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2023年12月15日 YAHOO!JAPANニュース 集英社オンライン「人口・経済力・国際収支と三拍子そろった中国とインド以外の58億人が飢える未来…日本がこれから迎える”想像もできない飢餓”とは
食料危機の未来年表 そして日本人が飢える日 #2
世界穀物生産は2039年がピーク?
2020年の世界人口78億人のうち、28億人(36%)は中国人とインド人だという事実を知っているだろうか? そして2035年にはGDPは1位中国、2位アメリカ、3位インドになると言われている。経済力が下がり続け、食料を輸入できなくなる未来が、いかに現実的なものかを解説する。
【画像】この景色はアフリカだけのものではない
『食料危機の未来年表 そして日本人が飢える日』から一部抜粋・再構成して、日本の現実をお伝えする。
穀物の生産・消費長期予測
第2次世界大戦が終わってある程度の落ち着きを取り戻すと、宇宙・医療・防災・食品加工・アパレル・半導体・自動車・航空機・IT・映像・資源探索・軍事などの基礎的な分野で、人類は過去を一気に引き離すさまざまな革新を成し遂げてきた。
しかしいまだ成し遂げられていないことが、人類には少なくとも、2つ残っている。1つはだれも飢えることのない日常を送ることができる社会の実現であり、もう1つが兵器を無用の長物として各国が捨て場所探しに協力しあえるような平和の実現である。
この2つには互いに大いに関連するところもある。飢える国民は農工間格差、内戦や国家間の戦争や紛争の犠牲者であることが多いからである。ただし一見なにもなさそうな国にある飢餓は、その国自身の責任か自然地理的な事情による場合が多い。
いずれであるかにかかわらず、人類のすべてが飢えの恐怖から解放されることが史上一度もないままに、国家間対立・気候危機・人口増加・世界的に広がる農業担い手の減少と、ますます食料事情が悪化する時代にあるのが現実である。
21世紀末までの長期間に世界の穀物生産と穀物需要そして世界に生まれる飢餓人口をシミュレーションし、その背景を紐解いてみることにしよう。
穀物生産量を長期的に予測することは生やさしいことではない
穀物生産量を長期的に予測することは生やさしいことではない。気候変動・自然災害・穀物作付面積・灌漑の施設整備・品種改良・肥料や農薬の変化・栽培方法の変化・消費者の嗜好変化・食生活の変化・所得状況など多角的な要因(専門語では説明変数などという)が関係してくるからである。
長期予測を難しくしている理由は、このように考慮しなければならない要因が多いためだけでなく、それぞれの要因自体を動かすさまざまな小さな要因が幾重にもくっついており、数値や変化をつかむことがとても難しいからである。
こうした複雑な要因を考慮して膨大な数の方程式(専門語で重回帰分析という場合もある)をつくり上げ、あとは数値を当てはめてコンピュータに任せて計算をするのが予測方法の1つで、このような方法を使えばいかにも理論的なように目に映る。
しかし本書はこのような方法ではなく、1つひとつの項目(生産量・飢餓人口など)は過去の動向を重視し、今後の客観情勢を勘案して行なうアナログ予測の手を使っている。
その理由の1つは、筆者も重回帰分析くらいはできるので、実際、試してはみたものの、過去数十年間の実績値を当てはめて試算しても、とんでもない数字をはじき出すだけだったからである。入梅の時期予報すらはずす最近の天気予報と同じとはいわないが、コンピュータ頼みには限界がある。
世界穀物生産は2039年がピーク
世界穀物生産量(コメはモミ付き・穀物の副産物を含む)は2001年19億8000万トン(実績)だったが、2020年に1.5倍以上の30億3000万トン(実績)に、2039年に36億8000万トン(予測値)に、約40年間で約1.9倍になることを示している。
この増加をもたらした基本的な理由は化学肥料(窒素肥料だけで2600万トン増加)と化学農薬の大量使用に加え、耕作放棄地が1億ヘクタール以上ある一方で、穀物作付面積がこの20年間で15%に当たる1億1000万ヘクタール増加し、さらに耕地面積1単位当たり生産量が増えたことにある。
(使用したFAO統計によると、増加は10アール当たり小麦59キログラム・トウモロコシ140キログラム・コメ76キログラム・大豆31キログラムなど)。耕作放棄地がもう少し少なければ、穀物生産量はその分増えたにちがいない。
2040年に、世界人口は22年の80億人から数えて18年間で11億人増え、91億人になるとみられている。
この頃に年間の穀物生産量はピークを迎え、以後少しずつ減少していく模様である。その最大の理由は気象学者をして過去の人類史になかった「未知の領域」に入ったといわしめるほど深刻な地球温暖化(国連のグテーレス事務総長は「地球の沸騰化」の時代に入ったと述べ始めた)の進行、新規の耕地開墾の停滞、世界的な都市化による農業従事者の減少、土壌の劣化、化学農薬の効き目の低下などである。
高収量新品種の登場なども期待されるが、同時に高い栽培技術も要求されるのが一般的なので、効果は限定的と見られる。
2050年の穀物生産量は36億6000万トンにやや減少、この傾向は世界人口が104億人のピークを迎えると予測される2087年を経て、2100年に引き継がれていく見通しだ。この年の予測生産量は31億トン、ピークとみられる時を5億8000万トンも下回る見通しなのだ。その理由は後述する。
人口は減りはじめているとはいえ100億人の大台を優に超える状態ながら、穀物生産量は減少する年が60年間も続く可能性がある。もしこれが事実になれば、人口が減少して穀物の1人当たり分配量が増加に転じるまで、人類は経験したことがない大飢饉の暗くて長い時代を過ごさなければならない。
もちろん人類が半世紀以上もの長い間を大飢饉のままやり過ごすとは考えにくく、穀物に代わるさまざまな人工食料などの開発を進めることは想定できる。しかしそれは本書が持つ食の思想とはかけ離れた、人類がまったく別の食生活に移ることを意味することでもある。
食料危機の震源はアフリカだけではない
2020年の世界人口78億人のうち、たった2つの国で28億人(36%)を占める中国とインド。
中国は、一国で世界の穀物輸入の16%を握り世界の穀物市場を揺るがす影響力を持つ一方、今後経済力を増すとの声が大きいインドは、中国を超える食料消費大国にのし上がることが目に見えている。
食料消費の量的な増え方は人口の増え方・所得の増え方・国家の経済力との関係が強いので、順番に見ていくとしよう。
まず人口である。国連は2035年の世界人口を88.5億人、うち中国14億人・インド15.6億人、合わせて30億人とみている(2か国で34%を占める)。
次いで国家の経済力のモノサシでもある1人当たりGDP。2020年時点、中国は1万ドルと少し、インドは1930ドル、両国とも先進国レベルからかなりかけ離れ、特にインドはケニア・バングラデシュ並みの低レベルである。
しかし予想される2035年では、中国がいまの2倍の2万ドル強、インドが3倍強の6400ドルに達するとみられる。そのとき、国全体のGDPは中国がアメリカを抜いて、世界一に躍り出る可能性が高いとする専門家が少なくない。インドは世界第3位になる見通しだという(日本は10位程度とみる専門家が多い)。
インドの2020年当時の食料輸入量は国内需要の1%にも達していないが、これは経常収支が恒常的に大幅な赤字構造にあり、輸入制限がかかっているためでもある。
1人1日当たりの摂取カロリーでは、インド人は2320キロカロリー、中国人を120、日本人をも100キロカロリーも下回っている。インド人の青年男子の平均身長はほぼ日本人並みであり、体格を基準にすると摂取カロリーが少ないことがうかがわれる。
経済力の乏しい国を想像もできない飢餓
もっと食べたいインド人は経済的理由から、食料の輸入が増やせない状態に甘んじてきたのである。しかし経済成長が本格化しつつある中、経常収支は黒字に転換することが予想され、輸入を抑えてきた足かせは一気に解けるであろう。
となると、食料輸入は国内消費の必要な分だけ増える可能性がある。食料輸入を決める基準は経済力だからだ。
人口・経済力・国際収支、三拍子そろった力をつける中国とインドは、世界食料需要の面でも世界の頂点に立つ可能性が十分にある。
将来、たとえば2035年の主要穀物(小麦・コメ・トウモロコシ・大豆)の需要見込み量は中国が8億8000トン、インド7億8000万トン、合わせて16億6000万トンに達するとみられる。中国の人口はピークを越えたといわれるが、再び増加する可能性もあると同時に、所得の向上が社会の隅々に浸透することによって濃厚飼料による高級な畜産物需要が大幅に拡大するだけでなく、高級小麦粉やスイートコーン、ビール原料の大麦などの需要が高まることが予想される。
このときの穀物の世界生産量は35億7000万トンと見込まれ、中国とインドがその半分近くを食べるという、信じられない事態が起こりうる。
繰り返しになるがそのときの世界人口は88.5億人、中国とインドを除くと58.5億人、強者の中国とインドという2つの国家の取り分を除く穀物の残りは19億トン。これを残る58.5億人が分け合うとして1人当たり分配量はわずか320キログラム、畜産物の飼料分や加工用途その他の用途分を合わせると、約200キログラム近く不足するであろう。
2035年以降、中国とインドが食料を奪い、世界の畜産物生産がこのまま増えていくと、経済力の乏しい国を想像もできない飢餓が襲う可能性がある。
1人当たりの穀物が500キログラムはないと、世界の飢餓は解消されないことがこれまでの経験が示す基準値である。経済レベルがなお低いインドが取ろうとしている方法は、遺伝子組換え穀物の大幅な植え付けであることが明らかになっている。この点は別の箇所で紹介しよう。インドばかりではなく、同じような対策に多くの国が触手を伸ばしている。
写真/shutterstock
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高橋五郎(たかはし ごろう)
1948年新潟県生まれ。農学博士(千葉大学)。愛知大学名誉教授・同大国際中国学研究センターフェロー。中国経済経営学会名誉会員。専門分野は中国・アジアの食料・農業問題、世界の飢餓問題。主な著書に『農民も土も水も悲惨な中国農業』2009年(朝日新書)、『新型世界食料危機の時代』2011年(論創社)、『日中食品汚染』2014年(文春新書)、『デジタル食品の恐怖』2016年(新潮新書)、『中国が世界を牛耳る100の分野』2022年(光文社新書)など。
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