⚡4】─3─20年前は日本が世界一のIT技術国家であったが7年半に潰された。~No.35 

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 経済大国日本を潰したのは、将来的科学技術に理解できない文系のエセ保守とリベラル左派である。
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 2023年7月11日 MicrosoftStartニュース プレジデントオンライン
 20年前なら日本のIT技術は世界一だった…天才プログラマーの7年半を奪った「著作権法」という闇
 城所 岩生
 京都地方裁判所庁舎。有罪判決を下した京都地裁、京都簡裁、京都検察審査会がある。(写真=J o/CC-BY-SA-2.5/Wikimedia Commons)
 © PRESIDENT Online
 Winny開発者を収監した「著作権法違反幇助」という罪
 かつて日本経済は世界で燦然と輝いていた。平成元年(1989年)には世界の企業時価総額ランキングの上位10社に日本企業が7社も入っていた。しかし、それから34年がたった今年の2月時点で、日本企業は上位10社どころか上位50社にさえ1社も入っていない。そうなった要因はさまざまあるが、あれさえなければ、日本は今ごろ世界中からお金が集まっていた可能性もある出来事がある。それが「Winny事件」である。
 今年3月、映画『Winny』が全国で公開された。この作品は、今から19年前の2004年、P2P技術を利用したファイル共有交換ソフト「Winny」を開発した東京大学大学院特任教授(当時)の金子勇氏が、著作権法違反幇助の疑いにより京都府警に逮捕、起訴された事件を題材にしたものである。
 ご記憶の方も多いかと思うが、改めてこの事件をおさらいしておく。このWinnyが利用しているP2P技術は「Peer-to-Peer」技術の略称で、不特定多数の端末同士がインターネットを通じてデータファイルを直接やり取りできる通信技術である。
 金子氏はWinnyを2001年に開発し、匿名掲示板サイト「2ちゃんねる」で公開したのだが、その翌年、Winnyを利用して他人の著作物をネット上にアップにした男性2人が、著作権法違反の容疑で京都府警ハイテク犯罪対策室に逮捕された。そして2004年に、Winnyの公開、提供行為がこの2人による犯行の幇助に該当するとして、金子氏自身も逮捕、起訴されたのである。
 包丁を使った犯罪は包丁を作った人のせいなのか?
 検察は裁判において、金子氏が「ソフト開発と配布によって、著作物を違法に流通した2人の正犯の犯罪行為を幇助した」として、金子氏の有罪を主張した。
 しかし、包丁が犯罪に使われても、罪に問われるのは包丁を作った者ではなく使った者であるのと同様、Winnyにおいても、罪に問われるのはWinnyを使って他人の著作物をネット上にアップにした2人であって、Winnyを開発、配布した金子氏ではないのは明らかである。
 裁判では、第一審の京都地裁は幇助罪の成立を認める判決を下した(2006年)が、大阪高裁は逆転無罪(2009年)とし、2011年に最高裁もこれを支持した。
 最高裁「性急に過ぎたとの感を否めない」
 最高裁は判決で法執行機関の性急な捜査、起訴を次のように戒めた。
 《権利者等からの被告人への警告、社会一般のファイル共有ソフト提供者に対する表立った警鐘もない段階で、法執行機関が捜査に着手し、告訴を得て強制捜査に臨み、著作権侵害をまん延させる目的での提供という前提での起訴に当たったことは、(中略)性急に過ぎたとの感を否めない。》
 逮捕から7年半もの月日を経てようやく金子氏の無罪が確定したわけだが、この事件が日本のIT技術イノベーションに与えた悪影響はあまりにも大きかった。
 ソフトウエアが第三者に悪用されると、その開発者が罪を負わなければならない恐れが出てきたために開発者の間に不安が広がり、著作権のグレーゾーンに触れる技術開発をしなくなってしまったのだ。
 また研究機関においても、P2P技術に関連する研究に予算がつかなくなってしまっていたという。
 「10年に一度の傑作」という技術だった
 Winnyで使われている技術は、ビットコインやNFT(Non-Fungible Token:代替不可能なトークン)などに使用され、最近脚光を浴びているブロックチェーン技術の先駆けとも言われている。
 「日本のインターネットの父」と呼ばれる村井純慶應義塾大学教授は、Winnyを「ソフトとしては10年に一度の傑作」と評価している。しかし、裁判が行われている間、金子氏はWinnyの改良を行うことも、新たなP2P関連の技術開発もできずにいた。
 そうしている間に、国外ではP2P関連の新たな技術が続々と現れていた。同じP2P技術を利用した無料インターネット通話「Skypeスカイプ)」は世界中で使われ、これを開発した北欧の2人の技術者に巨万の富をもたらした。今の日本人の生活になくてはならないコミュニケーションアプリ「LINE」も、同じくP2P技術が使われている。
 アメリカでは「ナップスター社」が操業停止に
 また、Winnyより数年前の話になるが、アメリカの大学生がP2P技術を使った音楽ファイル共有ソフトNapsterナップスター)」を開発し、仲間と共にナップスター社を設立した。
 ユーザー数はまたたく間に数千万人に達したが、全米レコード協会などから著作権侵害で訴えられて民事裁判で敗訴している。ただ、金子氏のように刑事事件で逮捕、起訴されたわけではない。
 結局、ナップスター社は操業停止に追い込まれたが、同様に音楽配信サービスの将来性を見抜いたアップル社のスティーブ・ジョブズ氏は、2003年に音楽配信サービス「iTunesストア」を立ち上げた。その後の発展ぶりはここで述べるまでもないだろう。
 いずれにしても、事業化に成功したのはジョブズ氏だが、音楽配信を大きなビジネスに変えるきっかけを作ったのは、Winnyと同じP2P技術を使うNapsterを開発した大学生だったのだ。
 なぜWinnyはNGで、YouTubeはOKなのか
 また、P2P技術ではないが、動画配信システム「YouTube」も、ファイルを不特定多数の人と共有できるという点ではWinnyと同じである。
 つまり、日本の警察が金子氏を強引に逮捕・起訴し、裁判をしている間に、コンテンツ配信の世界はアメリカのiTunesYouTubeに席捲されてしまったのだ。そしてiTunesYouTubeも、日本だけでなく全世界から莫大な収入を稼いでいる。
 ちなみに、YouTubeが世界を席捲する援軍となったのが、アメリカで1998年に制定されたデジタル・ミレニアム著作権法だ。これにより検索エンジンや動画サービスなどのサービス・プロバイダーは、法律に定める要件を満たしていれば著作権侵害の責任を負う必要がなくなったのである。
 無罪確定の1年後、42歳の若さで急逝した
 金子氏は最高裁で無罪が確定したのち、プログラム開発などでその後の活躍が期待されたものの、1年後に42歳の若さで急逝してしまった。再び研究者として過ごすことができたのはわずか半年間だけだった。
 金子氏の弁護団事務局長だった弁護士の壇俊光氏は、2022年4月に『Winny 天才プログラマー金子勇との7年半』(インプレスR&D)を出版し、金子氏の人物像やWinnyの核心を小説仕立てにまとめた。そこに2ちゃんねる開設者のひろゆき氏が、本の推薦文でこのようなコメントを寄せている。
 《LINEでの動画共有とかビットコインなどの仮想通貨とか、P2Pといわれる技術が使われています。その最先端がWinnyでした。金子さんがいれば、日本で発展した技術が世界で使われて、世界中からお金が入ってくるみたいな世の中にできたかもしれなかったんですけどね。》
 7年半は取り返しのつかない損失になった
 もし、このひろゆき氏の言葉が正しかったとしたら、Winny事件で金子氏が逮捕、起訴されて裁判が行われていた7年半は、金子氏だけでなく日本全体にとっても取り返しのつかない空白期間だったといえるだろう。それがなければ、日本は今ごろIT先進国として世界中からお金が集まっていた可能性もあるのだから。
 この記事の冒頭において、2023年2月時点での世界の企業時価総額ランキングの上位10社に日本企業は1社も入っていないと書いたが、では、上位を占めているのはどこ国の企業なのか。それは、言わずと知れた「GAFAM」と呼ばれるアメリカのIT・通信企業5社と、バークシャー・ハサウェイ、テスラ、エヌビディア、ユナイテッドヘルス・グループ、エクソン・モービルアメリカ企業4社。アメリカ企業以外で唯一入っているのが、サウジアラビアサウジアラムコである(2位)。そして日本企業で最も順位が高かったのは、上位50社からも外れた52位のトヨタ自動車という体たらくである。
 「GAFAM」のうち、アマゾンとグーグル(現・アルファベット)、フェイスブック(現・メタ)の3社は平成生まれ。ちなみに中国のIT企業、アリババとテンセントも平成生まれである。
 著作権法関連の法律改正は不可欠
 このように、多くの巨大企業が平成になってから誕生したIT・通信業界において、日本ではアメリカや中国のようにスーパースターが生まれなかった。
 Winny事件によって、国全体がIT革命の波に乗り遅れたことが原因といえる。
 そして、IT革命に乗り遅れた根本的な原因の一つが、Winny事件の裁判により7年半もの間、新たなP2P関連の技術開発が止まってしまったことであるのは明白である。
 金子氏の身に起こった悲劇を、そして、それにより日本の産業および経済に起こった悲劇を繰り返さないためにも、著作権法関連の法律改正は不可欠である。日本のテクノロジー産業の発展にとっては時すでに遅しとなった感はあるが、それでも新たな技術革新はこれからも止まることなく行われていくことを考えると、取り組んでいく意義は大きいといえるだろう。

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