⛻20〗─1─「日本の鉄道」はもはや途上国レベル?「日本の鉄道は世界一だ」は昔の話。~No.97 

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 2022年9月11日 MicrosoftNews Merkmal「「日本の鉄道」はもはや途上国レベル? 国鉄解体の功罪、鉄路・技術も分断され インフラ輸出の前途も暗い現実
高木聡(アジアン鉄道ライター)
 「日本の鉄道は世界一」なんて本当か
 2022年の夏も、いくつかの鉄道路線が豪雨災害等で被災した。そして、これらが果たして「鉄道」として復旧されるのかと言えば、かなり雲行きが怪しい。
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 災害を理由に鉄道が復活せず、そのまま廃線となることが今や一般化しつつある。地球温暖化を背景にした異常気象により、被害が甚大化しているという面も否めないが、それ以上に、過疎化の進行、利用者の減少で、鉄道というインフラが時代にそぐわないものになってしまったという方が大きいだろう。
 しかし、一方で、国はいまだに
 「日本の鉄道は世界一だ」
 「鉄道大国だ」
 などとのたまっている。
 災害の度に鉄路が失われていく状況だけを見れば、発展途上国レベル、いや、それ以下と言っても過言ではない。そんな状況で、よくも日本の鉄道システムを世界に輸出しようなどと言えたものだ。
 もっとも、日本の鉄道が基本的に独立採算を前提にしている以上、費用対効果を考えれば仕方のないことではあるが、さかのぼれば、国鉄民営化以来、いわゆるローカル線区を中心とした在来線に投資がなされず、開業以来の古い遺構を使い続ける災害に弱いインフラになり果ててしまった。
 筆者(高木聡、アジアン鉄道ライター)は国鉄解体そのものを批判しているわけではなく、解体自体は
 「必要だった」
 と考えている。問題は、分割民営化のやり方だ。
 結果、国土の骨格たる鉄路を守ることができなかった。地域ごとに鉄路は分断され、整備新幹線開業による並行在来線化でそれはますます顕著になっている。災害が起きずとも、既に日本の鉄道はズタズタだ。
 一見、線路はつながっているように見えても、JR各社のみならず、最近は路線ごとに別々の信号やオペレーションのシステムを有し、国鉄型車両が減少し、各社独自設計のものが増えた結果、各線を相互に乗り入れることも難しくなりつつある。そして、このことは鉄道システムの海外輸出に対しても悪影響を及ぼしている。
 解体で車両「カタログ販売」不可能に
 © Merkmal 提供 ジャカルタ首都圏の国電区間に導入された通称Rheostatikと呼ばれるVCW800・MCW500。登場時の前面窓は3分割されており、より103系らしく、性能は113系と同等(画像:高木聡)
 国鉄解体により、日本は世界に向けて、車両のいわゆる「カタログ販売」ができなくなってしまった。仮に国鉄時代であれば、0系新幹線を日本が誇る商品として世界に売り込むことができただろう。
 しかし、今、国を挙げてN700系新幹線を売り込もうものなら、大問題になる。JR東海が黙ってはいないだろう。つまり、民営化以降のJR各社の車両は、いわば各社が
 「それぞれ版権を持っている」
 状態だ。
 だから、車両メーカーないし、国は、これをそのまま「良い製品ですよ」と売り込むことができなくなった。事実、1980年代以前の車両輸出では、国鉄車両設計事務所が大きく関わっていた。
 この時代には国鉄と車両メーカー、また親方国鉄の下で、車両メーカー同士の横のつながりも強かった。原設計は国鉄型車両となる例が多く、そこから要求仕様、使用環境に合わせカスタマイズされた車両が輸出された。インドネシアには103系113系を足して2で割ったような電車(VCW800、MCW500)や、キハ40とキハ58を足しで2で割ったような気動車(MCW301、MCW302)が登場した。また、ボリビアコンゴ民主共和国のEF81のような機関車、スペインのEF66似の機関車はあまりにも有名だ。
 このような例は枚挙にいとまがない。ただ、1990年代以降、日本の新製車両輸出は減少した。中国、韓国の台頭で、日本の競争力が相対的に落ちたと言われるが、少なからず国鉄解体も絡んでいると筆者は考えている。
 国としての技術が各社に散逸してしまった。そして、車両を製造するだけのメーカー、運営やメンテナンスまでシステム全体をマネジメントするJR各社という分断が発生した。しかも、JR各社ですら、規格やシステムがバラバラになってきている。つまり、日本はナショナルスタンダードを失ってしまったと言える。
 海外向けに製造する余力がない日本
 © Merkmal 提供 日本の都市鉄道をほぼそのまま輸出する初の事例になったジャカルタMRT。STRASYAはE231系を元に設計されている(画像:高木聡)
 しかし、それではマズいということで、2000年代に入り、主に首都圏の車両に用いられる「通勤・近郊型標準仕様ガイドライン」に準じた、「アジア向け都市鉄道標準仕様(STRASYA)」が官民の連携により策定されることになった。要するにメーカー各社で共通のモジュールを持つようになったわけだ。
 ただし、同時期に各メーカーは別々のブランド(J-TRECのsustina、川崎車両のefACE等)を持ち始め、これを海外向けでも展開するようになっており、STRASYAの名称を用いたのは日本車両製のジャカルタMRT向け車両のみだ。
 その日本車両も、2021年からは自社ブランドとしてN-QUALISの名称を採用しているため、STRASYAの名称は自然消滅していくだろう。そもそも、STRASYA自体、その名が示す通り、冷房能力の強化や、メンテナンスが容易な機器構成といった東南アジア向けを前提とした特徴がある一方で、「狭軌・架空線方式・軽量ステンレス・車体長20m」という程度の漠然としたモジュールにすぎない。まさに、
 「総論賛成、各論反対」
 と言ったところだ。
 これは他のブランドにも言えることで、例えば、「sustinaと言えばコレ」といったものではない。静岡鉄道のA3000形も、相鉄12000系も、京急新1000形1890番台もsustinaだ。ブランド名が付いたのは一歩前進かもしれないが、カタログ販売、つまりメニューブックに載っている商品を選び、ひとつのモジュールをカスタマイズしていくという世界の潮流(シーメンスのモジュラーメトロなどが代表例)からは外れていることに変わりはない。
 メニューに「国産黒毛和牛」とだけ書かれていても、お客は困ってしまう。要するに、日本が具体的に何を売りたいのかが見えてないという不満が生まれる。そして、ゼロから調理するので納期が長い。さらに、通勤型電車以外の車種、気動車や機関車となれば日本国内ですら需要がないなかで、ほとんど競争力がない、いや海外向けに製造する余力、技術がないと言った方が良いかもしれない。
 中国案を採用したインドネシア
 © Merkmal 提供 9月2日にインドネシアに陸揚げされた中国中車製の高速鉄道車両、CR400AF(画像:高木聡)
 さて、先日、ジャカルタ~バンドン高速鉄道向けの1号編成が中国からインドネシアに到着した。インドネシアが日本案ではなく、中国案を採用したことに、日本政府は大いに怒ったと言われているが、負けは負けだ。
 そもそも、国家プロジェクトに入っていない(日本から借金までして作る気はない)ものを、無理やり日本が押し付けたわけで、実質政府負担のない中国案が採用されたのは当然のことだ。
 それはさておき、導入された車両は中国国鉄の最新の高速車両CR400AF「復興号」そのものだ。仮に日本が受注していたとして、日本の新幹線を果たしてそのまま輸出できただろうか。
 先述の通り、新幹線の技術を持っているのは民間企業であるJR各社だ。国はまずJRを説得するところから始めることになる。しかも、そのまま輸出するには、日本の新幹線はあまりにもコストが高すぎて、政府開発援助(ODA)で持ち込まれるような案件には通用しない。だから、JR東海はそもそも海外ODA案件には決して手を出さない。かといって、時期的にJR東日本はインド新幹線案件に相当のマンパワーを割いており、インドネシアどころの話ではなかった。結果的に中国案が採用されて良かったという関係者の声が大きいのも事実だ。
 「鉄路先行交通強国」とは中国政府のうたい文句であるが、こんな勇ましいスローガンを打ち立てる国に、今の日本が勝てるわけがない。日本国内の鉄道の疲弊具合を見ていれば、一目瞭然だ。
 コロナ禍を機に、日本国内の鉄道はさらに「見直し」が進んでいるが、鉄道会社任せ、地方自治体任せで国の積極的な介入が見られない。それどころか、線路を剥ぐこと、細分化していくことしか考えていないように見える。
 国鉄解体時に、
 「ローカル線もなくならない」
 「長距離列車もなくならない」
 と約束した政府与党自民党は、今こそ全国ネットワークとしての鉄道に対してしかるべき責任を取るときだ。死人に口なしとは言うが、反共・勝共の名の下に、日本規格の鉄道システムをアジアに展開するという崇高な理想を掲げる前に、まず自分の足元を見たらどうか。
 鉄道インフラ輸出に苦難が訪れるとき
 © Merkmal 提供 世界中の都市に導入されているシーメンス製モジュラーメトロ。写真はタイ、BTS/MRT(画像:高木聡)
 全国ネットであってこその鉄道だ。それが失われれば、優位性は大きく劣ることになる。結果、JR境界をまたぐ列車が激減し、会社間を複数またぐ貨物列車の運行の弊害にもなっている。そして、新幹線から物理的に切り離された地方線区は単なるお荷物になってしまった。
 鉄道ネットワークが分断されただけでなく、国を代表する鉄道会社が不在なのが今の日本の状況だ。ただでさえ、小さな島国で、どうして規格が統一されず、こうもバラバラなのか。こんな状況では、世界に売り込めるものも売り込めない。
 日本の少子高齢化はどうあがいても止めることができないなか、大量輸送機関としての鉄道を維持するには、鉄道インフラの海外輸出、あるいはインバウンド観光客の呼び込みという2択に迫られる。いずれにせよ、国の骨格をなす、強い鉄道を国の責任の下に再構築することは急務だ。
 同時に、行き過ぎた合理化で、鉄道のシステムが誰でも扱えるように簡素化された。結果、鉄道技術を知る人材が大きく減った。今、海外鉄道プロジェクトの最先端に立って活躍し、欧州を中心とした若い専業の鉄道コンサルと戦っているのは、国鉄OB、また、国鉄時代のメーカー技術者たちだ。彼らは世界に通用する高い技術力を持っているだけでなく、会社を越えた幅広い人脈を持っている。これこそが、真のオールジャパンだ。
 しかし、当然ながら高齢化は深刻だ。健康上の理由で、海外に渡航できなくなってくる人もいるし、皆、そう遠くない将来、引退せざるを得ない。国鉄時代に鍛え上げられた鉄道マンがプレーヤーから去ったとき、日本の鉄道インフラ輸出にとって本当の意味での苦難が訪れるのだ。」
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