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2026年3月5日 YAHOO!JAPANニュース Forbes JAPAN「ヒトの遺伝子の2割は150万年前の「幻の人類」に由来する
進化をめぐる優勢な説では、何十年ものあいだ、ホモ・サピエンスはおよそ20~30万年前にアフリカで出現したが、すべてが単一の祖先集団に由来するとされてきた。この仮説は、「アフリカ単一起源説」として知られる。現生人類は、一つの生物学的成功の結果として生まれ、その後に地球全域に広がり、ほかの人類をすべて駆逐したとする説だ。
その系統樹は、直線的で筋が通っていた。だが、2025年に『Nature Genetics』で発表された研究で「ゴースト(未知の)」集団が発見されたことをきっかけに、研究者らはその考え方に異を唱え始めている。
高度な統計モデリングを用いたこの研究論文によれば、現生人類の起源をたどっていくと、最大20%が、150万年近く前に現生人類の祖先から分岐した大昔の「ゴースト」系統に行きつくという。つまり簡単に言えば、これまで教えられてきたイメージとは異なり、現生人類は系統樹上の1本の枝ではないということだ──それはむしろ、網状に流れる川に近い。つまり我々は、100万年のあいだ離れて暮らしていた、はっきり異なる2つの人類集団が、30万年ほど前に大規模に合流した産物であり、その2つの融合が、最終的に現在の私たちを生み出したと、この説は唱えている。
■ゴーストはゲノムのなかに
これは、ネアンデルタール人やデニソワ人との交雑をめぐるおなじみの話とは違う。そうした遭遇は、比較的最近(過去6万年以内)に起きたもので、現生人類の特定集団のDNAの2~5%ほどに寄与しているにすぎない。『Nature Genetics』に2025年に掲載された論文の研究チームが発見したものは、それよりも深く根本的な構造に関わっている。
COBRAA(Coalescent-based Hidden Markov Model)と呼ばれる新しい統計手法を用いた著者らは、大昔の人類集団が分岐し、のちに再融合した経緯のモデル化に成功した。世界中の異なる26の民族グループから、2500人分以上のDNAを解析した「1000人ゲノムプロジェクト」から得た全ゲノムを分析したところ、およそ30万年前に、それまで大きく枝分かれしていた2つの祖先集団が再び融合したことが示された。それらの集団のうち、一方は現生人類のゲノムの約80%に寄与している。そして、「ゴースト」と呼ばれるもう一方は、残りの20%に寄与している。
比較のために言うと、「ゴースト」集団は、ネアンデルタール人よりもずっと前に人類の主系統から分かれている。ちなみに、それぞれの分岐時期は以下のとおりだ:
・ネアンデルタール人が分岐したのは約60万年前
・ゴースト系統が分岐したのは約150万年前
つまり、私たちのDNAのうち少なからぬ部分は、私たちとの違いがネアンデルタール人よりも大きい集団から受け継がれているということだ。だが、まだ化石記録と結びつけられていないため、その集団は今でも幻のような存在にとどまっている。私たちのなかに残る遺伝的痕跡でしか発見できない生物種なのだ。
ゴーストとは何者か?
■ゴースト集団のチンギス・ハン効果
1年前まで研究者でさえ知らなかった「ゴースト」集団が、いったいどのようにして、現代の私たちのゲノムのかなりの割合を占めるに至ったのだろうか。そんな疑問を抱く人も多いかもしれない。その答えは、集団遺伝学の分野でときに「チンギス・ハン効果」と呼ばれる現象にある。
13世紀に広大な帝国を築いたチンギス・ハンの直接の子孫(Y染色体を持つ男性)は、全世界の男性のうち、200人に1人に上ると推定されている。影響の大きいなんらかの出来事があった際に、ある一つの系統が大きく成功し、そのDNAが遺伝子プールにあふれると、そうした現象が起こり得る。
進化上の融合も、同じようにはたらく。30万年前に大昔の二系統が再融合したときには、「ゴースト」のDNAが、生存上の利点を提供したのかもしれない。
いわゆるチンギス・ハン効果に関する最近の研究で述べられているように、生殖の動向は、集団の遺伝的様相をがらりと変えることがある。ある系統が急速に拡大すると、そのDNAは単に存続するだけでなく、基礎になる場合もある。
このケースでは、ゴースト集団のおかげで、すでにさまざまな環境で数十万年にわたる時の試練に耐えてきたバリアント(多様体)が導入された可能性がある。そのバリアントは、熱帯特有の病原体、食物の変動、あるいは不安定な気候に対するレジリエンスを授けたのかもしれない。この融合は、対等なものが徐々に混ざりあうかたちではなく、大きく分岐していた遺伝物質が、現生人類の祖先に組み込まれるかたちでの融合だったのだろう。
簡単に言えば、ゴースト系統の形質のなかでも、特に時の試練に耐えたものが持続したということだ。現代の私たちが持つ遺伝子のうちおよそ20%は、その大昔の祖先から受け継いでいる。姿を消した集団が、はっきり異なるグループとして、今もなお私たちの生物学的特性を内側からかたちづくっているのだ。
■ゴーストとは何者か?
この点は重要なのだが、こうした遺伝的な「幻」やゴースト集団の存在を科学者が垣間見るのは、今回が初めてではない。『Genome Research』で発表された2016年の研究では、現代アフリカ西部の集団(ヨルバ人やメンデ人など)が持つDNAの2~19%は、既知の人類集団のいずれとも一致しないことがわかった。
同様に、『Nature』に掲載された2023年の研究では、ホモ・サピエンスの起源をめぐる「弱く構造化した幹モデル(weakly structured stem model)」が提唱されている。具体的に言うと、このモデルによれば、およそ100万年前には初期人類の複数集団がアフリカ全域で暮らし、それぞれが砂漠や山脈で隔てられていたという。それぞれの集団は、独自の形質を発達させるくらいには異なっていたが、互いの道が交わったときに「再融合」できるくらいには似通っていた。
つまりそうした集団は、分化の程度はごく小さかったものの、遺伝研究に見られる多型パターンの一部を説明できるくらいには分化していた、ということだ。だが、そうしたゴーストは何者なのか、という疑問は積年の謎だ。化石が見つかっていないため、その存在は、現生人類のDNAから推測するしかない。
中期更新世の化石(ホモ・エレクトスまたはホモ・ハイデルベルゲンシスに似た種)が、現生人類の20%に寄与するゴーストの正体の可能性があるとも主張されている。この発見をきっかけに、20%の遺伝子配列の「持ち主」が見つかるのではないかとの期待から、アフリカとユーラシアで的を絞った大規模な化石探しが巻き起こっている。
ゴーストが現代でも重要である理由
■ゴーストが現代でも重要である理由
はるか昔に起きた遺伝的融合が、いったいなぜ、そんなに大事なのか、と思っている人も多いだろう。答えの一つは、プレシジョンメディシン(精密医療)にある。もっと具体的に言えば、すべての人がまったく同じ進化上の軌跡を共有しているのだと仮定したら、身体の働き方に関する、重要だが微妙な差異の多くを見落としてしまいかねない。例えば、以下のようなものだ:
・免疫反応。20%に寄与するゴーストDNAの一部は、ウイルスに対する体の反応を司っている。
・代謝。一部の「ゴースト」遺伝子は、脂質と糖の処理を促進する。これは、現代の食事への対応に影響を及ぼす。
・脳の構造。この大昔の融合が、ヒトの大脳新皮質の発達にどう影響したかについては、まだ調査が始まった段階にすぎない。
今回の発見をきっかけに、ゴースト集団のゲノム研究では、新たな領域も活気づいている:
・遺伝学者たちは、大昔に起きた融合のかすかな痕跡を検出するべく、COBRAAなどの手法に磨きをかけている。
・考古学者たちは、遺物に対する新たな関心を踏まえて化石産出地を調べており、そこからゴースト系統に関する知見が得られる可能性がある。
・大昔のDNAを分析するテクニックも改良されている。いつの日か、当の「ゴースト」の骨の断片が見つかり、いまだ謎に包まれている私たちの20%が、ついに明らかになるときが来るかもしれない。
だが、おそらく最も重要な点は、こうした研究により、「ホモ・サピエンスは単一の系統だけを起源とする」という見解に疑義が呈されていることだろう。遺伝学者や進化生物学者のあいだでは、長らく忘れ去られていた融合、いったん分岐した人類集団のあいだで生じた融合の産物として、種としての我々をとらえる見方が勢いを増している。一方の集団は、発見可能な痕跡を残さずに姿を消したが、その遺伝子のこだまは、あなたの体をかたちづくるすべての細胞の中で、いまも響いているのだ。
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