📉48】49】─1─「数学や物理は女性に向かない」という思い込み。理女を増やすには見えない壁…。~No.101No.102No.103No.104 

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 2023年11月12日 YAHOO!JAPANニュース 読売新聞オンライン「「数学や物理は女性に向かない」という思い込み…「リケジョ」増やすには「見えない壁」の背景分析し議論を
 東京大教授 横山広美氏 47
 女性の社会進出を後押しする動きが官民で活発化している。多くの人は「男女平等」の社会作りに、異論はないだろう。しかし、現実社会では男女の間に溝が横たわっている。その一つが、理系女子の少なさだ。日本の女子生徒は数学などの成績は世界トップクラスだが、大学で理系に進学する女子が極端に少ない。
 【図】「女性枠」って必要?…こんな導入例がある
 「リケジョ」といった言葉で、理系女子の活躍などを紹介する試みも広がるが、東京大教授の横山広美さんは、それでは不十分だと指摘する。素粒子物理学で博士号を取得し、科学と社会の関係を見つめる横山さん。「女性は家庭を守る」といった考え方が、無意識のうちに女子生徒の理系進学を妨げている可能性を指摘し、社会全体の意識改革の大切さを語った。(編集委員 三井誠)
 「女の子なのに、算数が得意なのね」
 「7月に開かれた国際物理オリンピックでは、日本代表の生徒5人は全員男子でしたが、アラブ首長国連邦(UAE)などでは全員女子でした。国ごとに事情は異なります」(千葉県柏市の東京大柏キャンパスで)=鈴木竜三撮影
 現代の日本社会では、多くの大学生は自ら進路を選んできたと思っているのではないでしょうか。しかし、実際の進路選択には、様々な社会的な環境が影響しています。私たちは、社会環境が女子中高生の進路選択に与える影響を研究してきました。
 日本の理系女子学生の少なさは、世界で突出しています。経済協力開発機構OECD)の2021年時点の調査によると、大学などの高等教育機関で自然科学・数学・統計学分野の卒業・修了生に占める女性の割合は、加盟38か国のなかで日本が最低です。日本の割合は27%で、OECD平均の54%の半分です。日本についで少ないチリでも40%で、日本の少なさが目立ちます。
 多くの研究者は、理系女子学生の少なさは、男女間の能力の違いの反映ではなく、社会環境の影響だと考えています。実際、15歳を対象にした国際学習到達度調査(PISA)で数学や理科の成績をみると、日本の女子は世界トップクラスです。18年の数学の成績で、日本の男子はOECD38か国でトップですが、女子も韓国についで2位です。日本の女子は、35か国の男子の成績を上回っています。日本の女性が理数系で劣っているとは思えません。
 私たちが注目したのは、「女性は家庭で家事をやるものだ」「数学や物理は男性向きである」といった男女の役割や能力を固定化する考え方(ジェンダーステレオタイプ)が、「見えない壁」になっている可能性です。
 例えば、「女の子なのに、算数が得意なのね」といった発言です。「女の子なのに」とあえて強調するのは、無意識かもしれませんが、「女子は算数が苦手」という思い込みがあるからではないでしょうか。東京大の文系女子学生から「数学や物理の成績は良かったけど、理系進学がなぜか思い浮かばなかった」と聞くことも、度々です。知らず知らずのうちに理系が選択肢から外れるのです。
 「ジェンダーステレオタイプ」の影響
 横山広美
 私たちの研究を紹介します。日本の大人に、女性に向いている学問分野を聞いたところ、回答はトップから看護学、薬学、音楽、美術だった。一方、女性に最も向かないと見なされた分野は機械工学で、続いて数学、物理学、地学でした。ジェンダーステレオタイプが強い回答者ほど、性別によって学問分野に向き不向きがあるとする考えが顕著でした。男性イメージが強い物理学などの分野は、思春期を迎えた女子生徒が、男性っぽく見られることを嫌って敬遠する可能性が考えられます。
 「数学が男性に向いている」というイメージを持つ人は、「数学・物理学に進学する人は一般的に頭が良い」あるいは「女性は知的でないほうが良い」と思う傾向があった。英国で行った同様の調査では、こうした傾向は確認できませんでした。
 進学を希望する女子高生を対象にした調査では、「男は外で働き、女は家庭を守るべきだ」と答えた女子では理系希望者が18%にとどまる。一方、そう思わないと答えた女子では30%に上りました。性別による役割分担意識が一見、関わりがなさそうな理系進学希望に影響しているようです。
 「それが、なぜ問題なのか」
 大学で理系女性が少ないという話をすると、「それが、なぜ問題なのか」と、学生から質問されます。理系の男女比率を半々にすべきだと言うつもりはありません。指摘したいのは、進路が個人の意思だけで決められているとは言い切れない、ということです。「物理や数学は女性に向かない」といった社会風土が、「見えない壁」になって、女子の理系進出を妨げている可能性に目を向けてほしいのです。
 活躍している女性科学者をロールモデル(手本)として紹介したり、女子向けに科学の楽しさを伝えたりするイベントが開かれています。そうした活動に加え、社会風土の改革も重要なのです。
 私たちは、「理工系の就職状況は良い」という情報に加えて、「女性の経済的な自立は重要」や「日本の生徒の数学の成績は男女とも世界的に高い」といったジェンダーステレオタイプを打ち消す情報を、中学生に提供しました。その結果、男女とも理系への進学意欲が高まることが確認できました。
 男女格差を示す世界経済フォーラムの23年版の男女平等度ランキングで、日本は146か国中125位にとどまります。政治や経済でも男女格差が大きい現実です。理系女性の問題から見えてくる「見えない壁」に気配りすることで、ほかの分野の格差解消につながることも期待できます。
 データだけでは伝わらない
 私は、ニュートリノという素粒子を研究する物理学で博士号を取りました。その後、専門を科学と社会の関係に変えました。現在、人工知能(AI)など先端科学の課題も研究しています。理系女性問題との共通点は、分断のない社会作りを目指すということです。
 例えば、AIを使った無人機(ドローン)の兵器利用や、すでに亡くなっている美空ひばりさんのAIによる再現などに関し、日独米で国ごとの考え方の違いを分析しています。
 「気候工学」という技術についても、アジア各国で意識調査の準備をしています。気候工学とは、成層圏に微粒子を注入して太陽光を反射させるなどして、地球温暖化の進行を抑えようという技術です。人類が気候を制御することができるのか、また、倫理的に許されるのか、様々な論点があります。
 先端科学をいかに使いこなすのか、科学者だけでなく、人々の価値観も踏まえた議論が必要です。人類の将来がかかっています。
 地球温暖化に関して世論が分断されている米国では、科学的な知識の豊富さが、温暖化問題への理解につながらないことが示されています。自由な経済活動を重視する共和党支持者は、「二酸化炭素地球温暖化をもたらす」といった科学的な知識やデータを知っていても、それを信用せず、人間活動による地球温暖化を疑う傾向があります。科学的知識の情報発信だけでは、温暖化の理解は広がらないのです。なぜ、科学的な知識を疑うのか、懐疑的な人の気持ちに注目する必要があります。
 理系女性の問題でも同様のことが言えます。「女性は数学や物理に向かない」と思い込んでいる人に、一方的にデータだけを示しても伝わらないこともあるでしょう。かえって、反発を招くことにもなりかねません。女性の理系進出の「見えない壁」を作り出す背景を分析し、議論していく姿勢が大事です。時間のかかる丁寧なコミュニケーションになります。
 ただ、その前に、女子中高生には真っ先に伝えたいことがあります。私は素粒子物理学で博士号を取る過程で、優秀な女性研究者を多く見てきました。日本の女子中高生は、理系の学力で世界トップクラスです。「数学や物理は女性に向かない」という思い込みは持たないで、ということです。
 横山広美(よこやま・ひろみ) 東京都生まれ。東京理科大大学院理工学研究科で素粒子物理学を研究し、博士号(理学)を取得。その後、専門を科学技術社会論に変更。2017年から、東京大国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構教授。22年から副機構長も務める。
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