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2019年4月2日 msnニュース AERA「洗浄トイレない海外に出張できない…「超潔癖」日本人に専門家が警鐘
© Asahi Shimbun Publications Inc. 提供 キレイ好きもほどほどに、との声も…… (※写真はイメージ Getty Images)
日本人の過剰な清潔志向が指摘されて久しい。「スマホの画面はトイレの便座より汚い」という英国保険会社の報告に震撼した人も少なくないだろう。スマホを使用後、手をゴシゴシと洗っていないだろうか。バイ菌に対する恐怖感を植えつけられ、ドアノブや電車のつり革を握れない人さえいる。
ホームセンターやドラッグストアには抗菌グッズがあふれる。多くの人が消臭除菌スプレーをベッドやソファ、カーテンにシュッシュッと熱心にかけている。しかし、行き過ぎた「キレイ好き」が、アレルギーや重大な病気を招くリスクもあるのだ。
『清潔はビョーキだ』『手を洗いすぎてはいけない』などの著書がある東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎さんは、感染免疫学や寄生虫学が専門。早い時期から日本人の“超清潔志向”に対し、警鐘を鳴らしてきた。藤田さんが語る。
「日本人のゆがんだ清潔志向が始まったのは、20年ほど前です。その度合いは今も強まるばかりです。日本の生活環境には、直ちに人の命を奪うような危険な病原菌はいません。ところが、身の回りの、私たちが生きていくために必要な細菌まで排除しています。風邪やインフルエンザなど感染症予防のため、手洗いが推奨されています。手を洗うのはいいことだけれど、人間の皮膚は洗いすぎると、かえって汚くなるのです」
外敵から皮膚を守っているのは、毛穴から分泌される皮脂。これが皮膚を薄く覆い、外敵の侵入を防ぐバリアーになっている。さらに、人間の皮膚には表皮ブドウ球菌やニキビ菌など約10種類ほどの皮膚常在菌がすみつき、脂肪酸の膜を作っている。pH5.4~5.7の弱酸性を保ち、病原菌を寄せつけないようにしているのだ。
ところが、せっけんでゴシゴシと洗いすぎてしまうと、皮脂膜や脂肪酸を失ってしまう。病原菌が付着しやすくなるばかりか、皮膚が乾燥肌になる。湿疹や炎症の引き金になり、アトピー性皮膚炎の原因にもなるという。では、藤田さんが指南する手の洗い方とは?
「両手を軽くこすりながら流水で10秒間洗えば十分です。天然油脂とカセイソーダで作られた昔ながらの固形せっけんならば、使ってもいい」
洗いすぎがNGなのは、お尻も一緒だ。温水洗浄トイレがすっかり普及しているが、強い水圧でお尻を丹念に洗浄している人も少なくないだろう。やはり、これも肛門(こうもん)周囲の皮膚常在菌が少なくなってしまう。pH7以上の中性からアルカリ性寄りになった皮膚には雑菌が入り込みやすく、肛門が炎症を起こし、かぶれたり、かゆくなったりする。
特に女性の場合は深刻な事態になりかねない。藤田さんがこう指摘する。
「温水洗浄トイレが普及してから、女性の膣炎が増えているのです。オシッコのたびに『ビデ』で膣まで洗い流すようになりました。膣にはデーデルライン桿菌(かんきん)という細菌がいて、膣の中のグリコーゲンを食べて乳酸を作り出しています。そのおかげで、膣内は強い酸性に保たれています。ところが、ビデでデーデルライン桿菌を洗い流してしまうと、膣は中性になって雑菌が繁殖しやすくなる。子宮まで炎症が起きてしまうと、早産や流産のリスクもあります」
温水洗浄トイレに慣れた人の中には、海外に行けなくなったという話も聞く。藤田さんがインドネシアの医療調査のために、若い研究員を誘うと、温水洗浄トイレがないことを理由に断られたことがあるという。たかが温水洗浄トイレごときで仕事や研究の機会を失い、行動範囲を狭めていることになる。もはや依存症の状態で、事態は思った以上に深刻なのだ。
人間の腸内細菌は約200種類で、100兆個もすんでいるといわれる。よく善玉菌とか悪玉菌と言われるが、藤田さんによれば、どちらも腸内細菌の中で2割以上増えないという。大多数を占めるのが日和見菌だ。乳酸菌など善玉菌を摂取することはもちろん大事だが、藤田さんは日和見菌を体内に取り込むことの重要性を説く。
「日和見菌は、善玉菌と悪玉菌の有利なほうにつきます。善玉菌が優勢なときには大勢の日和見菌が味方して、体調を良くします。免疫力を活性化し、感染症を防いでくれるのです。では日和見菌とは何かというと、多くは土壌菌の仲間です。土の中だけでなく、床やテーブルなどそこらへんにたくさんいます。赤ちゃんが床をハイハイしてその手指をなめたり、授乳のときにお母さんの皮膚から細菌を取り込んだりするのは大事なこと。子どもは泥だらけになって遊んで、多種多様な菌に触れるべきです」
ところが、いまはテーブルや床を抗菌スプレーで掃除して、乳首や哺乳ビンを消毒してしまう。家の中でも台所用品や衣類、寝具なども抗菌・除菌グッズをそろえている。
「その結果、大人も子どもも免疫力が低下し、花粉症や気管支ぜんそくなどアレルギーになりやすくなっています。免疫力の低下はインフルエンザやノロウイルスなどの感染を招きます」
現在、病原性大腸菌のO157やO111による集団食中毒がたびたび起き、時には死者を出している。1996年に、大阪府堺市の小学校で学校給食による集団食中毒が発生。国内がパニック状態になった。藤田さんが調査をすると、下痢をくり返して重症化した子は10%だった一方で、大便からO157が検出されながら、まったく無症状だった子が30%いたという。重症化した子は、比較的裕福で、親の清潔志向が強い傾向にあったという。
「清潔志向で腸内細菌が少なくなって、病原菌を追い出す力がなくなってひどい下痢を起こしていたのです。また人間が抗菌薬や消毒剤で大腸菌をいじめたため、O157という強い攻撃力を持った変異種を出現させてしまったわけです。けれども、O157はもともとヤワな大腸菌で、腸内細菌がいっぱいいると、他の菌にやっつけられて増殖する余地はなかったのです。ベロ毒素を出すこともなく排除されていました。ノロウイルスも感染力は弱く、昔は誰も嘔吐(おうと)や下痢など発症しませんでした。いまの日本人はヤワな病原体にも簡単に感染するようになったのです」(藤田さん)(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2019年4月5日号より抜粋」
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