🌌54}─2─ウッドショックで買い負ける日本が森林大国なのに木材を自給できない理由。~No.263No.264No.265 ㊵ 

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 2023年8月9日 MicrosoftStartニュース 集英社オンライン「日本はなぜ木材を外国に依存するのか? 「ウッドショック」で買い負ける日本が森林大国なのに木材を自給できない理由
 2020年から2023年のコロナ禍において「ウッドショック」が日本に与えた影響は計り知れない。森林大国。日本はどうして外国に木材を求めなくてはならないのか。『買い負ける日本』 (幻冬舎) より一部抜粋・再構成してお届けする。
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 「木材を売ってもらえない」住宅市場が受けた衝撃
 「そんなに遅れるの?」。キッチン用品の展示場では来店するお客から、そのような感想が多数寄せられたという。2020年から2022年にかけて、システムキッチンを展示しているのに、売れても納品ができない。給湯器等も仕入れられない。納期が遅延する前提で売らなければならない。
 建設資材ではほぼすべてが影響を受けた。コンクリート、キッチン、および給湯器などキッチン備品、アルミサッシ、壁のクロス、その他、センサー付きの照明器具、トイレ設備、換気扇、コンロ、IHヒーター……。建設資材は価格が全面的に上がり、工期に影響した。
 この時期に住宅を建てた人を失望させた。基礎工事が止まる、材料が届かないといわれ別場所での仮住まいを長引かせることになった。挙句の果てには、見積もり費用が異常に膨らんだ。「ふざけるな」と怒りをぶつけても、現場の担当者にとってもどうしようもない。木材が手に入らないのだ。
 なかにはマイホームを夢見ていたのに、着工後に部屋数を減らすように勧告された購入者もいる。間取りを変更しなければ当初予算のままでは建てられなかったのだ。
 苦しんだのは住宅関連産業だけではなく、他の産業も同様だった。楽器メーカーがギターの生産に影響が出るとした。バイオマス発電にとっても事態は深刻だった。発電用の木質バイオマス材料は高騰し入手しにくくなった。関西電力の朝来バイオマス発電所は稼働を停止した。他にも稼働を停止したバイオマス発電所は多い。
 日本はなぜ木材を外国に依存するのか? 「ウッドショック」で買い負ける日本が森林大国なのに木材を自給できない理由
 © 集英社オンライン 提供
 バイオマス発電の事業者は長期契約を結ぶケースが多くなく、価格が市況に影響を受ける随時調達で購入するケースが少なくない。バイオマス発電で使用する木材チップは、その原料となる植物の成長過程で二酸化炭素を吸収するためにエコな燃料と考えられている。環境面からも推進されていたものの、その方針がつまずいた。
 ウッドショック、ウクライナ侵攻
 2021年に米国発のウッドショックが起きた。1970年代の「オイルショック」になぞらえた単語だ。コロナ禍のテレワークで郊外への移住が進んだことや、歴史的低金利で建設・住宅需要が伸びた。巣ごもりのDIYブームもあった。また、もともと脱炭素を推進する関係で森林伐採を縮小させていた。
 日本はなぜ木材を外国に依存するのか? 「ウッドショック」で買い負ける日本が森林大国なのに木材を自給できない理由
 © 集英社オンライン 提供
 さらにアジアでは移動制限とロックダウンで労働者もコンテナも不足した。さらに米国の各港で物流が滞り、不足に拍車をかけた。木材価格の指標となるシカゴ・マーカンタイル取引所先物価格が2021年には異常値をつけていたほどだ。
 次に起きたのがロシアのウクライナ侵攻だった。
 森林認証機関であるPEFCFSCベラルーシ産とロシア産を、紛争鉱物ならぬ紛争木材として認証を停止した。紛争鉱物とは、人権蹂躙を引き起こす地域で、テロ組織などが資金源とする天然鉱物を指す。当該地域から調達するほどテロ組織に加担することになる。有名なのはコンゴ民主共和国で採掘されるスズやタンタルタングステンだ。だから米国などを中心に、これら紛争鉱物を調達しないように進めてきた。その木材版だ。
 PEFCとは国際基準に則って林業が操業されていると第三者が認証するものだ。FSCも似た仕組みだ。PEFCが紛争木材とみなしたベラルーシとロシアの森林面積は世界の認証面積の12・5%にいたっていた。
 欧州はベラルーシからの木材調達を制限。結果、欧州の木材が不足し高騰した。ロシアも対抗措置を講じた。非友好国へ木材や製紙材料やバイオマス発電用の木材チップなどを輸出停止すると発表した。
 このように米国とロシアの大国発の第一次・第二次ウッドショックが世界を襲った。なお、日本にとっては木材だけではない。コンクリートの原料であるセメント、その燃料である石炭はロシアに頼っている。影響は大きい。
 森林大国の日本が外国に依存する理由
 ところで日本は美しい自然を誇る。森林も多い。なぜ緑にあふれた国が木材を外国に依存しているのだろうか。日本では大半の住宅が木造なのに、日本は木材を自国内で完結できない〝奇妙〞な国だ。
 日本はなぜ木材を外国に依存するのか? 「ウッドショック」で買い負ける日本が森林大国なのに木材を自給できない理由
 © 集英社オンライン 提供
 もともと日本の木材自給率は1955年になんと96・1%もあった。しかしその後に輸入が続伸。ロシアや北米からの木材に依存するようになり、2000年代の前半には自給率は20%弱となった。
 2000年代の中盤から木材自給率はやや上昇し、2010年以降はバイオマス発電などの用途も加わったことから40%強となっている。ただ近年に限っていえば供給量は横ばいとなっているし、まだ未来が明るいとまでは言いにくい。
 日本の林業は儲からないと有名で、林野庁の試算では補助金なしでは林業はたちゆかない。住宅以外の需要を探そうと、先に書いた通りバイオマス発電用途を見出した。しかしさほど儲からずに、十分に機械化されていない。日本には伐採したまま放置された山が多くある。これから植林しても、使用できるのは数十年も先になる。
 なぜ日本の木材は採用されないのか。
 住宅メーカーの関係者に質問すると、国内材を使いたい希望はある。ただし質と価格が伴えば、と条件をつける。外国産は品質が良いと評判が高い。たとえば冷寒地の木材は節(枝がその幹に丸く巻き込まれた部分)が大きくなく、力をかけた加工に強い。価格も安かった。国内は少量ゆえの非効率化が目立つ。
 しかし木材が不足する局面であれば日本メーカーが増産に動いてもよいはずだ。しかし、調達側企業が中長期的に日本メーカーへ切り替える方針を出さない以上は、生産増に足を踏み出しにくい。人手不足もある。さらに住宅市場も先行き不透明で一部の在庫もダブつく。
 日本の木材自給率の低さ
 一般的に森林で伐採された原木丸太は、製材工場に送られ角材や合板に変わる。それを建材工場が購入し、建築用部材に加工し、それを住宅メーカーや建設会社が調達する。これは単純化したサプライチェーンであり、実際には多層に入り組んでいる。伐採以降は、誰もが資本の論理で動いているから、高ければ国産のものを買わない。さらにサプライチェーンが多層だから、森林で伐採する業者は、その先のニーズがわからない。
 日本はなぜ木材を外国に依存するのか? 「ウッドショック」で買い負ける日本が森林大国なのに木材を自給できない理由
 日本はなぜ木材を外国に依存するのか? 「ウッドショック」で買い負ける日本が森林大国なのに木材を自給できない理由
 © 集英社オンライン 提供
 またたとえば住宅メーカーは、工場で木材を規定サイズに切断・加工することを求める。ただ多様なサイズがあるため、国内では大量に処理することができなかった。
 懸念される強度の問題も、CLT(Cross Laminated Timber)といった技術が進化してきた。合板とも集成材とも違い、木材の繊維方向を直交させながら積層するものだ。これで強度が安定する。しかし質が高くなってもコストの面での問題があり、道半ばだ。
 さきほど日本の木材の自給率を見た。6割は海外に頼っている。輸入の内訳を見ると、丸太の6割ほどは米国に依存し、製材はEUとカナダ、集成材もEUと、特定国に偏る。もちろん多くは友好国だが、当然ながら、危機時には米国やカナダは自国を優先する。
 たしかにこれまでは世界中に張り巡らされた調達網を使えば、必要な量だけを安価に購入できた。ただ森林大国であるはずの日本は、米国の新規住宅増に影響を受けるほどの脆さを露呈した。
 文/坂口孝則
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 『買い負ける日本』(幻冬舎
 坂口孝則
 日本はなぜ木材を外国に依存するのか? 「ウッドショック」で買い負ける日本が森林大国なのに木材を自給できない理由
 © 集英社オンライン 提供
 2023年7月26日
 ¥1,034
 248ページ
 ISBN:
 978-4-344-98698-5
 かつては水産物の争奪戦で中国に敗れ問題になった「買い負け」。しかしいまや、半導体LNG(液化天然ガス)、牛肉、人材といったあらゆる分野で日本の買い負けが顕著になっている。日本企業は、買価が安く、購買量が少なく、スピードも遅いのに、過剰に高品質を要求するのが原因。過去の成功体験を引きずるうちに、日本企業は客にするメリットのない存在になったのだ。調達のスペシャリストが目撃した絶望的なモノ不足と現場の悲鳴。生々しい事例とともに、機能不全に陥った日本企業の惨状を暴く。
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