⛲203}204}─1─日本企業の海外M&Aの成功30%、失敗70%。失敗・東芝、日本郵政。〜No.521No.522No.523No.524No.525  * 

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 関連ブログを6つ立ち上げる。プロフィールに情報。
   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・   
 日本企業・日本人経営者は、理系の科学技術能力を劣化させ、文系の経営哲学や理論さらに企業文化をも失っている。
 そして、将来を想像する先見と知見、こうなるであろう未来図を熱く語る言葉さえ失っている。
 日本企業の製品は、昔のような、驚かす斬新さも目新しさもなく、買いたいという輝きも魅力もをなくしている。
 コミュニケーション能力とは、外国語を流暢に話す事ではなく、日本国語で夢を語る事である。
 性能が良い翻訳機が開発されたら、僅かな単語でしか話せない外国語能力など無意味となる。
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 2016年4月号 Voice「海外M&A失敗の本質 歴史と地政学要因による文明の違いを認識せよ  杉山仁
 成功率はせいぜい30%程度
 この2、3年、円安傾向にもかかわず、日本企業による大型海外M&A(合併と買収)が続いている。2015年通年の日本企業による海外M&A金額は11兆円を上回り、前年の9割超の増加ペースで急拡大している。日本企業が成長性の高いマーケットでのシェアを上げるとすれば、海外M&Aは手っ取り早い方法であろう。
 しかし、海外M&Aは買収合意を発表したときは大々的に報じられ、マスコミも囃(はや)し立てるが、買収を完了したあとで、当初の買収目的を実現できている案件はきわめて少ないのが実情である。
 筆者はメガバンク勤務時より転職後の現在に至るまで海外M&Aの仕事に携わっているが、筆者の見たところ、日本企業による海外M&Aで買収後ただちに買収目的を実現できているケースは件数にして10%程度ではないだろうか。買収後数年の努力のあと、ようやく買収目的の実現に至るのが全体の20%であり、これを含めても成功率はせいぜい30%程度と思われる。
 日本の大企業が、大型海外買収を誇らしげに発表したあと、ほんの2、3年で大失敗に終わり、巨額の損失を被っている例は枚挙に暇がない。またM&Aの失敗を隠し続け、減損損失を先送りしているケースも、東芝に限らないだろう。
 ……
 相互信頼か相互不信か
 日本企業のM&A失敗の原因はいろいろ考えられるが、筆者の海外M&A経験に基づく考察によれば日本固有の社会と文化に一因があると思う。 ここで強調しておきたいのは、筆者は日本固有の社会と文化を海外と比べて是非や優劣を論じるつもりはまったくなく、客観的事実として彼我の違いを認識し、これを日本企業によるM&Aに役立てようとする姿勢である。
 筆者の論点は、最近はやりのグローバリズムに基づく日本ダメ論、日本変われ論ではなく、それぞれの民族が地政学の環境において過去数千年に亘(わた)って培ってきた文明と、それに基づく行動の違いを認識することにより、日本企業の海外M&Aの成功率を高めようとするアプローチである。
 日本企業の場合、M&A資本提携の対外交渉にあたり、相互信頼、共存共栄、長期関係の三原則を基本とすると考えられるが、海外企業は必ずしもそうではない。
 筆者の経験では、海外企業はM&A資本提携の交渉時に、いかにしたら自社の利益を極大化できるか、相手の弱みは何か、相手企業に対してどのようにしたら優位に立てるか、という姿勢で交渉に臨む。支配・被支配関係を前提として相互不信と警戒感が先立つのである。
 こういう相手との交渉をする場合、日本人特有の相互信頼の精神だけではで思わぬ落とし穴に落ちかねない。M&Aの最初のプロセスであるトップ会談で、売り手の外国人社長に惚れ込んでしまう日本人社長がいるが、自分が惚れ込んでも、相手が自分のことを信頼して好きになってくれるとは限らない。当たり前のことだが、自分の会社を高く売りたいため、あるいは有利な提携条件を結びたいため、愛想よくしているケースがほとんどである。
 日本では昔から『至誠天に通ず』という言葉があり、こちらが誠意を見せれば相手も必ず誠意をもって応じるという相互信頼の精神があるが、これはおそらく外国人と接したことのなかった日本人の言葉であろう。
 何千年、何万年ものあいだ、土地を求めて異民族同士の殺戮を繰り返してきた一神教ユーラシア大陸の民族(およびその派生であるアメリカ)にとって、相互信頼の精神は育たないのである。
 メソポタミアの粘土板の歴史書にも、ある日砂漠の彼方から砂煙を上げて異民族の大軍が押し寄せ、メソポタミア都市国家を破壊し尽くし、住民を皆殺しにした史実が記録されている。13世紀のモンゴルによる中近東と欧州への進攻もその一例である。
 異民族を見たら敵だ、という発想なのであり、その考え方は21世紀の企業行動においてもユーラシアの人びとのDNAに植え付けられ、基本的には変わっていないことを認識すえきである。
 人間平等主義VS奴隷制
 江戸時代以前より、近江(いまの滋賀県あたり)商人のあいだで『売り手よし、買い手よし、世間よし』という三方よしの商売哲学があった。今風の言葉でいえば、商取引にあたってすべてのステークホルダー(利害関係者)が得するのが商売の大原則という考え方であった。
 この考えは江戸時代に入って石田梅岩が心学として体系化し、『先も立ち、我も立つ』という共存共栄の利を共にする精神を日本中の商人に広めたのである。現在でも日本の伝統的な企業で、社是として取引先と従業員との共存共栄を原則としている企業はいくらでもある。
 共存共栄の精神の基には、徹底した人間平等主義がある。日本ではこの世の人びとは皆平等である、と考えるゆえに富を分かち合うという精神が芽生えたのである。
 これに対して、征服して異民族を殺戮したり、人権のまったくない奴隷として酷使したユーラシアの人びとには、一神教の教えもあり、そもそも人間平等という考えはなかった。有史以来、世界中の文明圏で奴隷制がなかったのはおそらく日本だけではなかろうか。奴隷制があったかなかったかで、その文明の人びとの振る舞いがまったく異なってくるからだ。
 古代民主制といわれるギリシャ都市国家アテネでは、12万人の市民のほかに3万人の外国人と8万人の奴隷を使っていたことが記録されている。
 『民主主義』といっても奴隷には人権はいっさい認めず、家畜と同様に酷使、虐待、虐殺したのがギリシャの『民主主義』の実態である。
 ローマ帝国に至っては、戦争で奴隷になった異民族の男をグラジエイター(『剣闘士』と訳されている)としてコロセウム(闘技場)に追い込み、同じグラジエイター同士をどちらかが死ぬまで剣で戦わせ、これをローマ市民が観覧席から高みの見物をして楽しんだ、という事実は読者もよくご存じのことである。奴隷は牛と同様の扱いであったのである。
 有史以来、ユーラシア大陸の国家と民族では戦争に敗れた人びとは、殺されるか、家畜同然で死ぬまで酷使されるという過酷な運命が待っていたのである。
 この奴隷制を地理的に海外に拡大していったのが、 西欧植民地主義である。16世紀のスペインによるインカ帝国制服を嚆矢(こうし)として広がった西欧の世界中の植民地では原住民の人権はいっさい認められず、原住民はただ殺戮と搾取の対象であったのである。
 つまりユーラシア大陸においては勝者のみが正義、敗者は家畜同然の奴隷とされたのである。
 奴隷制の伝統に基づく勝者独り勝ちの精神は、アップル、グーグル、IBM、ウォルト・ディズニー等の多国籍企業が、徹底した節税スキームで税金の支払いを少なくし、この結果、積み増した利益を株主と経営者が山分けするという行動の原点となっているのである。
 これは日本企業が長いあいだ培ってきた『三方よし』という、人間平等主義に基づいた互恵の精神と正反対のものである。
 最近話題になっている人口知能やロボットに対する警戒感も、奴隷制度があった国と、日本のような人間平等主義の伝統である国では考え方が違うと思われる。ユーラシアの奴隷制度が長く続いた国では、ロボットを奴隷と捉え、奴隷、すなわちロボットの反乱を警戒する姿勢が根付いていると考えられる。
 長期的経営か短期的経営か
 経営者個人の利益を優先するとなると、当然、短期的経営志向となる。
 なぜなら個人が経営者でいられるのはせいぜい数年から10年程度のあいだであり、この間に会社の利益を上げ、個人の手取りを極大化する必要があるからである。
 最近のアメリカの企業による自社株買いも、経営者が設備投資や従業員に対する配分を削ってでも、ROEを高めることにより経営者報酬を増やしたい、という意識の表れといわれている。 
 上位1%の富裕層が所得の9割超を獲得しているアメリカの著しい格差社会化の進行は、独り勝ち短期経営の結果でもある。
 これに対して日本企業の長期志向は、100年以上続く長寿企業が日本では1万5,000社以上(世界で首位)ある一方で、2位はドイツで1,000社以下という統計にも表れている。
 トヨタの水素自動車、東レ炭素繊維、ホンダのアシモロボットやホンダジェット等の世界最先端技術は、これら日本企業のすべてのステークホルダーが30年以上の超長期投資に耐えた結果であり、欧米流短期経営では絶対に開発できない技術である。
 一方、海外企業は超長期投資にすべてのステークホルダーが耐えるということはできず、フォルクスワーゲンの排出ガス不正、GMの欠陥車放置、ノバルティスファーマの実験結果改竄(かいざん)、短期でコストのかからない不正に走ってしまうのである。
 クライシス対策より組織の名誉
 以上のとおり、日本企業の行動原則として、①相互信頼、②共存共栄、③長期経営の3つを挙げ、日本企業にとって、これらの行動原則が通用しない海外企業と交渉する際の弱みになってしまい、これが日本企業による海外M&Aの成功率が低くなっている要因であると考える。
 ユーラシアの民族の行動原則をわかりやすくいうと、『自分だけ、今だけ、金だけ』ということになり、これは日本人の『皆も、将来も、金だけでない』という行動原則と正反対のものである。
 筆者はこれに加え、日本文明に基づく日本企業の共同体志向がM&A失敗の1要因ではないかと考えている。
 日本企業による大型M&Aの場合、社長以下会社全体で買収完遂に突っ走ってしまい、買収完遂が自己目的化してしまい、デューディリジェンスで発見されたリスクに対する対応策や、買収の基本前提となる将来収益見通しとシナジー(相乗効果)実現可能性の慎重なチェックが疎(おろそ)かになってしまうことがよくある。冒頭に挙げた第一三共、LIXIL、丸紅がそのケースであろう。
 また買収後、トラブルが多発しても、社外はもちろん、社長や担当役員以外には社内にも知らせずトラブル情報を隠蔽してしまうケースが多い。その結果、対策が後手に回り、かえって損失が拡大してしまう。
 オリンパスの巨額粉飾事件もこうした背景があったことが明らかになっている(巨額粉飾の事実は代々の社長と担当役員のみに引き継がれていたが、これは現地採用出身のイギリス人社長が、日本から逃げてロンドン都心の警察署に身柄保護を申し出たことから発覚した)。
 まだ世間には公表されていない、こうした潜在失敗ケースはいくらでもあると思う。
 昭和17(1942)年のミッドウェー海戦で、日本海軍が大敗した情報も極秘とされ、国民にはもちろん知らせなかったし、陸軍出身の東條英機首相にもすぐに報告されなかったという話もある。海軍大将山本五十六と海軍全体の名誉を守るためであった。
 日本の大組織の場合、終身雇用制度の下、年功序列人事が現在でも支配的であり、組織の論理が貫徹しやすいため、まず組織の名誉を守ることが、当面のクライシス対策よりも優先するのである。
 組織の名誉を守るという行動は、日本人の共同体志向に基づく行動であり、江戸時代に幕府に対し各藩がお家騒動の不名誉な出来事を隠そうとしていた史実に通底するものがある。
 またそれぞれの組織が失敗とその原因を開示せず、失敗を隠蔽する行動を取るため、M&Aリスク回避策がいつまでたっても企業社会に広く共有されず、同じような失敗がほかの企業でも繰り返されるのである。
 以上述べてきたとおり、日本と海外の企業文化の違いは、筆者は歴史と地政学要因による文明の違いにあると考えている。宗教の異なる一神教の異民族同士が土地を求めて争いを続けてきたのが、ユーラシア大陸の民族の歴史であり、これは現在でもキリスト教徒とイスラム教徒の一神教同士の終わりのない対立抗争として続けている。
 一神教の異民族同士の争いが長いあいだ続くと、当然、相互不信と警戒、支配被支配と奴隷制の世界観、勝っているあいだに収奪する短期志向等の考え方が定着し、現在に至るまで、その文明の人びとの行動様式を支配しているのではなかろうか。
 これに対し、日本列島は大海に孤絶し、海に囲まれていたという地政学上の要因により、ユーラシア大陸からの異民族との武力衝突が元寇を除いてなく、かつ多神教であったため、国内でも大規模な宗教戦争がなかったというきわめて恵まれた環境にあり、ここに縄文時代以来1万年以上に亘り、世界でもまれな日本文明が育まれたのである。
 歴史と地政学により条件付けられた文明というインフラストラクチャー(社会基盤)は、そこに生きる人びとの文化、すなわち考え方と行動様式を規定する。ここからユーラシアの民族と日本人との文化の著しい差が生じたのである。
 グローバリゼーション(地球規模化・全世界化)という耳当たりのよい言葉にながされず、彼我の文化と文明の違いと、そこまら生ずる行動様式の違いに目を向けるべきである。日本企業は自らとは異なる文明の人びととM&A交渉を行っていることを十分に認識すべきである。
 同時に、日本人の共同体志向はクライシスにあたって、クライシス対策よりも共同体組織の名誉を守ることが優先されがちであるため、これが海外M&Aのリスク要因となっていることを、日本企業は率直に認識することにより、海外M&A成功に役立てるべきである」
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 5月21日号 サンデー毎日「幸せな老後への一歩 荻原博子
 経営者の時代錯誤が引き起こした東芝日本郵政の巨額損失!
 日本郵政グループが、2017年3月期連結決算で、数千億円規模の損失を出す可能性との衝撃的なニュースが流れました。
 国内の郵便事業が低迷する中、日本郵政の子会社である日本郵便が、15年オーストラリアの物流会社トール・ホールディングスを高いブランド代も含めて約6,200億円で買収。ところが、収益が上がらず、その損失数千億円を計上するために業績を大幅に下方修正させなくてはならなくなりました。
 海外企業買収で『巨額損失』といえば、連想するのが東芝のウエスチングハウスの買収。この失敗で、日本のエリート企業だった東芝は、すでに死に体になりました。
 日本郵便のトール・ホールディングス買収と東芝のウエスチングハウス買収。実は、この二つの海外企業の買収を積極的に進めたのが、元東芝会長であり、元日本郵政社長の西室泰三氏でした。
 東芝のウエスチングハウス買収については、西室氏が東芝の相談役時代、元駐日大使のハワード・ベーカー上院議員を通して米議会への働きかけを行って買収を成功させたと言われています。トール・ホールディングスについては、社内に多くの危惧があったにもかかわらず独断で鶴の一声で決めてしまった。
 結果、日本を代表するエリート企業だった東芝は奈落の底に突き落とされ、私たちの生活に密接な関係のある日本郵政は、大きな痛手を負わされました。
 幸か不幸か、西室氏が日本郵政でトール・ホールディングスを買収して間もなく、東芝の不正会計が発覚し、西室氏は社長を辞めたので、東芝に比べて日本郵政は傷が浅くてすみました。
 この二つに共通して言えるのは、トップの『経営の見誤り』と『時代錯誤』。
 原発については、世界はすでに、脱原発方向に動きはじめています。チェルノブイリ原発事故以降、環境問題が重視される中、ドイツやスペインなどはすでに電力の3分の1を自然エネルギーが占めています。また、省エネ家電の進化が著しく、電力そのものの需要が今までのように拡大していかない時代になってきています。
 そんな中で、いったん取り付けてしまえばどんどんコストが安くなっていく太陽光などの自然エネルギーに比べ、メンテナンスが大変な原発は、今や高い電力となっています。
 そんな時代の流れを見ずに、ウエスチングハウスというババを引かされたのが東芝でした。
 もし、その金を、自然エネルギー開発に使っていたら、東芝は押しも押されもしない世界のトップメーカーになっていたかもしれません。
 日本郵政についても同じことが言えます。
 運送では通信販売の伸びが凄(すさ)まじく、5年前に比べて3割増し、7兆円市場になっています。結果、クロネコヤマトの過剰労働の状況なども生まれていますが、もし3年前に、国内のこうした状況を予測して、トール・ホールディングスの買収費用を国内基盤の充実にあてていたら、クロネコヤマトを抜いてシェアを広げていたかもしれません。
 会社を生かすも殺すもトップ次第。先見性のないトップがいる会社は不幸だとうことをつくづく感じさせる事件でした」
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 5月18日号 週刊文春「経済  〝西室切り〟でも見えない日本郵政の未来
 『過去のレガシーコストを一気に断ち切って、成長路線へ果断な経営を実行するスタート台に立つ』
 4月25日夕刻に急遽記者会見を開いた日本郵政長門正貢社長はこう弁明した。日本郵政は、2017年3月期決算が赤字に転落すると発表。オーストラリアの物流大手トール・ホールディングスを買収した際に計上していた『のれん代』4,000億円を減損処理したためだ。
 長門社長によれば、『能天気な業績予測に基づき』トールを『少し高く』買ってしまったという。長門氏が、ここまで言うのには理由がある。
 買収を決めたのが、前社長の西室泰三氏だったためだ。西室氏は東芝の社長、会長を歴任した大物財界人。日本郵政のトップに就いたが、昨年3月に体調悪化で退任した。
 『日本郵政は、上場に向けて、株価を上げるための「成長戦略」が必要だった。そこで、西室氏は海外事業の買収に乗り出したのです。しかし、足元を見られ、高値掴みをしてしあった』(金融関係者)
 今回の〝西室切り〟の背景には、別の思惑もある。
 『減損処理を主導したのは、日本郵政の子会社である日本郵便の横山邦男社長です。横山氏は、金融庁の森信親長官に近いと言われ、その意向を受けたものと聞いています』(金融庁関係者)
 というのは、日本郵政の株式の二次売却が控えているためだ。
 『売り出しは7月以降と言われ、売り主である国は、約1兆円を調達する腹づもりでした』(同前)
 トールの負の遺産を一括償却することで、二次売却への影響軽減を狙ったのだ。
 長門社長は『引き続きトールhs国際展開の中核で手離す気はない』として、内外で買収を検討する意向だ。だが、『トール自体も買収を重ねて大きくなった。東芝のウエスチングハウス同様、何が飛び出すかわからない』(前出・金融関係者)との声もある。
 何より、日本郵政グループの足元は厳しい。収益の大半を叩き出すゆうちょう銀行など金融二社は、マイナス金利で運用難。頼みの綱だった海外事業への投資が失敗に終わり、成長戦略は見えてこない。巨額減損で浮かび上がったのは、日本郵政の険しい未来である。(ジャーナル・森岡英樹)」
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 稲村公望「私が現役だった頃は、郵便局で1円でも懐に入れたら懲戒免職になっていました。サラ金に手を出した職員がいれば、それも解雇した。郵政公社時代からの職員には、国民の大事なおカネを預かっていることへの強烈な自負がありました。だから、おカネに関する不祥事には非常に厳しく対応してきたのです。
 それが、どうしたものでしょう。いまの日本郵政は4,000億円もの損失を計上したにもかかわらず、長門正貢社長をはじめ経営陣は誰一人として、まともに責任をとろうとしません。巨額損失の元凶である西室泰三・元社長にいたっては、一切お咎めなしです。
 彼が失った4,000億円は、もとはと言えば国民からお預かりした大事なおカネ。それを浪費しながら、のうのうとしている首脳陣の姿は見ていられるものではない。特に巨額損失の全責任を負うべき西室氏に対しては怒りを感じます。
 東芝社長や東京証券取引所会長を歴任してきた西室氏が安倍政権から請われて日本郵政社長に就いたのは、いまから4年前の13年のことです。西室氏は就任時からさっそく、『世界全体を俯瞰した物流業を作り上げる』『日本の金融業界、物流業界の最先端を行く企業になる』と語っていました。
 当時、郵政の株は政府が保有していましたが、上場の際にはその一部を売却して、東日本大震災の復興財源に充てることになっていました。上場時に投資家にたくさん株を買ってもらうため、西室氏は郵政が将来にわたり成長していくバラ色のシナリオを描く必要があったのでしょう。
 とはいえ、郵便事業というのは急速に成長していくビジネスではない。そこで西室氏は、内需企業であった日本郵政に、『物流参入』や『グローバル化』という新しい成長戦略を売り物として加え、箔をつけようとしたのだと思います。
 ……
 しかも、郵政社員には物流事業のノウハウもないので、うまくいかないことは目に見えていた。私が日本郵政公社の常務理事時代にも海外物流会社と提携する話が浮上したが、当時の生田正治総裁に『この会社と組むべきではない』と進言し、結局ご破算にした経緯もある。
 アメリカでも郵政公社は郵便に特化し、物流に手を出していない。これが世界の常識。ところが西室氏を始めとする電機メーカーや銀行出身の日本郵政首脳陣はその違いすらよくわからず、無理やりに突っ走った。
 トール社を買収するに巨額の資金が必要だったので、その資金捻出のために『ウルトラC』をやったんのです。そのスキームというのは上場前の14年に実行されたもので、親会社の日本郵政が所有するゆうちょ銀行の株式を、ゆうちょ銀行に買い上げさせるもの。ゆうちょ銀行に自社株買いをさせて、1兆3,000億円ほどあったゆうちょ銀行の内部留保日本郵政に吸い上げさせた。
 自社株買いは制度的に認められているものとはいえ、このような大規模な『資金還流』は本来なら許されないものです」
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 5月26日号 週刊朝日東芝に続き日本郵政も巨額損失
 海外投資でだまされる日本企業
 よく調べないまま焦って買い物をすると、『ほんとうはもっと安く買えたはず』と後で後悔することがある。企業の買収だと後悔どころでは済まず、数千億円もの巨額損失につながる。東芝日本郵政など日本を代表する企業が、海外企業の買収で相次いで失敗した。
 5月12日、日本郵政による不動産大手『野村不動産ホールディングス』の買収検討が報じられた。郵便事業は人口減少や電子メールの普及で伸び悩み、企業買収で不動産事業を新しい収益の柱にしたい考えだ。
 ただ、日本郵政は買収の失敗が表面化したばかり。2015年、傘下の日本郵便を通じて豪州の物流大手『トール』を6,200億円で買った。豪州の景気低迷もあって業績が想定より悪く、17年3月期に約4,000億円の損失を計上した。
 日本郵政は17年3月期決算が400億円の純損失になる見通し。赤字は07年の郵政民営化初めて。長門正貢社長は『買収価格がちょっと郄すぎた。見通しが甘かった』と認めた。同社株式の8割は政府が持ち、国民の財産が損なわれたことになる。長門社長ら役員が報酬の5〜30%を6ヵ月間返上する。
 旧郵政省出身の稲村公望・元日本郵便副会長は『トールは資源などの物流会社で、日本郵政とは事業内容がまったく異なる。統合によるプラス効果は期待できなかった。海外事情に詳しい幹部がほとんどいないのに、無理して急いで買った。新たな買収は失敗を検証してからにすべきだ』という。
 買収を主導したのは、日本郵政前社長の西室泰三・元東芝社長。15年の買収時の会見で『うまくいかない場合は、潔く私ども経営陣としては失敗を認め、それなりの対応をさせて頂くつもり、覚悟であります』と述べていた。企業買収の経験に関する質問に対しては、東芝による米原発大手ウェスチングハウス(WH)買収を挙げ、『私自身、(東芝の)社長のころからウェスチングハウスの買収が、宿願でありました。いろんなハードルがありましたけれど、克服してやったというのが一番大きな経験です』と語っていた。
 06年にWHを買った東芝はどうなったか。15、16年度でWH関連で1兆円近い損失が見込まれ、今や解体の危機。買収を具体的に進めたのは当時の西田厚聡社長らで、西室氏だけが悪いわけではないが、経営判断が問われる。旧東京銀行出身で経済学者の菊池英博氏は経営陣の知識不足と無責任体制が背景にあるという。
 『買収案件を提案するのは欧米の限られた投資銀行。お金があり、海外の投資したがる日本企業は、いいカモだと思われている。経営トップが判断ミスをしても責任を取って辞めないため、失敗が繰り返される』
 金融や企業買収に詳しい真壁昭夫・法政大大学院教授は、企業を買収すれば手っ取り早く成長できるとの考え方に警鐘を鳴らす。
 『国内市場が縮小するなか、海外へ活路を見いだす企業は多い。成功することもあるが、買う企業の情報を正確に把握するのは難しい。企業はやはり、時間をかけてでも自前で事業や技術を育てる努力が必要だ』」
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海外企業買収 失敗の本質: 戦略的アプローチ

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海外大型M&A 大失敗の内幕

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