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2024年11月19日 MicrosoftStartニュース 東洋経済オンライン「日本を「創造的破壊」ができない国にした「方針」 いま最も必要な「天才シュンペーター」の思想
中野 剛志
近年、企業利益は好調と言われているにもかかわらず、なぜイノベーションが起きにくいのか。イノベーション理論の父とも呼ばれる「シュンペーター」を軸に読み解く(写真:Melpomene/PIXTA)
© 東洋経済オンライン
株式市場は「企業が資金を調達する場所」ではなく、「企業から資金を吸い上げる場所」と化し、持続不可能な「略奪的価値抽出」の仕組みが企業を滅ぼすと指摘する『略奪される企業価値:「株主価値最大化」がイノベーションを衰退させる』(ウィリアム・ラゾニック/ヤン-ソプ・シン著)がこのほど上梓された。近年、企業利益は好調と言われているにもかかわらず、なぜイノベーションが起きにくいのか。同書に解説を寄せた中野剛志氏が、イノベーション理論の父とも呼ばれる「シュンペーター」を軸に読み解く。
バイデンの「自社株買い課税」を促した理論
先般、邦訳が刊行された『略奪される企業価値』の共著者の一人、ウィリアム・ラゾニック(マサチューセッツ大学名誉教授)は、企業組織論の権威である。
『略奪される企業価値』著者、ウィリアム・ラゾニックによる日本への警告
ラゾニックは、ジョセフ・アロイス・シュンペーターの流れを受け継いで「革新的企業の理論」を構築しており、2010年にはシュンペーター賞を受賞している。
ラゾニックは、『略奪される企業価値』の中で、1980年代から進められてきた株主価値重視の「コーポレート・ガバナンス」改革が、企業によるイノベーションを阻害するようになったと断じている。彼は以前から、一貫して、「コーポレート・ガバナンス」改革に警鐘を鳴らし、特に自社株買いの横行を厳しく批判し続けていた。
中でも、ラゾニックが2014年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌において発表した論文「繁栄なき利益(Profits Without Prosperity)」は、同誌の年間最優秀論文に選出され、大きな話題となった。
このラゾニックの議論は、アメリカの政治にも大きな影響を及ぼした。
2016年、ジョー・バイデン副大統領(当時)は「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙に「短期主義はどのようにして経済を搾取するのか」と題した論考を寄稿したが、その中で、バイデンは、ラゾニックの研究に言及しつつ、自社株買いを批判したのだ。
その後、大統領に就任したバイデンは、2022年に成立したインフレ抑制法において、自社株買いの買い付け金額に1%の課税を行うことを決定し、さらに2024年3月には、 この税率を4%に引き上げる意向であることも表明したのである。
このラゾニックの議論の根底にあるのは、シュンペーターの経済理論である。
シュンペーターは、今も、世界に大きな影響を与え続けているのである。
例えば、社会学者のフレッド・ブロックも、シュンペーターの主著『資本主義・社会主義・民主主義』について、こう述べている。
七十五年後に、シュンペーターの『資本主義・社会主義・民主主義』に立ち戻ることは、骨董いじりなどではまったくない。その反対に、現代の我々が置かれた政治経済状況を理解しようとする者にとっては、決定的に重要なことである。
ブロックは、2013年に、『ニュー・リパブリック』誌の「イノベーションに関する最も重要な3人の思想家」にも選ばれた研究者である。
ちなみに、フレッドと並んで選出されたマリアナ・マッツカートもまた、シュンペーターの流れを汲むイノベーションの研究者であり、彼女は、ヨーロッパや日本の産業政策に大きな影響を与えている。ちなみに、マッツカートは、ラゾニックと共同研究も行っている。
なお、来年から、アメリカは、ドナルド・トランプが大統領となるが、そのトランプが国務長官に起用するとされるマルコ・ルビオ上院議員は、産業政策の熱心な推進者として知られる。 そのルビオは、2019年に発表した『21世紀のアメリカの投資』 というレポートの中で、ラゾニックとマッツカートの研究に言及しつつ、株主価値最大化を目指す経営はイノベーティブではないと強く批判したのである。
このように、シュンペーターの著作は、現代のイノベーション研究のみならず、各国の産業政策にも、インスピレーションを与え続けているのだ。
「コーポレート・ガバナンス」改革への警告
ところで、日本は、1990年代以降、ラゾニックが批判したアメリカの「コーポレート・ガバナンス」改革を理想視し、模倣し続けてきた。その流れは、2010年代の安倍政権の下で加速した。ちょうど、アメリカでラゾニックの業績に対する評価が高まっていた頃である。
ちなみに、1999年5月、ラゾニックは、経済同友会が東京で主催した企業システム改革のカンファレンスにおいて、講演を行っている。当時の日本は、デフレ不況で苦しむ中、アメリカから株主価値最大化のイデオロギーを持ち込み、それまでの日本的経営を破壊して、「コーポレート・ガバナンス」改革を始めようとしていた。そんな日本に対して、ラゾニックは、警告を発した。
日本の企業経営者と公共政策の担当者は、株主価値の最大化を追求するコーポレート・ガバナンス体制と、経済全体の持続可能な繁栄との関係については、アメリカにおいてすらも、議論の余地が大いにあることを認識すべきである。(Lazonick, W., 'The Japanese economy and corporate reform: What path to sustainable prosperity?',Industrial and Corporate Change, 8 (4), 1999, pp. 625-6.)
しかし、ラゾニックの警告は無視され、日本は、株主価値最大化を追求する改革へと邁進していったのである。
例えば、2001年6月、小泉純一郎政権の下で、「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」、いわゆる「骨太の方針」が初めて閣議決定された。この「骨太の方針」は、「預貯金中心の貯蓄優遇から珠式投資などの投資優遇へ」と宣言し、株主価値最大化のイデオロギーを高々と掲げた。
今日まで続く、株主重視の「コーポレート・ガバナンス改革」の火ぶたが切って落とされたのだ。
これは、ラゾニックに言わせれば、企業がイノベーションを起こせないようにする方針を宣言したに等しい。
そして、実際、日本企業はイノベーションを起こせなくなった。「失われた10年」は、「失われた30年」へと延長されて、現在に至っている。
シュンペーター読みのシュンペーター知らず
なお、この2001年の「骨太の方針」は、その中で「創造的破壊」という言葉を使ったことでも知られている。
「創造的破壊」というのは、シュンペーターが『資本主義・社会主義・民主主義』の中で、イノベーションのさまを表す表現として使い、広めた言葉である。
ところが、このシュンペーターの言葉を引用した「骨太の方針」は、シュンペーターの遺産を受け継ぐラゾニックの「革新的企業の理論」に反するような方針を決定していた。そして、日本を「創造的破壊」ができない国にしたのである。
シュンペーターは、日本でも人気の高い経済学者である。特に「創造的破壊」という言葉は、ビジネス雑誌などにおいても、好んで使われてきている。
しかし、シュンペーターの名や「創造的破壊」という言葉は知っていても、実際に、シュンペーターの著作を読んだ人は、経済学者ですら、少ないのではないだろうか。読んだだけではなく理解した人となると、もっと少ないだろう。
だから、シュンペーターの「創造的破壊」という言葉を使って、イノベーションが起きなくなるような改革を実行するなどという愚行に走ってしまうのだろう。
もっとも、シュンペーターの主要な著作は大著ばかりであり、しかも難解であり、容易に読めるとは言い難い。
そこで、シュンペーターの理論のエッセンスを、一般の読者でも容易に理解できる入門書を書いた。
それが『入門 シュンペーター:資本主義の未来を予見した天才』である。
イノベーションを起こすには、どうしたらよいか。是非、シュンペーターから学んでほしい。
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