🐟28〗─1─和食文化の蝦夷コンブと縄文魚介類が消滅する危機。~No.112No.113 

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 2024年9月4日 YAHOO!JAPANニュース 「縮みゆく国・日本の針路
 【異変続く北の海】サケ・イカカニだけでなく和食文化の肝「昆布」も獲れない事態、温暖化で近海コンブ消滅の危機
 生産量低下、生産者減少の「二重苦」にあえぐ漁協、復活の手立てはあるのか?
 和食文化に欠かせない「昆布」、不漁の原因は?
 8月に北海道を訪れた。太平洋沿岸の街にある魚介類が豊富に揃うスーパーで毎年、手ごろな価格で毛ガニや地場の魚を購入して北の幸を楽しんでいる。ところが、今年は勝手が違った。
 毛ガニは店頭になく、代わりに棚に並んでいたのは近年大漁が続くオオズワイガニ。2杯で500円程度と格安だ。毛ガニはすっかり獲れなくなってしまったという。サケも相変わらず不漁で揚がるのはブリばかりだ。ウニやイカもすっかり数が減り、値段は高騰する一方だ。
 そんな北海道で今年、昆布漁が中止に追い込まれたというニュースが流れた。和食文化に欠かせない昆布の世界に何が起きているのか。北の海の異変を追う。
 北海道各地で厳しい状況に追い込まれている昆布の生育環境
 オホーツク海沿岸にある雄武町(おうむちょう)。特産品は海産物。利尻昆布の生産地としても知られ、雄武産利尻昆布平成24年から道内でもっとも支持されているコンビニ「セイコーマート」のおにぎりにも使用されている。
 そんな昆布の特産地にこの夏、衝撃が走った。雄武漁協が今季のコンブ漁の中止に追い込まれたのだ。資源量不足が原因だ。昨年の猛暑で生育が悪かったうえ、冬季の流氷に覆われた期間が長かったことで、流氷の氷塊で根を切られた昆布が多かったという。漁の中止は戦後初めてのことだ。
 利尻昆布の生産地がピンチに
 雄武漁協の昆布は天然もので、2023年度の昆布の水揚げは84トン、1億800万円だった。2020年131トン、2021年107トン、2022年51トンと例年100トンは維持してきたが、ここ数年、海水温の上昇と流氷の影響で生産量が落ち込んできた。そこへもってきてついに漁中止に追い込まれてしまったわけだ。
 資源回復には2年ほどかかるとされているが、「細目昆布が育ってきているので、そちらに期待したい」と漁協の担当者は希望を口にする。
 今年は釧路管内でも5月末に棹前昆布(さおまえこぶ)漁が中止に追い込まれたばかり。こちらは高水温による生育不良が原因だ。昆布の生息環境が北海道各地で厳しい状況に追い込まれているようだ。
 昆布不漁の原因は異常気象だけではなかった!
 北海道の昆布生産は国内の9割以上を占めている。昆布が生育する海の中では「昆布の森」が形成され、多彩な魚介類が生息。さらに昆布は大気から海水に溶けた二酸化炭素を吸収して、光合成反応によって有機炭素化合物を生成する。つまり昆布はブルーカーボンの貴重な供給源となっているのだ。
 その昆布資源が急激に痛めつけられ、生産量が激減している。最盛期の1976年には3万4000トン近くあったのが、2022年は1万1106トンにまで落ち込んだ。生産額はバブル期の1989年には386億円に達していたが、2022年は179億円と半分以下の水準だ。今年は生産量が1万トンを切るのではないかとささやかれているほどだ。
 昆布とひと口で言っても種類はさまざま。真昆布(函館)、日高昆布、厚葉昆布(道東)、長昆布(道東)、羅臼昆布など地域によって種類に違いがあり、それぞれの味わい、特徴がある。
 江戸時代、北前船で大阪に運ばれたのは主に真昆布。主要産地は函館市郊外の南茅部。映画「海猫」の舞台になった漁港でもある。
 同地の天然真昆布は「白口浜真昆布」として知られる一方、江戸時代には松前藩が朝廷や将軍家に献上したことから「献上昆布」とも呼ばれ、漁協組合員の約9割が生産に従事しているという。天然ものは抜群の味と香りが高い評価を受け、高級料理店では出汁、塩吹き昆布、高級佃煮、昆布締めなどに使われ重宝されている。
 南かやべ漁業協同組合によると、令和4年の天然真昆布の生産量は19トン、令和5年は23トンで、最後の豊漁だった時(平成26年)の703トンの3%ほどでしかない。養殖物の生産量は2453トン(令和4年)だが、平成25年の3000トン超に比べると減少傾向にある。
 「いろんな取り組みをしているが、自然が相手なだけになかなか資源を回復するのは難しい」(漁協関係者)という状況が続いている。
 真昆布に限らず昆布不漁の原因はいくつか指摘されている。
・異常気象による海水温の上昇で発育不良
・ウニによる食害や石灰藻が石を覆うことによる磯焼け
・若者人口の流出や重労働を嫌っての生産者の大幅減少
 昆布漁は異常気象による生産量低下と生産者減少という二重苦にあえぎ、戦後最大の危機的状況に陥っている。
 和食文化に欠かせない昆布の生産量を復活させる取り組み
 こうした現状に、北海道水産経営課は「ICT技術等を活用したコンブ生産増大対策」という取り組みに乗り出した。
 近年の海洋環境の変化で漁場の変化が著しいことから、ドローンの空撮画像から昆布漁場を把握する画像解析技術による漁場管理や、水揚げから製品出荷までの生産工程の見直し、AI技術を活用して一連の作業工程を自動化することで、省力・省人化、機械化、分業化による生産性の効率化を目指している。
 昆布製品製造企業のフジッコは、水揚げした生昆布を乾燥させずに真昆布として出荷するという工程に転換する取り組みを始め、生産者の労働負担を大幅に減少させた。
 こうした地道な取り組みにより北の海に昆布の森を復活させ、作業工程の簡略化で労働者の現場離れを防ぐ。本格的な回復は気が遠くなりそうなほど時間がかかるかもしれない。
 北海道大学の研究では、温暖化で近海コンブは2090年代には消滅するという報告もある。出汁文化の大阪では天然真昆布の生産量激減で昆布文化の衰退が危惧されている。
 昆布不漁の影響は北海道から2000km以上離れた沖縄県にも及んでいる。
 歴史的に見ると、江戸時代に薩摩藩経由で当時の琉球に昆布が渡り、琉球から清に献上されていた。その影響で沖縄の郷土料理には昆布を使ったものが多い。千切りした昆布と豚肉、ニンジンを炒めたクーブイリチー、昆布巻き(クーブマチ)、刻み昆布と野菜の煮物、ジューシー(炊き込みご飯)など。
 沖縄の地元テレビ局は「今年の分は在庫があり足りているが、来年のお正月や旧盆に安定的な供給ができるか見通しが立たない状況」と伝えている。
 昆布は決して食卓の主役ではない。しかし、その味わいはユネスコ無形文化遺産に登録された和食文化に欠かせないものである。日本の文献に初めて登場したのは797年に完成した『続日本書紀』の霊亀元年(715年)とされている。
 高級店だけでなく、庶民の身近な存在としておにぎりの具材、出汁、昆布締め、千枚漬け、佃煮など幅広く利用され、当たり前の存在であり続けてきた昆布が、この先、入手が困難になってしまう事態が訪れるのだろうのか。
 すでに天然昆布は最悪の状況にある。官民一体で知恵を出し合って和食文化の肝である昆布の生産量を復活させていきたいものである。
 【山田 稔(やまだ・みのる)】
 ジャーナリスト。1960年長野県生まれ。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。主に経済、社会、地方関連記事を執筆している。著書は『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』『分煙社会のススメ。』など。最新刊に『60歳からの山と温泉』がある。東洋経済オンラインアワード2021ソーシャルインパクト賞受賞。
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 魚の消費量・生産量は減少傾向となっている(写真/PIXTA
 良質なたんぱく質血液サラサラ成分のDHAEPAほか数多の健康成分を含み、手軽に手に入る「パーフェクト食品」だったはずの魚がいま、危機に瀕している。当たり前に食べていた寿司ネタから混じりものだらけの刺し身パックまで、水産大国の裏側を総力取材した。
 【一覧表】いま危機に瀕している主な「海の幸」リスト。「人工イクラ」が多数流通など
 日本の魚は消費量・生産量が大きく落ち込み“冬の時代”
 四方を海に囲まれ、漁場に恵まれた日本において“海の幸”は食卓を彩るごちそうであると同時に、手軽に手に入る身近な栄養源でもある。スーパーには魚の切り身や刺し身がズラリと並び、回転寿司に行けば安価でおいしい生魚を楽しめる。しかしそんな世界有数の“水産大国”はいま、大きな危機に直面している。水産アナリストの小平桃郎さんが指摘する。
 「確かにかつての日本は“とれる魚の量も質も世界一”といわれ、新鮮な魚介類を使った寿司はもちろん、天ぷらやうなぎの蒲焼きなどは日本のソウルフードとして世界に広まり続けています。
 しかし一方で、日本の魚は消費量・生産量ともに大きく落ち込み、水産業は“冬の時代”と言わざるを得ない状況が続いている。実際、100円台で豊富な寿司ネタが食べられるはずの回転寿司はコーンやハンバーグ、からあげなどを使った“陸上寿司”や麺類ほかサイドメニュー、スイーツに力を入れるなど、方向転換を余儀なくされている。純粋な魚を使った寿司ネタの消費量は減少傾向にあるといえます」
 当たり前に食べていた魚の多くが希少品になる危機が迫っているのだ。日本の魚を取り巻く「不都合な真実」をレポートする。
 海外の市場でも“買い手”として魅力に乏しい日本
 多くの専門家たちが警鐘を鳴らすのは、国内の漁獲高が大きく落ち込んでいること。水産庁の発表によれば2022年の食用魚介類の自給率は56%。東京オリンピックが開催された1964年には113%もあり、半世紀で半減したことになる。消費者問題研究所代表で食品表示アドバイザーの垣田達哉さんが指摘する。
 「その背景には地球環境の変化と水産業の人手不足とが複雑に絡み合い、漁業が立ちゆかなくなっている事実があります。
 ただでさえ地球温暖化によって魚の絶対数が減っているうえ、海外からは国産品よりも安価な魚介類が入ってくるため価格競争が厳しく、少子高齢化による漁師の後継者不足もある。漁師の数が激減し、さらに漁獲高が減るというスパイラルに陥っています。今後さらなる自給率の低下が予測され、日本の海産物を取り巻く状況はもっと厳しいものになるでしょう」
 現状、すでに日本の食卓に並ぶ魚介類の半数近くは海外産だ。しかし小平さんは海外の市場においても日本は苦境に立たされていると話す。
 「いまの日本は港や船、工場なども規模が小さく海外生産品への依存度が高いうえ、習慣として値上げがしにくい環境のもと円安や高齢化の影響もあり消費量が減少している。
 世界から見ると“買い手”としての魅力に乏しくなってしまいました。実際、いま日本を含め世界中でとれた水産物の大部分は、中国のバイヤーの強い影響力のもとに置かれ、海上運送の中継拠点となる“ハブ港”である中国や韓国・釜山、タイ、シンガポールなどに集まっている。日本へはそれらの港を経由してから運ばれてくるケースが多く、主要な港としての立場にもない状況です。
 そのように買い手としての存在感はすでに小さくなっているにもかかわらず、日本人はあいかわらず品質や規格に厳しいため、世界の生産者や水産業者から相手にされなくなりつつあるのです」(小平さん・以下同)
 大とろは日本より高値で売れる中国などへ
 とりわけ小平さんが懸念するのは、まぐろの輸入を取り巻く状況だ。
 「日本はいまでも世界のまぐろ消費量の4分の1を占めているものの、ここ3年ほど前から市場での存在感が弱まってきているといわれています。中国や欧米でも人気のまぐろは、大とろなどの高級な部位は日本より高値で売れるため、一度韓国に運ばれカットされ、高い部位は中国など諸外国に販売、残った赤身が日本に輸入されるケースもあります。
 まぐろ流通に関して言えば、日本には運搬船技術や倉庫での保管、加工などを超低温で行う複雑なノウハウがあり、まだ日本にしかできない技術が残されています。しかし、このまま日本国内の購買力が上がらなければ将来的に危機が訪れる可能性はあります。
 例えばメキシコ産の養殖黒まぐろは、かつて全輸出量の約8割を日本が輸入していましたが、2021年からアメリカの輸入量が日本を上回るようになり、あと数年で日本の輸入量は2割未満になると予測されています」
 まぐろと同じく寿司ネタとして人気の高いうにも、日本の独占状態が今後も続くとは限らない。
 「世界最大のうに漁獲国はチリで、日本で流通している冷凍うにの約9割がチリ産。現時点ではうには日本人以外にはまだ食べる習慣が浸透していないものの、円安などの影響から輸入価格は確実に高騰している。
 日本の水産会社は値上げすると売れなくなってしまうので、価格転嫁ができず、チリ側と厳しい価格交渉が続いています。そのためチリのうに漁師は、採算が合わないためかにや貝類、海藻など、ほかの魚種の生産に流れている。
 5年ほど前まで大手回転寿司チェーン店ではうに軍艦が100円台で売られていましたが、現在は一時的に姿を消しています。このまま販売コストと消費者の認識のズレが続くと、昨今の海外での寿司ブームにより、チリ産のうにも日本以外の国に主導権を握られてしまう、なんてことになりかねません」
 横行する“産地ロンダリング
 警戒すべきは未来の食卓の危機だけではない。現在流通している魚介類の品質も大きく下がっていると垣田さんは話す。
 「特に海外から輸入された魚介類の場合、どんな環境で養殖され、どこの工場で加工されたか、消費者が知ることは極めて難しい。とりわけ日本は中国からの輸入が多いですが、中国産の貝類やうなぎなどから、日本の基準を違反する抗菌剤などの成分が検出された事例は過去に何度もあります。また、魚介類は冷凍すればどこまでも運ぶことができるため、国内でとれた魚を日本よりも費用が安い中国の工場に運んで加工するケースもある」(垣田さん)
 つまり“国産”と銘打たれていても、油断は禁物なのだ。同様の状況は国内でも起きている。水産物は水揚げした場所を「産地」とすることができるため、「大間のまぐろ」や「下関のふぐ」など、遠くでとれた魚を有名な場所で水揚げだけする“産地ロンダリング”も横行している。
 それらの魚介類が刺し身や切り身として売られる際、添加物が加えられていることも見過ごせない。
 「スーパーの店頭などで見かけるいかそうめんやまぐろの刺し身は、日持ちさせるために酸化防止剤やpH調整剤などの添加物が使われていることが多い。また、ツヤを出すために植物油が塗り込まれたり、味をよくするために還元水飴や砂糖の調味料が使われていることもある。特にまぐろは酸化しやすいため、ねぎとろには油脂の注入が欠かせません」(垣田さん)
 確認すべきは「裏」と「生」
 量も質も危機に瀕している日本の海産物だが、私たちの健康維持や食生活には欠かせない存在だ。安心して口にするために垣田さんは、まず見る目を養ってほしいとアドバイスする。
 「スーパーなどで刺し身や切り身などを買う際は、パッケージの裏側まで必ず確認してください。添加物が使われていれば、法律上は『生鮮食品』ではなく『加工食品』扱いとなり、『生』と表記ができなくなります。もし加工されていない本まぐろの刺し身を買いたいなら、『“生”本まぐろ』と表記されているものを選ぶこと。また、天然ものでなければ必ず『養殖』の表示がされているので、選ぶ際に参考にしてください」
 消費者として意識を変えていくことも大事だ。
 「輸入された安い食材ばかりに頼ると、日本の第一次産業はどんどん衰退し、自給率はさらに低下します。もし世界情勢の悪化で輸入がストップしたら、食糧難になるというリスクも懸念される。なるべく国産の魚を積極的に選び、応援するつもりで食卓にのせてほしい」(垣田さん)
 安心して海産物を口にできる未来があるかどうかは、私たちにかかっている。
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