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2019年9月5日号 週刊文春「文春図書館 今週の必読
評者 丸山宗利
生粋の生き物好きが語る進化の実験
『生命の歴史は繰り返すのか? 進化の偶然と必然のナゾに実験で挑む』
ジョナサン・B・ロソス 的場知之〔訳〕
まず『収斂進化(しゅうれんしんか)』というキーワードを知っておく必要がある。別々の生物が同様の環境に適応することによって、それぞれが類似した姿形や行動へと進化することである。たとえば水という環境があると、そこで生活するために、紡錘(ぼうすい)形でヒレをもった生物。つまり、魚、魚竜、クジラが独立に進化してきた。
本書の前半にはこの収斂進化に関するさまざまな例が紹介されている。
とくに有名なものとして、オーストラリアのさまざまな有袋類(ゆうたいるい)と他の地域の哺乳類があげられる。オーストラリアでは有袋類のフクロモグラ、フクロネコ、フクロオオカミなどが進化したが、他の地域ではこれらから『フクロ』を取った名前の、皆さんも知っているであろう似た姿と生態の哺乳類が進化している。
ちなみに、著者も数年前にアリの形をしたハネカクシという甲虫の多数回の収斂進化の実例を発表し、話題となった。
収斂進化はさまざまな生物で起こっており、ここで、同じ環境条件があれば、生物は同じように進化するのかという疑問が生じる。
従来、進化というものは、まれに起こる突然変異の積み重ねで、数万年単位の膨大な時間をかけて生じるものであり、観察や検証は不可能とされてきた。しかし近年、実験による進化の検証がいくつかの生物でなされている。後半はそれら研究の実例がわくわくとするような実験の様子とともに紹介されている。
ところで著者のロソスは幼いころの爬虫類マニアで、生粋の生き物好きでもある。それが本書の語り口をさらに面白くしている。本書の中核をなす研究例の一つも、彼自身によるアノールという中南米に棲息(せいそく)するトカゲの進化の観察結果である。
ロソスたちはトカゲ不在のいくつかの小島に、天敵の地上性トカゲとともにアノールを放ち、アノールの年ごとの形態変化の調査を行った。そして、天敵のいない樹上へのアノールの急速な進化を観察したのである。
ほかにも、多数の興味深い急速な進化の実験観察の結果を紹介している。
面白いのは細菌類の実験で、世代時間が極めて短いので、高等な生物よりも短期間で進化の様子が観察できる。そこでは同じ条件におくと、何度でも同じような進化が生じることが明らかとなった。
また、どんな生物も収斂進化したわけではなく、ヒトのように非常に特異な生物も存在する。最後にはヒトを話題としつつ、彼の進化観でしめくくられている。
本書の数々の研究例を見て、その面白さに舌をまくとともに、一研究者としてため息が出た。多くはアメリカだが、このような基礎研究が大切にされ、時間をかけて大規模に行われているのである。昨今のずさんな科学政策を進めている日本では夢のまた夢である。」
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