📉25】─1・C─「数学嫌い」多い日本とインドの入試の決定的な差。〜No.52 

   ・   ・   ・   
 関連ブログを6つ立ち上げる。プロフィールに情報。
   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・   
 江戸時代の和算や土木技術は世界トップレベルで、その経験に基づいた柔軟な発想・想像を持った理系頭脳を受け継いできたのが武士や学者ではなく庶民であった。
 そして、庶民は和歌、俳句・川柳、漢詩、歌舞音曲などの多種多様な分野で表現する文系頭脳を車の両輪として持っていた。
 それが、オンリーワンとナンバーワンという日本一・日の本一・当代一である。
 高度経済成長期までの日本が生み出したイノベーションやリノベーションは、庶民的な理系頭脳と文系頭脳から総合的に生み出していた。
 そうした庶民の知的遺産を否定し破壊したのが、ゆとり教育であった。
   ・   ・   ・   
 2023年5月4日 MicrosoftStartニュース 東洋経済オンライン「「数学嫌い」多い日本とインドの入試の決定的な差 世界的な経営者を輩出するインド工科大学の受験
 芳沢 光雄
 日本とインドの数学教育の違いとは(写真: ペイレスイメージズ1(モデル)/PIXTA
 © 東洋経済オンライン
 国連人口基金UNFPA)は4月19日、インドの人口が2023年半ばに14億2860万人となり、中国を抜いて世界最多になるとするデータを公表した。4月1日現在の日本の人口は1億2447万人なので、約11.5倍である。
 「有名企業への就職に強い大学」トップ200校
 日本の教育が「ゆとり教育」に向かって突き進んでいた1990年代半ばに、当時出版された深田祐介著『最新東洋事情』を閲読した。日本の数学教育と比較して目が留まった箇所があり、数学から数学教育に軸足を移し始めた筆者にとって強く印象に残った。
 それは、扇形の面積を求める解の書き方の教育に関する日本とインドの違いについて、式を使って詳しく書いた部分だ。要約すると、日本は式と答えだけで〇がもらえるものの、インドではいちいち証明問題のようにロジックの流れを言葉で明記しながら解答を導き出さなければ点数をもらえない、ということである。
 世界的に活躍する経営者を輩出するインド工科大学
 数年後に筆者は、それを裏付ける書を手にした。すでにIT分野で世界的に注目され始めていたインド工科大学(IIT)の入試問題集(数学、物理、化学)、いわゆる“赤本”に相当するものである。
 2000年の数学問題が、16題全問が証明問題であった(試験時間は2時間)。試験時間は年度によって違ったが、だいたい2時間か3時間だった。「証明」の次に驚いたことは、「出題範囲」である。日本の高校数学では扱わない同次形の微分方程式や、空間の変換を扱う3行3列の行列や、逆三角関数などの問題もいろいろ出題されていた。
 参考までにIITは、初代インド首相となったネルー氏が、技術を基礎にした工業化と近代化が急務だと考え、1951年にアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)をモデルに第1校を開設した。現在ではインド国内に23校あって、総体としてIITと呼ばれており、グーグルを傘下に持つアルファベットのCEOをはじめ、世界的に活躍している経営者が卒業生に何人もいることで有名である。
 受験生数が約80万人で合格者数が1.6万人という競争率50倍の試験では、解答用紙が膨大な枚数ゆえ、採点に関して不思議な気持ちを抱いていた。案の定、2007年からのIITの入試はマークシート式になり、納得した次第である。日本の大学入試センター試験のような「JEE Main」と、日本の大学の2次試験のような「JEE Advanced」の2段階であるが、どちらも出題範囲は同じと見える。
 そのマークシート式の問題は実にユニークである。たとえば、選択肢が4つあって、1つだけが正解とは限らない。簡単な例で説明すると、「2/3」が正解の場合、4つの中に「正の数」と「整数でない」があれば、その2つを挙げないと×になる。さらに、間違った選択肢を挙げると、減点される。したがって、自信のない問題では、解答欄に何も書かないで0点になるほうがよいだろう。
 これは、日本の試験で、「わからなければ、とりあえず3番目にマークしておくと統計的に有利」という日本固有の定説が通用しなくなるからである。これは日本でも参考になるのではないだろうか。
 インド工科大学の数学試験の中身
 JEE Advancedの数学試験時間は、日本の大学理工系学部入試のそれと比べると約1.5倍の3時間あるが、問題数が相当多い。したがって、微分方程式や3行3列の行列や逆三角関数などの難しい問題でも、10分程度で解かないと時間が足りないことになる。
 そのような問題をここで紹介しても多くの読者を困惑させてしまうので、手頃で易しく面白い問題1題を解答も述べて紹介させていただく。2020年に出題された問題で、せいぜい3分ぐらいで解かないと、とても間に合わないと思われる。なお、誤解を生じさせないため、問題の表現を若干修正させていただく。
 問題 ホテルの相異なる4つの部屋ア、イ、ウ、エを確保してある。6人の客A、B、C、D、E、Fがその4つの部屋に分かれて泊まることになった。各部屋には1人か2人が泊まるとすると、全部で何通りの場合が考えられるか。
 解答 各部屋に1人か2人が泊まるので、結局、2つの部屋に1人ずつ泊まり、2つの部屋に2人ずつ泊まることになる。
 1人が泊まる2つの部屋の選び方を考えると、それは、4つのア、イ、ウ、エから2つの選び方なので、以下の6通りある(これは、相異なる4個から2個を選ぶ組合せ)。
アとイ、 アとウ、 アとエ、 イとウ、 イとエ、 ウとエ
 ここで、上記の6通りの場合を(I)とする。
(I)で、アとイだけに注目して、アとイに1人が泊まる場合の決め方は、以下のようにして30通りであることがわかる(これは、相異なる6個から2個を選んで並べる順列)。
(アの客、イの客)=(A、B)、(A、C)、(A、D)、(A、E)、(A、F)、
(B、A)、(B、C)、(B、D)、(B、E)、(B、F)、(C、A)、(C、B)、(C、D)、(C、E)、(C、F)、(D、A)、(D、B)、(D、C)、(D、E)、(D、F)、(E、A)、(E、B)、(E、C)、(E、D)、(E、F)、(F、A)、(F、B)、(F、C)、(F、D)、(F、E)
 ここで、上記の30通りの場合を(II)とする。
 さらに、(アの客、イの客)=(A、B)の場合、残りの4人C、D、E、Fが2人ずつウとエに泊まることになる。この場合、次の6通りが考えられる(残り4人から2人を選んで、それがウに泊まり、残りの2人がエに泊まる。)
(ウの客、エの客)=(CとD、EとF)、(CとE、DとF)、(CとF、DとE)、(DとE、CとF)、(DとF、CとE)、(EとF、CとD)
 ここで、上記の6通りの場合を(III)とする。
 (I)のそれぞれに対して、(II)の決め方は30通りなので、結局、
 
 [Xさんは1人部屋△に泊まり、Yさんは1人部屋〇に泊まる]
 という決め方は、全部で 6×30=180(通り)あることがわかる。ただし、XとYは異なる。
 最後に、上記の180通りのそれぞれに対し、残った2人部屋に泊まる4人の決め方は、(III)より6通りである。
 以上から、この問題の解答は 180×6=1080(通り) であることがわかる。
上の解答を見ていただくと気付かれると思うが、いわゆる順列記号Pや組合せ記号Cを用いていない。筆者は長い数学教育人生から思うことの1つに、「順列・組合せの問題の解答にはPやCを書かないといけない」と勘違いしている人が非常に多くいることである。
 イチ、ニ、サン、シ……と1つずつ数えることを忘れているかのような答案を多数見てきただけに、あえてPやCを用いないで、小中学生にもわかるような説明を述べた。実は、JEE Advancedで出題された順列・組合せの問題では、上の問題のように、PやCを用いないで解ける問題が少なくない特徴を感じるだけに共感を覚える。
 日本の数学教育に足りない要素
 IITの入試に出題され続けている微分方程式や3行3列の行列についても、日本の数学教育を顧みて一言述べておきたい。かつては、変数分離形に限定した微分方程式は高校数学IIIの教科書できちんと取り上げられていた。しかし現在では、発展的学習という中途半端な扱いである。およそ自然現象を記述するときは微分方程式を用いるのが普通であるので、かつてのような扱いに復活することを期待したい。
 かつては、平面の変換を扱う2行2列の行列が高校数学で扱われていたが、現在では扱われていない。最近、いわゆるデータサイエンスが注目され、その方面の学部・学科が大学で続々新設されているが、教員人事構成を見ると、基礎となる数学の教育は軽視されているようにしか思えない。データサイエンスを学ぶために必須の数学として微分積分もあるが、いわゆる多変量解析の基礎としての(行列を扱う)線形代数は最も重要な基礎であると考える。
 だからこそ、インドのように、できれば高校数学で3行3列の行列を学んでおくと、大学での線形代数の学びにスムーズに接続するだろう。筆者は昨年刊行した『新体系・大学数学 入門の教科書 下』で、線形代数に続けて多変量解析の柱となる分散共分散行列の「固有値」に関して丁寧に説明したが、それは上で述べたような歯痒い気持ちを抱いていたからである。
 日本の出生数とインド工科大学の受験生数は同じ
 さて、上ではIITの入試に出題される数学の問題から日本の数学教育を見てきたが、それ以上に重要なことがあると考える。それは、約80万人というIITの受験生数は、ちょうど昨年の日本の出生数である。すなわち、その子どもたちが全員IITを受験するレベルの数学力をもつと、はじめて互角になるだろう。
 そのように考えると、男子に関しても同じであるが、いわゆる「リケジョ」と呼ばれる理系科目に秀でた女子だけの才能を伸ばすだけでなく、数学嫌いに育った女子にも目を向ける必要があるのではないだろうか。実際、3月末に定年退職した桜美林大学リベラルアーツ学群では、文系をメインとして入学した女子が、卒業後は数学教諭として大活躍している者を何人も卒業させたことを思い出す。このように、新たな理系人材を発掘する動きが広がることを祈る次第である。
 江戸時代の日本の数学レベルは世界のトップクラスであった。戦後の復興期の日本の数学教育のレベルも現在よりはるかに高く、高卒で就職する人も全員で(多項式の範囲の)微分積分を学んでいた。最近、岸田文雄首相が座長の教育未来創造会議の提言により、理系学生の割合を現在の35%から50%に高める運びとなった。筆者としてイソップ物語に例えると、現在は眠っていたウサギが目を覚ましたときである。これから国民が一丸となって努力すれば、ウサギが最後にはカメを追い抜くことも可能であると信じたい。
   ・   ・   ・