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2022年11月8日 MicrosoftNews 現代ビジネス「世界中がインフレでも、日本だけ「ずっと慢性デフレ」という残念な現実 その背景にある「値上げ嫌い」
渡辺 努
世界的にインフレが生じ、日本でも物価高が家計を直撃している現在。しかしマクロな視点で見てみると、1995年ごろから日本では「賃金も物価もほぼ横ばい」であり、現状からは想像しにくい「慢性デフレ」状態だ。
それ以前は右肩上がりだった日本の物価と賃金は、なぜここ30年ほど凍結されたように動かなくなってしまったのか? 新刊『世界インフレの謎』より、その背景を解き明かしてみたい。
いつもの店で値段が上がったら
では、価格と賃金の凍結は、どのような仕組みで起きているのでしょうか。そして、「急性インフレ」という新たな事態の下で、凍結に何らかの変化は見られるのでしょうか。このことについて、アンケート調査などで得られたデータをもとに、見ていくことにしましょう。
価格の凍結の根本的な原因は、消費者の「インフレ予想が低すぎる」ことにあります。人々が物価はあまり上がらないと考えていることが、デフレを慢性化させたということです。どういうことか、ふだん利用しているお店が値上げをしたとき、人々がどう反応するかという例で説明しましょう。
まず、米国のように年2〜3%程度のインフレが生じている状況を考えます。この場合、お店が2%の値上げをしたのを見たお客さんはどう反応するでしょうか。
そのお客さんは、もともと年2〜3%のインフレは起こるものと想定しています。ですから、そのお店以外の店でも、同じぐらい値上げされているか、あるいはもっと価格が上がっている可能性すらあると考えます。そうであるならば、わざわざ別のお店に行くようなことはせず、ふだん利用しているお店で、2%高くなった値段を受け入れて買い物することを選ぶでしょう。
これに対して、物価が長く変わっていない環境──日本のような──にいる消費者はどうでしょうか。いつもの店に行くと売り物の値段が2%値上げされていたら、どう反応するかを考えます。その人にとっては、商品の値段が上がらないことが当たり前、常識になっています。その常識に照らして、このお店で値段が上がっているのは何か特殊な事情があるのだろうと考えるに違いありません。
そして、そういう特殊事情のない他の店では値上げをしていないだろうと予想するでしょう。他店は安いはずと予想しているのですから、2%高い値段で買い物をするはずがありません。踵を返して他店に向かうことでしょう。
値上げを許さない人々
この設例は、私の同僚の青木浩介教授が論文で提唱している仮説を単純化したもので、拙著『物価とは何か』で青木仮説として紹介しているものです。この仮説を検証するために私は日本を含む5ヵ国の消費者2万人を対象としたアンケート調査を行いました。その結果は青木仮説を支持するものでした。
図1、図2は、英国・米国・カナダ・ドイツ・日本の5ヵ国の消費者を対象として、2021年の8月に行ったアンケート調査の結果を示しています。
© 現代ビジネス
この調査では、まず最初に「今後1年で物価はどうなると思いますか?」と尋ねました。その結果は、日本以外の4ヵ国では、物価が「かなり上がる」という回答が、30〜40%にのぼりました。
ところが、日本ではそう答えた人の割合は10%未満で、他国よりも大幅に少なかったのです。その一方で、「ほとんど変わらない」という回答の割合は、日本が5ヵ国中もっとも多くなっていました。つまり、日本の消費者は物価は先行き変わらないと予想していることになり、それはすなわち、日本人のインフレ予想が低いということです。
その次の設問では、「行きつけのスーパーマーケットでいつも購入している商品を買おうとしたときに、価格が10%上がっていたらどうしますか?」と尋ねました。日本の消費者は6割弱が「他の店に行く」と答えたのに対して、日本以外の国では「いつもの店で値上げされた商品を買い続ける」が大勢を占めました。
© 現代ビジネス
青木仮説によれば、インフレ予想の高い消費者は、いつもの店でいつもの商品が値上げされても、いつもと変わらずその商品を買い続けます。他店に行っても同じく高いだろうと予想するからです。米欧の消費者は、まさにそのように行動します。
これに対してインフレ予想の低い消費者は、いつもの店で値上げに直面すると他の店に逃げます。他店は元の安い値段で売っていると信じているからです。日本の消費者は、まさにこの行動をとっているのです。
欧米各国の人々と比較すると、日本人はインフレに対する予想が乏しく、値上げが生じるとすぐに買う店を変えてしまう。このような「値上げ嫌い」な行動が、時には海外から「異様なもの」として見えてしまうこともあるのだ。
【後編】『「ガリガリ君のCM」を見て感じた、世界的には「異常」な日本人の「当たり前」』では、誰もが知っているアイスキャンディーのCMを例に詳しく解説していこう。
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