📉22】─2・A─日本が世界一学ばない国になった本当の原因。~No.47 

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 2023年4月13日 MicrosoftStartニュース プレジデントオンライン「「自分は学んでいない」という自覚すらない…日本が世界一学ばない国になった本当の原因
 小林 祐児
 日本のビジネスパーソンは諸外国に比べ「学習」をしない。パーソル総合研究所の小林祐児・上席主任研究員は「学ぶ意欲は他者との相互作用によって生まれやすい。ところが、日本人は『同僚や友人との付き合いが無い割合』が世界最悪レベルであるなど、学習の動機が生まれにくい。つまり、つながりの貧困さが、学習の乏しさを招いている」という――(第4回)。
 ※写真はイメージです
 © PRESIDENT Online
 「学び」は他者との相互作用で生まれる
 国際的に見ても圧倒的に学ばないのが日本の社会人です。自発的に学ぶ習慣が無い人がとても多いという問題を放置しても、国や企業が推進する「リスキリング」はうまくいきません。個人がどんなに「稼げる資格」や「必要なスキル」の情報を集めたとしても、多くの人は学び続けることができないからです。今回は、この難問に対して、学びと「他者」との関わりの面からアプローチしていきたいと思います。
 学習に関わる諸研究者たちが約半世紀にわたって解き明かしてきたことは、人々の学びは他者との相互作用の中で「社会的」かつ「共創的」に営まれるということです。つまり学ぶ本人とその周囲にいる「他者」とのさまざまな関わり方です。今、日本ではリスキリングとともに「独学」がブームになっていますが、一人で地道に資格の勉強をするような、「他者」の存在しない学びのイメージは、現実にわれわれが行っている大人の学びの在り方を見ると、きわめて視野が狭いものです。
 リスキリングにおいて「他者」が果たす機能をザックリと大分すれば、「真似し合い」「教え合い」「創り合い」「高め合い」の4つの機能です。乱暴なくくりではありますが、「リスキリング」の実践を考えていくためには思い切ったカテゴリ分けをしてみました。順にみていきましょう。
 機能1:観察を通じて学ぶ「真似し合い」
 私たちは、親兄弟から教員、専門家に至るまで、自分よりも特定のことに秀でた熟達者のやり方を真似ることをして学んでいきます。「学ぶ」という言葉は、もともと「真似る」と同じ語源を持つ言葉だとされている通り、リスキリングについてもこの「真似し合い」の機能を外すわけにはいきません。
 「真似をすること」は、人の幼児期からの基本的な行動です。心理学者ジャン・ピアジェが幼児に「ごっこ遊び」のような模倣行動(imitative behavior)に注目したように、人間は生後すぐに親や目の前の人の模倣を始め、それを発展させていきます。
 この「真似」のような模倣をより精緻化し、「モデリング学習」として理論化したのが、アメリカ心理学会会長も務めたアルバート・バンデューラです。人は、自ら独学するのではなく、「他者の観察」を通じて学んでいくプロセスが精査されていきました。
 企業における学びにおいても、「真似」は基本中の基本であることはすぐにわかるでしょう。特に日本は未経験者をアサインし、現場での実践を通じた訓練=OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を重視した新人育成を行ってきました。名刺の渡し方、顧客との折衝の仕方、社内でのふるまい方などなど、社会人としての基礎学習も、先輩や講師の「真似」や「模倣」がベースとなって進んでいきます。
 製造現場のブルーカラーの領域でも、先輩やメンターの機械の扱い方などを工場の現地で観察させるジョブ・シャドーイングが広く行われますし、ホワイトカラーにおいても、パワーポイントの作り方、プレゼンテーションのやり方などをオフィスで直接見て覚えるものです。ベテラン社員や教育係、上司などからの「上からの指導」に限らず、同期や同僚、先輩後輩の間柄でも、それぞれのうまい仕事の仕方、ふるまい方を真似し合うことが、「他者」を通じた学びの第一の特徴です。
 機能2:教えることで学ぶ「教え合い」
 人は、より意図的に他者に対して何かを「教える」ことがあります。企業における教育係やメンターの役割は、当然ながら教える相手に対する学びの援助やサポートをすることですし、資料や講演を通じて、スキルや知識を教えることは、研修訓練の基本です。
 「先生―生徒」「メンターとメンティー」のような明示的な役割ではなくても、私たちは同僚や上司からさまざまなアドバイスやフィードバックを受けながら成長します。それらが一切なければ、自分の客観的な上達具合や成長の度合いなどを測ることはできません。
 また、「教える」ことは教える側にとっても強力な学びの機会にもなっていきます。「人は教えることによって、もっともよく学ぶ」と言ったのは、ストア派哲学者のセネカですが、アウトプットとインプットは同時並行的に行うことで力を発揮します。
 実は、動物行動学によると、こうした「教える」という行為は地球上の動物の中でもかなり珍しい行動であることが指摘されています。血縁者でもない他の個体に対して「わざわざ教える」という意味での教育行動は、人間以外ではミーアキャットやアフリカに生息する鳥、そしてアリの一種といったわずか数種類しか確認されていないそうです。この教え合いという行動は、高度な社会的動物であるヒトの特徴がよく出た、とても「ヒトらしい」行動であると言えるでしょう。
 機能3:同じ関心を持つ人との「創り合い」
 仕事を一緒に行う他者とは、「教え合う」「真似し合う」という学習そのものだけではなく、知識や技術を共に「創造し合う」仲間でもあります。片方から片方への技術や知識の移転だけではなく、新たなスキルやノウハウ、ナレッジをともに創り上げていく過程においても、他者との学びは発揮されます。モノ作りでも共同研究でも、多くのイノベーションは孤独な個人のアイデアではなく、組織的な営為の中から創造されます。
 この人々の自発的な共同実践を通じた創発性により注目したのが、ジーン・レイヴとエティエンヌ・ウェンガーが提唱した「実践共同体Community of Practice」という概念です。実践共同体は、同じ関心を共有している人々のコミュニティとしてともに知識を創り合い、学び合うものです。
 機能4:他人の目標が影響を与える「高め合い」
 他の人と関わることによって学ぶモチベーションや目指す目標が影響されることも、多くの研究が示してきています。
 例えば、社会ネットワーク分析で有名な研究を紹介すれば、ハーバード大学の医師ニコラス・クリスタキスが、30年以上にわたる追跡調査の分析によって、友人や知人とのつながりが人の「肥満」に影響することを発見しました。友人が肥満になると、自分も肥満になりやすくなるということです。一見して、なぜ? と首をひねりたくなります。
 この現象の背景には、太っている友人の食事を見て、自分もそれに影響されて食べすぎてしまったり、運動不足になってしまうことが指摘されています。私たちは、「どの程度食べても大丈夫か」「どのくらい運動するべきか」などを、一人で決めているわけではなく、周囲の他者から影響を受けながら決めています。そのように他人の目標や規範が、無意識に読み手の行動に影響を与えることを、心理学者のヘンク・アーツらは、「目標伝染」と呼んでいます。
 この「他者を通じた動機付け」について、筆者の研究結果からも見てみましょう。
 筆者と立教大学中原淳教授との共同調査においても、働く人の学び直し意識には、組織内の上司・同僚からの継続的な学習支援だけでなく、「組織の外の他者」との交流もプラスに寄与していました。さらには、自社について他人に紹介したり話したりすることが多い人は、学び直し意識が高いということも分かっています。ここでも、人との交流範囲の広さや自社について他社の人と話す機会の多さが、その人の学びへのモチベーションとプラスの相関にあることを示しています。
 このままでは「やる気のない個人」は救えない
 このように「他者」や「共同体における学び」を重視してきた研究の蓄積とは逆をいくように、今、世間の「やる気」や「動機付け」についてのイメージは、「個人の内発的動機付け」に大きく傾いています。学びやスキル獲得のために、「自分の中に熱いものをもつ」――こうした動機付けのイメージは広く一般的に見られるものですし、「リスキリング」について人事や経営者と議論していても、こうしたイメージを持っている人は多くいます。
 筆者は、「個々の心の内面的な動機付け」ことを重視するこうした動機付けへのイメージを、「ろうそく型」の動機付けと呼んでいます。アメリカのロックバンド、ドアーズに「ハートに火をつけて」という代表曲がありますが、動機付けはそうした「個々の心の内面に火をつける」ことだと思われがちです。
 この「ろうそく型」の「内発的動機付け」への傾きは、「個」や「自分らしさ」に傾いている社会の在り方をきれいに反映しているとも言えますし、ある側面では現実的な「適応」とも言えます。すでに成長が鈍化した日本企業では、賃金やポストといった報酬を十分に用意することができません。そうした場合、個人の内から湧き上がる、「内発的」な動機付けこそが重要だ、という発想に傾くのでしょう。
 しかし、「個の内面」に注目する「ろうそく型」動機付けのイメージを「リスキリング」にまで持ち込むのは、あまりにも窮屈です。動機付けの在り方を個人の心の「意味付けの仕方」に限ってしまえば、モチベーションアップは究極的にはすべて個人の「気の持ちよう」です。そうした発想では、組織でリスキリングを考えるにあたっても、「やる気が続かない個人」にとっても、処方箋が出てきません。
 「ろうそく型」から「炭火型」の動機付けに転換せよ
 不足しているのは、まさしく先ほど「高め合い」という機能で見てきた「他者」を通じた動機付けの発想です。他者を通じた、他者を経由した動機付けは、先ほどの「ろうそく型」と対比させるならば、いわば「炭火型」の動機付けです。
 他者の関係性やコミュニケーションという相互作用から“もらい火”的にモチベーションを上げていく、他者との強い・緩いつながりから刺激を受ける炭火型の動機付けこそが、リスキリング推進に必要な動機付けの方法です。
 最大のハードルは「他人を信頼できないこと」
 ここまで、「他者」を通じてリスキリングを進めることを論じてきました。この「他者」との関わりを考えるとき、日本にもう一つ大きなハードルがあることをお伝えしなければいけません。それは、日本人が、「世界一、他人を信頼しない」ということです。
 「大人の学びの貧困国」である日本は、同時に「つながりの貧困国」でもあるということが、種々のデータから示されています。極めて「孤独」な人、つまり他者とのつながりが希薄であるということです。例えば、OECDがまとめている「同僚や友人との付き合いが無い割合」のデータを見ると、男性は1位、女性は世界2位。極めて他者との交流が少ない国です。
 さらに世界価値観調査のデータを見ると、「初めて会う人をどの程度信頼するか」という意識を見ると、日本の男性は81カ国中77位、女性は72位と世界的に最も他人を信頼しないグループに属します。
 さらにデータを操作して、「既知の知人」への信頼と、「初めて会う他人」への信頼のギャップを見ると、日本はそのギャップが世界3位でした(ちなみに1位はアルバニア、2位は中国)。日本は、「知人」と「他人」に極めて大きな信頼ギャップが存在する国、つまり「知っている人は信頼するが、知らない他者を全く信頼しない国」なのです。
 「問題意識がない」ことの深刻さ
 世界でもトップクラスのこうした「他者への信頼の無さ」は、言い換えれば、日本人が「社会開拓力」を持っていないことを意味します。元々知り合いではない人たちと新しく信頼関係を築いていくこと、大人の学びにとって重要な他者とのつながりを作っていくことが、この国の国民は極めて苦手だということです。
 しかもさらなる問題は、こうした他者への信頼の欠如は、日本人にはとっくに「当たり前」のことになっていることです。私たちは、電車や町中で人に話しかけたりしないことを当然のものとして生活し続けていますが、海外旅行に行けば多くの人が話しかけてきます。もはや他人に話しかけて「社会開拓」などわざわざしなくても、SNSやオンラインゲーム、音楽や映画のサブスクリプションなど、インターネットを通じた各種のエンターテインメントによって、ある程度楽しく暮らせてしまいます。
 「学びの共同体」をいかに作るか
 まとめれば、日本はリスキリングに深い関わりのある「他者」について、「基礎工事」の部分がボロボロであり、かつそれを自ら開拓できるような社会開拓力も無く、かつそのことを問題として思わず生きているという、重層化された課題を持っています。他者とつながる「リソースが無い、開拓力が無い、課題認識が無い」という「三重苦」は、そのまま「リスキリングのための三重苦」に直結するのです。
 しかし、ここまで考えれば、企業がリスキリングを促進するために考えるべきことのヒントも見えてきます。リスキリングを促進したい企業が考えるべきは、「個性」に合わせてろうそくに一本一本火をつけるようなやり方ではなく、集団的な「学びの共同体」をいかに作り、学びへの意欲に「もらい火」的な延焼を起こすことができるかです。そしてそれは、「従業員の自主性」や「自律的な学び」などに任せていてもまず進みません。ほかの国ならまだしも、学びのために他者と積極的に自らつながる従業員は、日本ではごく一部だからです。
 学びをフックにした「他者」とのつながりのための仕掛けは、無数にあります。例えば、コーポレート・ユニバーシティ的な継続的な関係づくり、同世代従業員を集めたキャリア・イベントの開催、社内勉強会・事例共有会の開催、ピア・ラーニング(同僚との学び合い)のための社内SNSの活用、社外の他者とつながるプロボノ支援、副業解禁、研修の後の「懇親会」設定などなど、「他者」と「学び」を紐付けようとする工夫は、書ききれないほどあります。それは、企業が促進することはもちろん、個人主体で可能なものも多くあります。
 こうした工夫やアイデアの実践は、孤独に机にかじりつくテスト勉強のような「リスキリング」のイメージにとらわれている限り出てきません。キャンプで炭に火をつけるためには、「空気の送り込み方」や炭の「組み方」が重要になるように、働く人々の関係的・環境的なデザインを考えていくこと。それこそが、リスキリングの最大の課題である「一部の人しか学ばない」という課題についてのポイントです。

                    • 小林 祐児(こばやし・ゆうじ) パーソル総合研究所上席主任研究員 上智大学大学院総合人間科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。NHK放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年パーソル総合研究所入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマの調査・研究を行う。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。『働くみんなの必修講義 転職学 人生が豊かになる科学的なキャリア行動とは』(KADOKAWA)、『残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』(光文社)、『会社人生を後悔しない40代からの仕事術』(ダイヤモンド社)など共著書多数。新著に『リスキリングは経営課題~日本企業の「学びとキャリア」考』(光文社新書)がある。 ----------

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