💫9}─1─弱小種・淡水魚の山を越えず海を渡らず種の生存と生息地拡大の戦略。~No.72 

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・    
 現代の人間種を含む全ての生物は、数万年、数百万年、数億年、生物誕生以来、子孫を残すべく脳・身体を進化させ環境に適応する本能戦略で生きてきた。
 今を生きる人を含む生物個体には、如何なる最悪な状況でも、他を頼る事なく一人・一個体で生き抜く戦略が詰まっている。
 生き抜き種を残す戦略を駆使できない生物種は、それが人間種であつても絶滅・死滅するしかない。
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 2020年8月7日号 週刊朝日「パテカルトの万脳薬 池谷裕二
 淡水魚が新たな地域にワープできる理由
 静岡県中部は穏やかな気候で、まず雪は降りません。園児や学童たちは雪を体験させるための行事『雪見遠足』が公式にあるそうです。そんな私の地元で、ある秋てょっとしたニュースがありました。鮭が川に遡上してきたのです。帰巣(きそう)コンパスがエラーを犯したのでしょうか。この迷い鮭は、海冬に干上がってしまう温暖な川では、子孫を残せなかったはずです。
 これが寒冷地の河川だったらならば、そうしたら、孵(かえ)ったかもしれません。そうしたら、孵った子はその河川を新たな住処(すみか)として、帰巣することになるでしょう。いわば鮭一家の『引っ越し』です。
 もともと魚は、そんなふうにエラーを繰り返しながら居住(きょじゅう)エリアを拡大してゆくのでしょう。そして、ときに新居エリアでの先住種との多様な交配へと進化する──。理屈のうえではそう理解しつつも、どうしても納得できないことであるました。淡水魚です。たとえば、ヤマメやイワナは山奥の渓流では比較的よく出会う珍しくない魚ですが、大洋への回遊に出るわけでない淡水魚が、どのように別の渓流へと広がったのでしょうか。ヒトが放流したというのが一つの可能性でしょう。アメリカ大陸からヒトの手によって日本に持ち込まれたブラックバスブルーギルなど、実例もあります。
 しかし人為的な理由では説明できない例も散見されます。たとえばカルデラ湖。火山活動によってできた陥没地に雨水が溜まってできる湖です。たとえ河川が流れ込まず周囲から完全に孤立しているカルデラ湖でも、近隣水系と同じ種の魚が生息しています。ヒトが立ち入らない地域でも同様です。つまりヒトの手を借りず、未踏の地に辿り着くのです。
 しばし考えてみてくださいなぜ淡水魚が新たな地域にワープできるのでしょうか。
 一つの仮説は、動物が口に咥(くわ)えて運んだというものでしょう。とはいえ、食べるために口にした魚を、わざわざ別の湖に『放流』するとは、少し考えにくいところです。
 答えは意外な形でもたらされました。ドナウ研究所のヴィンチェ博士らが6月の『米国科学アカデミー紀要』に発表した論文によれば、運び屋は鳥だそうです。魚卵が消化されずに糞に混じって出るのです。植物の種と同じ戦略です。鳥の排泄は早い、食後1時間には糞となって出始めます。ここがポイントです。
 博士らは、フナやコイなどの淡水魚の卵を、カモに食べさせたところ、1時間後の糞中に、生きた魚卵が含まれていたことを確認しました。水に戻したところ無事に孵化したのです。もとの卵の総数から計算すれば、生存率は約0.2%と極めて低い数字ですが、長い自然の歴史を考えれば、十分に引っ越しが可能です。
 魚の卵には鶏卵のような硬い殻はありません。しかし、あたかも鳥に食べられることを前提に、胃腸の消化酵素に強い作りになっています。いや、そうした頑強な構造をもった卵を産む魚が選ばれて繁栄してきたのかもしれません。」
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