📉36】─2─日の丸ロケットがダメな根本的な理由は慢性的な予算不足。〜No.78 

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・   
 現代日本で破壊的イノベーションもリノベーションも起きない理由は、既存を完全破壊して消滅させられない事と既存を根底から大改造して別のモノに作り替えられない事、である。
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 1990年代以降の日本は、誰もやらないという突拍子もない冒険的研究や事業に巨額の投資を行い失敗して一瞬にして失う小児病的恐怖に囚われ、合理主義的現実主義的費用対効果の弊害である。
 つまり、日本人は旧石器人(ヤポネシア人)や縄文人(日本土人)の精神を失った瞬間である。
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 2023年2月21日 MicrosoftStartニュース 現代ビジネス「【また延期】“日の丸ロケット”がダメな根本的な理由を元三菱重工エンジニアが明かす…「JAXA三菱重工は慢性的な予算不足」
 町田 徹
 焦りは禁物
 「見守ってくれていた方々が大勢いたので申し訳ない。我々も物凄く悔しい」--。
 宇宙航空研究開発機構JAXA)のプロジェクトマネージャである岡田匡史氏は2月17日の記者会見で、涙ぐみながら、期待に胸を膨らませていた多くの日本人に対するお詫びの言葉を口にした。
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 残念なことだが、新たな“日の丸ロケット”の旗手として期待されている「H3・1号機」は、打ち上げ予定日(先週金曜日=2月17日の午前)の発射に失敗した。
 JAXAはプレスリリースで、発射のカウントダウン中に「1段機体システムが異常を検知、固体ロケットブースタ(SRB-3)の着火信号を送出しなかったため、本日の打ち上げを中止した」と説明。岡田氏は会見で、今回のトラブルについて様々な見方があり得るとしつつも「失敗」ではなく、「我々は中止と考えている」と補足した。
 事態を受けて、JAXAは早期に再度の打ち上げに臨む構えをみせている。早急に原因を究明し、予備期間としている来月10日までに改めて打ち上げたいというのである。そもそも、新型ロケットの開発にはトラブルが付き物だ。それだけに、本来ならば、焦らずにじっくり原因を分析したうえで、万全の対策を期すべきところだろう。
 だが、「H3」は年単位の打ち上げ延期をすでに過去に2回経験している。開発主体としては、3度目の長期延期となれば、将来のビジネス獲得に不可欠な信頼性を失いかねないと強い危機感を抱いていても不思議のない状況だ。
 あえて指摘するが、それでも焦りは禁物だ。ここで見逃せないのは、このところ、「H3」を共同開発してきたJAXA三菱重工業の両者が直面してきたトラブルが「H3」にとどまらない点である。それらの問題とは、2022年10月に打ち上げに失敗して地上からの破壊指令を出さざるを得なかった「イプシロン・6号機」と、三菱重工が今月7日に「YS-11」型機以来の“日の丸ジェット”として期待されていた「三菱スペースジェット」事業からの事実上の撤退発表の2つである。これら2つの失敗に、今回の「H3」の失敗と共通する構造的な原因が無いのかといった視点も含めて、しっかり検証し、万全の手を打つ必要があるのではないだろうか。
 打ち上げ件数が伸び悩む
 「H3」は、従来の日本の主力ロケットで、勇退が決まっている「H2A」の後継機だ。JAXA三菱重工業を中心に2014年から約2000億円を投じて開発してきた。日本政府の衛星だけでなく、様々な民間企業の衛星打ち上げや宇宙空間への物資輸送を担える柔軟性と、打ち上げ時刻の正確さと成功率の高さを兼ね備えた信頼性の確立、そして“日の丸ロケット”の弱点とされてきた打ち上げコストの削減(H2Aの1回あたり約100億円から、H3では約50億円に減らす計画だ)の3つを開発の柱に掲げてきた。
 背景にあるのは、国産ロケットを基幹産業に育てたいという国策だ。
 振り返れば、1970年。日本は、「L-4S」ロケットで日本初の人工衛星おおすみ」の打ち上げに成功した。これは当時、旧ソ連、米国、フランスに次ぎ、世界で4番目の衛星打ち上げ国となる快挙で、基幹産業化への夢は膨らんだ。
 ところが、日本のロケットは打ち上げコストの高さが響き、政府案件しか打ち上げを受注できなかった。打ち上げ件数が伸び悩んだのだ。内閣府によると、2000年から2013年の実績(失敗も含む)で、ロシア(ウクライナを含む、382機、世界シェア39%)、米国(259機、同26%)、中国(132機、同13%)、欧州(98機、同10%)の後塵を拝し、日本は5位(32機、同4%)にとどまったのだ。ちなみに、日本の32機のうち28機は日本政府が発注した案件で、民間案件は4機に過ぎなかった。
 そして、近年は、民間企業の衛星ビジネス需要が大きく拡大した。2022年を見ても、米国が83機(うちスペースX社が61機)、中国が62機、ロシアが21機、フランスが5機、インドが4機と、各国はそれぞれ実積を伸ばしている。これに対して、ショッキングなことに、日本は前年から3機減り、なんと0機に転落した。
 一方で、世界のロケット打ち上げ市場ではここ数カ月、需給のひっ迫が顕著になっている。というのは、ウクライナ侵攻に伴うロシアへの制裁に反発、ロシアが対抗策として同国に制裁を科した国々からの打ち上げ要請を拒んでいるからだ。
 ところが、日本は、前述のように小型ロケット「イプシロン・6号機」の打ち上げに失敗したうえ、大型ロケット「H3・1号機」の打ち上げが遅延している状況だ。これでは、せっかくのロシアの受注拒否に伴う特需を、米国、中国、フランスなどにごっそりさらわれかねない。
 このため、JAXA三菱重工のみならず、日本政府も焦りを隠せない事態になっている。松野博一官房長官は2月17日の記者会見で、「H3・1号機」について、「詳細な状況の確認や再度の打ち上げに向けた作業に全力を尽くしてもらいたい」と発言した。
 元三菱重工エンジニアの指摘
 しかし、原因究明や再発防止策は徹底するべきだ。なぜならば、「H3」の打ち上げ延期や「イプシロン・6号機」、「スペースジェット事業」からの撤退が似たようなタイミングで起きた背景として、決して偶然と決め付けずに、しっかりと検証しておくべき共通の構造的問題が存在する可能性が捨て切れないからである。
 そのことを指摘するのは、米国企業を振り出しに、三菱重工、別の米国企業と渡り歩いた経験を持つ、あるパワーシステムのエンジニアだ。この人物は、「先行する米国などのライバルと比べて、JAXA三菱重工は慢性的な開発予算不足に陥っている」というのである。ちなみに、この人物は、三菱重工に勤務していた時期にパワーシステム関連の予算獲得を担当していたが、「直前に在籍していた米国企業や三菱重工を退社後に奉職した米国企業と比べて、似たような開発案件で、三菱重工では良くて10分の1、ひどいと100分の1程度のおカネしか与えられないことに唖然とした」と振り返るのだ。
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 そうした結果、「三菱重工のエンジニアは優秀だが、企業としての三菱重工はそうした個人の能力に依存し過ぎる傾向が強く、米国企業のように多くの人材を投入して組織的に開発に取り組む風土になっていなかった」と惜しむ。
 ここで、「H3・1号機」に話を戻すと、今回、「1段機体システム」の「異常を検知」した機材の中には、製造コストを削減するために転用した「自動車用の機材」も含まれているという。念のため、こうした部分は、重点的に不具合の有無を検証する必要がありそうだ。
 加えて、おカネが足りないという問題は、政府の宇宙開発予算にも共通する問題とみなさざるを得ない。日本航空宇宙工業会によると、2020年に、日本政府全体の宇宙関連は3355億円。これは、米国の5兆6084億円を大きく下回る水準にあるからである。国策に掲げる以上、国内総生産GDP)に占める比率でみても、これほどの格差が付くのは論外の事態だろう。
 こうした問題点から彷彿させられるのは、太平洋戦争の開戦当時、米国軍将兵を震え上がらせた旧日本海軍零式艦上戦闘機ゼロ戦)の古事である。周知の通り、ゼロ戦は当初、圧倒的なドッグファイト(空中戦)能力を誇った。そして、設計を担当した三菱内燃機製造(現三菱重工業)の堀越二郎氏(以下、敬称略)は今なお、三菱重工のエンジニアの間で神格化されているという。2013年にヒットしたジブリ映画「風立ちぬ」の主人公のモデルにもなった人物なので、堀越を知っている読者は多いはずである。
 安全保障の側面からも重要
 とはいえ、その堀越の天才的能力を以てしても、補いきれなかった弱点がゼロ戦にあったこともまた有名だ。当時の日本の国情からゼロ戦に搭載できたエンジンが非力で、この弱点を補うため、極限まで機体の軽量化を図った結果、座席後部や燃料タンクの防御が弱いという構造的な欠陥を生じたのだ。それ故、多くの優秀なパイロットが犠牲になったとされている。
 令和の「H3」事業で悲劇を繰り返さないためにも、今回の1号機のトラブルの原因の究明と再発防止の対策をおざなりにすることは決して許されない。 
 もう一つ付け加えておくと、製造能力の制約もあり、JAXA三菱重工が中、長期的な計画として、年間の打ち上げ件数の上限を6機程度と見込んでいることも懸念材料だ。
 これでは、米スペースX社製「ファルコン9」のような先行するライバルとの間に存在する打ち上げコストの格差を縮める展望が開けないからだ。むしろ、「ファルコン9」の打ち上げ数が大きく増えて、コスト格差が拡大することを覚悟する必要がある。
 他方で、膨大かつ急成長が見込まれる宇宙関連産業全体を見た場合、「H3」や「イプシロン」といったロケットを使った打ち上げビジネスは、全体の1~2割程度に縮小するとの予測があることも見逃せない。
 この2つが重なると、日本のロケットビジネスはコスト競争力が確保できないうえ、その分野がたいした成長が期待できないということになる。だとすれば、産業育成策としては、例えば、衛星を使った測位など、他の高い成長性が見込まれる宇宙関連分野に軸足を移す方が賢明だろう。
 とはいえ、東アジアの安全保障環境は急速に厳しさを増している。この点を勘案した場合、自国で偵察衛星などを打ち上げるサプライチェーンを確保するためにロケットが欠かせない可能性もある。
 その場合は、ビジネスとしての採算を度外視して、安全保障の側面から必要な資金を投入して追求すべき事業がロケット事業ということになる。だとすれば、H3が目指してきたほど、打ち上げコスト圧縮の優先度は高いものではなくなってくるかもしれない。
 いずれにせよ、今回の打ち上げ失敗は、国策としての位置付けを徹底的に再確認しておくという面からも、与えられた好機とみなすべきである。この面からも、拙速は避けなければならない。
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