🌌59}─3─人口激減時代では「水と安全はタダ」はもう時代遅れ。~No.283No.284 

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 エセ保守とリベラル左派は、メディアや教育を使って伝統的「水と安全はタダ」神話を潰した。
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 2024年4月17日 6:02 YAHOO!JAPANニュース Wedge(ウェッジ)「 「水と安全はタダ」はもう時代遅れ 持続可能な”令和型”の水道とは?各地を訪れ見えてきた新たな可能性
 当然のように水道が使える世代から、その持続性を主体的に考える世代へと転換が進んでいる(WEDGE、以下同)
 高度経済成長期に張り巡らされた日本の水道管。それから半世紀近くたった今、全国では毎年、約2万件の漏水・破損事故が発生するようになった。すべての管路の更新には約140年かかるとされる。
 人口減少も急速に進み、水道事業の料金収入は激減している。従来のような〝昭和型〟の維持はもはや限界であり、「水と安全はタダ」という日本人の常識は過去の遺物になりつつある。
 こうした厳しい現実を受け止めて、ライフラインである水道をどう維持・管理していくのか。その地域に見合った水道事業を持続可能な形で模索している現場を歩いた。
 必要な量の水を、必要な人に国内外を駆ける「日本原料」
 シフォン洗浄砂ろ過装置の間に立つ、日本原料の野口康一部長(左)と三島壮太係長(右)
 能登半島地震の被災地では今も断水が続いている。石川県珠洲市の宝立浄水場も被害を受けた水道設備の一つで、装置の損傷により浄水量がほぼ半減してしまったという。
 ここに可搬型の浄水装置である「モバイル・シフォンタンク(シフォン洗浄砂ろ過装置)」を設置したのが日本原料(川崎市川崎区)だ。同社の野口康一部長は「金沢から被災地まで、車で朝は4時間、帰りは4時間半。所々、道路が崩落しているところもありました」と被災地での様子を話してくれた。
 2005年、豪雨に見舞われた宮崎県への水道復旧支援を手始めに、国内外の数々の被災地を救ってきた同社。直近ではウクライナ水道局への技術支援(「【戦地ウクライナでも稼働!】世界に誇る日本企業の技術「モバイル浄水器」、キーウ水道局員視察の現場」参照)も行っている。
 水道事業は典型的な設備産業であるため、コンスタントに発生する材料費や人件費、維持管理費の確保にどの事業体も頭を悩ませている。現状の収益構造では持続性が見込まれないとの課題にも日本原料は寄り添っている。
 岐阜県恵那市にある久保原浄水場は、地下水と河川表流水の2つを水源として02年に作られ、約20年間稼働してきた。取水した水に含まれるヒ素やフッ素をアルミナによって吸着処理した上で、セラミック膜によるろ過処理を施すことで浄水していた。
 しかし、使用していた活性アルミナは販売終了となり、入手が困難になってしまった。さらに、セラミック膜装置も経年劣化により更新が必要となったが、膨大な費用がかかる。また更新後も、膜を維持管理するための費用の工面に悩んでいた矢先、老朽化による機器の故障が発生した。「危機的状況の中、急きょ対応してくれたのが日本原料さんでした」と恵那市上下水道課の小池健一係長は語る。
 効果は絶大だった。同社のシフォンタンクの導入により、膜の洗浄や交換に必須だった出費がなくなったのだ。セラミック膜装置と比べると、運転時に人手が必要な場面も限定的に発生するが、前出の野口部長は「職員が肌で現場を感じて仕事を進めることが、水に対して興味を持ち、水道人としての矜持を持つことにつながるはずです」と話す。
 コンパクトかつ可搬型というシフォンタンクの強みを生かし、稼働率に見合わない余剰設備の縮小=ダウンサイジングも各地で進める。同社の齋藤安弘社長はこう話す。
 「将来的な人口の増減を見据え、必要な場所に必要な数の水処理装置を、フレキシブルに移動できる状態で配備することが必要です。次世代のためにも、最適解の検討と移行は急務なのです」
 「第二次日本列島改造」へ雨水活用の未来描くトーテツ
 トーテツの安藤さんご夫妻。研究所敷地内では雨水を活用し、多くの農作物も育てていた
 神奈川県相模原市橋本駅から30分ほど車を走らせた山道の中に目指す施設はある。
 トーテツ(東京都品川区)が手掛ける「水・グリーンインフラ研究所」は、雨水をさまざまな用途に活用・普及していくための実験施設である。
 「あと30分くらい車で走り続けたら山梨県なんですよ」と温かく迎えてくれたのは同研究所長の安藤美乃さんと、安藤勇作さん。同社の社員数は約10人ほどだが、そのうちの2人がここで働いている。
 現在、国内で使用されている雨水貯留槽は家庭用など、小規模なものが多い。庭での散水や洗車に加え、東京都墨田区など道幅の狭い区域においては、消防車の通行が困難な場所もあることから、消火用水としても重宝されている。
 雨水はもともときれいな「超軟水」であり、適切なろ過を経て煮沸すれば飲用も可能だ。非常用水としての用途もあるうえ、茶葉やコーヒーをいれて楽しむ人もいるという。
 さらに、農業を救う一手にもなり得る。従来、農業用水路の多くはその地域の自治会に属する住民が自ら管理・維持してきた。だが、農林水産省の統計によれば、23年の農業人口は116.4万人と15年比で約35%減少しており、用水路の管理に携わる人口も減少し続けている。そうなれば、災害などで用水路が被害を受けても、しばらくの間、復旧できないケースも出てくる。
 「農業用水を確保できないところは耕作放棄地の対象にもなりやすいです」と美乃さんは話す。そこで雨水を効果的に活用することができれば、農業の維持・振興にもつながるというわけだ。
 同研究所に設置されているのは1000トンもの雨水を溜められる地下貯留槽「アクアパレス」だ。1000トンといえば、一般的な家庭用浴槽の約5000杯分に相当する量だ。一般に、槽を地下に設置する場合、車の衝撃や地震時の揺れ、地下水の変動などといった外部からの影響を受けやすい。
 そのため、長期にわたり安全性を確保するためには点検・整備が欠かせない。それを踏まえ、アクアパレスは人が中に入り込み、槽内全域を確実に点検・整備できる造りになっている。
 長靴に履き替え、小誌記者も内部に入らせてもらうと、貯水できる無数のパイプが所狭しと並び、その名の通り「水の宮殿」とも思える光景が広がっていた。
 17年にはインドのチェンナイ市に、水不足の解消などを目的として600トンサイズの同貯留槽を稼働させることに成功している。
 また、地下に貯留槽を設置しておくことで洪水被害対策としても効果を発揮できる。局地的な豪雨に見舞われても、その多くを地下に一度貯留し、時間差で流すことができれば災害が生じる可能性も低減できるのだ。「流せば洪水、貯めれば資源」(村瀬誠氏)という言葉があることも美乃さんは教えてくれた。
 美乃さんの実父であるトーテツの髙井征一郎社長は、ため池などの「オフサイト貯留」から、地域ごとに水を確保する「オンサイト貯留」へ移行する必要性を訴えている。給水点を一極集中でなく小規模分散型へ。雨水がその有効な手段の一つとなり得るのは間違いない。
 役場×住民で出した共通解矢巾町が育んだ住民の主体性
 吉岡律司さんは「将来を生きる人」の視点から現在の選択の是非を判断する必要性も訴える
 水道料金の改定といえば、住民からの反発も受けやすい。しかし、岩手県矢巾町は住民側から「改定すべき」という声が上がった、稀有な地域として知られる。17年4月請求分より水道料金・下水道使用料の改定に至ったが、その実現には職員・住民相互の理解と良質な危機感があった。
 その立役者となったのは同町政策推進監兼未来戦略課長を務める吉岡律司さんだ。当時、吉岡さんは水道事業所(現上下水道課)の係長としてこのプロジェクトに携わっていた。
 国が水道のあるべき将来像についてまとめた「水道ビジョン」を04年に公表し、これを受け同町も06年にやはば水道ビジョンを策定したが、吉岡さんは「これだけでは住民の理解を深められないことに課題を感じていた」という。
 ビジョン策定の当時から水道料金の改定を見込んでいたわけではなかった。自治体によっては、「住民の理解は得られないから」と、改定に踏み切る方法もあるだろう。
 しかし、吉岡さんは違った。「行政の言う『住民の理解が得られない』というのは、住民が知るべき情報を知らせる努力もしないで言っているだけという側面もある。行政の言い訳に過ぎません」。
 住民の理解促進と合意形成のためにできることを考え、吉岡さんはいくつも手を打った。中でも特筆すべきは「やはば水道サポーター」の活動だ。08年度から始めたこの活動では、公募により集った住民が月に1回ワークショップに出席する。水道事業について学びながら意見を出し合い、職員と課題認識を共有し、解決策を考えてきた。
 住民は当初、「話を聞きに来た人」だったが、やがて「参加者」になり、最後には「当事者」になっていったという。「それを顕著に感じたのは東日本大震災のときでした。発災後、地域の方々が不安に駆られている様子を見て、『矢巾の水道は大丈夫だから』と話して回り、安心させてくれたサポーターがいたんです。それを聞いたときには感動して涙が出ました」。
 最終的には、住民自らが水道料金の値上げと水道管の更新の必要性を訴えるに至り、料金改定を議会に提案したという。
 今でも約50人のメンバーが所属している。コロナ禍での自粛期間などもあり、サポーターとの対面での活動は長らく休止していたが、24年度からは本格的に活動を再開する予定だ。それに向け、浄水場の見学会を今年2月28日に企画・運営すると聞き、小誌記者は見学会に参加させてもらった。
 当日の参加者は5人。男性3人、女性2人で年齢層は70代~80代だった。監視室に入ると、矢巾町上下水道課主任技師の山本涼平さんが部屋を暖めて待っていてくれた。
 浄水場の概要説明後、場内設備を一通り案内してもらったが、参加者からは「24時間体制なの?」「薬品代はいくらかかるの?」など、矢継ぎ早に質問が飛び交った。「参加者は少なかったですが、それでも住民の〝熱量〟は変わりませんね」と嬉しそうに話していた山本さんが印象的であった。参加者からも職員に対し、「やりがいのある職場だね」「健康に留意してくださいね」と、温かい声かけがあった。
 今回が初めての参加だった高木伸雄さんは矢巾町のホームページを見て見学会に応募したという。吉岡さんの意志もあり、矢巾町の広報は手厚く、広報誌や登録制のメール、ラジオやテレビにSNS、最近では「やはナビ!」というアプリまで手掛けており、発信強化に熱心だ。
 吉岡さんは語る。「地域のみなさんを巻き込むというのは、〝行政の色に染める〟ということではありません。行政がすべて正しいわけではなく、批判もあってしかるべきなんです。ただ、一人ひとりが何かに気づき、何らかの主体的な考え方を持つこと。そういう方がいればいるほど、『強い矢巾町』になっていくのだと思います。私たちはその基盤を引き出すために、やれることをやり続けます」。
 地域によって異なる水道の在り方キーワードは「他人事から自分事」
 近畿大学経営学部の浦上拓也教授は「水道の維持・管理方法は、その地域の地理的・地形的条件や歴史的背景によって異なります。将来の姿を見据え、各事業体がその仕組みや形を再考し、地域に見合ったあり方に変わっていく必要があります」と述べる。
 住民(国民)もいつまでも受け身の姿勢ではいられない。昭和型から令和型へ、他人事から自分事へ─。「持続可能な形で自分たちの町の水道は自分たちで守っていく」という発想の転換が今、求められてい
 仲上龍馬
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 3月22日 Wedge2024年4月号特集(小さくても生きられる社会をつくる)
 人も、技術も、お金も減っていく……。日本の水道は〝孤独死〟寸前? 
 「能登半島地震」では水道施設に甚大な被害があり断水が続いている(1万8880戸/2月29日現在)。水道事業者は施設や管路の耐震化を進めてきたが、道半ばと言える。
 約98%を誇る、日本の水道普及率。その維持にかかるコストも膨大だ
 1995年の阪神淡路大震災を教訓に「地震に強い水道づくり」を検討した厚生省(当時)水道耐震化検討委員会は「老朽化した水道管を向こう5年以内にすべて耐震性のものに更新する」という提言を出した。2004年にまとめられた「水道ビジョン」には「浄水場、配水池などの基幹施設、基幹管路の耐震化率を100%にする」とある。
 30年にわたる号令にもかかわらず、現在の基幹管路の耐震適合率は41.2%(厚生労働省「水道事業における耐震化の状況〈2021年度〉)にとどまる。この数字はばらつきがあり1位の神奈川県は73.1%だが、最下位の高知県は23.2%と50%の開きがある。能登半島地震で水道被害が大きかった石川県は36.8%で、やはり全国平均よりも低かった。さらに耐震化率の伸びは20年から21年で0.5%程度。財源と人手の不足が影響している。
 水道事業は料金収入の激減から経営難に陥っている。そのため耐震管への切り替え、老朽管の更新が進んでいない。24年1月1日時点の日本の概算人口は1億2409万人で、前年同月から66万人減少した。
 人口減少は水道利用者の減少、利用水量の減少にほかならず、当然、料金収入も減少する。総務省によると料金徴収の対象となる水量(有収水量)は、00年の日量3900万トンをピークに減り続け、65年には日量2200万トンになると予測される。
 水道経営は今後ますます厳しくなる。水道が敷かれた頃は多くの市民に注目されたが、老朽化の実態は社会で共有されているとはいえず、水道は〝孤独死〟寸前である。
 また、水道施設の維持・修繕をする技術者も不足している。コロナ禍で注目されたキーワードの一つに「エッセンシャルワーカー」があるが、水道施設の技術者もそうであろう。だが技術者の待遇面は向上せず、社会を支える人材は不足している。最近は施工事業者の人手不足が深刻で、施設の改修工事の入札が不調に終わることも多い。
 足元で減る、金・技術・人材
 国からの策は実現可能か
 施設の老朽化、財源不足、人材不足の三重苦から持続性が危ぶまれる水道事業に対し、国は広域化と官民連携という対策を打ち出した。18年12月に改正水道法が公布され、「水道基盤強化計画」(改正法第5条)の策定による広域連携(経営統合、業務の共同化、災害時等の応援協定、資材の共同整備など)がさらに推奨された。
 だが、広域連携は進んでいない。「水道広域化推進プラン」(厚労省/2021年度)の策定の進捗状況によると、広域化推進プランを「策定済み」の自治体は5団体にとどまっている。
 さらに言えば、広域化し経営効率を上げれば、水道の持続が図れるかといえば、そうではない。昭和時代の水道を持続するだけでは意味がない。
 水道事業は昭和時代に供給量の増加への対応、水源の汚染への対応を課題とし、設備を建設することで課題解決を図ってきた。現在の課題は人口減少への対応、災害頻発への対応である。国が進める広域化のメリットとして、経営規模を拡張することで経費節減ができるといわれている。たしかに大口の発注などでコスト削減は可能だが、水道は設備産業であるため一定の材料費、施工費(労務費)、維持管理費がかかる。だから経費節減だけを強調すると誤解を招く。水道を供給する⾯積が広いほど、広⼤な面積を管理しなくてはならないし、人口減少が進む地域では⽔道の維持が難しくなる。
 そこで昭和時代に広げた傘を折りたたんだり、複数の小さな傘に差し替えたりする必要がある。広げた傘を折りたたむとは、ダウンサイジングのことだ。水使用量の減少から全国の水道事業の平均施設利用率(稼働率)は6割程度。つまり減価償却費や施設維持管理費などの費用が発生しているにもかかわらず、利益を生まない資産が4割ある。これを段階的に減らしていく。
 岩手県北上市花巻市紫波町は、それぞれ別に水道事業を行っていたが、14年に岩手中部水道企業団に統合した。岩手中部水道企業団の特色は人材育成にある。一般的な一部事務組合の場合、職員は自治体から出向する。約3年で人事異動があり専門性は蓄積されにくい。岩手中部水道企業団は専任職員だけで構成される。
 事業開始時に3市町の水道職員に移籍希望調査を行った。条件は、身分、待遇は変えず、水道の仕事に専念することだった。すると正職員の定員72人のうち、初年度だけで65人が役所を退職し、水道のプロとして働くために企業団に移籍した。11年の事業計画時から19年までに計25の施設を削減し、25年までにさらなる削減を計画する。施設削減の結果、約89億円の投資を削減できた。
 さらに職員の技量アップを図りながら有収率(給水する水量と料金として収入のあった水量との比率)を向上させた。有収率が低い主な原因は漏水だったが、15年から18年の3年で有収率が6.2%上がり、水が有効に使用された。
 その結果、配水量が日量7000トン減り、新浄水場の建設計画が白紙に戻った。将来投資が大幅に削減され、ダウンサイジングを図ることに成功したのだ。これにより漏水工事のための職員の残業も減り、突発的な工事に伴う心的負担の低減にもつながった。多くの公務員は数年で人事異動となるが、専門人材を育成する大切さを考えさせられる。
 求められる「小規模分散化」
 地域の将来像を描けるか
 ただしダウンサイジングの結果、過疎地域の切り捨てが起きてはならない。人口が極端に少ない地域での持続策も考えるべきだ。それが小さな複数の傘への差し替えだ。
 大きな施設で浄水処理し、そこから水を道に通して運ぶのが「水道」だとすれば、給水ポイントを小規模分散化して、水の道を極力短くし、数個から集落を対象とした「水点」をつくる。浄水やポンプ導水にかかるエネルギーを減らし、安価で管理しやすく、災害に強い方法を導入する。安全な水を安価に持続的に供給する目的が達成されるなら手段は柔軟でよいはずだ。
 いくつかの例を紹介しよう。
1.集落への水デリバリー「運搬給水」
 宮崎県宮崎市の持田地区、天神地区、静岡県浜松市の水道未普及地域などでは運搬給水を行っている。浄水場から、配水池までタンク車で水を運び、配水池から各家庭へは水道管で水が供給される。メリットは、水道管の維持管理が不要で費用が安いこと、デメリットは、気温の影響を受けやすいので水質管理に注意が必要なこと、事故や災害に備える必要があることだ。
2.井戸水と紫外線発光ダイオードによる殺菌
 井戸は有効な水源で、能登半島地震の被災地でも住民が新たに手製の井戸を掘って活用するケースがある。ただ、地下水の水質は地域によって異なり、食中毒や感染症を起こす目に見えない病原菌が含まれていることもあるので、消毒が必要だ。
 その点で注目されているのが、東京大学大学院工学系研究科の小熊久美子教授が研究・開発に取り組んでいる小型の紫外線発光ダイオード装置だ。紫外線が水中のウイルスや細菌などの微生物の遺伝子に損傷を与え、増殖を抑えることで感染を食い止められる。
3.地元住民が管理する緩速ろ過
 日本各地には地元の住民が管理する小規模水道がある。岡山県津山市の水道未普及地域では、維持管理を地元組合が行うため、①構造が単純で管理の手間が少ない、②ポンプなどの動力を使用しない、③できる限り薬品類を必要としないことが考慮され、「上向流式粗ろ過」と「緩速ろ過」を組み合わせた装置が採用された。
 設備はコンクリートの水槽と砂利があればよく、地元業者でも施工できる。メンテナンスも安価で簡単だ。住民が水道に関わり続けることで人材育成も可能になる。
4.水の循環利用
 企業が小規模な技術を開発するケースもある。従来の「使った水は流す」から「再生して繰り返し使用する」という考え方にシフトして開発されたのがWOTA BOX(WOTA、東京都中央区)だ。
 排水をろ過して繰り返し循環させることで、水の量を通常の50分の1以下に抑えることが可能。普通私たちは1回のシャワーに100リットルの水を使うが、WOTA BOXで循環利用すると100リットルで100人がシャワーを浴びられるため、能登半島地震の被災地でも活躍した。配管工事が不要で、電源さえあれば水が使える。
 現在の上下水道システムには大量のエネルギーが使われている。水源からポンプで取水し浄水場まで導水する、浄水場で浄水処理する、ポンプで各家庭まで送水・配水する。いずれも電力が必要だ。今後は脱炭素にも留意する必要がある。浄水場まで水を運ぶにあたり、遠くのダムなどから導水するのではなく、近くの伏流水やコミュニティー内の地下水などを利用すれば、導水する際の電力の使用量を抑えることができる。
 地下水が清浄であれば塩素殺菌するだけで十分であり、浄水処理での電力使用を抑えられる。さらには取水施設や浄水場に小水力発電を導入し売電することで、水道施設の費用をまかなうこともできる。「昭和型システム」の維持には限界があるが、広げた傘を折りたたんだり、複数の小さな傘に差し替える技術は揃っている。あとは自治体がどの技術を選び、どう管理するかが課題となる。
 破損した水道管から水が噴き出す現場。このような事態が今後、全国で頻発する可能性も否定できない(THE MAINICHI NEWSPAPERS CO., LTD./AFLO)
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 小さくても生きられる 社会をつくる
 全都道府県で人口が減少――。昨年7月の総務省による発表に衝撃が走った。特に地方においては、さらなる人口減少・高齢化は避けられない。高度経済成長期から半世紀。人口減少や財政難、激甚化する災害などに直面する令和において、さまざまな分野の「昭和型」システムを維持し続けることはもはや限界である。では、「令和型」にふさわしいあり方とは何か――。そのヒントを探るべく、小誌取材班は岩手、神奈川、岐阜、三重、滋賀、島根、熊本の7県を訪ね、先駆者たちの取り組みを取材し、「小さくても生きられる社会」を実現するにはどのようなことが必要なのかを探った。
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