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2024年5月17日 YAHOO!JAPANニュース ダイヤモンド・オンライン「シャープはどこで間違えたのか、ついに「液晶のシャープ」終焉の要因とは?
シャープがテレビ用液晶パネルの生産を終了すると発表した。日本国内からテレビ用の液晶パネル工場が消える。“液晶のシャープ”と名を馳せた時代から一転、経営危機に陥り、ついにかつての稼ぎ頭を手放すことになった。栄枯盛衰の歴史を振り返る。(やさしいビジネススクール学長 中川功一)
【画像で見る】経営危機後、なぜ液晶を手放さなかったのか
● 「テレビ用液晶パネル」国内生産終了へ
液晶のシャープ――。
1998年~2007年に代表取締役社長を務めた町田勝彦氏は、「オンリーワン経営」「日本のものづくりを極める」といった印象的な言葉で組織を鼓舞し、液晶事業を拡大した。
この結果、シャープは液晶技術で世界に先んじ、ソニーやパナソニックと並ぶ家電のトップブランドとなった。
そんなシャープは、パナソニックなど国内メーカーがテレビ用液晶パネルから撤退をしていく中でも、唯一、堺に建設した巨大な工場で液晶パネルの生産を続けていた。
だが、それ以上に莫大な生産能力を持つ海外企業との競争の中で苦戦。直近では、22年度から2期連続で最終赤字に陥っていた。
そしてついに24年5月、シャープはテレビ用液晶パネルからの生産撤退を決定したのである。
いったい、シャープはどこで道を間違えたのか。
● 2022年、シャープは堺工場を再び傘下に
実は筆者は、2019年に出版した著作『戦略硬直化のスパイラル』(有斐閣)で、シャープが最初の経営破綻危機に陥る14年までの歴史を分析している。
その中では、町田氏という偉大な経営者の影響が色濃く、社長交代後も町田路線を否定することができずに、液晶の市況悪化とともに業績を悪化させていったことを指摘した。
その後、シャープは台湾の大手エレクトロニクスメーカーである鴻海精密工業の傘下に入り、経営再建に道筋をつけた――ように思われた。
業績不振の原因たる堺工場を切り離し、プラズマクラスターなどの技術で知られるスマート家電や、ICT機器の生産で、新たな方向に踏み出したはずだった。
だが、よほど液晶パネルが諦め切れなかったらしい。
22年、シャープは海外ファンドに売却していた堺工場を買い戻す。だが、この判断が結局、命取りとなる。
22年度、シャープは堺工場の不採算が主原因で、2600億円もの最終赤字に陥った。翌年も結局赤字となり、ついに2024年、堺工場の生産停止の判断が下されることになったのだ。
一度は決別したはずの町田・液晶路線。なぜ、シャープは再び液晶に回帰しようとしたのか。
● 売り上げの半分を占めた液晶関連事業
その理由は、シャープのセグメント別売上高を参照すると、透けて見えてくる。
「ブランド事業」は、シャープブランドで消費者向けに販売している製品事業だ。
スマートライフは、いわゆる白物家電。22年度は4687億円を売り上げている。8Kエコシステムというのは、テレビ、レコーダー、ビデオカメラなどの製品だが、ほぼテレビ事業だと言ってよい。これが5918億円。ICTは通信関連機器で、3258億円だ。
下段の「デバイス事業」とは、BtoBで企業向けに販売している部品事業だ。ディスプレイデバイスは7599億円と、全てのセグメントで最大だ。残りは、電子部品事業であるエレクトロニックデバイスが4755億円となっている。
22年度の売り上げは2兆5481億円、その半分以上の1兆3517億円をディスプレイとテレビという液晶関連事業がつくっている。
何のことはない、シャープは依然として、「液晶のシャープ」だったのだ。
● シャープが液晶に回帰したワケ
さらに、22年度までの過去3年で各事業の売上高や営業利益がどう推移したかを見てみよう。当時の経営陣の目にシャープの事業がどう映っていたのかが、より一層鮮明になる。
皆さんが経営者だったら、どの事業を有望であるとし、注力しただろうか。
恐らく、皆さんは8Kエコシステム(液晶テレビを中心とした事業)を柱にしようと考えるのではないか。明確に売り上げを伸ばしており、利益も安定して出している様子が見て取れるのは、この事業だけである。
町田体制と決別してスタートしたスマートライフ、ICT、エレクトリックデバイスはそれぞれに会社の将来の屋台骨とするには力不足だ。
スマートライフはしっかり稼いでくれる事業だが、会社の未来を開いてくれる事業にはなりづらい。いわゆる白物家電だから、技術的にも大きな革新は起こりにくいし、爆発的に市場が伸びることが想定しづらいからだ。
ICT、エレクトロニックデバイスは売り上げの規模も十分ではないし、収益性もふるっているとはいえない。
問題のディスプレイデバイスはどうか。この事業は、打ち捨てておくには大きすぎた。
ディスプレイデバイス事業の売り上げ規模は、他の事業を圧倒している。そのため、利益・損失の面で与える影響も大きく、この事業の成否が全社の業績を決定づけてしまう。
手元にあるからには、この事業にこそ、経営リソースを注がねばならない。その結果として、この事業が安定的に収益を生むようになれば、経営は安定する。
また、ディスプレイは、自社テレビに用いられる中核部品だ。テレビを今後の柱とするならば、ディスプレイを内製化し、そこから技術的な差別化やコストダウンをしていくというのは、自然にたどり着く発想だ。
液晶テレビ事業に引っ張られるようにして、ディスプレイ――町田路線に回帰していくのは、合理的な判断の行きつく先として、この会社にとって自然な成り行きだったのである。
● 液晶以外の「希望の星」がなかった
まとめてみよう。
町田・液晶路線に決別した後、シャープに残ったICT・スマートライフ・エレクトロニックデバイスの各事業の中には、結局、大きく会社を飛躍させられるような希望の星がなかった。
そんな中、依然として液晶テレビにはブランド力があり、安定的な売り上げを上げていた。かような状況の中で、再び液晶ディスプレイで勝負をしたいとシャープ経営陣が思ったとしても、それは無理からぬことだったのかもしれない。
だとすれば、シャープのミスは、液晶ディスプレイの競争力を高められなかったことではない。
むしろ、町田路線と決別したにもかかわらず、液晶以外の次なる有望製品を育てられなかったことが、現在の惨状を招いたといえる。
シャープは結局のところ、“液晶のシャープ”から、脱せられなかったのだ。
中川功一
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5月22日 MicrosoftStartニュース ITmedia ビジネスONLiNE「衰退するシャープは「日本そのもの」か “世界の亀山モデル”が失敗パターンにハマった理由
シャープの亀山工場はなぜ衰退したのか
© ITmedia ビジネスオンライン
「世界が驚く大谷翔平のショータイム」と日本中がお祭り騒ぎをしている横で、ひっそりと「世界が驚いたメイドインジャパン」が消えていくことが決まった。
かつて「世界の亀山モデル」とうたわれた、シャープのテレビ向け大型液晶パネルの生産が2024年9月をもって終了することとなったのである。
覚えている方も多いだろうが今から約20年前、シャープの国産液晶パネルは「世界に誇る日本のものづくりの象徴」だった。それはシャープの社史でもこんな風に自画自賛されている。
「液晶パネルからテレビまでを一貫生産する亀山工場が稼働。日本でしかできない、世界最先端のモノづくりを実現し、ここでつくられる液晶テレビは、高品質の『亀山モデル』として人気を呼んだ」(シャープ100年史 「誠意と創意」の系譜 第10章)
そんな「垂直統合型工場」でつくられた「世界の亀山モデル」は海外でも高く評価され、「米国では2002年上期において、2位の14.4%を大きく引き離す33.5%のシェア獲得に至った」(同上)こともある。
ただ、本連載でも繰り返し述べているように、日本のものづくりメーカーが「わが社は世界一」と言い始める時というのは「衰退」が始まっていることが多い。
「世界最先端」などは本来、第三者が評価すべきことだ。それをなりふり構わず自分自身で宣伝してまわる企業というのは、地道に評価を高める余裕がない。つまり、先が見通せず苦しいからなのだ。
●シャープはまるで「日本そのもの」
シャープもご多分に漏れず経営が苦しくなっていく。垂直統合だけではやってられない、と生産した液晶パネルを海外メーカーにも外販するようになったが、それによって熾烈(しれつ)なコスト競争に突き進むこととなる。じわじわと衰退を続けるシャープは、2015年にはついに経営危機に陥り、翌年に台湾の「鴻海精密工業」の傘下に入ることとなる。
その後、鴻海から送り込まれた戴正呉(たい・せいご)氏のもとで再建に乗り出して、2018年3月期には4期ぶりの最終黒字。2020年度決算でも最終利益が前年比3.9倍と大幅な増益となるなど「再建」を果たしたかのように見えたが、2023年3月期連結決算で買収以来初、6年ぶりの赤字へと転落した。
そして2024年、ついに「世界に誇る日本のものづくりの象徴」であるテレビ向け液晶パネルが生産終了となったわけだ。
こういう栄枯盛衰の流れを見ていると、つくづくシャープという会社は「日本そのもの」だと感じる。「失われた30年」で国力が衰退をしていく中で、外国人から観光やアニメが高く評価されたことで多少景気のいい話は聞こえてくるが、国力衰退には歯止めがかからない。国民の豊かさをはかる1人当たりのGDPは韓国に抜かれ、2023年にはついに台湾にも抜かれた。
これはシャープも同じだ。「世界の亀山モデル」と自画自賛してから衰退が進むと、外国資本に買収されたことでいっときは持ち直すが、やはり衰退に歯止めがかからない。かつて「世界最先端」と胸を張ったテレビ向け液晶パネルは今や中国と韓国の「お家芸」にとって代わられた。
では、なぜ日本もシャープも衰退が止まらないのかというと、実はどちらも同じ「失敗パターン」に陥っている。一言で言えば、「過去の栄光にしがみつくあまり、世界の急激な変化に対応できない」ということだ。
●分かりきっていた赤字転落の理由
実は2023年3月期連結決算で、シャープが6年ぶりに赤字転落した理由は分かりきっている。それは経営危機で株の大半を手放していた、液晶パネルを生産する「堺ディスプレイプロダクト」(SDP)を、2022年6月にファンドから買い戻して完全子会社化したことだ。
近年はSDPの業績が悪化し、減損損失を計2205億円計上。この低迷ぶりが2024年に入ってからも改善の兆しがなく、テレビ向け大型液晶パネルの生産が終了になったという流れだ。
このSDP買い戻しという「経営判断」に対しては、かねてシャープの株主から厳しい批判が上がっていた。
SDPは鴻海の傘下に入った時に、構造改革の一環として株の大半が手放された。つまり、シャープの業績の足を引っ張る存在だと見なされていたのだ。そこから時を経て、SDPはさらに厳しい経営環境に陥っている。
SDP自身が公式Webサイトで「リーディングカンパニー」だと胸を張る大型液晶パネルは、世界市場では中国の京東方科技集団(BOE)や華星光電(CSOT)、韓国のサムスン電子やLGディスプレイが幅を利かせているのだ。
そこに加えて液晶パネルの市況自体も悪化。そんな最中にシャープはSDPを買い戻して完全子会社化したものだから株主は大激怒。「経営判断を誤った当時の経営陣は責任をとるべき」「これは株主への重大な裏切りではないか」と株主総会では厳しい声が続出したのだ。
●なぜシャープはSDPを買い戻したのか
疑問なのは、なぜシャープは「SDP買い戻し」という「負けが見えている戦い」へのめり込んだのかということだろう。
オフィシャルに語られている大義名分は「中国が米中貿易摩擦の最中にあることから(中略)SDPは米州市場向けのパネル供給において優位性が期待できる」ということだ。確かに、米国大統領選挙でトランプ氏が復権して同国が強硬に中国製品を排除した場合、BOEやCSOTの抜けた穴を、SDPが奪うというシナリオは考えられる。
ただ、本質的なところでは、鴻海が「シャープの過去の栄光」にしがみついてしまったことが大きいのではないかと筆者は見ている。
鴻海は買収してからも、ことあるごとにシャープというブランドを大事にすると明言してきた。売却されたシャープ本社を買い戻すと宣言してみたり、欧州でライセンスを売却していた会社から、やはりライセンスも買い戻したりするなどブランド戦略に力を入れていた。
しかしそのような努力もむなしく、残念ながら「シャープ」というブランドの再興まで至っていない。海外の液晶パネル市場でかつてのような存在感を取り戻すこともできていない。
そんな風に買収のシナジー効果がなかなか得られない鴻海をさらに焦らせたのが、ライバルである中国の家電大手・海信集団(ハイセンス)の動向だ。
●シャープを巡る因縁
実はシャープは経営危機にあえいでいた2015年、米国でのテレビ自主生産・販売から撤退し、ハイセンスに「SHARP」「AQUOS」などのブランドを供与していた。それを鴻海の傘下に入ってから方針を変え、2019年にハイセンスとの契約を見直してブランドを取り戻していたのである。
そこで鴻海としては、買収した「SHARP」「AQUOS」というブランドを1日でも早く立て直して、シナジー効果を得たいと動き出すわけだが、ほどなくして、鴻海が目指す「日本ブランド再生計画」を先に実行してしまう中国企業が現れる。
そう、ハイセンスだ。
これには鴻海の経営陣は焦ったはずだ。2016年に買収してからなかなか「液晶のシャープ」を復活させられないのに、ハイセンスは2018年に買収した「REGZA」の復活に成功。しかも若年層を中心に「ハイセンス」ブランドのテレビまで売れている。なんとか早く北米で結果を出さなくては――。そんな焦りが、経営陣の状況判断を誤らせて、赤字体質のSDPを買い戻すという暴挙につながったのではないか。
もちろん、これはあくまで筆者の想像に過ぎない。ただ、このように過去の栄光や成功体験に固執するあまりに、冷静な状況判断ができなかった、というのは鴻海から送り込まれた呉柏勲(ご・はくくん)シャープ代表取締役社長も5月14日に認めている。
「過去2年間で非常に大きな変化があり、対応が足りなかった」
実はこれは失敗する組織の「あるある」だ。指導者層は議論と熟慮を重ねて「これがベストだ」と決断しているのだが、客観的にみると、過去の成功体験に引きずられて「変化」に背を向けていることがよくある。
●「輝かしい過去」は捨てられない
冒頭で紹介した社史を見るといい。「日本でしかできない、世界最先端のモノづくり」と自分たちでうたっている。こんな「輝かしい過去」をそう簡単に捨て去ることができるだろうか。
できるわけがない。そこでタイミングよく親会社の鴻海も米国市場に再挑戦せよと言ってくれる。既に中国や韓国のメーカーから大きく引き離されて、勝ち目がなくてもかつて世界を驚かした技術力こそあれば「液晶のシャープ」を復活できるはずだ――。そんな「勝機」が見えていたのかもしれない。
このような失敗から立ち直るには、呉社長が述べたように「変化に対応する」しかない。液晶パネルを生産停止後、SDPはインド有力企業に技術支援をしたり、AIデータセンター関連などへの事業転換を図ったりするという。鴻海もシャープの黒字化を支援するため、次世代通信やAIの分野で協業を深めていくことを表明している。
●そろそろ本気で「世界の変化に対応」すべき
これは前にも述べたようにそのまま日本にも当てはまる話だ。
インバウンドや外国人労働者という「国外の力」によってどうにか持ち堪えているが、国力衰退に歯止めがかからないのは、われわれの社会がこの期に及んで「昭和の成功体験」を引きずって変化に対応ができていないからだ。いつまでたっても、裏金や利権など昭和から延々と続く政治システムや、「大企業春闘で賃上げムードを盛り上げる」などと中小企業が99.7%を占める日本経済にそぐわない経済政策から脱却できない。
中国や韓国や台湾にさまざまな分野で抜かされても、「なんやかんやいって日本の技術力のほうがスゴいだろ、最近はアニメとか大谷翔平とかも世界で絶賛されているし」なんて呑気なことを言っている人も少なくない。要するに、「成功体験」にとらわれて冷静な判断ができていない状態だ。
そろそろ「日本スゴい」の成功体験を忘れて、「日本ヤバい」という変化に対応していかないと、日本全体が、海外資本に助けられないと存続できないシャープのようになってしまうのではないか。
(窪田順生)
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