⛻18〗─2─伝統「京都・西陣織」はまもなく消滅してしまうのか。~No.86No.87  

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 2024年3月15日 YAHOO!JAPANニュース 東洋経済オンライン「1500年の伝統「京都・西陣織」は、まもなく消滅してしまうのか 世界も憧れる「日本の伝統工芸」の知られざる“最大の危機”
 日本の伝統工芸「京都・西陣織」はまもなく消滅してしまうのでしょうか?(写真:WealthPark研究所)
 京都の織屋は平安時代より1500年の歴史があり、世界の絹織物の代表産地であるイタリアのミラノの800年やフランスのリヨンの600年と比べても圧倒的な伝統を誇る。しかし、ここ30年で西陣織の市場は劇的に縮小してきている。
はたして、西陣織はこのまま消滅してしまうのか――。
 国内外の投資会社でファンドマネージャーや投資啓発などの要職を20年経験後、投資の研究と教育を行うWealthPark研究所を設立した加藤航介氏。
 【写真で見る】シャネル幹部も作品を見て涙を流した「世界最高峰の『美』」京都「西陣織」
 英米で10年を過ごし、世界30カ国以上での経済・投資調査の経験を持つ加藤氏が、「投資のエバンジェリスト」という視点から、京都・西陣織が置かれた現状を解説する。

この記事の1回目:世界が憧れる京都「西陣織」はエルメスになれるか

■伝統工芸の「裏側」で「厳しい問題」に直面している
 京都・西陣織。誰しも聞き覚えがある日本を代表する伝統工芸ではあるが、茶道や華道、能や歌舞伎などを和装で嗜んでいる女性の方を除き、実際にその製品や産業の実態に馴染みのある方は少ないのではないだろうか。
 物事にはつねに「表」と「裏」がある。世界から注目を集める華やかな伝統工芸の裏側で、西陣織は「職人の後継者育成」という厳しい問題に直面している。
 前回『伝統工芸「京都・西陣織」は「エルメス」になれるか』では西陣織の世界からの熱い注目や大きなポテンシャルを取り上げたが、今回は日本の伝統産業が幅広く直面する「課題」に真正面から向き合いたい。
 ※文中の源兵衛氏とは、今回取材先であった西陣織・織元、誉田屋源兵衛(こんだやげんべえ)の十代目山口源兵衛氏を指します。
 西陣織とは、多品種少量生産の京都・西陣で生産される先染めの「絹織物」の総称で、現在は数十万円から数百万円の女性着物の「高級帯」が主力だ。
 京都の織屋は平安時代より1500年の歴史があり、これは世界の絹織物の代表産地であるイタリアのミラノの800年、フランスのリヨンの600年と比べても圧倒的な伝統を誇る。
 そして、京都という土地では、天皇や公家に「この世で最高の品」を捧げるため、職人たちによる「美」や「品質」へのあくなき探求が積み重ねられてきた。
「1ミリの1000分の1」の絹の繊維をまとめて糸とし、美しい模様を作るためその糸を何百種類に染め上げ、経糸と横糸の組み合わせを変更しながら、織り機を数万回動かすことで、世界最高峰の絹織物が完成する。
 ご存じの方も多いかと思うが、この経糸と横糸の組み合わせの数万回の変更を「紙に穴をあけて管理・運用」したのがコンピューターの起源だ。
 自動織機が普及した現代においても、工程や模様が極めて複雑な西陣織帯の製作では、職人が織機につきっきりで作業が進む。
 完全な手織り機で作業を進める工程も多い。
 江戸以前は「権力者の娘の嫁入りに使われる最高級の着物を作るためには、幾年もの時間が必要だった」と源兵衛氏は語る。日本以外の文化圏で、このような工芸を育み、そして伝承することは難しいだろうと感じる。
■「徹底された分業」という強みが「技術の継承」を阻む
 源兵衛氏によれば、成人式や冠婚葬祭など「日本ほど伝統衣装を着ている国は珍しい」ようだ。
 ただし、着物や西陣織の産業としての実態は極めて厳しい。過去30年、日本の着物市場全体は5分の1へ、高級な「帯」が主力である西陣織の市場は10分の1にまで落ち込んでいる。
 これほどまでの技術と伝統を持ち、世界的に高い評価を得ているにもかかわらず、京都・西陣織は産業として、その存続までもが危機的な状況にあるのが現状だ。
 歴史や伝統をつないでいくのは、いつの時代も「人」で、現在の織元の一番の悩みは、厳しい経営環境の中での「職人の後継者育成」だという。
 皮肉なことに、西陣織の美を支えてきた「高度に徹底された分業制」が西陣織の継承を苦しめているというのだ。
 現在の、織元の「職人の後継者育成」における課題は以下のように整理できる。
■職人の後継者育成における「4つの課題」
 【課題1】「技術の継承に残された時間」が少ない
 現在、「織元の職人の平均年齢は70代」と言われるまで高齢化が進んでいる。
 各織元は需要減退の最中、生き残りに必死で、「後継の育成」へ投資をする余裕がない時期が数十年続いた結果だ。技術の後継に残された時間は、年々、少なくなっているのだ。
 【課題2】徹底された分業制のため「多数の後継人」が必要
 職人は細分化された一つの工程を極める専門工であり、それぞれの作業場も隔離されている。
 たとえば、10の工程であれば10人の後継者が、技術の100の工程があるならば100人の後継者が、伝承に必要になる。分業がされているほど、それを後継することは難しくなるのだ。
 また職人らは、自分の持ち場に対しては極めて高い責任感を持つのだが、その反面、他の工程や全体に対しての興味が下がる。
 過去に、源兵衛氏は職人を一同に集めて、次の作品の製造全体について自由闊達な議論の場を用意したことがあったが、職人から出てきた言葉は「早く“自分が何をするか”を教えてほしい」というものであったそうだ。
 【課題3】「教えられた経験」がないので、教えることが難しい
 「高齢の職人は誰かに教えられた経験がないので、誰かに教えることが難しい」という問題もある。
 「かつては、父親の家の仕事場での作業を息子が毎日見ており、それで仕事を覚えた」と源兵衛氏は言う。
 また、昔と違い、子どもが親の仕事を継ぐのが当然であるとか、若者が丁稚奉公に入るなどの考えは、現代には馴染まない。
 家庭内手工業が色濃く残る伝統工芸が抱える課題である。
 【課題4】世代間で「共通言語」が異なる
 嘘のような本当の話であるが、職人たちは「湿度は土に水を垂らしたときの水の広がりで計っている」「メートル法ではなく尺寸で仕事をしている」など、伝える側と伝えられる側の世代間でのギャップもかなり大きい。
 度量衡(どりょうこう)が違うと、それはもう異国の言葉に等しくなってくる。
 企業であれば、各部や課で新人の教育係が任命されたり、メンター制度や人事部などの第三者がコミュニケーションを助けたりしてくれるが、分業制の下での1対1の伝承となると、なかなかそうはいかない。
 もちろん、各織元では、上記のような課題を乗り越えながら技術の伝承を少しずつ進めているのだが、「後継者育成」への実情は「想像以上に高いハードル」なのである。
■「これまで消えてしまった日本の文化遺産は多くある」
 「これまで消えてしまった日本の文化遺産は多くある。我々の織元だけでなく、京都、そして日本の染織物を次世代に残していきたい」と源兵衛氏は語る。
 これは織物産業に限らず、そして日本に限らず、世界中の伝統工芸が、近代化や大量生産・消費文化の下で、その「伝承」に非常に苦しんでいるのだ。
 「経糸を切らさず」。この織物から生まれた慣用句を、伝統的な西陣織が体現していくために何をすべきかは、改めて別の記事で紹介していきたい。
 また、このような文化・伝統を守るにあたっては、伝統産業だけでなく、政府や日本人全体の意識も大切であろう。
 我々は、日本の文化・伝統自体に価値があることを、認識できているのだろうか。そしてその「伝承」に危機感を持っているのだろうか。
 2023年3月に京都に移転した文化庁のホームページの紹介には、「文化を守り 文化で未来をつくる 世界とつながる 文化庁は、日本の文化芸術を世界に、そして次の世代へと伝えていく仕事をしています」とある。
 文化や伝統を守ることは国の義務であるし、その活動を支えるのは国民の文化・伝統に対するリテラシーにほかならない。
 個々人の文化や伝統に対するリテラシーの高さとは、社会の豊かさそのものなのだと感じる。
 *この記事の1回目:世界が憧れる京都「西陣織」はエルメスになれるか
 加藤 航介 :WealthPark研究所代表/投資のエバンジェリスト
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