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 2023年6月7日 YAHOO!JAPANニュース「「現生人類は、いずれ種としての寿命がきて絶滅する」?…「種」に「寿命」はあるかという大問題
 更科 功分子古生物学者
 「個体」に寿命はあるけれど、「種」にもあるのか?
去年(2022年)、ある大学の先生がこんな発言をしていた。
 「現生人類であるホモサピエンスが誕生したのは、20万年〜30万年前と言われていますが、いずれ種としての寿命が来て、絶滅するときがきます。いろいろな理由がありうるのですが、その一つは生殖能力です」
 また、マイケル・クライトンの『ロスト・ワールド』には、こんなくだりがある。
 「概してひとつの種の平均寿命は400万年だ。哺乳類の場合は100万年。そこでその種は滅んでしまう。つまりひとつの種は、数百万年の範囲で勃興し、繁栄し、滅びるというわけだな」(酒井昭伸訳)
 これらに限らず、「種の寿命」という言葉をときどき聞くことがある。でも、「種の寿命」なんて、本当にあるのだろうか。
 たしかに私たち一人ひとりには、個体としての寿命がある。生きていればだんだんと老化して、いくら頑張っても100歳を超えた辺りで死んでしまう。このような寿命は、何らかの形で遺伝的にプログラムされていると考えられる。もちろん環境の影響も大きいだろうが、どんなによい環境であっても、150年とか200年とか生きることは難しいだろう。
 それでは、種はどうだろう。種にも何かにプログラムされた寿命があるのだろうか。
 【写真】種としての寿命はあるのだろうか?種としての寿命はあるのだろうか? photo by gettyimages
 種の多様性
 種の存続する期間に関係する式としては、種の多様性を表す式がある。地球全体で種の多様性(ここでは種の数)の変化を考えるときは、以下の式で表すことができる。
 D1+出現-絶滅=D2
 D1は現在の種数で、D2は次の時代の種数である。ある地域に限って考える場合は、外からの移入や移出も考えなければならないけれど、地球全体で考える場合は移入や移出は考えなくてもよいので、式はシンプルな形になる。
 数十億年に渡る地球の歴史において、新しい種は絶えず出現している。新しい種が生まれるメカニズムは種分化だ。たとえば、ある種に属する一部の個体が、地殻変動で大陸から離れた島に隔離され、独自の進化を経て新しい種になる場合などである。
「生命の誕生」は1回だけだったとは限らない
新種の出現のメカニズムは種分化だと言い切れる理由は、現在の地球のすべての生物が、同じ共通祖先から進化してきたからだ。すべての生物がほぼ共通の遺伝暗号(DNAの塩基配列アミノ酸に対応させる規則のこと)を使っていることなど、いくつかの証拠から、すべての生物が同じ共通祖先から進化してきたことは疑いない事実と考えられている。
 つまり、すでに存在する生物とは別に、まったく新たに誕生した生物はいないということだ。
 ただし、これは現在の話で、初期の地球ではそういうこともあったかもしれない。現在の地球のすべての生物が、同じ共通祖先から進化してきたからと言って、生命の誕生が1回だけだったとは限らないからだ。
 初期の地球では、何回も生命が誕生したかもしれない。かつては、生物の系統が、独立にいくつも存在していたのかもしれない。
 しかし、もしそうだとしても、それらの系統は、過去のある時点で絶滅してしまった。結局、現在まで生き残った系統はたった1つ、つまり私たちだけだったと言うわけだ。と言うことで、ここでは、私たちの系統だけを考えよう。その場合、新しい種が生まれるメカニズムは種分化しかない、と言うことになる。
 【イラスト】初期の地球では、何回も生命が誕生したかもしれない初期の地球では、何回も生命が誕生したかもしれない illustration by gettyimages
 「種分化」以外の新種出現のシナリオ
 もっとも、さらに正確に言えば、新種の誕生のメカニズムとしては、種分化の他に種の融合も考えられる。たとえば、ヒトとチンパンジーは約700万年前に分岐したけれど、その後もおよそ100万年に渡って交雑を繰り返したらしい。その間には、私たちとチンパンジーが再び同じ種に融合する可能性はあったに違いない。とはいえ、種分化が一瞬のうちに完了するケースは稀なので、こういうことはほとんどの種分化に、途中経過としてつきものだろう。
 また、種の融合の例としては、シアノバクテリアが植物細胞(の祖先)の中に入って共生を始め、葉緑体になったケースなども考えられる。ただ、シアノバクテリアのある種の一部の個体が植物細胞と共生したからと言って、そのシアノバクテリアの種が絶滅するわけではない。共生しなかったシアノバクテリアは、そのまま存続するだろう。したがって、種数の増減にはあまり関わらないと考えられる。
 この辺りは深く考え始めるとさまざまなケースが想定されるけれど、種分化に比べれば、種数への影響は少ないと考えられる。そこで、新しい種が生まれるメカニズムとしては、種分化だけを考えることにして、話を先に進めよう。
 出現率と絶滅率
 種は種分化によって増えていくが、その一方で、種は絶滅して減っていく。種は永遠には続かないのだ。そこで、地球の歴史をいくつもの時代に(できれば等間隔に)区切って、それぞれの時代を観察することによって、種が出現する割合や絶滅する割合を推定できる。
 図は、A期、B期、C期という3つの時代における、仮想的な化石記録である。A期が始まった時点では5種が存在したが、その後A期が終わるまでの間に、新しく4種が出現し3種が絶滅する。B期では、6種が出現し4種が絶滅する。C期では、2種が出現し5種が絶滅する。A、B、C期における平均出現率は4(種/期)で、平均絶滅率も4(種/期)となる。
 【図】仮想的な化石記録に見る種の出現と絶滅仮想的な化石記録に見る種の出現と絶滅
 また、それぞれの時代で、最初の種数に、出現した種数を加え、絶滅した種数を引いたものをスタンディング・ダイバーシティーと言う。図でのスタンディング・ダイバーシティーは、A期は6、B期は8、C期は5(種)である。
 出現率が絶滅率より高ければスタンディング・ダイバーシティーは増え、低ければ減る。スタンディング・ダイバーシティーが長期間にわたって減少し続ければ0になり、その分類群は絶滅する。
 また、出現数と絶滅数の合計を、ターンオーバーという。図のそれぞれの時代のターンオーバー率は、A期は7、B期は10、C期は7(種/期)である。このターンオーバー率は、分類群によって違いがあることが知られている。
 たとえば、三葉虫のターンオーバー率はかなり高い。これは、平均的に考えて、三葉虫のそれぞれの種は、ごく短い期間しか存続しなかったことを意味する。一方、二枚貝や巻貝のターンオーバー率は低いので、それぞれの種が比較的長く存続したことになる。
 【写真】三葉虫のターンオーバー率はかなり高い三葉虫のターンオーバー率はかなり高い
 それでは、種の寿命について考えてみよう。分類群によってターンオーバー率に違いがあるということは、種に寿命があるということだろうか。
 もし、種に寿命と言うものがあるとすれば、ターンオーバー率に反映されるはずだ。(分類群内の種数などの影響を補正した場合)ターンオーバー率が高ければ、寿命は短くなるし、ターンオーバー率が低ければ、寿命は長くなる。したがって、三葉虫の種の寿命は短いし、二枚貝や巻貝の種の寿命は長いことになる。
 「種の寿命」プログラムは発見できていない
 「種の存続期間」のことを「種の寿命」と言うのであれば、それでよいだろう。しかし、一般的には、両者のニュアンスはかなり異なるのではないだろうか。
 「種の存続期間」が長いというのは、単に、長期間に渡って形態や性質が変化しないで代々生き続ける、ということだ。そのためには長期間に渡って安定した環境に棲んでいることが必要だろう。環境が安定していれば、絶滅する危険も少ないし、自然選択は生物を変化させないように働くからだ。
 しかし、「種の寿命」と言った場合は、種が存続する期間が生物自身に何らかの形でプログラムされている、といったニュアンスがある。
 たとえば、私たちヒトの「個体」の場合は、どんなに素晴らしい環境で暮らしていても、残念ながら150年は生きられない。それは、(DNAも含めて)私たち自身の体に、何らかの形でプログラムされているからだと考えられている。
 だが、「種の寿命」に関しては、そういうプログラム的なものが見つかっていないだけでなく、想定することさえ難しいのである。
 たしかに「種の存続期間」については、分類群ごとに大ざっぱな傾向はあるようだ。しかし、それを「種の寿命」と呼ぶのは、やはり不適切だろう。
 イラスト(CG)】「種の寿命」に関するプログラム的なものは、見つかっていないばかりか、想定することさえ難しい「種の寿命」に関するプログラム的なものは、見つかっていないばかりか、想定することさえ難しい illustration bu gettyimages
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