⛻23〗─1─企業は多数派である中流階層の賃金を上げない。家計を苦しめる円安の諸物価高騰。~No.100No.101No.102 

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 2022年9月18日 MicrosoftNews 東洋経済オンライン「日銀がこの円安を止めないのは大企業が潤うから 中小零細や庶民はあえぎ賃金も上がらないのに
野口 悠紀雄
 賃金が安定的に上昇するようにならない限り金融緩和をやめないのであれば…(写真:yama1221/PIXTA)© 東洋経済オンライン 賃金が安定的に上昇するようにならない限り金融緩和をやめないのであれば…(写真:yama1221/PIXTA
 物価高騰が企業業績に与える影響は、企業規模によって大きく異なる。規模の大きな企業の利益が増大する半面で、零細企業の利益は減少している。
昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第77回。
 天国と地獄
 昨年秋以降、資源価格が高騰し、それに円安が加わって、輸入物価が高騰している。
 【グラフなど】日本人は「円安」がもたらした惨状をわかってない
 これは企業の原価を上昇させる。ところが、企業はこのすべてを売上高に転嫁することができないため、窮地に陥っていると報道されている。小さな飲食店などで、これが深刻な問題になっていると言われる。
 ところが他方で、上場企業の業績は好調だ。とくに資源関係の企業の純利益は史上最高だと報道されている。
 法人企業統計調査のデータ(金融機関を除く)を分析すると、以下に示すように、物価高騰の影響は、企業規模によって天国と地獄の差があることがわかる。
 企業全体の業績は好転
 図表1は、企業の売上原価などについて、2022年4~6月期の計数を2021年同期と比較したものだ。
 2022年4~6月期 企業の売上高などの対前年同期比© 東洋経済オンライン 2022年4~6月期 企業の売上高などの対前年同期比
 全企業について見ると、売上高の増加率(7.2%)は、売上原価の増加率(7.7%)を下回った。それにもかかわらず、粗利益(売上高―売上原価)は、5.7%増加した。
 これは、図表2に見るように、売上高の増加額(22.6兆円)が原価の増加額(18.1兆円)を上回ったからだ。
 2022年4~6月期 企業の売上高などの対前年同期増減額© 東洋経済オンライン 2022年4~6月期 企業の売上高などの対前年同期増減額
価格転嫁がどの程度なされたかは、売上高や原価の「増加率」ではなく、「増加額」で判断したほうがいいだろう。
 売上高の増加額が原価の増加額より大きければ、粗利益は増加する。そして、賃金や利益を増やすことが可能になる。その意味で、企業は、売上原価の上昇を売上高に転嫁したと言える(なお、売上高や原価の変化が、数量の変化によるのか、あるいは価格の変化によるのかについては、後述する)。
 図表1、2の「全規模」の数字を見る限り、企業の業績は好転している。
 物価上昇に伴う原価の上昇を売上高に転嫁できずに苦しんでいる企業が多いと言われるのだが、そうした状況は、この数字からは見られない。
 従業員給与・賞与の伸びは2.6%にとどまったので、営業利益や経常利益が13.1%、17.6%という非常に高い伸びになった。
 これで見る限り、資源価格高騰や円安は、企業にとって望ましい影響を与えている。
 他方で、賃金はあまり伸びず、消費者物価は上昇している。
 したがって、以上で見た限りでは、円安・物価高騰によって、企業の状況は好転しているが、消費者の状況は悪化しているということになる。
 地獄に突き落とされた零細企業
 ところが、状況を企業規模別に見ると、以上で見たのとは著しい違いが見られるのである。
 とくに悲惨なのが、資本金が5000万円未満の企業だ。
 資本金2000万円以上~5000万円未満では、売上高増加額と原価増加額がほぼ同程度だ。その結果、営業利益や経常利益が減少している。また、従業員数も減少している。
 資本金1000万円以上~2000万円未満では、売上高も原価も、そして粗利益も営業利益も減少している。従業員数の減少率は4.6%という高い値だ。
 資本金が1000万円以上~5000万円未満の企業の従業員数は1249万人であり、法人企業統計調査がカバーする企業の総従業員数3246万人の38.5%を占める。このように、全体の中で無視できない比重を占めている企業の状況が、このようなものなのだ。
 日本には、これより規模の小さい企業もある。また個人企業は法人企業統計では把握していない。こうした企業は、いま見た資本金1000万円以上~5000万円未満の企業と同じ状況、あるいは、それより悪い状況に陥っていると考えられる。
 以上で見た規模以外の企業についての状況は、つぎのとおりだ。
 どの資本金階層においても、売上高の増加額は原価の増加額より大きい。その結果、付加価値が増大している。つまり原価の上昇は、売上高に転嫁されている。
 この傾向がとくに著しいのは、資本金1億円以上~10億円未満と5000万円以上~1億円未満の企業だ。ここでは、売上高の増加率が原価の増加率を上回っている。その結果、粗利益、営業利益、経常利益の増加率が2桁になっている。5000万円以上~1億円未満では、営業利益が50%を超える高い伸び率を示している。
 企業規模によって影響が違う理由
 このように、最近の物価上昇による影響は、資本金階層によって大きく違う。
 なぜ企業規模によって大きな違いが生じるのだろうか?
 それは、企業間の取引は、経済理論で想定しているような完全競争市場(多数の参加者による競争的な市場)において行われるのではなく、少数の関係者によって行われ、価格が決められるからだ。
 その場合、特殊な技術などで差別化できる能力を持っているのでなければ、大企業が強い立場にあり、零細小企業はそれに従わざるをえない。
 零細小企業は、価格面で譲歩しても、取引を獲得できることのほうが重要と考えるだろう。下請け企業の場合には、とくにこうしたことになる。
 もちろん、こうした関係は、平常時においても存在するものだ。ただ、経済環境が変化しなければ、やむをえないものと考えられることが多い。しかし、今回のように価格が急激に変わる場合には、大きな問題を引き起こす。
 以上では、売上高や原価の総額の変化を見た。この変化が、売上高や仕入れの数量の変化によるのか、あるいは価格の変化によるのかは、以上で見た数字からはわからない。
 ただし、売上高の増加率も、売上原価の増加率も、ほぼ10%程度だ。売上高や仕入れの数量が10%も増加したとは考えられないので、図表1、2に示す増加の大部分は、価格の上昇によるものと考えられる。
 しかも、10%という数字は、企業物価の上昇率とほぼ等しい(2022年4月頃の企業物価の対前年比は、10%程度だった)。このことから推測すると、数量はあまり増えず、価格高騰によって売上高や原価が増加しているのだろう。
 賃金は今後も上昇しないだろう
 図表1に見るように、企業の業績によらず、賃金は大幅には引き上げられていない。とりわけ、 大企業の利益が著しく増加しているのに、賃金はさして上がっていない。このことが問題だとする見方が多い。
 ただし、これは、これまでも見られた現象であり、今回が初めてではない。しかも、傾向的に賃金分配率(粗利益に占める賃金の比率)が低下しているわけでもない。それは、企業利益が落ち込むときにも、賃金はほぼ一定の水準に維持されてきたからだ。このことは、2020年にも見られた。企業利益が激減する中で、賃金はほぼ一定の水準に維持されたのである。
 日本銀行は、賃金が安定的に上昇するようにならない限り金融緩和をやめないとしているが、賃金上昇率がこれまでの傾向から顕著に高まるような事態が起こる可能性は低い。だから、「賃金が上昇しないかぎり」というのは、「いつまでも金融緩和を続ける」というのと、ほぼ同義だ。
 以上で見たように、価格高騰の影響は、企業規模によって大きな違いがある。苦しんでいるのは零細小企業だ。それに対して、規模の大きな企業は、原価を売上高に転嫁しており、業績は好転している。
 歴史的な円安が問題だと言われながら、日銀は金融緩和政策を堅持するとしている。これは、大企業が円安で利益を得ているからだろう。」
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