🍙64〗─1─日本のメディアが「エイズ・パニック」を煽り偏見・差別・イジメが横行した。〜No.322No.323No.324 

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 エイズ患者は、故ダイアナ妃の勇気ある行動で救われ、励まされた。
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 2021年11月27日号 週刊現代「人間は間違える
 35年前、デマと流言が社会を覆った
 無知と偏見が引き起こした
 日本『エイズ・パニック』の記憶
 感染者がいた県のナンバー車は非難で見られ、外国人はスーパーの入店を拒否された。これはコロナ禍の話ではない。バブルが始まって間もない頃、日本では未知のウイルスをめぐる大騒動があった。
 患者を『加害者』に仕立てて
 感染症で社会が分断されてしまう──。コロナ禍の35年前、同じことがこの日本で起きていた。
 〈神戸で女性エイズ患者〉〈厚生省認定 日本人初の異性間性交渉発病〉〈数年間売春重ねる〉〈29歳 二次感染強く懸念〉
 これは87年1月18日付の神戸新聞朝刊の大見出しだ。厚生省はこの前日、日本人女性初となるエイズ患者が神戸市で確認されたと発表していた。全国紙も同様にセンセーショナルに報じている。
 〈初の日本女性エイズ患者 神戸の29歳 100人以上と〝交渉〟〉(読売新聞)
 〈一線越えた〝特殊な病気〟エイズに女性患者地元は予防PRへ〉(朝日新聞
 初めての女性エイズ患者は売春をしていた──。
 現在の感覚からすれば、患者の個人情報があからさまに公開され、報道されること自体がありえない。しかも、それだけではなかった。実は、これらの報道は『大誤報』だったのである。
 『不特定の男性100人以上を相手に7年間売春行為を続けていた』『感染源はギリシャ人船員』『三宮・元町で出会った男性と性交渉を持った』
 女性の行動には非があり、ゆえにエイズなどという『恥ずかしい病気』を発症した・・・。各紙は一斉にそう書き立てた。
ところが、女性は売春をしたという事実はなかったのだ。一連の報道をめぐって遺族が起こした裁判では、これが争点の一つとなり、『売春をしていた旨の記載は事実とは認められない』と裁判所が認定している。
 無責任な報道は、女性を不幸な『患者』から、ウィルスをばら撒く『加害者』に変えた。
 この女性のせいで、死病のエイズが広がってしまう──メディアは彼女を魔女のごとく扱い、プライバシーを暴くことに躍起になった。HIVというウィルスに感染して、無治療で放っておくと免疫力が低下し、様々な病気が引き起こされる状態をエイズと呼ぶといった、基礎的な知識すら当時は誰にもなかった。かつてエイズに関する記事の取材を行っていたライターの新城匡人氏はこう語る。
 『「売春婦」がエイズになったとうのは、マスコミにとって格好のネタでした。どんな店で働いたのか、感染した客はいないのかといった下世話な話題が読者の購買に繋がると、誰もが信じていたのです』
 そもそもこうした騒ぎが起きた背景には、当初におけるエイズに対する無知と偏見があった。いわく、エイズは男性同性愛者や外国人だけがかかる『奇病』であり、彼らに近づかねば感染しない、『ふつうの日本人』であれば感染しない・・・。ほとんどの人が、そんな認識を持っていた。
 だが、報道から3日後の1月21日に、前述の女性が亡くなったと報じられると、恐怖に駆られた人々により全国各地でパニックが巻き起こった。
 血液検査を含む神戸市への相談件数は21日当日だけで1,178件。問い合わせは18~31日の2週間で計約8,400件に上った。血液検査を受けた後に自殺を図ったり、ノイローゼに陥ったりする男性もいたという。
 全国の保健所では919ヵ所にエイズ相談窓口が設置され、相談件数は約半月で5万2,000件を超えた。
 HIV感染者の支援などに神戸で取り込むNGO団体『BASE KOBE』代表の繁内幸治氏はこう振り返る。
 『正義の名の下に感染者の個人情報をメディアが暴き、無用なパニックが全国各地で起きました。患者の人権やプライバシーが守られなかったことで、感染者は受診や診断を躊躇(ためら)うようになってしまい。感染拡大に輪をかけたのです』
 無知なメディアによる報道がパニックを呼び、そのパニックをメディアが報じることで、さらに恐怖とともに誤情報や偏見が広まり、悪循環に陥っていく。まさに、コロナ禍と同じだ。
 『空気感染するぞ!』
 〈ホモだけが、かかるがん〉(毎日新聞 81年7月5日付)
 〈ホモ愛好者に凶報〉(朝日新聞 同日付)
 差別表現を用いたこれらの記述は、後にエイズと確認される病気を最初に報じた記事の見出しである。男性同性愛者だけがかかるというのは明確な誤りであるが、この時期にサンフランシスコやニューヨークなどのゲイ・コミュニティの中で感染が拡大していたこともあり、メディアはそこに焦点を当て、煽った。
 その後、毎日新聞は〈『免疫性』壊す奇病、米で広がる〉(82年7月20日付)という記事において、アメリカでは1年間に184人が『奇病』で命を落としていて、そのほとんどが男性同性愛者であると伝えている。
 結果としてこうした報道が、『エイズは男性同性愛者しか感染しないから自分には関係ない』という誤認を日本人に植え付けた。前出の繁内氏はこう振り返る。
 『当時、一番ショックだったのは馴染みのスナックに行ったときのことです。旧知のお客さんが「このビルの3階にゲイの店があるらしい。ウィルスが建物の空気ダクトを通じてばら撒かれるかもしれんな」と言ったんです。今でこそ私はゲイだと明らかにしていますが、当時はゲイだと判明したら社会的に抹殺されるほど差別的な扱いを受けていました』
 その後、こうした思い込みを覆すニュースが流れ、エイズ・パニックが引き起こされていく。
 〈比ホステスがエイズに感染 日本滞在の可能性も〉(86年11月3日付)
 これは共同通信マニラ支局が打電したニュースだ。記事には女性が松本市内で働いていたことが書かれている。その2日後には、実名まで報じられた。さらに、入国管理局が『長野県内数ヵ所で売春をしていた』という女性の証言を公表した。
 エイズは男性同性愛者だけの病気ではなく、『異性間性交渉でも感染する』という事実に人々は衝撃を受けた。
 その恐怖が、2カ月後の神戸における『日本人女性第一号患者』に対する苛烈な攻撃と、差別に繋がっていく。
 実名が報じられたフィリピン人ホステスの報道に関わった共同通信科学部元デスクの西俣総平氏はこう振り返る。
 『当時は、いつエイズが日本に上陸するのかが大変な関心事でした。そんな状況の中で、感染者を仮名で報道すれば、犯人捜しが行われて長野県内は大変なことになるでしょう。そうした配慮から実名報道に踏み切りました。「真実の報道」という古い言葉にはなりますが、本当のことを伝えたかったのです』
 だが、現実は西俣氏が避けたかった方向に動く。働いていた店や『客』を探し出そうと長野県内にマスコミが押し寄せた。
 共同通信の報道から5日後に女性は強制送還されていたが、過熱報道は収まらず県内は大混乱に陥ってしまう。
 滞在期間中に女性が50人ほどの客と売春行為に及んでいたことが報じられると、性風俗従業者や外国人が差別的な扱いを受けるようになった。松本市内で働く外国人が、銭湯の入浴やスーパーの入店を拒否されるケースが頻発した。
 『「長野県ではエイズが蔓延している」というデマまで流されていたため、女性の住まいがあった松本ナンバーをつけた車が中央自動車道で避けられたり、長野県民が他県のホテルで宿泊を断られたりする事案が相次いだのです』(『エイズの表情』の著者でノンフィクション作家の吉岡忍氏)
 厚生省の『責任逃れ』
 神戸と松本で起きたパニックは、多くの日本人の偏見をさらに助長した。
 男性同性愛者、性風俗従業員、外国人──つまりエイズにかかるのは『ふつうと違う人々』だというものである。
 こうした偏見が社会問題化したのが、血液製剤による血友病患者の感染だ。エイズ・パニックが沈静化した87年9月に、国内で確認されたHIV感染者の9割以上が血友病患者であると明らかになった。
 血友病患者がHIVに感染した主な理由は、治療に使われた多くの輸入血液製剤HIVが混入していたからだ。これは後に『薬害エイズ事件』へと発展する。
 だが、当時のの事実を知る人はほとんどいなかった。そのため血友病患者も『節操のない性交渉で感染を広げる非道徳的な人たち』というレッテルを張られてしまう。
 血液製剤によって、HIVに感染した参議院議員川田龍平氏はこう振り返る。
 『小学生のとき、HIV感染者であることは伏せていたものの血友病であることは隠していませんでした。それでも「汚い」「一緒にいたらエイズに感染する」と言われていじめられました。当時、血友病患者はHIVに感染していなくても「差別されたくないから」と病気を隠していました』
 実際に感染した人への差別は深刻だった。感染者であると知られると、病院での診察を拒否されたり解雇されたりすることは珍しくなかった。
 なぜ、このような差別や偏見が生まれてしまったのか。当時、マスコミが誤った報道を繰り返してしまったことが挙げられる。ただ、それ以上に厚生省が、輸入血液製剤には問題が多いという事実から目を背けていたことが大きな原因だ。
 血液製剤の危険性に関する指摘は、80年代中盤から行われている。
 84年9月に朝日新聞は、米国内ではエイズ患者からの輸血や血液製剤によってHIVに感染・発病した人が74人いることについて言及している。その中で次のような厚生省のコメントを掲載した。
 〈ウィルスは日本に入っているかもしれないが、日本には米国のような特殊な風俗習慣はないので、発病しないのでは〉
 特殊な風俗習慣とは、男性同性愛者同士の性交渉を指す。米国から輸入した血液製剤を国内で使用していたにもかかわず、厚生省は『特殊な習慣』がないから日本でエイズの危険はないかのように、話を逸らして誤魔化していたのである。
 86年3月、厚生省は日本人の『第一号患者』が米国在住の男性同性愛者であると発表する。さらに5月には男性同性愛者2名をエイズ患者として認定した。このとき、神戸や松本のような騒動は起きていない。わざわざ一個人のセクシュアリティを公表し、行政が主導して『エイズになるのは男性同性愛者』という風潮を作り上げたわけだ。
 当時の専門家たちも、こうした偏見を助長する研究結果を数多く報告した。たとえば生化学の国際的権威だった関西の医大学長(当時)は、『男性同性愛者の性行為そのものにHIV感染の原因がある』と発表している。
 『誰かのせい』にする心理
 こうした誤情報に踊らされたのがメディアだ。ジャーナリストの岩瀬達哉氏はこう解説する。
 『当事者としての責任を負いたくない行政の思惑に、マスコミが無批判に便乗して間違った情報を拡散したのです。まさにコロナ禍を彷彿とさせます。特に、厚生省記者クラブに配属されていたテレビや新聞の記者たちは、厚生省にとって都合の良い情報を垂れ流すだけだった。記者クラブ経費を税金で賄ってもらっている上、紙面作りに必要な情報まで教えてくれたわけですから、疑う余地があっても批判なんてできませんでした』
 あれだけ騒がれたエイズも、今は死病ではない。内服薬を飲み続けていれば、死なない病気になった。HIV感染じたいが、治療可能な感染症となったのだ。
 だが、35年前のパニックによって未だに『エイズにかかったらなおらない』『感染するのは、特殊な人』などという偏見や差別は根強く残っている。
 罹患すれば死ぬかもしれないウィルスが広まったとなれば、人間の心理として恐怖に駆られるのはやむを得ないことではある。しかし、それが行き過ぎて、他者を攻撃し、社会の分断を招く方向に走ってしまうのはなぜなのだろう。
 心理学者で筑波大学人間系心理学域教授の原田隆之氏はこう語る。
 『不安で不確実な状況になると、人間の持つ様々な認知的な欠陥が露わになります。その一つが「原因帰属バイアス」と呼ばれるものです。感染症の原因を目に見えないウィルスではなく身近な人のせいにして攻撃してしまう。コロナ禍におけるアメリカで、アジア人が差別されたのが典型的な例です。こうした事態を防ぐためには、「人は間違える」と誰もが意識し続けることが重要です』
 世の中の不安が高まり、過熱報道やパニックが起きたときこそ、私たちは冷静になるべきなのかもしれない。
 人は間違えるし、常に合理的な判断ができるわけではないのだ。」
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 日本を支配している「言霊信仰」。
 明治・大正までの日本民族が信じていた言霊信仰は「良い言霊信仰」であったが、昭和から現代までの日本人が信じている言霊信仰は「悪い言霊信仰」である。
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 昔から、日本にはハーメルンの笛や滅びの笛を吹く教養ある日本人が一定数存在していた。
 が、庶民と言わっる教養が低い大半の日本人は哲学・思想・イデオロギーがなく宗教が理解できない為に深く考える事が苦手で、単純思考から権威ある発言を盲信して、甘い言葉に酔って皆と一緒に我を忘れて踊り狂うという気質があった。
 付和雷同同調圧力が日本人の特徴である。
 世の中を扇動する日本人は、悪人ではなく、自分が発言し行動している情報・発言は間違いない・正しい・真実と信じきっている善人である。
 日本人の不幸は、お人好しすぎて、人を疑う事をしない為に欺されやすく、扇動者の情報・発言は世の為、人の為になると信じ切ってしまう事である。 
 付和雷同同調圧力で見事に踊らされた実例が、ダイオキシン騒動、福島原発事故放射能汚染騒動、コロナ騒ぎなどである。
 現代日本ハーメルンの笛や滅びの笛を吹くのはマスコミ・メディアであり、国民の間に拡散し混乱を引き起こしているのがインターネット情報である。
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 2017年3月8日 産経WEST「関西の議論 〝神戸エイズパニック〟の教訓 「無知」と「流言」が混乱招く 自殺未遂にノイローゼ…次なるパンデミックに生かせるか
 【関西の議論】〝神戸エイズパニック〟の教訓 「無知」と「流言」が混乱招く 自殺未遂にノイローゼ…次なるパンデミックに生かせるか
 「国際都市に〝招かざる客〟」「ネオン街に衝撃」。センセーショナルな見出しが新聞紙面に躍ったのは、30年前の昭和62(1987)年1月18日。日本で初めて女性のエイズ患者が神戸市で確認された翌日のことだった。エイズは同性間の性交渉で感染するといわれていた当時、同性愛者ではない患者が出たことが分かり、国内に空前のパニックを引き起こした。近年もデング熱やジカ熱、エボラ出血熱といった新たな感染症が世間をにぎわせ、その度に社会に不安が広がる。パンデミック感染症の世界的流行)が日本を襲ったとき、私たちはどう向き合えばいいのだろうか。
 過熱した報道
 「普通の生活をしていれば、感染するおそれはありません」
 62年1月17日、日本初の女性エイズ患者の確認を発表した記者会見の場で、兵庫県の担当者はそう言い切り、〝ごく一部〟の人の病気であることを強調した。
 エイズは免疫細胞を破壊するHIVエイズウイルス、ヒト免疫不全ウイルス)によって発症する。輸血や性交渉などを通じて感染すると、次第に免疫力が低下し、さまざまな病気にかかりやすくなる。当時は治療薬がなく、確実に死に至る不治の病とされた。
 当時の報道によると、女性は神戸市在住の29歳。61年夏ごろから体調不良を訴え、同11月に市内の病院に入院。肺炎と診断されたものの高熱が続き、別の病院に転院後、エイズ患者特有のカリニ肺炎と診断されたとされる。
 「不特定の男性100人以上を相手に7年間売春行為を続けていた」「感染源はギリシャ人船員」「三宮・元町で出会った男性と性交渉を持ったため、心当たりのある人は血液検査を」…。 
 記者発表を皮切りに報道は過熱し、虚実ないまぜの情報が垂れ流された。後に誤報だと判明したのだが、売春婦だからエイズに感染したと言わんばかりの内容は、女性を「患者」から「加害者」に変えた。
 女性のプライバシーを暴いて接触者を捜すことに躍起になり、女性の実名や顔写真を載せる週刊誌まであったという。
 誤解と無関心で沈静化?
 当時、市衛生局保健課でエイズ対応に追われた井上明さん(71)は「マスコミは『えらいこっちゃ』とあおるばかりで、感染経路や予防方法などは報道されなかった」と振り返る。
 井上さんによると、記者発表は本来、この年の3月に行われるはずだった。四半期ごとに国内のエイズ患者を認定する厚生省(当時)のエイズサーベイランス委員会の開催に合わせて発表する予定だったが、「どうやら情報がマスコミに漏れてしまったとなったんです」(井上さん)。スクープ合戦になれば大変なことになる-。厚生省と兵庫県、神戸市は急遽(きゅうきょ)、発表時期を早めた。
 発表の3日後、女性は発症からわずか半年でこの世を去った。女性の死亡が伝えられた1月21日、パニックはピークに達する。市の記録によると、血液検査を含む市への相談件数は21日当日だけで1178件。問い合わせは同18〜31日の2週間で計約8400件に上った。血液検査を受けた後に自殺を図ったり、ノイローゼに陥ったりする男性もいたという。
 「普通の生活ではうつらない」と啓発したことが功を奏したのか、〝エイズパニック〟は意外にも約2カ月で沈静化する。
 ただ、この啓発が「エイズは売買春で感染する」という誤解と、「普通の人」の無関心を招いたのではないか、と井上さんは分析。「普通の性生活のなかで感染する病気。決して特殊な病気ではない」と警鐘を鳴らした。
 インフルでも大騒ぎ
 エイズパニックから22年が過ぎた平成21年5月、神戸市ではくしくも、豚由来の新型インフルエンザウイルス(H1N1型)への最初の国内感染者が出た。海外渡航歴のない市内の高校生で、将来の大流行が懸念されている鳥由来のH5N1型に比べ毒性が弱いことは判明していたものの、市の相談窓口には不安を訴える声が相次いだ。
 このときの新型インフルはメキシコや米国などで猛威を振るった後、日本に到来。オーストラリアなど南半球でも蔓延(まんえん)し、パンデミックとなった。国内各地の薬局ではマスクが飛ぶように売れ、宿泊施設やイベントのキャンセルが相次いだ。関西では高校生を中心に感染が広がったため、大阪府兵庫県では学校が閉鎖された。
 厚生労働省のデータによると、1年間で2068万人が感染し、死者は約200人。他国と比較すると死亡率は飛び抜けて低く、「大げさ」「過剰」との批判もあった日本の対策が被害を最小限にとどめたのではないかとも言われた。
 この〝騒ぎ〟を教訓とし、政府は新型インフルエンザ等対策特別措置法を施行。対策ガイドラインを完成させ、各自治体も国のガイドラインに基づいた行動計画を策定している。
 中国では逮捕者も
 エイズ新型インフル。この2つの騒ぎに共通するのは、いずれも社会全体が過剰ともいえる不安に襲われたことだ。
 「ウイルスは目に見えないため、余計にパニックになるのでは」と指摘するのは、神戸市保健福祉局の保健師、尾崎明美さん。「正しい情報を伝えることが大事。あいまいな情報が市民を不安にさせる」と言う。
 そこで注目されるのが、感染症や災害、環境問題などある特定のリスクについて、行政や専門家、地域住民ら全員が正確な情報を共有し、相互に意思疎通を図る「リスクコミュニケーション」。米国発祥のこの考え方は19〜20年ごろ、厚労省でも注目されるようになった。特措法に基づく国のガイドラインにも、記者会見などで情報を一元的に提供する広報担当官を置くことなどを定めている。
 ただ、「あの時の反省がうやむやになっている」と懸念する声もある。新型インフルの対策総括会議にも出席した関西福祉大の勝田吉彰教授(渡航医学)は「あのときの反省を踏まえ、政府のスポークスマンを決めようという話になったが、その後のエボラ出血熱や中東呼吸器症候群(MERS)への対応では、情報の窓口は一元化されていない」と指摘する。
 勝田教授は「パニックの原因は流言。やっかいなのは今の時代、SNSで簡単に広がってしまうことだ」と断言した。鳥インフルエンザウイルス(H7N9型)が猛威を振るう中国ではインフルに関するデマをネット上で流した人が逮捕されているといい、「感染症に関するデマを抑えるには有効な方法ではないか」と話した。
 人には不安を感じたとき、他人を非難することで安心感を得られるという心理的カニズムがあるという。神戸で起きたエイズパニックでは、同性愛者や売春する女性たちが差別の対象となり、新型インフル騒動では、最初に感染した生徒が通う高校の生徒らがいじめの被害にも遭った。
 勝田教授は言う。
 「感染症による騒ぎになったとき、マスコミには流言による差別を防ぐようなこともぜひ書いてほしい」」
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