⚡62】─1─迫る大量リストラ、理研研究者が募らせる危機感。日本の科学技術力に影を落とす。~No.264No.265 

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 2022年10月1日 MicrosoftNews 東洋経済オンライン「迫る大量リストラ、理研研究者が募らせる危機感 日本の科学技術力に影を落とす可能性も
 奥田 貫
 © 東洋経済オンライン 理化学研究所では多くの研究者が雇い止めの危機に直面している(記者撮影)
 理化学研究所が計画する、2023年3月末で有期雇用が通算10年(2013年4月1日が起算日)になる研究者の大量雇い止め期限が迫ってきている(詳細は本日配信の記事「理研、大量リストラまで半年「4月1日」巡る攻防」に)。だが、現時点で訴訟を起こしたのはチームリーダーの職にある1人だけだ。多くの研究者が訴えないわけとは―。研究者のレームダック化を招く雇い止め問題は、日本の研究の発展にも暗い影を落としている。
 【写真】たった一人、理研を相手に訴訟を起こした男性
 「新しいポストに就くためにあちこちに応募してみているが、まったくだめ」
 理研から2023年3月末で雇い止めされる見通しの研究者A氏(50代男性)は、10通以上にのぼる不採用通知の束を見せながら、肩を落とした。A氏は、2013年4月以前から理研に所属しており、理研でのキャリアは10年以上になる。いま手掛けている研究は国からの科学研究補助金を獲得しており、2023年4月以降の予算もまだ残っている。
 この半年間、求人があれば片っ端から応募してきた。だが、面接にすらたどり着けない。刻一刻と近づく雇い止めまでのタイムリミットに焦りは募る。「新年度(2023年4月1日~)のポストの公募自体がそろそろ終了する。選考も年内くらいまでなので、もう時間がない」。
 ある大学から返ってきた不採用通知には「大変多数の応募がありましたが、その中でも先生のご経歴、ご業績はすばらしいものでございました。ただ、既存教員とのバランス、所有する装置類が先生をサポートするに足りるかを考慮した結果、誠にもったいないことですがお断りの返事を差し上げる次第になりました」などと記されていた。
 理研の雇い止めをめぐり、SNS上などでは「本人に実績や実力があれば次のポストが見つかるはず」といったような指摘が一部にある。研究を続けられるような主なポストは大学の教職員になるが、採用は研究者としての実力だけで決まるとは言い切れないのが実情だ。
 まず、マッチングの問題がある。A氏が受けた上記の不採用通知の文言は、社交辞令とは言い切れない。むしろ多くの大学が無味乾燥な定型文の不採用通知を返してくる中でひときわ目を引く中身は、誠実に本当の理由を記している可能性がある。
 理化学研究所は、日本唯一の自然科学の総合研究所だ。そこで長期間にわたり有期雇用で働く研究者の高度で最先端の研究内容は、大学で行われている研究との互換性が低い。大学の求人は研究分野を特化したものがほとんどで、理研の研究者がそこにマッチした応募をすること自体がそもそも難しい。
 また、大学のパーマネント職と呼ばれる無期雇用の教授などのポストは、競争が激しい。財務省は2004年度の国立大学法人化を機に、研究の中枢を担う国立大学で人件費に充てられる運営費交付金を、2015年度までほぼ毎年1%ずつカットしてきた。これを受け、各校はポストを大幅に減らしている。その限られた席に、まだパーマネント職に就けていない准教授などから応募が殺到する。
 教授職のポストは研究と教育の2つを求められる場合が多い。長年、理研にいる研究者らは、学生を教育する機会から離れており、教職歴のキャリア面では選考で不利になってしまう。
 継続雇用への望み捨てきれず
 別の研究者B氏(50代男性)は、2023年3月31日の雇い止めを前にして、未だ転職活動を始めていない。理研で2023年4月1日以降も働けるポストの公募がこれから出ることに希望を託して待っているからだ。
 理研は2013年4月1日を起算日として、2023年3月31日で有期雇用が通算10年になる研究者を雇い止めする。2013年4月1日に施行された改正労働契約法では、研究者は同日を起算日にして有期雇用が通算10年を超えれば、無期雇用転換申込権を得られると定める。理研の雇い止めはこれに対応した無期雇用転換の回避策として違法になる恐れがある。
 理研が雇い止めをする名目の一つに、理研が2016年に改正した就業規則での「研究者の有期雇用は通算10年まで。起算日は2013年4月1日に遡る」という上限がある。ただ、理研は今年7月、10年上限ルールを2023年4月1日で撤廃する方針を示している。理研は撤廃の理由について、2023年3月31日で有期雇用が通算10年となり雇い止めになる研究者が、4月1日以降の雇用契約のポストの公募に応募できるようにするため、などと説明する。
 つまり、B氏にも理研で研究を続けるチャンスは、形の上では残されるわけだ。B氏は所属する研究室で手掛けるプロジェクトで不可欠と自負する役割を担っており、「プロジェクトの継続には自分の雇用は必要になるはず」と考えているという。
 もっとも、望むようなポストでの公募が出るという明確な根拠はない。B氏には幼い子どももおり「(公募が出ると)思うしかない」と切実な思いを語る。
 そのような中で、今の段階から表立って理研と法的に戦い事を荒立てれば、4月1日以降の雇用のポストの公募に影響するのではないか―。そんな恐怖心が、B氏に訴訟という手段をためらわせる。
 海外企業への人材流出も
 また、A氏もB氏も訴訟に踏み切れない大きな理由として挙げるのが、自身が参加する研究プロジェクト全体への悪影響だ。A氏は「理研から予算配分で報復されて予算を削減されれば、プロジェクト全体に迷惑がかかる」と懸念する。
 一方、雇い止めを前に転職を決め、理研をすでに去った研究者も、数十人に上る。といっても、思い通りに研究を続けられる道を得た人はほぼいない。研究リーダーを務めていた一人は、日本の大手企業からライバルと目される、ある海外の大手企業に既に移籍した。主力製品は世界で高いシェアを持つ、トップクラスのメーカーだ。その研究者をよく知る理研の関係者は、「非常に優秀な研究者で、完全に人材流出だ」と残念がったうえで、「向こうは技術や情報を得ることが狙いだろう。日本にとっての大きな損失になると思う」と話す。
 理研の雇い止めによるネガティブな影響は、人材や技術流出だけではない。日本の科学技術の発展そのものにとってマイナスになっている。
 日進月歩での国際競争が激しい科学技術の世界では、良い発想があれば1日も早く研究を始めることが重要だ。だが、A氏は「理研からあと1年や2年で理研から契約を切られることが分かっている段階では、良い発想を思いついてもここでやろうとは思わなくなる。まもなく外に転出するのに、アイデアだけを取られたくないからだ。ほかの研究者と話す限り、そういう考え方になっている人は少なくない」と明かす。
 たった1人の訴訟
 © 東洋経済オンライン たった一人、理研を相手に訴訟を起こした男性は9月30日の第1回口頭弁論後の会見で、「もう理研を辞めようかとも思ったが、黙っているわけにはいかなかった」と語った(記者撮影)
 一方、雇い止めされる研究者の中でこれまで唯一、理研を相手に訴訟を起こしたチームリーダーの研究者C氏(62歳男性)は、2023年4月1日以降も理研で研究を続ける権利がある地位確認などを求めている。その第1回口頭弁論が9月30日にさいたま地裁で開かれ、雇い止めの是非をめぐる戦いの火ぶたが切って落とされた。
 C氏は2011年4月から理研で働いており、理研でのキャリアは間もなく12年になる。C氏にとっては、雇い止めを受けることはチームリーダーというポジション上、自身が主宰するプロジェクト自体が消滅することを意味する。理研からは今年1月から研究機材の撤去などを求められており、既に研究の継続に支障を来しているという。
 まだたった1人の訴訟だが、その意味するところは小さくない。理研側と研究者側双方にとって、勝ち方や負け方は内容次第で、後の訴訟にも波及しうるからだ。
 C氏は「雇い止めされる予定の研究者は困っている。3月末より前になるべく早く、理研のやっていることのの違法性、不法性を明らかにさせたい」と決意を語る。
 A氏やB氏も、訴訟を選択肢から完全に外したわけではない。アクションを起こさなければ研究の道を完全に諦めざるをえないような最終段階にまで追い込まれれば、訴訟の道も「1つの方法として考えたい」とそろって話す。B氏は近く、訴訟も念頭に弁護士との話し合いを始めるという。
 末は博士か大臣か―。かつて、子供を褒める言葉によく使われたほど、研究者は子供の憧れの職業だった。いま、日本一の名門研究所の理研で起きている雇い止めを巡るゴタゴタは、科学に関心を持つ子供の目にはどう映るのか。世界の中で科学技術力の相対的な地位低下が顕著な日本において、子供の科学離れを一層加速させることは避けられそうにない。訴訟で理研と研究者のどちらが勝っても、本当の意味での勝者はいない。
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