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歴史的事実として、日本人には「座して」コメを食べる権利は存在しない。
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2024年9月5日 YAHOO!JAPANニュース 現代ビジネス「コメが高くて誰が喜ぶのか…「令和の米騒動」は政府が起こした「人災」だと、荻原博子が断言するワケ
荻原 博子経済ジャーナリスト
「平成の米騒動」を振り返ると
スーパーマーケットの棚からからコメが消えています。しかも、昨年の2倍の価格で店頭に並べてもすぐに売れ切れるという、異常な状況となっています。
大阪府内では約8割の小売店などで品切れが発生していて、こうした状況に対して、大阪府の吉村洋文知事は「無くて困っている方がいるのに、“備蓄米”を放出しないという判断を続ける。倉庫に眠らせておく方がいいんだという理由が全く分からない」と“備蓄米”の放出に躊躇する政府に激怒しています。
これに対しては8月27日、坂本哲志農水大臣は、「(市場は)今後順次回復していくものと見込んでいる。コメの需給や価格に影響を与える恐れがあるため、慎重に考えるべき」と“備蓄米”の放出に後ろ向きの考えを示しました。
しかもダメ押しするかのように、8月30日に重ねてはっきり“備蓄米”を放出しない考えを示しました。
なぜ、農水省はこれほど頑なに“備蓄米”の放出を拒否するのでしょうか。そのまえに、“備蓄米”とはなんなのかを見てみましょう。
“備蓄米”は、「平成の米騒動」で制度化。
今から約30年前の1993年、日本は記録的な長雨と冷夏、日照不足に見舞われ、コメの収穫が激減しました。そのため、スーパーからコメが消え、高い闇ゴメが出回って、コメの価格が高騰したことがあります。さらには、農家にある出荷前のコメを狙ったコメ泥棒が横行するなど、米不足が犯罪にまで発展し大騒動になりました。
当時の日本には、コメは国産米で自給するという不文律があったのですが、このままだと社会不安にまで発展しかねないことを危惧した当時の細川政権は、「国産米で自給」の方針を大転換し、タイ米などの外国米の輸入に踏み切りました。
タイ米は日本人には馴染みがなかったために、私も「どうすればタイ米を美味しく食べられるか」などという記事を書いた覚えがあります。
これが、約30年前に起きた「平成の米騒動」です。
なぜ備蓄米は放出されないのか
この騒動が収束したのは、翌年の秋。沖縄県産の早場米を皮切りに、国内で収穫されたコメが順次市場に出回るようになってからでした。
政府はこのコメ騒動を教訓として、コメが不足するような事態を二度と引き起こさないために、95年にコメの“備蓄”を制度化する法律を作成。「10年に1度の不作や、通常の不作が2年続いた場合も対処できる水準」として年間100万トンを目標に、“備蓄米”を確保することを決めました。この“備蓄米”は、2024年6月末で91万トンあります。
なぜ、“備蓄米”が、迅速に放出されないのか。
コメ不足にならないために用意されている“備蓄米”なのに、なぜ今のような状況の中で、迅速に放出されないのでしょうか。
農水省は、まずコメの作付け状況から、小売価格、在庫量などの状況を調査し、これをもとに有識者でつくる「食糧部会」で話し合い、この結果を見て坂本農水大臣が最終決定をしなくてはならないので時間がかかり、“備蓄米”が店頭に並ぶ頃には新米も出回るので意味がないといった趣旨の説明を繰り返しています。
不思議なのは、政府はすでに、東日本大震災や熊本地震などの突発的な災害で、迅速に“備蓄米”を放出しています。災害時と事情が違うものの、なぜ今回は放出までにそんなに時間がかかるのでしょうか。
コメ価格の下落が怖い
そもそも昨年のコメの不作で供給不足になることは、前々から予測されていたこと。だとすれば、すでに充分な調査や検討などが行われているのが当然で、これから調査や検討をするので時間がかかるというのは、管轄省庁としてはあまりにお粗末と言わざるをえません。
放出しないまでも「政府が“備蓄米”の放出を検討中」というアナウンスを流すだけでも、買いだめは治るのではないでしょうか。
実は、手続きに時間がかかるという理由は、建前に過ぎない。農水省の本音は、“備蓄米”の放出でコメの価格を下げたくないというところにあるようです。
コメ価格を下げないことが、農水省の大命題。農水省が最も懸念しているのは、大量の“備蓄米”を放出することでコメの価格が下落してしまうこと。つまり、守りたいのは安定供給ではなく、高いコメ価格のようなのです。
過去50年ほどの農水省のコメ政策を見ると、コメ価格を下落させないことを大命題としているようです。
その土台になっているのが、コメが獲れすぎないように作付面積を抑える政策、すなわち減反政策デス。なぜ、こんな政策をとったかと言えば、食生活の多様化でパンやパスタなどが普及し、コメの需要が減ってきたからです。
そのため、コメ余りにならないように、国が都道府県ごとの生産量を決めた上で、各地の農業協同組合などが農家ごとに生産量を割り当て、それを上回る田んぼを潰してきまし。
3000億円の税金が減反に
この「減反政策」を、1970年から約50年間続けてきた結果、これまでに日本では、埼玉県一県と同じくらいの面積の田が潰され、耕作放棄地となっています。
驚くのはこの減反のために、なんと年間3000億円もの税金を使ってきたのです。
ただ、水田を潰すための補助金として巨額な税金を使うことに対する反発は大きく、「減反政策」は、2018年に廃止されました。
ところがこれは、世論をなだめるための安倍政権のパフォーマンスで、実際には、その後も水田を飼料用の米や麦、大豆などの作物にかえる農家には「水田活用の直接支払い交付金」を支給するなどして、実質的な「減反政策」は続いています。そのための予算は、2024年度で3015億円ですから、「減反」で使われていた補助金とあまり変わりありません。
コメ高騰で、誰が喜ぶのか。
「減反」以外にも、過剰米の政府買上げや安い外国米を国内に入れないための高い関税の維持など、農水省はあの手この手でコメ価格を維持する政策をとってきました。
2019年には、価格低下や災害などで収入が減少した場合に補てんする保険制度も導入しました。
新米も結局値上がり
コメ価格の維持は、農水省が管轄するコメ農家や、天下り先であるJAグループ(農業協同組合)の悲願でもあります。
こうしてコメの価格を下げない工夫をしてきた結果、農家の平均的なコメの出荷価格は、長いあいだ1俵(約60キロ)1万前後で維持されてきました。さらに昨年秋にはようやく低価格米のスポット取引価格で1万3500円をつけました。
しかも、ここにきてコメの品薄で、コメの価格維持どころか価格高騰が起きています。なんと直近で2万3000円を超え、1年で1.7倍にもなりました。
価格の高騰は、農水省にとっては、コメ農家を潤し、農協を潤し、税金の支出を抑えるという大きな効果が期待できます。だからこそ、ここで値崩れの危険がある“備蓄米”を出したくないということでしょう。
高騰から消費者を、誰が守るのか。
消費者にとっては、コメ不足も困りますが、コメ価格が高騰することも家計に打撃を与えます。すでに新米は、4割高になるといった声さえも聞こえてきます。
今まで、あらゆる食料品が値上がりしていく中で、コメだけは割安な価格に抑えられていました。レトルトのコメパックでも、安いものは一食60円前後で買えました。
これが、パンやパスタのように値上がりしていくと、給料が上がらない中で家計に大きな負担となっていくことは避けられません。
後編記事<「令和の米騒動」は日本の食糧危機の始まりだ…政府がひた隠す「知ってはいけない事実」>に続く。
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9月5日 YAHOO!JAPANニュース 現代ビジネス「「令和の米騒動」は日本の食糧危機の始まりだ…政府がひた隠す「知ってはいけない事実」
連載<コメが高くて誰が喜ぶのか…「令和の米騒動」は政府が起こした「人災」だと、荻原博子が断言するワケ>では、政府が備蓄米を放出しなかったことの問題や、長らく続けてきた減反政策の見直し不足などを検証。8月に起こったコメの品薄は、政府による「人災」であると指摘した。100%と言われるコメでこのような状況に陥るのであれば、他の食糧ではもっと悲惨なことになる可能性がある。引き続き、経済評論家・荻原博子の論考をお伝えしよう。
【写真】話題の新NISA、荻原博子が「おやめなさい」と断言するワケ
政府はみんな無関心
では、誰が消費者サイドに立って、コメのこの値上がりを食い止めてくれるのでしょうか。
農水省は、すでにコメ農家や天下り先のJAグループなどを守るための組織となっています。ですから、私たちの税金で買い取っている“備蓄米”さえも放出しない。
消費者政策をつかさどる消費者庁はどうでしょうか。残念なことに、消費者庁のホームページを見ると、コメのコの字も出てこない。消費者庁には農水省からの出向者が多く、ほとんどは2年ほどで農水省に帰るので、あまり同省と波風は立てたくないのかもしれません。
それでは、政府はどうでしょうか。
本来なら政府主導で国の“備蓄米”の放出を決めるべきです。なぜなら、本年6月に成立した「「食料供給困難事態対策法」では、コメや小麦、畜産物など重要な食料が、異常気象や紛争などの影響で大幅に不足する予兆があったら、内閣総理大臣をトップとする対策本部を設置して、関係する事業者に、生産や輸入の拡大、出荷や販売の調整などを要請できることになっているからです。
ところが、レームダック状態の岸田首相は、コメの流通の円滑化に取り組むよう農水省に指示しただけで終わり。自民党の国会議員は、総裁選で頭がいっぱいでそれどころではない状況。
つまり、だれもコメの価格の高騰で消費者が受ける打撃については対処せず、無関心といっても過言ではありません。
日本は食糧危機に陥る
「減反」と「コメの高騰」が引き起こす食糧危機。
私が今回の問題で最も危惧しているのは、「減反」や「コメ高騰」は今現在、庶民の家計を直撃するだけでなく、将来的には食糧危機の引き金にもなる可能性があることです。
内閣府は、世界的な人口増加によって2050年には穀物需要量が現行の1・7倍になり、食料需給がひっ迫するといいます。ところが、日本の食料自給率はカロリーベースで38%。食糧の6割以上を海外からの輸入に依存しています。つまり、日本は食料を輸入に頼らざるを得ない状況で、このまま20年もすれば、コメだけでなく「食料が足りない」と大騒ぎになる可能性があります。
すでに世界的な食料争奪戦に備え、ドイツやフランス、アメリカなどの先進国は、自国の農業に多額の補助金を投じています。なぜなら、農産物は一朝一夕には生産できないので、イザという時に自国民を飢えさせないため、食料確保を国の安全保障の一環に位置付け、そのために農産物をどんどんつくらせ、自国で消費できないぶんは海外に売るという体制を確立したのです。
あの中国でさえ、2013年以降は食用食糧の絶対安全保障(完全自給)と穀物全体の「基本自給」を掲げ、すでに自給率は100%に近づいています。しかも、新型コロナでは、危機に備えていち早く食料の買い占めに走り、なんと2020年には、1億4700万トンという大量の食料を買い付けています。
それに対し日本はどうでしょう。
貧しい人から食料が手に入らなくなる
日本は、こうした動きとは真逆で、「減反」などで食糧生産を減らすことに多額の補助金を投じてきました。それは、今まで金さえ出せば、食料など海外からいくらでも買えるという状況があったからでしょう。
けれど、その危うさが露呈したのが新型コロナの時でした。
自国の食糧だけでなく燃料、肥料などの不足への危惧から輸出制限をする国が増え、世界保健機関などが「輸出国による輸出制限の連鎖が起きて国際市場で食料品不足が起きかねない」と警鐘を鳴らす事態になりました。
新型コロナでは、ワクチンが自国で生産できない日本は、お金を出しても買えない順番待ちの行列に並ばされました。この状況が、将来的には食料での起きる可能性があります。各国が輸出制限をかけるようになったら、いくらお金を出しても食料が手に入らないという状況に陥りかねないということです。
貧しい人から、食料が手に入らなくなる。実は、すでに今の日本でも、水面下で食糧危機が迫っています。
内閣府が子供の貧困について行った調査(2021年12月)では「食料が買えなかった経験がある」との回答は全世帯の11%。低収入世帯は38%、母子世帯32%と、所得の低い経済力の弱い家庭ほど食料が手に入らない現状が浮かび上がっています。
私たちにはコメを食べる権利がある
貧困世帯の子どもを支援しているNPOキッズドアの渡辺由美子理事長は、「いま9人に1人の子供が貧困に陥っています」と嘆いていました。
キッズドアでは、《夏休み緊急食料支援》で募金をつのり、物価高の中で給食のない夏休みにまともな食事ができなくなっている子どもたちを対象に、援助を求められた2921世帯に1世帯あたり8000円の食料を配送しました。
「米袋を届けると、子供の目が輝く。お金がなくて、袋に入ったコメなど久しぶりで、今日はお腹いっぱいご飯が食べられる。ありがとうと言われると、こんな子たちが日本にいるのかと胸がつまる思いがします」(渡辺氏)
私たちは、3食リーズナブルな価格で米を食べる権利があります。
なぜなら、私たちは市販で米を買って代金を支払っているだけでなく、前述したように巨額の税金をコメ政策のために負担させられているからです。
そんな状況の中で、さらにコメの価格まで高騰するなどということは到底受け入れられません。それなのに、庶民の食卓を守ろうという動きは鈍いのは、理不尽この上ないと思います。
「減反」などという理不尽な政策は早くやめ、コメが不足しないように“備蓄米”を活用し、農家と農協のためのコメ政策から消費者を守るための政策に早く転換しなくては、内閣府が予想する2050年の食糧危機を乗り越えることができないのは明らかです。
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荻原 博子(経済ジャーナリスト)
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