🌌22}─6・C─日本を襲う海洋熱波。熱くなる海は生物の大量死を招く。~No.114 

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 海洋熱波と海洋生態系
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 (公財)日本海洋科学振興財団
 むつ海洋研究所 所長
 渡邉 修一
 北海道・東北沖で2010年から2016年の間の毎年夏に海洋熱波と呼ばれる水温上昇が発生していて、ブリの漁獲量にも関連性があったという論文がJAMSTEC北海道大学の研究者(Miyamaら、2021)によって今年1月に発表されたことがいくつかの新聞等をとおして報道されました(JAMSTECプレスリリース)。
 「海洋熱波(Marine Heatwaves)」は2011年ごろからPearce et al. などによって使われ始めた言葉で一般の人がこれまで殆どの方が耳にすることはありませんでした。しかし、海洋の高水温異常は海洋の高水温化等とともに海洋生態系への影響が大きく、経済に関わることから最近注目されています。高水温現象と生態系への影響を科学的に理解するためには高水温異常をきちっと定義することが必要です。そこで、2016年にHobdayら(2016)が2000年以降の各地で起きた生態系サービスへ大きな影響を与えた高水温異常が起きた海域の解析を基に『ある海域おいて季節変動する各時期の平年値(30年間の平均)からずれの変動頻度から決めたしきい値(通常は90パーセンタイル値)を超える高水温が連続5日以上(途中二日以下の中断があった場合も含む)続く現象』と「海洋熱波」を定義しました。冒頭の論文は、北海道・東北沖合の水温変動についてこの定義に基づいた解析を行った報告です。
 さて、「海洋熱波」の定義のもととなった高水温異常は2003年の地中海沿岸域の高水温現象、2011年にオーストラリア西海岸での高水温化現象、2012年の北西大西洋域の高水温化現象(Millsら、2012)です。地中海沿岸域の高水温化現象はヨーロッパ熱波と関連して6月2日から7月1日までの30日にわたって通常よりは平均で約4℃高い水温が続き、地中海サンゴや海綿などの生態系に大きなダメージを与えました。また、オーストラリア西海岸での高水温化現象はニンガルー・ニーニョ現象によって引き起こされた西太平洋の高温の水塊がオーストラリア西海岸を南下したもので、3℃以上の高温水温が60日継続し、熱帯系の魚類が南部に広がるともにケルプの海中林が芝生状藻場に替わるなどの変化を起こしました。北西大西洋域の高水温化現象では平均約2.4℃(最大4℃)の高水温化が56日間継続し、暖かい南方系の魚種が北の海域に広がり、漁業活動をはじめとする経済活動に影響がでました。原因として温暖化影響、グリーンランドの氷の融解などが関連していると考えられています。このように「海洋熱波」として定義された高水温異常は生態系及び生態系サービスに影響を与えています。
 冒頭の論文は日本近海で起きている高水温化現象を海洋熱波として記載した初めての例と思われます。2010から2016年の夏に北海道・東北沖で海洋熱波現象が起きていたことを示し、その原因として北海道沖合にあった黒潮を起源とする暖水渦が親潮の南下を妨げたことに因っていると推定しています。また、北海道太平洋側におけるブリの漁獲量の急増との関連性が認められることも言及しています。ブリの漁獲高が増えることは地域にとって良いように思われますが、もともと地域で漁獲高に対応できる経済システムが構築されていたため加工場等が対応できないなどの経済的な問題が生じます。北海道沖合に長期にわたってある暖水渦はサケの回遊やサンマの沿岸近くの漁場への回遊に影響を与える可能性があることが指摘されており、三陸から北海道太平洋側の漁業活動、漁業基盤へ影響を与える可能性もあります。冒頭の論文は地域経済を考える上で重要な指摘でした。
 海洋熱波が今後の地球温暖化により出現頻度が高くなる可能性があるのかが気になります。Frolicher et al.(2018)は1982年から2016年の間に海洋熱波の発生日数は倍増しており、パリ協定で気候変動緩和策目標値とした気温が産業革命頃より2℃、努力目標値1.5℃上昇でも海洋熱波の出現確率はそれぞれ23倍、16倍となると予測している。また、現在の対策の継続での予測である21世紀の終わりで3.5℃の温暖化では、海洋熱波の発生頻度は41倍になるとも指摘しています。海洋熱波の起こる海域も広がり、特に熱帯域、北極域で顕著となり、継続日数も長くなるとも述べています。海洋熱波が増加するということは生態系への影響が大きく、生態系サービスもダメージを受ける可能性があります。軽減策、適応策を考える必要があるように思われます。
 冬季の高水温化現象は “winter warm-spells”(冬の温暖期間)と呼ばれることがあります。下北半島では過去には異常冷水(沿岸親潮)が長期間接岸し、1984年にはアワビが死滅し、また、2014年にはタイが仮死状態で海面に浮くなどの現象が起きたことがあります。1984年の異常冷水の長期間の接岸によって生態系を変えてしまいました。その逆の現象が今後起きる可能性があります。現在徐々に進んでいるコンブの収穫量の減少、マダコ、ヤリイカなどこれまで冬季に漁獲されなかった魚種への転換などが起こり、地域経済に影響を与えてしまう可能性があります。海洋熱波というと暑い時期を想像しますが、冬季にもありうるとして注目していかなければならないと思います。
 海洋熱波については研究者グループが立ち上げている英文WEBサイト(http://www.marineheatwaves.org/)があります。他にも平和財団海洋政策研究所ocean newsletter( 窪川かおる(2020)海洋熱波が海洋生態系におよぼす影響)、海洋危機ウォッチなど和文での解説等が既にされています。参考にされると良いかと思います。
参考文献
 Hobday, A. J., Alexander, L. V., Perkins, S. E., Smale, D. A., Straub, S. C., Oliver, E. C. J., et al. (2016). A hierarchical approach to defining marine heatwaves. Prog. Oceanogr. 141, 227-238. doi: 10.1016/j.pocean.2015.12.014
 Miyama, T., S. Minobe, and H. Goto, 2021: Marine Heatwave of Sea Surface Temperature of the Oyashio Region in Summer in 2010-2016. Frontiers in Marine Science, 7, doi:10.3389/fmars.2020.576240
 Mills, K.E., Pershing, A.J., Brown, C.J., Yong, C., Fu-Sung, C., Holland, D.S., Lehuta, S.,Nye, J.A., Sun, J.C., Thomas, A.C., Wahle, R.A., 2013. Fisheries management in a changing climate lessons from the 2012 ocean heat wave in the Northwest Atlantic. Oceanography 26, 191-195. doi: 10.5670/oceanog.2013.27
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 2022年9月20日 NEWS「生物の大量死招く「海洋熱波」が増加、危惧すべきこれだけの理由
 温暖化で20倍に増えたとの研究も、海水温回復後も生態系への影響は長期化
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 2019年、米国ハワイ州カイルア・コナのカハラウ湾で、白化したサンゴの近くを泳ぐ魚たち。沿岸のサンゴは、2015年の大規模な海洋熱波によって半分近くが死滅した。(PHOTOGRAPH BY CALEB JONES, AP IMAGES)
 2019年、米国ハワイ州カイルア・コナのカハラウ湾で、白化したサンゴの近くを泳ぐ魚たち。沿岸のサンゴは、2015年の大規模な海洋熱波によって半分近くが死滅した。(PHOTOGRAPH BY CALEB JONES, AP IMAGES)
 2013年末、アラスカ湾の海水温が上がりはじめた。数カ月のうちに海面の水温は平均で2.8℃、場所によっては3.9℃も上昇した。暖まった海域は、当初は幅約800キロ、深さ約90メートルの範囲だったが、2014年半ばには2倍以上に広がり、最終的にはアラスカからメキシコまで約3200キロに及んだ。科学者たちが「ブロブ(The Blob)」と呼ぶこの現象は海洋熱波の一例であり、わずか3年で北太平洋の生態系をめちゃくちゃにした。
 プランクトンやオキアミは激減した。アラスカ沖のマダラも減少し、最終的には群れが崩壊した。飢えたアシカが海岸に何千頭も漂着し、海鳥も大量に死んだ。オキアミを食べられなくなったザトウクジラがカタクチイワシを狙うようになった結果、沿岸付近にやってきて、漁具に絡まるようになった。ザトウクジラの出生数も、その後の6年間で75%も減少した。(参考記事:「太平洋 不吉な熱い波」)
 有毒な藻類の異常発生(有害藻類ブルーム、HABs)で、カニ漁は壊滅的な打撃を受けた。小さな甲殻類に支えられていた食物網は、ヒカリボヤが優勢なものへ変化した。ヒカリボヤは、栄養価の低いゼリー質の生物で、これほど北の海で見つかることはかつてはなかった。(参考記事:「熱帯のヒカリボヤ、北太平洋で大発生、前代未聞」)
 海洋熱波は、海水温が異常に高い状態が5日以上続く現象を指すが、多くは数週間から数カ月にわたって持続する。気候変動によって引き起こされ、海水温が元に戻ってからも数年にわたって海洋生態系に影響を及ぼし続けるおそれがある。気候変動の影響が世界中に広がるにつれ、海洋熱波は頻度と強度を増しており、海洋環境にとって「非常に大きな懸念」となっていると、気候変動リスクを分析・予測するジュピター・インテリジェンス社のデータサイエンティストである海洋学者のヒラリー・スキャネル氏は指摘する。
 世界中から海洋熱波と被害の報告
 科学者たちが北東太平洋のブロブの解明にのりだした頃、オーストラリアのパースでは15人の海洋専門家が集まり、海洋熱波に関する新たな科学的知見をまとめようとしていた。彼らが集結したきっかけは、2010〜11年の夏に西オーストラリアの沖で発生した海水温の上昇だった。このとき、海水温が6℃も上昇し、広大なケルプ(コンブなどの大型で褐色の海藻)の森や、アワビ、ホタテ、ペンギンなど多くの動物が死んだ。
 この会議に出席していたカナダ、ダルハウジー大学のエリック・オリバー氏によれば、当時はまだ初期の段階にあった海洋熱波の科学が、これ以降、急激に関心を集めるようになったという。
 「海洋熱波という言葉が最初に使われたのは、2010年か2011年あたりだったと思います」とオリバー氏は言う。「その頃は、発表される論文のすべてを把握できていましたが、今では把握しきれません」
 論文数の増加は、海洋熱波現象の報告が増えたことの表れだ。2016年には、チリ沖の海洋熱波が藻類ブルームを引き起こし、魚介類の養殖場に大きな被害をもたらした。地中海では2015〜2019年の熱波で、海草やサンゴの大量死が何度も発生し、こうした状況が地中海の新たな常態となりつつある。2021年と2022年には、ニュージーランドの海水温が過去最高となり、膨大な数のカイメンが白化したと報告されている。
 海洋熱波の直接的な原因はさまざまだ。西オーストラリアでの海洋熱波の原因は、南に向かって流れるルーウィン海流が強くなり、インド洋から流れ込む暖かい海水が増えたせいだった。同様に、オーストラリアとニュージーランドの間のタスマン海で2015~16年に発生した海洋熱波は、サンゴ海から南下する東オーストラリア海流が強くなったことが原因だった。
 次ページ:大規模な海洋熱波が27回から172回に
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 2022年10月10日 日本経済新聞「熱くなる海 生物の大量死招く「海洋熱波」が増加
 ナショナルジオグラフィック
 都市と気候危機
 2019年、米国ハワイ州カイルア・コナのカハラウ湾で、白化したサンゴの近くを泳ぐ魚たち。沿岸のサンゴは、2015年の大規模な海洋熱波によって半分近くが死滅した。(PHOTOGRAPH BY CALEB JONES, AP IMAGES)
 2013年末、アラスカ湾の海水温が上がりはじめた。数カ月のうちに海面の水温は平均で2.8℃、場所によっては3.9℃も上昇した。暖まった海域は、当初は幅約800キロ、深さ約90メートルの範囲だったが、2014年半ばには2倍以上に広がり、最終的にはアラスカからメキシコまで約3200キロに及んだ。科学者たちが「ブロブ(The Blob)」と呼ぶこの現象は海洋熱波の一例であり、わずか3年で北太平洋の生態系をめちゃくちゃにした。
 プランクトンやオキアミは激減した。アラスカ沖のマダラも減少し、最終的には群れが崩壊した。飢えたアシカが海岸に何千頭も漂着し、海鳥も大量に死んだ。オキアミを食べられなくなったザトウクジラがカタクチイワシを狙うようになった結果、沿岸付近にやってきて、漁具に絡まるようになった。ザトウクジラの出生数も、その後の6年間で75%も減少した。
 有毒な藻類の異常発生(有害藻類ブルーム、HABs)で、カニ漁は壊滅的な打撃を受けた。小さな甲殻類に支えられていた食物網は、ヒカリボヤが優勢なものへ変化した。ヒカリボヤは、栄養価の低いゼリー質の生物で、これほど北の海で見つかることはかつてはなかった。
 海洋熱波は、海水温が異常に高い状態が5日以上続く現象を指すが、多くは数週間から数カ月にわたって持続する。気候変動によって引き起こされ、海水温が元に戻ってからも数年にわたって海洋生態系に影響を及ぼし続けるおそれがある。気候変動の影響が世界中に広がるにつれ、海洋熱波は頻度と強度を増しており、海洋環境にとって「非常に大きな懸念」となっていると、気候変動リスクを分析・予測するジュピター・インテリジェンス社のデータサイエンティストである海洋学者のヒラリー・スキャネル氏は指摘する。
 世界中から海洋熱波と被害の報告
 科学者たちが北東太平洋のブロブの解明にのりだした頃、オーストラリアのパースでは15人の海洋専門家が集まり、海洋熱波に関する新たな科学的知見をまとめようとしていた。彼らが集結したきっかけは、2010〜11年の夏に西オーストラリアの沖で発生した海水温の上昇だった。このとき、海水温が6℃も上昇し、広大なケルプ(コンブなどの大型で褐色の海藻)の森や、アワビ、ホタテ、ペンギンなど多くの動物が死んだ。
 この会議に出席していたカナダ、ダルハウジー大学のエリック・オリバー氏によれば、当時はまだ初期の段階にあった海洋熱波の科学が、これ以降、急激に関心を集めるようになったという。
 「海洋熱波という言葉が最初に使われたのは、2010年か2011年あたりだったと思います」とオリバー氏は言う。「その頃は、発表される論文のすべてを把握できていましたが、今では把握しきれません」
 論文数の増加は、海洋熱波現象の報告が増えたことの表れだ。2016年には、チリ沖の海洋熱波が藻類ブルームを引き起こし、魚介類の養殖場に大きな被害をもたらした。地中海では2015〜2019年の熱波で、海草やサンゴの大量死が何度も発生し、こうした状況が地中海の新たな常態となりつつある。2021年と2022年には、ニュージーランドの海水温が過去最高となり、膨大な数のカイメンが白化したと報告されている。
 海洋熱波の直接的な原因はさまざまだ。西オーストラリアでの海洋熱波の原因は、南に向かって流れるルーウィン海流が強くなり、インド洋から流れ込む暖かい海水が増えたせいだった。同様に、オーストラリアとニュージーランドの間のタスマン海で2015~16年に発生した海洋熱波は、サンゴ海から南下する東オーストラリア海流が強くなったことが原因だった。
 逆に、海水が動かなかったことが原因となったケースもある。2013〜14年のブラジル沖の海洋熱波をはじめ、大西洋南西部の海洋熱波の60%は、インド洋に居座って海水を安定させる高気圧に起因していたことが2019年7月に学術誌「Nature Geoscience」に発表された研究で判明している。
 また、北太平洋で発生したブロブの場合、「頑として動かない高気圧の尾根」が北太平洋上にとどまった結果、嵐が発生せず、海水がかき回されなかったため、海面に異常な高温の層が形成されたという。
 大規模な海洋熱波が27回から172回に
 とはいえ、海洋熱波をより頻繁に、より激しくさせている根本的な要因は気候変動だ。化石燃料の燃焼によって大気中に排出された熱の90%は海洋に吸収されるため、その熱のほとんどが集中する海面から深さ700メートルまでの水温は、1901年以降、平均で約0.8℃上昇している。すでに海水温が上がった海域では、海洋熱波がより発生しやすくなることが予想され、実際にそうなっているようだ。
 2020年9月に学術誌「サイエンス」に掲載された論文は、人為的な地球温暖化の結果、海洋熱波が20倍以上に増えたと結論づけている。人工衛星による海水温の観測が始まった1981年以降の10年間には、大規模な海洋熱波が27回あり、その平均持続期間は32日、ピーク時の温度上昇幅は平均約4.7℃だったが、2010年代の発生回数は172回、平均持続期間は48日、ピーク時の温度上昇幅は平均約5.5℃だった。
 海洋熱波については、まだ不明な点が多い。米ワシントン大学の研究員でワシントン州の気候学者でもあるニコラス・ボンド氏は、数週間から数カ月も持続する海洋熱波が多い理由もまだわかっていないと言い、「海洋熱波を持続させている何か別のことが起こっているはずです」と指摘する。氏によると、海面が暖められると、大気中に熱が放射されて雲の形成が妨げられ、海水がより多くの太陽光を浴びてさらに暖まるからだという説がある。
 一方、海洋熱波の潜在的な影響を深く懸念するには十分な情報が集まっている。なかでも注目すべきは、海洋熱波が終息した後も、その影響は長く続く可能性があるという事実だ。
 実際、北東太平洋の海水温は、ブロブが3年間持続した後、2016年から下がり始めたが、科学者たちは今でも、この海域の生態系がブロブ発生前の状態に完全に戻る可能性がどの程度あるのかを見極められずにいる。スキャネル氏も、2010〜11年の西オーストラリアの海洋熱波によって死滅したケルプの森の生態系が回復するには何十年もかかると予想している。
 オリバー氏は、熱帯海域への影響を特に懸念している。
 「本当に心配なのはそこだと思います」とオリバー氏は言う。なぜなら、熱帯地方の生物は「かなり狭い範囲の温度」に適応しているからだ。「ここが本当に厄介なところなのです。熱帯の生態系は一変してしまう可能性があります。サンゴ礁のことが非常に心配されているのは、それが理由です」
 ボンド氏によると、海洋熱波は単独でも海洋生態系に壊滅的な影響を及ぼしうるが、地球の海は熱波以外にもさまざまな圧力に直面しており、それらによって熱波の影響が増幅され、影響がさらに深刻化するおそれがあるという。
 「世界の多くの海域で、漁業はおそらく持続不可能な水準にあります」とボンド氏は言う。「海洋生態系には信じられないほどの圧力がかかっています。そこに海洋熱波などによる変化や、海洋生態系の生産性を下げるような変化が加われば、悲惨なことになります。私たちは、海洋生態系の崩壊によるとてつもない影響を受ける前に、そのことを認識しておくべきです」
 文=KIERAN MULVANEY/訳=三枝小夜子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年9月20日公開)
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 2024年7月19日 NHK「「海洋熱波」続く この夏も北日本で気温上昇か
 海面水温が極端に高くなる「海洋熱波」が北日本の近海で去年から続いています。この「海洋熱波」が雲や霧を起きにくくし日ざしが強まるなどした結果、去年夏の北日本の記録的な暑さにつながったとみられることが分かり、専門家は、この夏も北日本で気温が上がると指摘しています。
 気象庁によりますと、日本近海の平均海面水温は先月、6月としては過去最高を更新したほか、北海道の南東の沖合では18日の時点で平年より6度も高くなっているところがあります。
 「海洋熱波」と呼ばれるこの現象は、黒潮の極端な北上などを背景に去年から続いていて、気象庁の異常気象分析検討会は去年夏の北日本の記録的な暑さに影響した可能性があるとしていました。
 その後、検討会の研究チームが分析した結果、「海洋熱波」によって複数の作用が重なり気温を上昇させたとみられることが分かりました。
 研究チームによりますと、例年は大気が海水に冷やされることで雲や霧が発生しますが、「海洋熱波」で大気との温度差が縮まって雲などができにくくなり強い日ざしが直接照りつけたことで大気と海水がさらに熱せられたということです。
 仙台市では去年の夏に霧が観測されたのはわずか1日で、1931年の統計開始以降最少でした。
 また、海水が蒸発することで大気中の水蒸気の量が増え熱がこもる「温室効果」を強めたり、海水の熱が直接大気を暖めたりしたとしています。
 研究チームのメンバーで、東京大学先端科学技術研究センターの中村尚教授は「今も『海洋熱波』は最強レベルで続いていて、去年の夏と同様、北日本の気温を高くすることは間違いない」と話しています。
 専門家 “気温上昇に加え 災害や産業への影響懸念”
 「海洋熱波」について、専門家は気温の上昇に加えて、災害や産業への影響が懸念されると指摘しています。
 東京大学先端科学技術研究センターの中村尚教授は、北日本の東側の海面水温が特に高い状態が続いているとしたうえで、台風が通った場合、勢力が衰えにくくなるだけでなく水蒸気を多く含んだ東風が陸地に吹きつけるため、東向きの斜面では極端に雨の量が増えるおそれがあるとしています。
 また、「海洋熱波」の要因となっている黒潮の極端な北上によって、漁業への影響も懸念され、対策が必要だとしています。
 中村教授は、「海洋熱波」がいつまで続くか予測が難しいとしたうえで「北日本でも熱中症に十分注意するとともに雨の降り方が極端になるリスクも考えられるため、土砂災害や台風に伴う高潮、強風にも十分注意する必要がある」と呼びかけています。
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 7月19日 YAHOO!JAPANニュース 朝日新聞デジタル「日本近海の「海洋熱波」 2023年の最も暑い夏の一因に
 史上最も暑かった2023年夏(6~8月)の海面水温の平年差の分布図。北日本近海での高温が著しかった=気象庁などの発表資料から
 昨年の史上最も暑い夏をもたらしたのは、日本近海で起きる「海洋熱波」が一因だった――。気象庁東京大学などの共同研究で、そんなメカニズムが明らかになった。
 【写真】海洋熱波と夏の高温に関する研究成果を発表した中村尚・東大先端科学技術研究センター教授=2024年7月19日午後0時30分、東京都港区、大山稜撮影
 2023年の夏(6~8月)は全国の平均気温が平年より1.76度高く、1898年の統計開始以降もっとも暑かった。特に北海道と東北の高温が目立ち、平年より3.0度高かった。また、例年なら東北の三陸沖は北からの冷たい親潮が流れるが、昨年は南からの暖かい黒潮が強く、海面水温が極端に高まる「海洋熱波」と呼ばれる現象も発生していた。
 これらの関連性を調べようと、研究チームは約30年分の三陸沖周辺の海水温と気温を分析。海面水温が高い年は、海面に近いほど気温が高くなりやすい傾向があった。陸地の異常な高温は上空の大気によって起きると考えられてきたが、近海の温度の高さも強く影響した可能性が高いことが分かったという。
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 7月15日 YAHOO!JAPANニュース 朝日新聞デジタル「日本近海の水温、今年前半は過去最高 北部で顕著、異常な黒潮影響か
 有料記事
 小宮山亮磨 山本智之
 今年上半期の日本近海の海面水温は、1982年以降の観測史上で最も高かったことが、気象庁のデータから分かった。北海道沖の太平洋でとくに高く、地球温暖化で海水温が底上げされたことに加えて、黒潮の異常な流れが影響していると専門家は指摘する。
 コンブ漁の出漁に向けて北海道根室市の沖に集まる漁船=2024年6月、山本智之撮影
 朝日新聞は、北は北海道、南は台湾の東側まで、日本に近い10海域について、平均海面水温のデータを気象庁から提供してもらった。船や人工衛星などからの計測データを組み合わせたもので、43年前からおおむね10日ごとに記録されている。
 データによると、今年1~6月の温度は平均18.44度で、これまでで最高だった1998年の18.18度を上回った。「平年値」とされる1991~2020年の平均と比べて1.06度高い。
 【そもそも解説】海の温暖化なぜ起きる? 海の温暖化で何が起きる?
 とくに温度上昇が激しいのが北海道の東に広がる海域だ。今年上半期の水温は平均8.11度で、平年より2.38度も高い。これまでで最高だった23年の7.38度を約0.7度上回った。東北沖の海域も平均16.92度と平年を2.10度上回り、過去最高だ。
 日本近海の10海域と黒潮のルート
 一方で、沖縄付近や台湾東側の海域は、平年より高い傾向ではあるものの、北海道や東北沖の海域ほどははっきりしていない。
 北上する黒潮地球温暖化との関係指摘も
 原因について海洋研究開発機構の美山透・主任研究員(海洋物理学)は、黒潮の異常な流れを指摘する。
 黒潮には南の暖かい海から熱…
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 7月15日 YAHOO!JAPANニュース 朝日新聞デジタル「今年の台風「過去に例がない警戒を」 熱くなる海、高まる災害リスク
 有料記事
 隅田川が増水し、川沿いの歩道も浸水していた=2019年10月12日午後6時54分、東京都墨田区、福留庸友撮影
 日本の近海が熱くなっている。今年上半期の海面水温は、1982年以降の観測史上で最も高かった。海が温まることで、陸でも自然災害などのリスクが高まる。世界でも「熱くなる海」への懸念が強くなっている。
 日本近海の水温、今年前半は過去最高 北部で顕著、異常な黒潮影響か
 【そもそも解説】海の温暖化なぜ起きる? 海の温暖化で何が起きる?
 北海道東部~三陸沖の海域の高温について、気象庁の異常気象分析検討会の会長を務める、中村尚・東京大先端科学技術研究センター教授は風水害のリスクが高い「危険な状態」だと指摘する。
 海水温の上昇が自然災害リスクを高める仕組みのイメージ
 海水温が高いほど、大気中に含まれる水蒸気量は多い状態になる。多量の水蒸気は雨雲の発達を促し、豪雨をもたらす線状降水帯の発生にもつながる。
 さらに、こうした海上の暖か…
 この記事は有料記事です。残り1235文字有料会員になると続きをお読みいただけます。
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7月19日 YAHOO!JAPANニュース 朝日新聞デジタル「【そもそも解説】海の温暖化なぜ起きる? 海の温暖化で何が起きる?
 有料記事そもそも解説
 小坪遊
 地球温暖化が進むにつれて、世界の海も暖まっています。温暖化は海にどんな影響(えいきょう)を与(あた)えるのでしょうか。海水温が上がるとどんなことが起きるのでしょうか。
 南極海に浮かぶ氷山=2019年、中山由美撮影
 日本近海の水温、今年前半は過去最高 北部で顕著、異常な黒潮影響か
 Q 海はどれぐらい熱くなっているのか?
 A 米海洋大気局(NOAA)などによると、2023年は観測史上最も海面水温が高かった。2番目に高かった16年より0.15度高く、NOAAはこれを「記録的な差」としている。24年も海面水温が高い傾向(けいこう)は続くと予測されている。
 Q 原因は?
 A 人が引き起こした地球温…
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