🐟24〗─3─「魚が獲れない」は世界で日本だけという衝撃事実。~No.97

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 食糧危機が、食料輸入大国日本を襲う。
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 2022年9月13日 東洋経済オンライン「「魚が獲れない」は世界で日本だけという衝撃事実
 世界で見ると漁獲(生産)量は2億トンに倍増
 片野 歩 : 水産会社社員
 食用に向かない小さなマサバやマイワシが、容赦なく漁獲されている(写真:Aoki Nobuyuki)
 サンマ、サケ、スルメイカをはじめ、漁獲量の減少に関する報道が後を絶ちません。時折「前年よりも増加」などという報道もされますが、それはすでに、ものすごく減少した漁獲量に対してである場合がほとんどです。10~20年単位でみていくと大した増加ではなく、それどころか、ほぼ全魚種が減少を続ける傾向にあります。
 「日本の漁獲量が減少している」という報道はされても、「世界全体では増加している」という報道を耳にした記憶がありません。そこで、日本と世界では漁獲量の傾向がまったく異なることをファクトベースで説明します。そしてどのような対策が必要なのかについてもお話しします。まずは「知る」ことが大切です。
 実は世界では漁獲(生産)量が増加している
 上のグラフをご覧ください。水産白書のデータです。学校の教科書には、このデータから日本の水揚げ量が減少している部分のグラフだけが載せられています。このため1977年に設定された200海里漁業専管水域により、遠洋漁業の衰退などにより魚が獲れなくなり、後継者不足や高齢化で大変な1次産業と、先生が児童や生徒に教えてしまうのです。
 これだけでは、世界で起こっている現実がまったく伝わりません。魚が消えていくことは、私たちの生活にとても身近な問題なのに……です。
 次に世界全体の漁獲量推移のグラフを見てみましょう。天然と養殖を合わせ右肩上がりに増えています。1988年に1億トンに達した水揚げ量は、2020年では2億トンと倍増しています。
 天然と養殖物について見てみると、天然物が横ばいであるのに対して、養殖物の数量が著しく伸びています。天然魚の水揚量は頭打ちのように見えます。しかし実態はそうではありません。
 わが国は獲れるだけ獲ろうとしてそれでも獲れない状態です。一方で、北欧、北米、オセアニアなどの漁業先進国は、実際に漁獲できる数量より「大幅」に天然魚の漁獲量を制限しています。そして漁業で成功している国に共通しているのが、サスティナビリティを考慮している点です。
 世界で漁獲量が増える一方で日本は減少
 Flourish logoA Flourish chart
 日本と世界の漁獲量推移を比較した上のグラフをご覧ください。世界では漁獲量の増加が進んできた時期に、日本では1200万トンから400万トンへと逆に3分1に激減しているのです。
 世界全体の水揚量は増え続けているのに、日本だけが多くの魚で減り続けています。しかしこの「異常」な現実は、一般にどころか、社会科を教えているような先生方にも、ほとんど知られていません。
 なぜ、子どもたちに教える先生が、世界と日本を比較した魚の資源状態のことを知らないのでしょうか? それは、先生方がその現実を学ぶ機会がほとんどないからです。
上のような世界全体と日本の水揚量推移でグラフを作ると、世界と日本の傾向が明確に異なることがわかります。このグラフ1枚をベースに、学校で世界と日本の傾向が著しく違う理由に関して授業を行えば、先生も含めてその深刻さに気づくことでしょう。
 世界銀行の発表をみると、日本がいかに特例であるかがわかります。世界銀行が2010年と2030年の海域別の水揚量を予測したこの表は、世界全体では23.6%増えているのに、日本の海域だけが-9%とマイナスを示しています。しかも2030年を待たずして2015年で460万トンにまで減っており、前倒しで悪化しているのです。2021年は417万トンで減少が止まりません。
 日本の漁獲量の未来に対して悲観的なのは、世界銀行だけではありません。今年(2022年)にFAO(国連食糧農業機関)から発表された2020年比の2030年の日本の予想は7.5%の減少見込みとなっています。一方で、世界全体では13.7%の増加と予想されています。世界銀行・FAOと、世界が見る日本の漁獲量の未来は非常に悲観的です。
 日本の水揚げが減少した本当の理由
 日本の水揚げが大幅に減った原因として、マイワシの水揚げが減少していることが理由になったりします。しかしこれは誤りで、マイワシの水揚げは、東日本大震災があった2011年以降は急激に増えており、逆に全体の水揚げ減少を抑える要因になっています。
 ほかにも、「獲りすぎが起きている」と本当の理由を言わずに責任転嫁している例として、「海水温の上昇」がよくあがります。もちろん海水温は資源の増減に影響しますが、日本の海の周りにだけ起きている現象ではありません。
 外国の船が獲ってしまうから、という理由もよく出てきます。しかしながらこれも、マダラ、ハタハタ、イカナゴをはじめ、外国漁船の影響はあまり関係がないケースがほとんどです。
 サンマについては、国際資源です。これも公海での国別の漁獲量さえ決まっていない現状では、外国ばかりを非難しても仕方がないことを理解せねばなりません。
 漁獲量の減少理由を、クジラのせいだと誤解している方がいるようです。もちろんクジラはたくさんの小魚などを食べます。アラスカなどで、群れでニシンを追い込んで一飲みにする映像をご覧になった方もいるでしょう。
 IWC国際捕鯨委員会)からの脱退で日本が調査捕鯨をやめた海域は南氷洋で、そこでは最も多くクジラが生息しています。日本の周りにばかり、魚をたくさん食べてしまうクジラがいるのではありません。クジラはエサになる水産資源が豊富な海域に来ます。次の表で太平洋と大西洋、そして南氷洋に生息するクジラの推定生息数を比べてみましょう。
 日本だけ特別に影響があるわけではない
 太平洋のミンククジラ(出所:IWC)
 最も資源量が多いミンククジラは、日本の周りを含む太平洋(推定約2.4万頭)より、大西洋のほうが、はるかに推定生息数が多い(推定約14.5万頭)ことがわかります。南氷洋はさらに多い(推定51.5万頭)です。つまり、クジラが食べる影響についても、日本だけ特別に影響があるわけではないのです。
 かえってノルウェーアイスランドなどのほうが、影響が多いことが予想できます。しかし魚の資源量では、マダラ、マサバ、ニシンなど同じ魚種でもそれらの国々のほうが、資源量が多く、サイズも大きいという逆の現象が起きています。
 世界の海で日本の周りばかりクジラがたくさんいて魚をバクバク食べた結果、魚が減ってしまったと責任転嫁するのは、クジラに申し訳ないのです。
 「スルメイカが獲れない」というニュースを聞いたことがあるかと思います。その原因として挙がるのが、外国船による操業です。ただ、その一方で、日本では、写真のように生まれたばかりと思われる小さなスルメイカを獲って売っています。これでいいのでしょうか? 自国のことは棚に上げて外国ばかり非難しても何の解決にもつながりません。
 スーパーで売っていた小さなスルメイカ(写真:筆者撮影)
 日本の水産資源を復活させるには?
 日本の水産資源を復活させる方法にはすでに答えがあります。その答えは「科学的根拠に基づく資源管理」です。魚種ごとに漁獲枠を決め、沿岸漁業に配慮しながら漁法ごとに漁獲枠を配分する。さらにそれを漁業者や漁船ごとに配分する(個別割当方式=IQ,ITQ,IVQなど)ことなのです。
 わが国の場合は、国際合意があるクロマグロを除き、漁獲枠が大きすぎてまだ資源管理が機能していません。枠の配分を見直す(少なくする)ことで、漁業者は自ら価値が低い小さな魚や、脂がのっていないなどの価値が低い時期に魚を獲らなくなります。
 魚の価値は上がり、産卵して資源を増やす機会が増えてウィンウィンとなるのです。現在は、魚が獲れない⇒小さな魚まで獲る⇒魚が減る⇒魚が獲れないといった悪循環を続けてしまっています。この負の連鎖を断ち切らねばならないのです。水産庁が進めようとしている改正漁業法に基づく改革に反対するのではなく、さらに進めていくために、正しい知識に基づく国民の理解とサポートが重要です。
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 12月8日 東洋経済オンライン「「魚が獲れない日本」を外国のせいにする人の盲点
 漁業の歴史を知らないから他国を非難してしまう
 片野 歩 : 水産会社社員
 全国各地で食用に向かない小さな魚が漁獲されている(写真:筆者提供)
 「『魚が獲れない日本』と豊漁ノルウェーの決定的差」で、漁業先進国ノルウェーの好調な水産業を紹介したところ、Twitterなどで多数の反応がありました。中には「ノルウェーの隣国には中国・韓国がない」「日本の周りには乱獲する外国があるので、ノルウェーとは違う」といった、誤解に基づくコメントがいくつも見られました。「隣の芝生は青く見える」といいますが、ノルウェーが「隣国に恵まれている」というわけでは決してありません。
 日本の水産資源が減った原因として挙がるのは、外国による乱獲、海水温の上昇などの理由がほとんどです。また魚種交代や、レジームシフトといった、もっともらしく聞こえる解説も散見されます。そこで、その本質的な原因をファクトベースでひも解いていくと、さまざまな矛盾が露呈してきます。必ずしも外国が悪いわけではないのです。
 ノルウェーは本当に「隣国に恵まれている」?
 「ノルウェーとは違って、日本の周りには乱獲する国がある」。こうした趣旨のSNS投稿は、ノルウェー漁業の実態を知らないことに起因しています。
 ノルウェーでは、サバ・ニシン、マダラなどをはじめ、海面漁業による漁獲量の約90%が他国と資源を共有している魚種です。しかし、ほとんどの資源状態は良好です。一方で、日本ではマダラ、シシャモ、イカナゴ、ハタハタをはじめ、ほとんど他国と共有していないのに、資源が激減している魚種(系統)が多数あります。
 ノルウェーの隣国であるロシアとは、カラフトシシャモ、マダラをはじめ共同で資源分析を行い、漁獲枠を分けています(例えば、カラフトシシャモの配分は、ノルウェー:ロシア=6:4)。ロシアはウクライナへの侵攻により、持続可能な漁獲量に関する科学的な勧告を行うICES(国際海洋探査委員会)の参加が停止されているものの、ノルウェー・ロシアの2国間の漁獲枠の取り決めは2023年も継続されることが決まりました(2022年10月)。
 EU諸国やイギリスなどと共有しているサバ、マダラ、ニシンなどの水産資源に関しては、漁獲枠の配分交渉が行われています。資源配分の交渉は国益が絡み難航するため、交渉がまとまらないこともあります。ノルウェーが漁業に関し「隣国に恵まれている」という捉え方は非常に安易で、現実はそんなに甘くありません。
 また、「ノルウェーは大型漁船主体で日本と違う」というコメントもありましたが、ノルウェー漁業は大型船主体ではありません。11メートル以下の小型漁船が81%占めています。一方で、28メートル以上の大型漁船はわずか4%しかありません(2021年)。
 ノルウェーと日本で大きく違うのは水産資源管理です。結果として「繁栄」と「衰退」というまったく対照的な資源状態に至っているのです。水産資源管理が適切に行われているノルウェーの漁業者は、大型漁船から小型漁船まで含めて99%が仕事に満足しています(2016年・SINTEF=ノルウェー産業科学技術研究所)。はたして日本では何%が満足しているのでしょうか。
 確かに外国漁船が獲ってしまうから魚が減るという面はあります。1977年に設定された「200海里漁業専管水域」は、当時世界中の海に展開していた世界最大の漁獲量を誇る日本漁船の排斥が背景にありました。日本の漁船は、各国の水産資源にとって脅威でした。
 ところが問題の本質は、特定の国が悪いということではなく、国際的な資源管理の仕組みがなかったことです。戦後の食糧不足から始まり、日本には動物性タンパクを魚で国民に供給する必要性が生じていました。国別の漁獲枠でもない限りは、できるだけ獲ろうという力が働きます。そしてそれが乱獲の一因にもなっていったのです。
 同じ資源を各国が獲り合えば、それぞれが漁獲できる配分量が減っていきます。ひいては全体の資源量も減ってしまうという最悪のケースに陥ってしまうのです。
 スケトウダラが激減した本当の原因は?
 次の図は、北海道のスケトウダラ日本海)の漁獲量推移です。オレンジ色が韓国船の漁獲量で、それ以外の色は日本漁船の漁獲量を示しています。他の魚種でも多く見られる典型的な右肩下がりです。
 スケトウダラ 日本海北部系群水揚げ推移(出所:水産研究・教育機構
 当時このスケトウダラ資源が減少しているのは、韓国漁船による漁獲が原因と言われていました。200海里漁業専管水域の制定後も、韓国漁船は同漁場での漁獲が可能であったため、割合は低いながらも、日本の漁獲量に影響していました。
 韓国漁船の排斥が求められ、ようやく1999年に出て行くことになりました。原因とされていた韓国漁船がいなくなったことで、漁獲量がその後回復するはずでした。ところが、1999年以降の漁獲量推移は、回復どころか激減してしまいました。
 この例は、外国漁船の漁獲ばかりに目を向け、自国によるスケトウダラの乱獲を棚に上げて獲り続けた結果ではないでしょうか? 早い段階で資源管理のための有効な手を打たないと、そのツケを払うのに数十年かかることになります。
 資源管理の不備によって、公海上の漁場が崩壊に至った例もあります。200海里漁業専管水域が設定された後、スケトウダラ漁でアメリカ海域から追い出された日本船を主体とした韓国、ポーランド、ロシア、中国の各船団は、ベーリング海の公海上に、通称「ドーナツホール」と呼ばれるスケトウダラの新漁場を発見しました。
 崩壊した公海上スケトウダラ漁場
 青色の部分が公海上に発見されたスケトウダラの好漁場 (出所:水産研究・教育機構
1986~1990年の間に、日本漁船を主体にスケトウダラの漁獲量が急増しましたが、1992年には激減。1994年以降、各国はその漁場を禁漁とし現在に至っています。
 同漁場の資源はアメリカやロシアで獲れるスケトウダラ資源と関連します。公海上スケトウダラ漁場を禁漁にすることで、両国は自国の資源を守ることができて、現在の漁業の繁栄につながっています。
 資源管理の不備が公海上の漁場を崩壊させた例。最も漁獲量が多かったのは日本漁船(出所:水産研究・教育機構
 一方で、同じようなケースで、国際資源であるサンマでは、公海の漁場を放置してきました。このため他国漁船の進出を許してしまい資源が激減。日本への来遊も激減してしまいました。歴史に学びたかったところです。
 各国による乱獲で、世界的に有名な資源崩壊が起きたのが、東カナダ・グランドバンク漁場でのマダラ資源です。1992年に禁漁となり、いまだに回復待ちです。東カナダ沖の漁場は、200海里漁業専管水域が設定される以前は、カナダ船以外の漁船も、東カナダの漁場に入り乱れていました。
 上のグラフのように急激に伸びた漁獲量は、1997年の200海里漁業専管水域の設定後、外国船の排除により大きく減少しました。その後、漁獲量は安定するはずでした。しかし結果は、その15年後に、禁漁に至る悲惨な事態となりました。マダラは主要魚種だったので、漁業、加工業をはじめ4万人以上が仕事を失いました。カナダ史上最大のレイオフ(一時解雇)と言われています。
 この悲劇も自国の乱獲を棚に上げて外国を非難していたことから起きてしまいました。マダラ資源激減の反省からできたのが、国際的な水産エコラベルとして受け入れられている「MSC認証」のマークなのです。
 イカを乱獲して他国に脅威を与えたこの国は?
 もともとイカ漁で脅威だった国はどこか?(写真:筆者撮影)
 ある国のイカ漁が新聞記事になっていました。
 「地元に脅威〇〇イカ船団」「略奪に渦巻く非難」「根こそぎ包囲網に不安」「反感抑え紳士的警告」「ナイター並みの照明」「乱獲の反省と節度」「進出2年でもう不漁」「獲り過ぎかなと漁労長
 この記事の◯◯は、どこの国のことでしょうか? おそらく近隣の国々のことだと思う人が多いことでしょう。しかしながら、その〇〇に当てはまるのは「日本」なのです。ニュージーランド沖での日本のイカ漁に関する1974年の朝日新聞の記事でした。当時はまだ200海里漁業専管水域の設定前でした。このため、日本漁船は12マイルもしくはそれ以内の好漁場に入って漁ができたのです。
 国際的な視点で漁業を見ると、国が変わるだけで、まさに「歴史は繰り返す」なのです。漁業の歴史を知らずに、外国が悪いと考えている人が少なくないのは残念なことです。しかし歴史を学べば唖然とすることでしょう。
 水産資源を回復させるためには、歴史に学び安易な他国の非難はやめることです。そして科学的根拠に基づく資源管理を行うことです。他国で資源崩壊したケースも参考にして、国際的な枠組みを早急につくることが待望されます。
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 2023年2月9日 YAHOO!JAPANニュース 東洋経済オンライン「魚が獲れない日本「養殖でいい」は甘すぎるワケ!世界人口80億人、供給が追いつかない水産資源
 食用にならない小サバ(写真:筆者提供)
 人口減少を続ける日本とは対照的に、世界の人口は2022年11月に80億人に達しました。今後、世界全体ではさらに人口増加が続き、2030年には85億人に達すると予想されています。人口が増えれば、必要な食糧は増えます。
 【図表】すでに養殖の生産量が天然を上回っている
 水産物についても必要とされる量が増加傾向にあります。日本では「魚離れ」が進んでいると言われますが、世界では1人当たり消費量は増え続けています。このため、世界全体での水産物供給量が、需要に対して足りなくなり、水産物の価格を押し上げています。
 水産物が足りなくなってきているにもかかわらず、日本では魚が大きく成長する前に漁獲してしまい、「非食用」(エサ等)にしている現実があります。例えばサバの場合、ノルウェーでは99%が食用となっているのに対し、日本はサバの41%が非食用(2020年)となり、非常にもったいない仕組みになっています。
■2030年までに追加で1400万トンの水産物が必要
 上の表は、国連食糧農業機関(FAO)のデータを基に、2030年までに世界で必要となる食用水産物の供給量を試算したものです。2020年の1人当たりの年間消費量である20.2kgで計算しただけでも、2030年までの10年間で1400万トンも供給量が追加で必要となります。
 (外部配信先では図表・グラフや画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)
 2030年までに追加で必要とされる1400万トンという数字は、世界各国の漁獲量(生産量)と見比べるとその大きさがわかります。2020年の数字で日本421万トン(生産量世界第10位)+アメリカ470万トン(同7位)+ロシア537万トン(同6位)の3カ国全量(1428万トン)とほぼ同じ莫大な数字なのです。
 さらに2030年には、世界の1人当たり水産物の年間消費量が21.5kgに増加するという見通し(FAO)もあり、その場合はさらに約900万トンの供給量が必要になります。
■天然と養殖の水産物生産量の推移
 「天然の魚が減っているのであれば、養殖の水産物を増やせばよいのではないか」と思う人がいるかもしれません。次のグラフは、世界の水産物の生産量推移を表しています。青色の実線の折れ線グラフが天然、紫色は養殖物の推移です。そして水色の点線はその合計値を示しています。2020年時点で天然物は9142万トン、養殖物は1億2258万トンとなっています。
 すでに養殖物の生産量は天然物を上回っており、その差が広がっていることがわかります。必要な水産物の供給量を維持していくためには、養殖物の生産量増加は不可欠です。
 クロマグロ、サーモン、エビなどすでに天然物を養殖物の水揚げ量が上回っている水産物は少なくありません。ただ、これらの養殖物は、コンブやワカメといった海藻類と異なり、大量の「エサ」が必要になります。クロマグロを1kg育てるには15kgものエサを与えなければいけません(ちなみに牛は8kg、豚は3kgのエサが必要とされています)。
 一方で、アトランティックサーモン(ノルウェー)については、1.15kgのエサで1kg成長させるまでに技術が進み、エサの成分の7割が魚ではなく、植物由来の原料になっています。しかしながら魚由来の原料が必要なことに変わりなく、全体の養殖量が増えるにつれ、エサ確保の問題が重要になってきています。
 サーモンとエビに関しては伝染性の「ISA」「AHPND」といった病気が急拡大して大量に死んでしまい、生産量に大きな影響が出たことが幾度もあります。今でも病気の拡大阻止には細心の注意が払われています。
 また、養殖で生産量を拡大していくためには、養殖をするための場所の確保も重要です。アトランティックサーモンの養殖量で世界一を誇るノルウェーでは、すでにフィヨルドでは、これ以上養殖量を増やさないほうがよいという配慮から、新規に養殖場を増やす許可を出していません。このため、陸上や沖合での養殖という新しい展開が始まっています。
■まずは天然魚の資源回復が必要
 養殖物の生産量が増えても、天然物の重要性は依然として高い中で、北欧、北米、オセアニアなど、漁業で成長を続けている国々(漁業先進国)は、すでに資源管理に大きく舵を取ってから20~30年は経過しています。漁業の歴史を調べていくと、ノルウェーではニシン、カナダではマダラ、ニュージーランドではホキなどで、各国ともほぼ一様に乱獲で資源を大きく減らした苦い経験を経ています。
 ところで、資源管理において、日本は特別で海外とは違うなどということは、まずありません。日本との違いは「乱獲」を認めて禁漁を含んだ厳しい措置を取ったかどうかです。資源量が減って魚が獲れなくなっているのに、「大漁祈願」で次回の漁に期待! などという、神だのみの漁業を続けているのは日本くらいです。
 水産物の供給がままならなくなっている状態で、限られたチャンスを逃し続けている余裕はないはずです。水産資源は環境や規制などの影響で一時的に増えることがあります。「卓越級群」と呼びますが、その資源を大切に保護しながら増やしていけば、将来の大きな財産になっていきます。
 一方で、増えた分をすぐに獲ってしまえば、元の木阿弥です。以下で資源をサステナブルにするセーフティーネットの有無と、その明暗がはっきりしている残念な結果の例を挙げてみます。
 上のグラフはニシンの漁獲推移です。1980年代半ばに一時的に漁獲量が急激に増えていたことが読み取れます。もしも、この時に漁獲枠で数量規制をしていたら、規制で漁獲を逃れたニシンが産卵を続け、今よりもっとよい資源状態であったことに疑いの余地はありません。
 上のグラフは、マダラ(北部太平洋系群)の資源量推移です。東日本大震災で、放射性物質の問題で漁獲圧力が大幅に下がり、一時的に資源量が急激に増えました。しかしながら漁獲枠がなく、幼魚まで獲り続けた結果、資源量は震災前の状態に逆戻りです。実にもったいないことをしましたが、時計の針は元に戻りません。
 ノルウェーでは、マダラに関しては科学的根拠に基づく漁獲可能量(TAC)が設定され、40cm以下の漁獲は禁止となっています。一方で、わが国では手のひら程度のマダラまで漁獲されてしまっています。スピードを上げて資源をサステナブルにする制度を作らないと間に合わなくなってしまいます。
 最後にこちらのグラフをご覧ください。極めて少ない資源増加のチャンスを確実にものにしている例です。ズワイガニは、もともと大西洋のノルウェーとロシアには生息していませんでした。しかしノルウェーとロシアの北部に位置するバレンツ海で、1996年に初めて資源が確認されました。ところがすぐに漁獲をせずに「15年以上」待って、ロシアでは2011年、ノルウェーでは2012年からようやく漁獲を開始したのです。
 日本では遠い昔から生息していたズワイガニ。それが10年もしないうちに、日本の漁獲量を大幅に上回っているのは驚くべき事実です。
 ズワイガニには、成長すると大きくなり価値が高いオスと、成長しても大きくならないメスがありますが、ノルウェーとロシアではメスは漁獲しても海に戻して産卵させる一方で、日本ではオスでもメスでも関係なく水揚げしてしまいます。資源管理の違いと将来に影響している大きな結果の差異に気づいてほしいところです。
■誤っていた日本の水産資源管理
 2020年12月に70年ぶりに漁業法が大きく改正され、国は資源管理に舵を切ろうとしています。しかしながら「国際的に見て遜色がない資源管理の導入」は、まだなかなか進んでいません。上に挙げたニシンでは、漁獲可能量(TAC)が設定される予定にさえ入っていません。
 TACの設定が進まない理由としては、漁業者の理解が得られないからと聞くことがあります。漁業者の理解が得られないのは、海外の資源管理の具体的な成功例に関する情報をもっていないことがよくあります。
 世界の成功例には目を背け、資源量が減り続けていてもPDCAサイクルを回すこともなく、海水温上昇や外国に責任転嫁ばかりしている状況ではないのです。
 「過ちて改めざる、これを過ちという」(孔子)という言葉があります。これまでの水産資源管理に関しては、残念ながら誤っていました。その結果、世界の中で日本だけ資源量が減り続け、漁獲量も減り続けています。その現実と改善方法を2022年8月から連載を始め、データを基に分析してきました。無謬性により、誤っていても改めず突き進む先にあるのは、さらなる水産資源の減少だけです。
 80億人を超えて増え続ける人口増加と、それに伴う水産物の供給不足に対する対応は「待ったなし」です。科学的根拠に基づく資源管理をせずに、小さな魚や、資源が減っている魚を産卵期に獲っている余裕はありません。
 記事を通じて一人でも多くの方に、魚をめぐる日本の危機とその対応策「科学的根拠に基づく資源管理」に気づいていただけるよう願っています。
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