🐟24〗─1─「魚が獲れない」は世界で日本だけという衝撃事実。日本は漁業大国ではない。~No.95 

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 2022年9月13日 YAHOO!JAPANニュース 「「魚が獲れない」は世界で日本だけという衝撃事実
 世界で見ると漁獲(生産)量は2億トンに倍増
 片野 歩 : 水産会社社員
 食用に向かない小さなマサバやマイワシが、容赦なく漁獲されている(写真:Aoki Nobuyuki)
 サンマ、サケ、スルメイカをはじめ、漁獲量の減少に関する報道が後を絶ちません。時折「前年よりも増加」などという報道もされますが、それはすでに、ものすごく減少した漁獲量に対してである場合がほとんどです。10~20年単位でみていくと大した増加ではなく、それどころか、ほぼ全魚種が減少を続ける傾向にあります。
 「日本の漁獲量が減少している」という報道はされても、「世界全体では増加している」という報道を耳にした記憶がありません。そこで、日本と世界では漁獲量の傾向がまったく異なることをファクトベースで説明します。そしてどのような対策が必要なのかについてもお話しします。まずは「知る」ことが大切です。
 実は世界では漁獲(生産)量が増加している
 上のグラフをご覧ください。水産白書のデータです。学校の教科書には、このデータから日本の水揚げ量が減少している部分のグラフだけが載せられています。このため1977年に設定された200海里漁業専管水域により、遠洋漁業の衰退などにより魚が獲れなくなり、後継者不足や高齢化で大変な1次産業と、先生が児童や生徒に教えてしまうのです。
 これだけでは、世界で起こっている現実がまったく伝わりません。魚が消えていくことは、私たちの生活にとても身近な問題なのに……です。
 次に世界全体の漁獲量推移のグラフを見てみましょう。天然と養殖を合わせ右肩上がりに増えています。1988年に1億トンに達した水揚げ量は、2020年では2億トンと倍増しています。
 天然と養殖物について見てみると、天然物が横ばいであるのに対して、養殖物の数量が著しく伸びています。天然魚の水揚量は頭打ちのように見えます。しかし実態はそうではありません。
 わが国は獲れるだけ獲ろうとしてそれでも獲れない状態です。一方で、北欧、北米、オセアニアなどの漁業先進国は、実際に漁獲できる数量より「大幅」に天然魚の漁獲量を制限しています。そして漁業で成功している国に共通しているのが、サスティナビリティを考慮している点です。
 世界で漁獲量が増える一方で日本は減少
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 日本と世界の漁獲量推移を比較した上のグラフをご覧ください。世界では漁獲量の増加が進んできた時期に、日本では1200万トンから400万トンへと逆に3分1に激減しているのです。
 世界全体の水揚量は増え続けているのに、日本だけが多くの魚で減り続けています。しかしこの「異常」な現実は、一般にどころか、社会科を教えているような先生方にも、ほとんど知られていません。
 なぜ、子どもたちに教える先生が、世界と日本を比較した魚の資源状態のことを知らないのでしょうか? それは、先生方がその現実を学ぶ機会がほとんどないからです。
 上のような世界全体と日本の水揚量推移でグラフを作ると、世界と日本の傾向が明確に異なることがわかります。このグラフ1枚をベースに、学校で世界と日本の傾向が著しく違う理由に関して授業を行えば、先生も含めてその深刻さに気づくことでしょう。
 世界銀行の発表をみると、日本がいかに特例であるかがわかります。世界銀行が2010年と2030年の海域別の水揚量を予測したこの表は、世界全体では23.6%増えているのに、日本の海域だけが-9%とマイナスを示しています。しかも2030年を待たずして2015年で460万トンにまで減っており、前倒しで悪化しているのです。2021年は417万トンで減少が止まりません。
 日本の漁獲量の未来に対して悲観的なのは、世界銀行だけではありません。今年(2022年)にFAO(国連食糧農業機関)から発表された2020年比の2030年の日本の予想は7.5%の減少見込みとなっています。一方で、世界全体では13.7%の増加と予想されています。世界銀行・FAOと、世界が見る日本の漁獲量の未来は非常に悲観的です。
 日本の水揚げが減少した本当の理由
 日本の水揚げが大幅に減った原因として、マイワシの水揚げが減少していることが理由になったりします。しかしこれは誤りで、マイワシの水揚げは、東日本大震災があった2011年以降は急激に増えており、逆に全体の水揚げ減少を抑える要因になっています。
 ほかにも、「獲りすぎが起きている」と本当の理由を言わずに責任転嫁している例として、「海水温の上昇」がよくあがります。もちろん海水温は資源の増減に影響しますが、日本の海の周りにだけ起きている現象ではありません。
 外国の船が獲ってしまうから、という理由もよく出てきます。しかしながらこれも、マダラ、ハタハタ、イカナゴをはじめ、外国漁船の影響はあまり関係がないケースがほとんどです。
 サンマについては、国際資源です。これも公海での国別の漁獲量さえ決まっていない現状では、外国ばかりを非難しても仕方がないことを理解せねばなりません。
 漁獲量の減少理由を、クジラのせいだと誤解している方がいるようです。もちろんクジラはたくさんの小魚などを食べます。アラスカなどで、群れでニシンを追い込んで一飲みにする映像をご覧になった方もいるでしょう。
 IWC国際捕鯨委員会)からの脱退で日本が調査捕鯨をやめた海域は南氷洋で、そこでは最も多くクジラが生息しています。日本の周りにばかり、魚をたくさん食べてしまうクジラがいるのではありません。クジラはエサになる水産資源が豊富な海域に来ます。次の表で太平洋と大西洋、そして南氷洋に生息するクジラの推定生息数を比べてみましょう。
 日本だけ特別に影響があるわけではない
 太平洋のミンククジラ(出所:IWC)
 最も資源量が多いミンククジラは、日本の周りを含む太平洋(推定約2.4万頭)より、大西洋のほうが、はるかに推定生息数が多い(推定約14.5万頭)ことがわかります。南氷洋はさらに多い(推定51.5万頭)です。つまり、クジラが食べる影響についても、日本だけ特別に影響があるわけではないのです。
 かえってノルウェーアイスランドなどのほうが、影響が多いことが予想できます。しかし魚の資源量では、マダラ、マサバ、ニシンなど同じ魚種でもそれらの国々のほうが、資源量が多く、サイズも大きいという逆の現象が起きています。
 世界の海で日本の周りばかりクジラがたくさんいて魚をバクバク食べた結果、魚が減ってしまったと責任転嫁するのは、クジラに申し訳ないのです。
 「スルメイカが獲れない」というニュースを聞いたことがあるかと思います。その原因として挙がるのが、外国船による操業です。ただ、その一方で、日本では、写真のように生まれたばかりと思われる小さなスルメイカを獲って売っています。これでいいのでしょうか? 自国のことは棚に上げて外国ばかり非難しても何の解決にもつながりません。
 スーパーで売っていた小さなスルメイカ(写真:筆者撮影)
 日本の水産資源を復活させるには?
 日本の水産資源を復活させる方法にはすでに答えがあります。その答えは「科学的根拠に基づく資源管理」です。魚種ごとに漁獲枠を決め、沿岸漁業に配慮しながら漁法ごとに漁獲枠を配分する。さらにそれを漁業者や漁船ごとに配分する(個別割当方式=IQ,ITQ,IVQなど)ことなのです。
 わが国の場合は、国際合意があるクロマグロを除き、漁獲枠が大きすぎてまだ資源管理が機能していません。枠の配分を見直す(少なくする)ことで、漁業者は自ら価値が低い小さな魚や、脂がのっていないなどの価値が低い時期に魚を獲らなくなります。
 魚の価値は上がり、産卵して資源を増やす機会が増えてウィンウィンとなるのです。現在は、魚が獲れない⇒小さな魚まで獲る⇒魚が減る⇒魚が獲れないといった悪循環を続けてしまっています。この負の連鎖を断ち切らねばならないのです。水産庁が進めようとしている改正漁業法に基づく改革に反対するのではなく、さらに進めていくために、正しい知識に基づく国民の理解とサポートが重要です。
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 10月22日 YAHOO!JAPANニュース 東洋経済オンライン「「魚が獲れない日本」と豊漁ノルウェーの決定的な差! 「大漁」を目指さない合理的理由
 漁業先進国は科学的根拠に基づく水産資源管理をしている。水産業で成長を続けるアイスランドのアカウオ(写真:筆者提供)
 筆者の記事『「魚が獲れない」は世界で日本だけという衝撃事実」』に対して、大きな反響が寄せられました。日本は「漁業大国」という旧来のイメージが頭の中にあり、現在の漁獲量の激減ぶりをはじめて知ったという人が少なくないようです。
 【写真】ノルウェーは食用にならない小型のサバは漁獲されない
 改めて日本と世界の漁獲量推移を比較したグラフを確認しましょう。世界では漁獲量の増加が進んできた時期に、日本では1200万トンから400万トンへと逆に3分1に激減しています。
 日本の漁獲量の減少の仕方は、世界でも類を見ない異常な状態です。この現実を知って行動を起こさないと、国は動きにくく、成長を続ける世界の漁業・水産業とは対照的に衰退が止まりません。
■魚が減った原因を「乱獲」と認められない国
 北欧・北米・オセアニア(以下、漁業先進国)をはじめ、漁業で成長をとげる国々は、科学的根拠に基づく水産資源管理をしていることが共通しています。水産物輸出で世界第2位、水産業で大きな成長を続けるノルウェーをはじめ、漁獲量減少の原因を「乱獲」と認めて資源管理に大きく舵を取った国々があります。
 一方、わが国では、漁業者に任せる自主管理が主体です。さらに、魚が減っていく主な理由を「乱獲」と認めない傾向にあります。「よくわかりません」ではなく、もしわからないのであれば、FAO(国連食糧農業機関)の行動規範にあるように、予防的アプローチをすることが必要です。
 前回記事に対するリアクションで、目についたのが「漁業者が悪い」という趣旨のコメントでした。「魚が獲れない⇒小さな魚まで獲る⇒魚が減る⇒魚が獲れない」という悪循環の中で、確かに小さな魚まで獲っているのは漁業者です。
 しかしながら、筆者は漁業者が悪いとは考えていません。それは「自分ゴト」として考えていただけるとよくわかります。悪いのは、漁業者ではなく、資源管理制度がまだ機能していないことにあります。
 大きくて、脂がのった旬の時期のほうが、消費者のニーズに合い価格が高いことを漁業者が知っていることはいうまでもありません。しかし、小さな魚でも自分が獲らなかったら、他の漁業者が獲ってしまうことになります。これを「共有地の悲劇」と呼びます。
 ご自分が漁業者という前提で考えてみてください。昔たくさん獲れていた魚が獲れなくなり、どんどん価値が低い小型の魚ばかりになっているとします。価値が低いと言ってもお金にはなります。しかし、大きくなってしまう前に獲ることで、資源が減っていくことは誰にでもわかることです。
 全体としては悪循環となりますが、漁業者自身は生活がかかっているので、この状況下では「小さな魚でも獲る」という選択に、ならざるをえないのではないでしょうか。
 この状況がまさに「乱獲」です。しかしこれは漁業者が悪いのでしょうか?  漁業先進国でのほとんどの商業魚種がそうであるように、水産資源を適切に管理にしている国々では、日本のようなことは起こりません。
■漁業先進国の漁業者はどう違う? 
 わかりやすい成功例として、筆者が長年見てきたノルウェーの漁業者のケースをあげてみましょう。漁業者には、漁船ごとに実際に漁獲できる数量より、はるかに少ない漁獲枠が割り当てられています。
 漁業者の関心は「大漁」ではありません。決められた漁獲枠でどれだけ「水揚げ金額」を上げるかに関心があります。つまり重要なのは「水揚げ数量」ではなく「水揚げ金額」となります。
 価値が低い小さな魚や、市場の評価が低い、おいしくない時期の魚については、安い魚を獲るために貴重な漁獲枠を使うのは、もったいないという発想になるのです。
 他の漁業者が水揚げしているからといって、すぐに漁場に向かうということはしません。それは、水揚げが集中すれば魚価が下がるからです。
 漁業者は、どの漁業でどのくらいの大きさの魚が何トン獲れたかをネット上で公開します。そしてバイヤーである冷凍加工業者はその中身を見て入札します。ネットに公開する情報の内容に駆け引きはありません。
 漁業先進国の漁獲枠は、譲渡可能であったり(ITQ・ニュージーランドなど)、漁船ごとであったり(IVQ・ノルウェー)など国によって運用は異なります。しかしながら、大漁祈願をして価値が低い小さな魚まで一網打尽にする漁業は行っていないという点で一致しています。
 自分が漁業先進国の漁業者であったとしたらどうでしょうか。貴重な枠で少しでも水揚げ金額を増やすことに腐心し、価値の低い魚は獲るのを避けるのではないのでしょうか?
■魚のサステナビリティに無関心な日本人
 消費者の意識も日本は進んでいるとは言えません。フランスの調査会社「イプソス」が28カ国の人々を対象に実施した調査が、日本人がいかに魚のサステナビリティに無関心であるかを浮き彫りにしています。
 以下は拡大図です。世界平均で80%の人が水産物を選ぶ際に、サステナビリティを非常に重要、もしくは重要と捉えているのに対し、日本人の平均はわずか40%と段トツに低く、下から2番目のロシアでも73%です。また、まったく重要ではない、が11%もあります。この項目が2桁の国は他になく、サステナビリティ意識の面で国際的に大きく後れを取っています。
■「安くておいしければいい」の危なさ
 みなさんは、魚を店で買ったり、外食で食べたりする際に、その魚の資源の持続性について考えることがあるでしょうか。「こんなに小さな魚を獲って大丈夫か」「この魚は絶滅危惧種ではないのか」「密漁品ではないのか」ということより、多くの方が「安くておいしければいい」に注意が向いているはずです。魚の資源が激減して大変なことになっていることに、考えをめぐらせるのはごくわずかではないかと思います。
 しかし「安くておいしければいい」という考え自体が、世界と大きくズレてしまっているのです。SDGsの14番目のゴール「海の豊かさを守ろう」で明記されているIUU漁業(違法・無報告・無規制)の廃絶についても関心が低いわが国では、そもそも発泡スチロールの鮮魚の外箱にバーコードさえない場合がほとんどです。その結果、厳格なトレーサビリティ(生産流通履歴)が確保されておらず、クロマグロ、アサリをはじめ、虚偽報告や産地偽装が後から発覚するのです。
 水産資源を守り、おいしく魚を食べ続けるには、客観的な事実に基づいた「水産資源管理に関する正確な情報」を共有することが不可欠です。国民の理解が得られれば、行政も動きやすくなります。
 国は「国際的にみて遜色のない資源管理」を目指しています。これに対し、世界の成功例に目を背け、水産資源を減らし続けて一番困るのはほかならぬわれわれ日本人です。 
 片野 歩 :水産会社社員」
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