📉77】─5─日本の衰退はガラパゴス化・タコツボ型の持続的リノベーションに固執したから。~No.182 ⑯  

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・   
 2021年10月号 正論「国家強靱化
 日本の科学技術に破壊的イノベーションを  山本尚
 日本は外来文明の渡来に対して、これまで素晴らしい受け入れ方をしてきた。古代アジアの三大文明と言われる稲作、鉄器、そして漢字の受け入れ方である。日本は単に盲目的に全てを受け入れてずに、稲作は『苗代』を、鉄器は『たたら製鉄』を、そして漢字は『表意文字の仮名』を発明し、改良した形で受け入れた。
 しかし、明治維新では素早く欧米の文明を受け入れなければ、日本が植民地化される危機があった。そこで、急いで国立大学を作り、多くの海外の教官を招聘し、次々と欧米の科学技術を、手を加えずにそのまま吸収した。基本は世阿弥の『まねぶ』や寺子屋素読にある。完全に自分を抑え、全て真似をして科学技術を100%吸収した。
 設立された大学は様々な分野を満遍なく国民に伝えることを最重要課題と考えた。早急に国の科学技術が欧米に追いつくため、大学には全ての科学技術の分野に満遍なく講座を作る必要があった。どの科学技術でも大学にゆけば学ぶことができた。我が国の大学が、その後『幕の内弁当』と呼ばれる講座制度の始まりである。大学は知識の宝庫で、そういう意味で大学は国民に海外の知識を効率よく伝える場所であった。
 しかし、この日本の明治維新の大学創設の施策は、科学技術を誕生させた欧米諸国の大学創設の考え方とは根本的に異なっていた。欧米ではそれぞれの分野の創始者か、あるいはその弟子が大学での研究を始めたので、大学が全ての分野をカバーするという意識は全く持っていない。国民は学ぶべき必要な知識が必要であれば、その知識を持っている大学にゆけばいいのだ。従って、欧米の大学には教室の専門分野が偏っていることもある。日本の追いつくための大学と、欧米のイノベーション(技術革新)を始めるための大学とは本質的に異なっていた。
 一昔には、科学技術は持続的なイノベーションがあれば、国は大過なく、ゆっくりとではあるが着実に成長してゆけた。しかし、21世紀に入って、状況は一変した。科学技術の世代交代が驚くほど急速に進んでいる。今や持続的ノベーションだけでは、世界の動向にはるかに遅れてしまう。このイノベーションの時代にはい入っていることを、十分には認識していない日本企業はいまだに多い。持続的なイノベーションだけでは徐々に企業の実績は尻つぼみになり、最終的には倒産することになるが、その危機感は薄い。
 戦後の好景気の時代の手法は通じないことを認識し、知識を教えるという大学のあり方も根本的に変え、イノベーション志向型の大学に生まれ変わる必要があった。しかし、持続的イノベーションに慣れ親しんできた大学や日本企業が本質的に異なる破壊的イノベーションを志向することは難しい。従来の幕の内弁当型の日本の大学が、イノベーションを志向する大学への衣替えを実行するのは非常に難しかった。
 若手研究者育成に必要なこと
 直近の最重要課題は、旧来の手法にとらわれない新しい科学技術を探究できる若者を育てることだ。そのために必要な施策を挙げてみる。
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 それでは、この状況を変えるため、我が国は何をすればいいのだろう。もちろん、全てのアカデミア志望の若者に独立ボジションを与える必要はないだろう。しかし、少なくとも5~10%位の学生にはこうした独立の機会を与えてほしい。彼らのうち、10人に1人でも成功すれば、その分野で日本は必ず救われるからだ。科学技術の世界ではたった一人の人間でもイノベーションを起こし、我が国の科学技術の発展を通して社会に貢献できるからである。
 この時代の流れに追いつくには、企業は何をすればいいのだろうか?
 これまでの企業の研究とは一味違う『時代を先取りする研究』が強く望まれる。すでに述べたように、時代は持続的イノベーションを必要としない。破壊的イノベーションこそ要求される。
 まず、破壊的イノベーションを実行できる人材であるが、大学の修士修了生を採用してきた従来の人事のスタンスは変える必要がある。修士の学生は決められたプロセスを大過なく遂行できるが、全く新しいコンセプトを打ち立てることには十分に教育されていない。残念ながら、人のやらないことを考える創造性を発揮することに長けた博士課程の学生は数少ない。しかし、それでも修士課程の学生よりは、遥かに優れている。
 無論、そういう創造性ある学生を育てることに留意する我が国の大学がもっと増える必要がある。……大学での悪しき習慣が身についているからだ。
 企業でのプロジェクトは企業間の持続的イノベーションの大人しい競争ではなく、各企業は競争他企業が想像ができないぶっちぎりの破壊的イノベーションを考えてほしいが、それをまず考え出す人材育成こそが重要である。優秀な博士課程修了生しかないのだ。
 直近では、企業内の持続的なイノベーションを志向するプロジェクトは半分以下に整理する必要があるだろう。そして、国内での競争でなく、海外との激しい競争を念頭に置くとき、前提となるのは破壊的イノベーションである。米国の例でも、破壊的なイノベーションを全く志向しない企業は、そのほとんどが10年以内に倒産しているのである。
 しかし、米国でも企業内の全てのプロジェクトが破壊的イノベーションでなければならないとはいっていない。約1割から3割くらいの破壊的イノベーションで十分だし、もちろん持続的イノベーションも現状維持には必要だ。また、それ以上の破壊的イノベーションを始めるのは人材から考えても不可能である。
 申請書に年齢はいらない
 つまり、欧米ではプロジェクトがイノベーションとして成長し、国を大きく揺るがせるかを審査しているのに対して、我が国はその講座の研究が今後も未来永劫存続でき、その分野での特殊な問題が起こった場合に、その講座に相談に行けるかどうかを考えている。
 ひと昔前の話であるが、日本で水車の工学を研究している学者が少数いたが、それが時代に伴って少なかった。しかし一人でもいれば事足りるのだといわれた。一方、米国では、その分野の研究が必要なら、日本に行けばいいと言われているのを、聞いたことがある。確かに過去の工学は発展途上国に任せるが、国の研究の効率化だと言える。
 さらに、最近増えてきた未来の夢に繋がるプロジェクトであるが、こうしたプロジェクトに共通した特色は、その大きな目標を成功するためには、持続的なイノベーションでは無理なことである。どうしても破壊的なイノベーションを達成しなければ成功はおぼつかない。しかし、破壊的なイノベーションが始まることは予め予測・計算できない。100に1つの成功を大型研究費で立案できるだろう。リスク・フリーの日本社会ではそれが難しいのである。
 科学技術では数年先の予測など不可能である。こうした大型の研究費のプロジェクトでは、リスクを避けるために、ともすれば、予測が容易な持続的なイノベーションでお茶を濁してしまう。これでは、成功してもほとんど世の中は変わらない。それを当然のように受け入れている財団は、10年後にどう『落とし前』をつけるのだろうか。これはサラリーマン社長が数年後の企業の行先に大きな夢を決して描かないと、一脈通じると感じるのは私だけだろうか。
 大学教員の効率的なあり方
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 イノベーション創発するには
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 政府に期待する施策
 政治は国の繁栄の基礎を作る責務を負っている。特に、文化省の官僚は日本の科学技術のイノベーションが進む道を決めている。残念ながら、科学技術のイノベーションを進める上で、文系の官僚が十分に政策を理解しないまま、科学技術の進む方向を作成することが多い。この状況を是正するには、科学技術に通じる理系の官僚の役割を非常に大きい。文化省は半分くらい理系の卒業生でもいいのではないだろうか。
 米国の例を見てもわかるように、少なくとも理系の官僚の何人かは、できれば博士課程修了者が望ましい。理系のものの考え方を国の政策に反映するには彼らの専門家としての役割は大きい。さらに欲を言えば、今後予想される海外との熾烈な競争から考えると、文科省は海外の理系大学の博士課程修了者を採用してほしい。官僚として活躍の場を与えることは可能なはずだ。……
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 最後に、私は我が国の大学の講座制は廃止するべきであると信じる。講座制のために、若い研究者が若くして独立し、自らの考えで新鮮なイノベーションに挑戦する機会を失っている。講座制を廃止することで、若い研究者は自由にプロジェクトを始めることができる。私は、講座制の廃止と若い研究者の独立した研究は車の両輪であると思う。……」
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 日本経済がバブル崩壊で衰退し、回復できず経済大国から転落し、途上国並み・三流国並みとなり、中国・シンガポール・韓国・台湾など多くの急成長を遂げている国々に遅れて如何に努力をしても追いつけないのは、無能無策となった日本の自業自得の結果である。
 現代日本には、敗戦後復興・高度経済成長・バブル経済までの成功モデルやビジネス・モデルは通用しない。
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 日本人の失敗の理由は、温故知新を信じ、ジャパン・アズ・ナンバーワンを信じた事である。
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 日本学術会議や各専門学会の多くは、大学や研究所の恩師や先輩が築いてきた伝統的輝かしいアカデミー・ルールを守ろうとして、その秩序を壊そうとする挑戦者や異端者を排除している。
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 東日本震災と福島第一原子力発所事故を最悪な状況に追い込んだのは、ガラパゴス化・タコツボ型に逃避して状況判断を誤りパニックに陥り理性を失って暴走した理系の政治家達であった。
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 現代日本では、評論家・専門家が説き日本企業が求めるイノベーションは起きない。
 何故なら、イノベーションは否定と破壊からしか生まれないからでる。
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 日本のイノベーションとは、持続的イノベーションの事で、新規を求める発展的インベンションと破壊的イノベーションを潰すガラパゴス化・タコツボ型の事である。
 既存を維持する持続的イノベーションは老人的で、新奇を求める発展的インベンションと新規を求める破壊的イノベーションは若者的である。
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 日本の敗戦後からバブル経済までの内需による好景気は、新しいモノを求める貪欲な若者が多く古いモノを好む無欲な老人が少ない人口爆発でもたらされた。
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 現代の教育は、未来の為に自分と過去の枠組みを否定して未知の分野に飛び込む優秀な異端児を育てるのではなく、自分と同程度もしくは低く役立つ有能な人材を育てて受け継いできた現代の枠組みを守る事である。
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 日本の底力は、変わらないと変わる、真似ないと真似る、伝統と外連、伝承と新規にある。
 が、日本が得意とするのは持続的イノベーションであって破壊的イノベーションや発展的インベンションではなく、1から2や3へ改良する事であって、ゼロから1を生み出す破壊的イノベーションではない。
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 戦前の科学オタクの子供達は、最新科学である軍事機密の原子爆弾を少年科学雑誌で知っていた。
 日本の世界的な科学者や専門家達は、子供でも理解できる外国語の専門用語を日本語に翻訳して入門的科学雑誌を出版していた。
 日本の優秀な学者とは、最先端科学知識を子供でも理解できる様に噛み砕いて説明し、興味を持った子供を大学に入学させて高度な専門教育を施した。
 子供に好奇心を抱かせ学ぶ意欲を掻き立てる最新教育が、日本のモノ作りを支えていた。
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