🗡59〗─3・C─反撃能力。日本の国産ミサイルは世界一簡単に撃ち落とされる。~No.187 

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 2023年1月17日9:17 YAHOO!JAPANニュース プレジデントオンライン「「国産ミサイル」にこだわるのはコスパが悪すぎる…防衛費大幅増額に元海自ナンバー2が首をかしげるワケ
 政府与党政策懇談会で発言する岸田文雄首相(左から2人目)=2022年12月23日午前、首相官邸 - 写真=時事通信フォト
 岸田内閣は、2027年度の防衛費を国内総生産(GDP)比2%に増額することを示している。元海上自衛隊自衛艦隊司令官の香田洋二氏は「重要なのはカネの使い方だ。防衛省はミサイルをはじめ国産装備にこだわっているが、コストパフォーマンスが悪すぎる。十分な発射実験もできず、性能にも不安が残る」という――。
 【写真】香田洋二氏の著書『防衛省に告ぐ 元自衛隊現場トップが明かす防衛行政の失態』(中公新書ラクレ)
 ※本稿は、香田洋二『防衛省に告ぐ 元自衛隊現場トップが明かす防衛行政の失態』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
GDP比2%は大歓迎だが、問題はカネの使い方だ
 岸田文雄政権は、国内総生産(GDP)比2%を念頭に防衛費を大幅に増額し、防衛力を抜本的に強化する考えだという。私の現役時代はGDP比1%枠に苦しめられたことを考えれば、GDP比2%などと言われると隔世の感がある。
 防衛費の増額に異論があるはずはない。だが、問題はカネの使い方だ。言うまでもないが、軍事力は使われないのに越したことはない。戦争が起きる可能性も低い。とはいえ、いくら可能性が低くても、一度戦争が起こってしまえば被害は甚大だ。ウクライナを見れば一目瞭然だが、我が国だって壊滅的な損害を被り、再起不能に陥る危険と隣り合わせなのだ。
 そうした事態に備えるため自衛隊は存在する。予算が2%に増えるからといって、割高なものを闇雲に買ってはならない。ましてや、装備の優先順位上、不必要な装備や性能が不十分な装備を購入するなど言語道断だ。自衛隊の任務遂行能力の向上のために、もっと安く、もっと使える装備があるなら、そうした装備を買うべきである。
■税金の使い道の正当性を説明しなければならない
 ここで、防衛装備については、一般家庭などで使われる電化製品などに比べて、はるかに無駄遣いが発生しやすい環境にあることを指摘しておこう。たとえば通常の家電などであれば、不備があれば、今の時代、すぐに公になり、メーカーも対策を急ぐものだ。ところが、防衛装備の場合は不具合がなかなか公表されない。というか公表に時間がかかるからだ。
 たとえ不具合が見つかったとしても、防衛装備の場合、原因を特定し、検証して、再発防止に努めるための作業は極めて複雑で膨大であるため、一般に公表することが後回しになりやすい。また、装備の不具合がある状態は、敵国にとっては好機になるため、公表しないことも珍しくない。そうした諸々の事情があり、普段から情報公開が行き届きにくいため、稀、かつ残念ではあるが、不具合を意図的に秘匿することもある。
 しかし、国民の税金を使って装備を導入する以上、その使途については、その性格上公表になじまないものがあることも考慮した上での節度を持った透明性が求められる。防衛省自衛隊は税金の使い道の正当性を説明しなければならない。
■「国産の12式中距離地対艦誘導弾」への不可解な固執
 その観点からすると、どうしても解せないのが、国産の12式中距離地対艦誘導弾の長射程化をめぐる防衛省の判断だ。報道では12式の射程を約1000キロに延ばし、敵基地攻撃と遠距離対艦攻撃という両方の目的で保有するという。保有数は「1000発」だとか「1500発以上」だとか、まるでバナナの叩き売りのようになっている。
 だが、現状は、行うべき説明をすっ飛ばして結論だけが先行している感が否めない。本来であれば、日本を守るためにこういう作戦をするから、これだけの数が必要だ、というシミュレーションが前提となっていなければおかしいが、そういう話は聞こえてこない。
 もちろん、国防上の「秘密」に当たることをいう必要はないが、しかし、ほかの候補との性能比較、費用対効果や後方支援体制などの考え方は、ざっくりとしたところで国民に説明されるべきである。さらに、12式改善型の開発リスクと、その対応策についても全く語られていない。
 最初から「12式改善ありき」という手法は国民に対する背信行為ではないだろうか。他の候補との比較等の説明がないため、国民は防衛省案が税金の最適用法だという判断さえできないのである。
■長距離ミサイルは必要だが、なぜ12式なのか根拠が見えない
 私も長射程のミサイルは必要だと思う。中国は地上発射型の中距離ミサイルだけで1250発を保有しているとされる。沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ第1列島線の内部で米軍が自由に行動できないようにし、さらには本土から来援する米軍が近づけないようにするA2/AD(接近阻止・領域拒否)能力は日に日に高まっている。これに対抗するためには、日本もアメリカと共に中距離ミサイルの数である程度は対抗しなければならない。
 だが、なぜそれが12式なのかという話になると、根拠が見えてこない。さらには、12式の射程を1000キロまで延ばすこと自体に無理があるのではないだろうか。
 12式は、いわゆる巡航ミサイルの一種だ。巡航ミサイルとは飛行機のようなものだ。翼と推進力を持ち、低い高度で長距離を飛行し、最終段階で複雑な軌道を描き、目標に対して精密誘導できる。翼の揚力を利用して長射程を飛行する点が、ロケットの推進力のみに依存する弾道ミサイルとの最大の違いである。弾道ミサイルと異なり低速で飛ぶことが基本である。このため相手のレーダーにも発見され難く、撃ち落とされにくい。
■このままでは世界一簡単に撃ち落とされるミサイルになる
 ところが、報道情報を読みこんでみたかぎり、12式の射程を1000キロに延伸する場合、空気抵抗の少ないかなりの高高度を飛ぶことになりそうなのだ。更に専門家の間で心配されていることが、射程延長に応ずる大量の燃料を搭載するため機体寸法も全長、直径とも米軍現用のトマホークの2倍程度という、世界一大型の長距離ミサイルになりそうなことである。
 これでは世界一簡単に撃ち落とされるミサイルとなってしまう。迎撃する側から見れば、鴨が葱を背負って来るようなものだ。導入する意味がない兵器となりかねない。ここでも、他のミサイルとの比較が求められるが、その実情がどうであったのか。疑問が残る。
 また、防衛省は政府方針が決まっていないとして、一切の論議を避けているが一口に敵基地攻撃能力と言っても、ミサイルだけを持っていればいいというわけではない。目標がどこにいるのか探し出す能力がなければ意味がないのは言うまでもない。その上で指揮統制能力も必要だ。米軍とターゲティング(攻撃する目標の選定)を調整するネットワークはどうするのかという問題もある。
■対地攻撃目標識別能力がないのにどう運用するのか
 さらに言えば、12式はもともと地対艦ミサイルだが、地対地ミサイルとしても活用するという。今の自衛隊には対地攻撃の目標を識別する能力はない。今まではその能力の保有が許されなかったのだから当然である。海面から突き出す形になる水上艦を識別する能力と、複雑な地形や建物群の中に配置された地上目標を識別する能力は全くの別物だ。
 こうした能力の開発はこれからなのか、どれぐらいの費用がかかるのか、そういう説明がないまま「12式を延伸して1000発以上を保有」という結論だけが出てくるのは異常事態だし、何よりも国民に対して無責任である。
 織田信長桶狭間の戦いは、今川義元率いる軍勢が休憩している場所を嗅ぎ付け、一気呵成(かせい)に奇襲を仕掛けたからこそ成功した。2万5000の大軍を率いた今川義元の本陣に2000人で突入した兵士は立派だ。英雄である。
 しかし、勝敗を決めたのは織田信長の決心であり、そのときの情報力である。標的を探し出す能力や指揮統制能力も用意せずに12式の射程だけを延伸するのであれば、織田信長が少ない軍勢を率いて目的もなくウロウロしているようなものなのだ。
■迎撃テストの目標となる極超音速ミサイルは日本にない
 ミサイルをめぐっては、極超音速ミサイルを迎撃するミサイルとして、これまた国産の03式中距離地対空誘導弾を改善して使うという話もある。であれば、極超音速ミサイルを迎撃する能力を開発するためには、極超音速ミサイルを撃ち落とすテストを行わなければならない。
 しかし、どこに迎撃テストの目標となる極超音速ミサイルがあるというのか。そんなものは今の日本にはない。仮に極超音速ミサイルを輸入等により確保できたとして、どこの試験場で撃つのか。周辺住民や漁民に被害を及ぼさないような広いスペースを取れる発射区域がどこにあるというのか。
 また、日本が長射程の対空ミサイルを持つとなれば、敵は妨害電波を発してダメージを避けようとするであろう。しかし、敵がどのような妨害電波を発するのか、日本には十分なデータがそろっていない。敵の電波情報を持たないということが自衛隊のアキレス腱であるというのが世界の専門家の認識である。
■満足に発射実験が行えなければ性能は上がらない
 日本が発射試験を行うとしても、これまでの他の装備の開発実績から推察すれば、その発射回数はおそらく一桁止まりであろう。アメリカの場合は100発近くを撃った上で導入され、部隊に配備される。それも、電子妨害等の最も困難な実戦を模擬した戦術環境下での迎撃を含む試験発射である。ここに厳然たる性能の違いを生む要因がある。
 たとえば、米軍が開発したSM2というミサイルがある。イージスシステムに用いられる艦対空ミサイルだが、2020年までに2700発を撃っている。対空ミサイルを特技としてきた筆者の経験では、そのうち1割5分から2割ぐらいは失敗する。この失敗が最も重要なのだ。
 失敗があるからこそ、次の開発に生かされる。これがBL1(末尾の数が大きくなるほど性能改善と向上型)、BL4、そしてSM6(イージスのSM2、SM3の最新型後継ミサイル)といった、より高性能なミサイル開発に生かされ、その性能が進化していくのである。
■なんでもかんでも「国産」にするのが本当に適切か
 そして、12式中距離地対艦誘導弾にしても、03式中距離地対空誘導弾にしても、いずれも国産兵器である。ここまで言えば、私が何を言いたいのか、お分かりだろう。昨今、防衛省自衛隊の立場は、なんでもかんでも「国産」となりがちだが、その判断が正しいとは私には思えない。
 防衛産業を育てるためには、もちろん、国産装備を採用したほうがいいのは事実だ。いざという時に、頼る国がいなくなる事態を想定すれば、防衛装備は国産化したほうがいいということだ。
 1998年度から2012年度までは防衛費が減り続け、防衛産業にとっても「冬の時代」だった。このため高額な国産装備の調達が減っていき、自衛隊のみを顧客とする防衛装備市場が急速に縮小した。同時に、自衛隊の防衛力維持のために実戦能力の高いアメリカ製装備の購入が増えることは必然の流れであった。
 この「冬の時代」に、コマツなど国内の企業は次々と防衛産業から撤退している。事態に危機感を持ち、この流れの反転機会を探っていた防衛産業界にとっては、岸田内閣の掲げる防衛費対GDP比2%政策は絶好の機会なのだ。それで、ここぞとばかりに、防衛省は「国産、国産」と言い募る雰囲気になっている様に思える。
スケールメリットが生まれないから高額化する
 だが、国産装備で本当に一線級の装備を持つ大国の脅威に対抗できるのか。国産となれば、少数生産が必至のため、高額になる。また、実戦経験もない国産装備を外国は買いたがらない。基本的には自衛隊だけが買うことになる。そうなるとスケールメリットが生まれず、さらに高額になるという負のループに引きずり込まれる。
 それだけじゃない。国産装備であれば、外国軍の技術的な進歩に対応するための改良経費も日本が負担しなければならない。一方、アメリカ製装備やアメリカ中心の共同開発であれば、世界中で何千発と撃つことになり、失敗の中から教訓をくみ取って次の開発に生かせることになる。
■国産にこだわり続ければGDP比2%でも足りなくなる
 こうしたスケールメリットや改良のためのコストも含めて考えれば、国産はかなり割高な買い物になるはずだ。やってやれないことはないが、今検討されているGDP比2%でも足りないことは明白である。防衛省はこの点も含めて国民に説明しているだろうか。
 とにかく「国産は正しい」「国内防衛産業へのカンフル剤だ」という前提で物事を進めていないだろうか。防衛装備は100年に1度、使うか使わないかの買い物だ。詳細な事前検討と必要な説明なしに高額な税金を注ぎ込むことは許されない。こうした点こそ国会やマスコミは指摘し、論議し、辻褄が合わなければ建設的な追及をするべきなのだ。

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 香田 洋二(こうだ・ようじ)
元・海上自衛隊自衛艦隊司令官
1949年、徳島県生まれ。72年防衛大学校卒業、海上自衛隊入隊。92年米海軍大学指揮課程修了。統合幕僚会議事務局長、佐世保地方総監、自衛艦隊司令官などを歴任し、2008年退官。09年~11年ハーバード大学アジアセンター上席研究員。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』『北朝鮮アメリカと戦争する日』(ともに幻冬舎新書)がある。

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