入価格の凸凹はあっても、中長期的には上昇していく傾向にあります。そして輸入水産物の価格の上昇は、われわれの生活にも直接影響しています。
 上のグラフはタコの小売価格です。タコの2021年の輸入数量は約2.6万トン、国内の漁獲は約2.7万トンと半々でした。タコの小売価格は上昇を続け2022年の価格は、2013年に比べて8割高になっています。
 これはほんの一例にすぎませんが、輸入品の価格上昇は、小売価格や外食の価格に転嫁せざるを得ません。それが難しい場合は、輸入数量が減少していくことになります。このため、輸入水産物に関しては、数量は減少、輸入単価は上昇が止まりません。
 この傾向は、ますます進んでいくことが容易に想像できます。輸入数量のピークは2001年の382万トンでしたが、2022年は222万トンと約4割減少しています。
 かつて日本は世界最大の水産物輸入国でした。しかしそれもアメリカ、中国をはじめ各国の輸入が増える前の話です。筆者は20年以上最前線で魚の買い付けをしてきましたが、以前のように日本主導で買い付けできる時代は完全に終わりました。
■価格が上がる理由その2 国内の成長乱獲
 輸入水産物の価格が上昇する理由は、わかりやすいと思います。しかし水産物価格が上昇する理由には、もう1つ大きな理由があります。それは、資源管理が機能していないために起こる「成長乱獲」。つまり小さな魚を獲ってしまうことにあります。これはいわば「人災」です。
 資源を考えて、小さな魚が釣れたら逃がす釣り人の方は少なくないはずです。小さな魚まで獲ってしまったら、魚は成熟して卵を産んで子孫を残す機会が奪われてしまいます。また、小さな魚は大きな魚に比べて食べられる部分(可食部)が多くありません。旬の時期でもサバなどは未成魚は脂がのらないので、あまりおいしくありません。
 消費者は、おいしくて安い魚を求めます。しかしながら、大きくなる前の魚を獲りすぎれば、海の中には小さな魚の比率が高くなってしまいます。
 消費者はおいしい大きな魚を求める一方で、日本の海の中は成長乱獲が起きていて小さな魚ばかりになっています。このため、大きな魚は希少で価格が高くなります。これが「漁業者に安く、消費者に高い」という最悪の組み合わせになっており、その影響が消費者に襲いかかっているのです。
 典型的な例として、日本の場合は食用にならない「ジャミ」や「ローソク」などと呼ばれる小さなサバまで容赦なく漁獲されています。小さなサバは、小売店などには回らず、冷凍されて養殖のエサになったり、価格が安いという理由だけで、アフリカなどの市場に輸出されています。結果として消費者が目にする機会はほとんどありません。
 毎年99%のサバが食用になるノルウェー産のサバに対して、日本の場合は30~40%(2021年は46.1%・農水省)ものサバが養殖のエサ(非食用)向けになっています。科学的根拠に基づく漁獲枠の設定と、漁船ごとの漁獲枠の配分にして、大きくしてから獲る仕組みにすればよいのですが、まだそうなっていません。
 震災後に一時的に大きく増えたマダラ資源(本州太平洋北部系群)は、漁獲枠がないため小さなマダラまで獲りすぎて、資源はもとの酷い状態に戻ってしまいました。同じようなことがたくさんの魚種で、全国で繰り広げられています。このため、魚の資源も漁獲量も減って供給減になり、価格が上昇しているのです。
■魚を食べ続けるために
 今後も世界的な水産物の需要増による価格上昇は避けられません。また、水産物の供給が難しくなれば、各国は自国での消費を優先させていくことでしょう。輸入水産物が安定供給のために不可欠な状況に変わりありませんが、日本のために特別な安い価格で輸出してくれる国などありません。国際相場は変動しますが、安い魚が入ってきて国内の漁業者が困るといった時代ではないのです。
 国内の水産資源管理の進展状況を見ますと、国は「国際的に見て遜色のない資源管理」を進めようとしています。そして水産業が成長産業になっている、漁船や漁業者などに漁獲枠を配分するノルウェーなどの個別割当制度(IQ)の導入を進めています。
 しかしながら、海外の成功例などが漁業者の皆さんに誤って伝えられていることが少なくなく、自分たちに将来にわたってプラスになる国の政策に反対してしまう、自分で自分の首を絞めてしまうケースが散見されます。
 データから明らかですが、これまでの日本の水産資源管理は成功していません。結果に対してPDCAサイクルを回すことはなく、責任の大半は海水温の上昇や外国などに転嫁されてきました。その結果として、世界の傾向に反してほぼ例外的に水揚げ量は減り続け、漁業も水産業も衰退が止まりません。
 一方で、世界では水産業は成長産業です。残された時間はあまりありませんが、水産資源管理に関して、正しい情報を提供し続けることで一人でも多くの方に「科学的根拠に基づく資源管理」の重要性に気づいていただくことを願っています。
 片野 歩 :水産会社社員
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