⛻17〗─1─凋落の日本製造業、復活までのハードすぎる道のりを進めるか?。~No.82No.83No.84 

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 2022年1月10日06:00 MicrosoftNews JBpress「凋落の日本製造業、復活までのハードすぎる道のりを進めるか?
加谷 珪一
 © JBpress 提供 写真はイメージです(出所:Pixabay)
 パナソニックが中国の家電大手TCLにテレビの生産委託を決めた。自社生産は上位機種だけとなり、大半の機種は外部企業が生産する。同社は白物家電についても合理化を進めており、生産をベトナムに集約化している。日本メーカーによる生産拠点の海外シフトは今に始まったことではないが、モノ作りの代表格のひとつだったテレビの海外シフトによって、製造業からの脱却がさらに進むことになる。(加谷 珪一:経済評論家)
 日本メーカーはもはや商社のようなビジネスになった
 パナソニックは洗濯機や冷蔵庫など白物家電を得意とするメーカーだったが、その後、テレビやビデオなどAV機器の事業を拡大、ソニーと人気を二分していた。2000年代にはテレビ薄型化の流れに伴い、プラズマディスプレイに巨額投資を行ったものの、液晶パネルの躍進によって、同社のテレビ事業は縮小に転じた。一方、韓国サムスンやLG、中国TCLなど後発メーカーは2000年代後半から一気にシェアを拡大し、2010年代に入るとパナソニックは市場での存在感を急速に失っていった。
 今回、同社が中国TCLに生産を委託するのは大半の低価格機種で、自社生産を行うのはごく一部の上位機種となる。加えて各国の生産拠点からの撤退も進んでおり、最終的にはマレーシアと台湾のみになる。国内唯一の拠点だった宇都宮工場(栃木県)も有機ELの生産に限定される見通しだ。メーカーとしては相応のラインナップが必要であることから、生産委託という形で販売を続けるが、収益という点ではほとんど貢献しないだろう。
 白物家電についてはすでに事業の整理が進んでおり、三洋電機を子会社化したのち、同社の白物家電部門は中国のハイアールに売却。パナソニック本体についても、タイなど海外への生産拠点の移管を進めてきた。だが中国企業とのコスト競争がさらに激しくなったことから、タイでの生産からも撤退しており、さらにコストの安いベトナムへの集約を進めている。
 家電の世界シェアを見ると、冷蔵庫は中国のハイアールがトップとなっており、エアコンは珠海格力電器を筆頭に中国メーカー4社が市場の50%以上を占めている。パナソニック三菱電機、シャープといった日本メーカーは、国内市場だけで何とか売上高を維持しているに過ぎず、グローバル市場では競争力をほぼ失った状況にある。
 先ほど取り上げたテレビについても、日立製作所はすでに自社生産を終えており、三菱電機も生産終了を決めた。ここまで生産台数の減少や海外への移管が進んでしまうと、日本メーカーはもはや純粋な製造業ではなく、製品を輸入して国内で販売する商社のようなビジネスモデルに近くなる。
 実際、日本の産業構造は限りなく商社型にシフトしており、こうした動きはマクロ経済的にも大きな影響を及ぼしている。
 日本の交易条件は年々悪化している
 日本の製造業が商社型になれば、国内生産は行わず、海外から必要に応じて製品を調達する経済構造にシフトしていく。そうなると日本の交易条件は悪化せざるを得ない。
 現実問題として、近年、日本の交易条件は悪化する一方となっている。交易条件とは輸出価格指数を輸入物価指数で割った指標で、1単位の輸出によってどれだけの輸入を賄えるのかを示している。交易条件が良いと、輸出によって賄える輸入が増えるので、輸出によるメリットを享受しやすくなる。一方、交易条件が悪いと、海外に流出する富が多くなってしまう。
 交易条件が悪化しているのは、日本企業の輸出競争力が低下し、貿易面で不利になっていることが原因である。
 輸出競争力が低下すると、企業は安値販売を強いられるようになり、十分な収益を上げられなくなる。企業はコスト削減に走るようになり、場合によっては製造拠点を海外に移してしまう。こうした製品戦略では付加価値を高めるのは難しく、結局は輸出単価の下落につながり交易条件をさらに悪化さてしまう。
 日本の製造業の競争力が低下したのは為替が原因であるとの指摘があるがそれは事実ではない。アベノミクス以降、為替が円安に進み、見かけ上の輸出額は増えたが、数量ベースではほぼ横ばいの状況が続いてきた。数量が増えていないということは、商品の販売が伸びていないということであり、よほど付加価値の低い製品でもない限り、輸出競争力を決めるのは製品そのものであって為替ではない。
 為替と輸出競争力が無関係であることは、過去の経緯を見ても明らかである。1985年のプラザ合意をきっかけに日本は猛烈な円高に見舞われたが、この時、日本企業はむしろ輸出額を増やしている。競争力さえあれば、通貨高になっても販売は落ちないものだ。
 輸出競争力が低下したのは為替が原因ではない
 企業の競争力低下に加えて、交易条件に影響するのは、海外の物価動向である。交易条件の長期的推移を見ると、1970年代前半に大幅に交易条件が悪化しているが、これは73年に発生したオイルショックが原因である。産油国が一気に原油価格を引き上げ、それに伴って多くの一次産品の価格が値上がりしたことで、全世界的にインフレが進んだ。当時の日本企業はまだ輸出競争力を保っていたが、輸入価格の大幅な上昇は交易条件を一気に悪化させた。
 79年に発生した第2次オイルショックを経て、日本の交易条件は多少持ち直したが、90年代半ばから再び悪化が始まっている。今、進んでいる交易条件の悪化は、まさに日本企業の競争力低下が原因である。
 日本はすでに輸出ではなく、消費や投資で経済を回す消費主導型経済にシフトしているが、経済構造は依然として輸出主導型のままである。日本企業の賃金は圧倒的に製造業の方が高く、経済の主役となっているサービス業の賃金は低い。こうした状況で円安が進んでしまうと、輸入価格の上昇による購買力の低下によってさらに消費が悪化するという悪循環に陥ってしまう。
 こうした事態を防ぐためには、一刻も早く、消費主導によって経済を成長させる道筋を確立する必要があるが、うまくいっているとは言えない。
 国内の一部には、日本の製造業の競争力は依然として高く、売り方が下手なだけであるとの見解も根強く残っている。だが交易条件の継続的な悪化というデータを見れば、その見解は単なる願望でしかないことが分かる。
 輸入条件が変わらない場合、交易条件が悪化しているということは、輸出価格が下落していることを意味している。輸出企業の競争力が高ければ、中国や韓国企業とコスト勝負に巻き込まれることはなく、高い価格を維持できたはずだ。どうしても欲しいと顧客が考える製品を提供できておらず、これが競争力低下につながっているという現実についてしっかりと受け止める必要があるだろう。
 本当に製造業の復活を望んでいるのか?
 もし、輸出競争力を復活させる形で、かつての成長軌道を取り戻すという場合には、ドイツのような徹底した企業改革が必要となる。ドイツは高付加価値な製造業へのシフトを進めるため、競争力を失った分野は容赦なく切り捨て、経営者にも労働者にも高い目標を課すことで改革をやり抜いた。
 高付加価値な製造業で成功するためには、顧客の問題を解決するいわゆるソリューション型のビジネスを実施する必要があり、高度な英語力が必須である。ドイツは英語圏ではない国としては突出して英語の通用率が高く、これが製造業の競争力維持に貢献している。
 製造業のソリューション化を進めるためには高いITスキルも求められる。ドイツにはSAPという世界を代表するIT企業が存在しており、これが製造業のIT化に大きな役割を果たしている。
 つまり今の時代において、製造業の国としてやっていくためには、(1)経営者や労働者に対する高い成果目標の設定、(2)高度な英語力の獲得、(3)高度なITスキルの習得、が必須となるが、これら3項目は日本社会がもっとも忌避してきたことでもある。
 製造業を強化せよと叫ぶのは簡単だが、今の日本人に上記3項目を本気でやり切る覚悟はあるだろうか。1億人の国内消費市場を生かす形での成長を模索した方が、はるかに現実的だと筆者は考えている。」
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