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2020年11月23日 MicrosoftNews PRESIDENT Online「「1兆円投資で世界2位を死守」ニッポン半導体の見えない明日
水月 仁史 2020/11/23 11:15
© PRESIDENT Online 昨年10月新社名「キオクシア」のロゴを発表する東芝メモリの 佐野修久常務執行役員(当時)=2019年10月30日、東京都港区
主力の四日市工場で2022年春までに新工場棟を建設
経営危機に陥った東芝から分社化、独立した半導体大手のキオクシア(旧東芝メモリ)は、フラッシュメモリーの生産増強に向け、国内で総額1兆円規模に上る巨額投資で新工場建設に乗り出す。
純粋持ち株会社のキオクシアホールディングス(HD)が大口取引先である中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)に対するトランプ米政権による輸出取引規制から、10月に予定していた東京証券取引所への新規株式公開(IPO)を延期した直後の決断だった。
資金調達が制約される状況下での巨額投資は、NAND型フラッシュメモリーで世界第2位の座の死守に向けて血眼なキオクシアの意地がにじむ。同時に、攻め時を逸してはならないとの大きな賭けの要素もはらむ。
キオクシアが10月29日に発表した計画によれば、主力の四日市工場(三重県四日市市)に2021年春に新工場棟の1期分の建設に着手し、2022年春の完成を目指す。市場動向を踏まえ2期分も建設する計画で、1兆円規模に達する投資額を同社は「営業キャッシュフローの範囲内」で賄うとする。
「機動的な設備投資判断の有無がその後の優劣を決する」
巨額投資に打って出るのは、世界中が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に直面しながらも半導体を巡る市場環境は持続的な成長が予想されるからだ。
クラウドサービスや次世代通信規格「5G」向け、さらにIoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)、自動運転車の技術進展などフラッシュメモリーに対する需要は今後も旺盛で、このタイミングで最先端フラッシュメモリーの生産を強化し、需要を取り込もうという狙いだ。
半導体産業には「機動的な設備投資判断の有無がその後の優劣を決する」との定説がある。これに従って、キオクシアは株式上場の延期により資金調達面での制約が発生した中でも市場拡大期に出遅れては後がなく、巨額投資に踏み切った。
そこには、ここが勝機と攻めに出て、是が非でも世界2位の座を維持したいという本音が透けてくる。
キオクシアの「世界2位の座」は決して安泰でない
実際、1980~1990年代に世界の半導体市場を制してきた日本勢は、巨額な積極投資を続けるサムスン電子に代表される韓国勢の追い上げによって主役の座を完全に奪われた。その結果、いまや日本勢で国際競争力を維持しているのはキオクシアだけとなり、かつての「日の丸半導体」は見る影もない。
日立製作所、NEC、富士通といった名だたる日本勢が半導体市場から消え去った事実は、機動的な投資判断を誤れば市場退場を迫られるという半導体産業の定説を物語る。
そして今、キオクシアの世界2位の座も決して安泰でない。
フラッシュメモリーで断トツの35.9%のトップシェアを握るサムスン電子は、韓国はもとより中国での半導体事業で追加の巨額投資を続ける。昨年末には中国の西安工場(陝西省西安市)に80億ドル(約8400億円)を投資すると発表し、シェア19%のキオクシアの引き離しにかかる。
習近平政権は半導体産業を「戦略的な重点分野」に位置付け
一方、中国勢の存在も無視できない。先端技術で世界の覇権取りを狙う習近平政権は、2025年に「世界の製造強国の仲間入り」を目指す産業政策「製造業2025」で、半導体産業を戦略的な重点分野に位置付けた。また、トランプ米政権との間で激化する一方の貿易戦争を背景に、習政権は海外からの制裁に影響されない自国内でのサプライチェーン(供給網)の構築を急ぐ。
このため、紫光集団傘下の長江存偖科技(長江メモリー・テクノロジーズ=YMTC)といった中国勢は、政府による金融支援などの後押しもあり、半導体市場で韓国勢など激しく追い上げる。
さらに、キオクシアが新工場建設を発表した直前には、米インテルが韓国半導体大手のSKハイニックスに半導体メモリー事業を約90億ドルで売却することで合意した。買収完了は2025年を予定しており、単純合計するとSKハイニックスのシェアは9.9%から一挙に19.4%に上昇し、キオクシアをわずかに上回り2位に浮上する。まさにキオクシアを取り巻く環境はここにきてにわかに大きく動き出した。
SKハイニックスにキオクシアを飲み込まれる可能性も
しかし、SKハイニックスの存在は、キオクシアにとってはさらに厄介だ。
東芝は2017年4月に半導体事業を分社化し、新たに東芝メモリを発足し、翌2018年6月には同社を米投資ファンドの米ペインキャピタルやSKハイニックスなどに売却した。東芝も4割を再出資し、東芝メモリは「日米韓連合」で再出発した。
その際、SKハイニックスは2019年3月に社名変更したキオクシアの新株予約権付社債(転換社債)を保有し、キオクシアHDの株式上場後は約15%の株式を取得する計画だった。
こうした経緯から、SKハイニックスがキオクシアをのみ込む可能性は否定できない。
現実的には合意がない限り2028年まではSKハイニックスがキオクシアの15%を超える株式は取得できないことになっているものの、SKハイニックスは11月3日の決算発表の場でその可能性を完全には打ち消さなかった。
SKハイニックスは半導体メモリーの専業メーカーであり、インテルの半導体メモリー事業を買収後に世界市場での覇権取りにキオクシアの取り込みを虎視眈々と狙っていることは想像に難くない。その意味で、キオクシアとしてはこの“猶予期間”に、今回の巨額投資で需要を取り込み、脆弱な財務基盤の強化につなげたい意向だ。
今回の投資は「身の丈知らず」の大きな賭け
キオクシアはこの巨額投資を営業キャッシュフローの範囲内で賄うとしているものの、年4000億~5000億円台で推移してきたキャッシュフローは最終赤字に陥った2020年3月期は約1600億円に沈み、ある意味“身の丈知らず”にも見える。
一方で、生き残りへの大きな賭けに打って出たとも映る。そこには、事業の持続には巨額投資が欠かせないという半導体メーカーが抱える呪縛から抜け出せない姿がにじみ出る。
確かに、キオクシアHDの上場延期は資金調達面で誤算だったに違いない。ただ、10月に予定していた上場で得るはずだった新株発行による資金調達額は、約603億~754億円にすぎず、四日市工場への新規投資額には遠く及ばない。
ただ、今回の新工場建設は協業先である米ウエスタンデジタル(WD)との共同で実施するため、投資額は折半となる。今回の投資についてWDは次世代技術の開発で将来の需要を取り込む協力関係の強化を表明しており、共同で生き残りに懸ける意向を示している。
しかし、市況に大きく左右される半導体事業にとって投資負担は、大きなリスクである。それだけに、キオクシアにとってはこの投資は大きな岐路になる。
サムスン電子会長の死去で、思わぬ好機到来か
一方で、このタイミングに、予期せぬ大きな出来事が飛び込んできた。
サムスン電子をその強烈なカリスマ性と果敢な積極投資で半導体、スマートフォンなどで世界トップ級のIT企業に飛躍させた李健煕(イ・ゴンヒ)会長が10月25日に死去したとの報せだ。
李健煕会長は長期療養中だったことから経営の実権はすでに長男の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長が握ってはいる。だが、健煕会長がいなくなったことで強みだったスピード経営が当面、混乱する可能性もある。
これは転機を迎えたキオクシアにとってはある種の好機でもある。
世界の半導体企業はここにきて、米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)がザイリンクスを、エヌビデアがソフトバンクグループからアームを、それぞれ買収して最強インテル追撃を目指すなど再編劇が加速している。
それだけに積極投資を怠ってしまえば淘汰も余儀なくされるとの危機感がキオクシアの巨額投資への背中を押したことは間違いないのだが……。」
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