📉32】─1─日本の一流大学で人材が育たない根本原因。日本電産・永守重信。~No.69No.70 

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 2022年10月1日 MicrosoftNews プレジデントオンライン「「英文科なのに英語がしゃべれない」日本電産永守重信が指摘する日本の一流大学で人材が育たない根本原因
 © PRESIDENT Online 京都先端科学大学で講演をする永守重信日本電産会長兼永守学園理事長
 日本電産永守重信会長には、もう1つ、中高大一貫教育の京都先端科学大学を運営する学校法人永守学園理事長としての顔がある。世界を相手に1分1秒を争う厳しい競争に身を置きながら、限られた時間を割いてなぜ「教育」に情熱を注ぐのか。この度上梓した『大学で何を学ぶか』で明かされた若者たちへの熱い思いを特別公開する──。(第1回/全2回)
 ※本稿は、永守重信『大学で何を学ぶか』(小学館新書)の一部を再編集したものです。
 4人でスタートした日本電産
 私は今、日本電産という会社で会長とCEO(最高経営責任者)を務めている。日本電産は2023年4月にニデックに社名変更をするのだが、日本電産という社名自体を知らない人もいるかもしれない。しかし、皆さんが持つスマートフォンやゲーム機、パソコン、家にある自動車、それらの中には我が社のモーターが使われている。
 「世界一の会社になる!」という大きな目標を掲げて、私が3人の仲間たちと京都に日本電産を設立したのは、今から約50年前の1973年のことだ。
 最初の本社は自宅の6畳間、工場はプレハブ小屋で、私以外の社員は3人。
 そんな我が社が事業の中心に据(す)えたのは、私自身が学生時代から研究し続けてきた精密小型モーターだった。
 自宅の6畳間から、50年後に1兆9000億円企業へ
 しかし当時、製品を発注してくれる会社は国内にほとんどなかった。当初はお金もない、人も少ない、知名度もない、ないないづくしの零細企業だったから、それも当然かもしれない。
 そこで私たちは海外に販路を求めた。「日本でだめならアメリカで勝負だ」と必死の思いで私は自らアメリカに渡り、片っ端から現地で企業の門を叩いたのだ。
 そして独自の発想と技術力によって、当時は難しいといわれていたモーターの小型化に成功して大口の注文を取った。これを皮切りに「世界初」や「世界最小」といった、他社に真似のできない製品を次々と世に送り出してきたのである。
 50年前にたった4人で始めた小さな会社は、現在では世界43カ国に300社を超える関連会社と、約14万人の従業員を抱え、1兆9000億円の売上高(2022年3月期)を誇る総合モーターメーカーに成長している。
 1万2000人の新入社員を迎えてわかったこと
 日本電産では、これまでに1万2000人ほどの新入社員を迎えてきた。そして、人材の採用や教育を行なっているうち、私は「今の日本の大学教育は間違っているのではないか」と考えるようになった。
 日本の企業の採用戦略は、今なお有名大学や偏差値の高い大学から人材を選ぶのが主流だ。だが、そうした大学を出ても学生が社会に出たときに活躍できる力が身についているかといえば、疑問である。
 経験を踏まえて正直に言わせていただくと、世界水準の実力を備えた人材が十分に育っているとはいえないと思う。
 それなら、実力が身につくような大学を自分でつくればいい。私は次第にそう考えるようになった。
 「教育を変えれば、人は変わる」
 そこで2018年、京都学園大学を運営する学校法人の理事長になって大改革に乗り出したのである。
 翌年には「京都先端科学大学」と校名を変更し、2020年からは新たに工学部も開設した。これから自動車の主流となるのは電気自動車である。さらに、産業全体を見渡せばロボットやAI(人工知能)の時代になる。そんな時代に活躍できるプロのエンジニアやビジネスパーソンを育てるためだ。
 2021年からはより早い時期からの教育が必要だと考え、附属中学校や附属高校での一貫教育も始めた。ビジネスリーダーを育てるためのビジネススクールも2022年に開設した。
 大学改革に着手してから、4年余り。インターンシップ(企業での就業体験)や海外留学に挑戦する学生、起業を目指す学生も増えてきた。何より学生たちの顔つきがガラッと変わった。
 入学式で暗い目をしていた4年前とは打って変わり、今、授業に臨む学生たちの顔や眼差しは希望に満ちあふれている。私は今、「教育を変えれば、人は変わる」という思いを実感している。
 日本の大学の大問題
 そもそも私が大学の経営を始めたのは、世界に通用する人材を育てるためだ。
 自分のやりたい学問よりも偏差値で大学や学部を選ぶ「偏差値教育」や、有名大学に入ることにこだわる「ブランド大学主義」が中心の日本の教育システムでは、若い人の能力を十分に伸ばしきれないと考えている。
 小さな頃から試験に追われる子どもたちの目標は、たいていは親や塾の勧める偏差値の高い大学、有名な大学に入ることである。
 高校の進路指導でも、学部や学科選びの指導は二の次で、とにかく有名大学、すなわち偏差値の高い大学を目指すことが良しとされている。本人が何を学びたいか、どんな仕事をしたいかを教師と話すようなことは少なく、大学選びがもっとも重要視され、有名大学に入ることが推奨されるのだ。
 これでは本人の学ぶ意欲や主体性は削がれてしまうのではないか。
 一流大学出身者に根本的に欠けているもの
 また、希望の大学に入れたとしても、問題は社会に出た後である。
 一流大学に合格することだけを目的として試験勉強に勤しんできた人は大学に受かった途端、ほっとして遊んでしまうことや燃え尽きてしまうことがある。
 その結果、一流大学に入っても自分の専門分野をしっかり磨くこともせず、大事な4年間を無駄に過ごす人も多い。
 一流大学を卒業すれば、そのブランド力で企業から内定をもらえるかもしれない。しかし、自分の専門分野もなく、自分が何をしたいかという目標もない場合、結局は「大企業だから」とか「安定しているから」という理由で企業を選ぶことになる。
 それでは仕事への情熱は持ちにくい。自分から前向きに取り組むモチベーションも生まれてこないはずだ。仕事では辛いことも当然あるが、そんなときに「負けるものか」という気概も湧いてこない。
 世界で戦える力が育っていない現実
 確かに30年ほど前までは、偏差値の高い有名大学を出れば、いい人生を歩めたかもしれない。
 だが、この30年ほどの間に社会状況は激変した。グローバル化が進み、国境を超えたビジネスがかつてないほど盛んになっている。そのため、日本のビジネスパーソンにも世界水準の競争力が求められるようになった。
 そうしたなかでは、自分の専門分野をしっかり学んできていない人や、仕事への情熱を持てない人が活躍することは難しい。また、一流大学を出ていても、英語を話せる人が少ないのも問題だ。英文科を卒業していても英語を話せない人もいる。
 結局、今の日本ではたくさんの人が大学に行っているのに、世界で戦える力が育っていないのである。
 一番かわいそうなのは、これまで一生懸命、周囲に言われるまま受験勉強をしてきたのに、社会に出た途端に「役に立たない」と言われてしまう若い人たちである。五月病になったり、うつ症状が出たり、会社をやめたくなったりしても当然だ。
 しかし、今までたくさんの大学生や院生を採用してきたからこそ、私には今の若い人たちに何が足りないのか、なぜ元気がないのかがわかる。
 やる気と気概がすべて
 人間というのは、意識を変えれば必ず変わるはずだと私は信じている。その信念を支えているのは私自身の経験だ。
 日本電産ではこれまで多くの人材を鍛え、一流のビジネスパーソンに育ててきた。また自社だけでなく、世界中で赤字経営に陥った会社をM&A(企業の合併・買収)で傘下に入れてきたが、その会社の従業員は解雇せずに、経営を立て直すことをモットーにしてきた。
 これまで従業員のクビを切らず、会社再建を100%成功させている。従業員たちのやる気と気概こそがすべてを変えると知っているからだ。
 M&A後には企業体質を見直し、利益を生み出す構造を再構築する必要があるが、その際に大事なのは、こちらの方針を押し付けることではない。まずは従業員たちととことん向き合い、理念や方法論をわかってもらう。そのうえで従業員たちが主体となって考え、行動することが何より必要だ。
 働く人の意識を変えることさえできれば、会社はよみがえるのである。
 自ら「変わろう」「将来はこうなりたい」という思いはあるか
 それは10代、20代の人も同じはずだ。実際、大学改革に着手してから、大学生たちの意識は大きく変わっている。
 逆に言えば、自ら「変わろう」とか「こうなろう」と思わなければ、どんなに周囲が押し付けようとしても人間は変わらない。「将来はこうなりたい」という考えがなく、有名大学に入るための受験のテクニックを身につけただけでは、自ら考えて行動する力や失敗から立ち上がる力は身につかない。
 しかし、そうした力こそ、その後の人生の土台となってくれる大事な力なのだ。
 志望する学校に受からなかった人へ
 受験で志望する学校の試験に受からなかったと言って落ち込んでいる人がいる。しかし、ちょっと考えてみてほしい。「人生100年時代」といわれる今、10代の皆さんにはあと80年前後の人生が残っているということだ。
 もしあなたが志望する学校に受からなかったとしても、それで負け犬だなんておかしいとは思わないか。ずっと親の期待に沿うよう頑張ってきたのに、親の望む大学に落ちたら、10代で人生の敗者だなんて、そんなバカな話があるものか。
 今うまくいっていないと感じたとしても、けっして負け犬ではない。むしろこれはチャンスだと思ったほうがいい。受験に向けて頑張ってきた力を、これからは自分のやりたいことに向けるのだ。
 残りの80年を負け犬として生きるのか、それともここで一念発起して自分の生きたい人生を生きるのかは、あなたの考え方と頑張り方次第である。
 「中学を出たら働け」から28歳の起業
 私は貧しい家の出身で若いときに父親も亡くしたため、中学を出たら働けと言われていた。私のことを気にかけてくれていた先生のおかげで、奨学金で工業高校と職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)に行けることになったが、当時はとにかく学べることがうれしくて、寝る時間を惜しんで勉強した。
 そして28歳で起業したが、振り返ると10代、20代というのは人生のうちでもっとも体力があり、感性に優れ、大きな潜在能力を秘めている時期だった。そんな大事な時期に、受験で失敗したくらいで自信を失くして人生に投げやりになるなんて実にもったいない話である。
 今の若い人たちは覇気がないとか夢がないなど、何かと批判されることも多いようだ。私も厳しいことを述べることもあるが、本当のところは、今の若い人たちは捨てたものではないと思っている。
 もちろん批判されるような人もいるけれど、自分の夢や信念を持ち、それに向かって頑張っている人もたくさんいる。
 若者には信じられないほどの潜在能力がある
 若い人に覇気がなく、夢がない人が多いとすれば、それは、そのように育てた我々おとなの責任だ。
 若い時期には信じられないほど大きな潜在能力を秘めているから、何かのきっかけでやる気に火がつけば、体中からとてつもないエネルギーが湧いてくるはずだ。そして自分に自信を持ち、「自分には無理」と諦(あきら)めていたときには考えたこともないアイデアや行動力が生まれ、その人にしか出せない力が一気に開花するのである。
 私は、手にとってくれた皆さんの心に火をつけたいと思って、今回『大学で何を学ぶか』を著した。
 若い人たちには、ぜひ夢を持ってほしいと熱望している。大きな夢でも小さな夢でもいい。自信を持って、その夢を叶えるために邁進してほしい。
 そんな若い人たちがどんどん増えていったら、この日本はどれだけ明るく、希望にあふれた国になるだろうか。そんな日本を見ることが私の夢である。

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