💫2}─3・A─ダークマターとブラックホール、合体したふたつの謎。~No.7No.8No.9 

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 2021年3月27日 MicrosoftNews JBpress「ダークマターブラックホール、合体したふたつの謎
 © 提供 渦巻く銀河を見えないダークマターが取り囲んでいるイメージイラスト。 Image by ESO / L. Calçada, under CC BY 4.0.
(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター
 宇宙には超巨大ブラックホールなるものが浮いていて、周囲の物質を飲み込んだり、ガンマ線X線をぎらぎら放ったりしています。が、このモンスターがいつどのように生まれたかは、分かっていません。
 また、宇宙空間を満たす正体不明の物質ダークマターは、そこにそいつが存在することだけは確かなのですが、どういう種類の物質なのか、どうやれば観測できるのか、いまだ不明です。
 このダークマターが集まって超巨大ブラックホールを作ったのではないか、という理論研究が先日発表されました。なんだか訳の分からないもので訳の分からないものをやっつけたようなお話です。
 天の川って何でできてる?
 灯火のない暗い夜空にはぼんやり天の川が見えます。
 天の川の雲のような霞のような白い光は、無数の恒星から成りますが、肉眼では一個一個の恒星は見えません。恒星像を分解するには望遠鏡が必要です。
 このように無数の恒星が集まって見えるものを銀河と呼びます。
 天の川は銀河のひとつです。私たちの太陽系は天の川銀河のひとかけらです。
 では、
天の川銀河は何でできてる?」
と聞かれたら、なんと答えるべきでしょうか。
 上の説明を読んだ方なら、普通は「恒星」と答えるでしょう。
 ごめんなさい、これは引っかけ問題です。実は天の川銀河のほとんどは恒星ではありません。恒星の質量は、天の川銀河の質量の15%ほどに過ぎません。
 では残りの85%は何かというと、それが分かっていません。正体不明の物質です。いや、本当に「物質」なのかどうかさえ、確信をもって答えられる人はいません。
 天の川銀河に含まれる恒星の質量は、観測から見積もることができます。
 可視光望遠鏡や赤外線望遠鏡などの観測によると、天の川銀河はおよそ1000億個の恒星を含み、したがってその質量は太陽の約1000億倍です。(見積もりが真の値の2分の1だったり2倍だったりしても、大した違いではないので気にしないことにしましょう。)
 天の川銀河には、恒星の他に、ガスなどがあることも観測から分かります。また太陽系のように、惑星を従えている恒星もかなりの数に上ります。
 しかしこれらを加えても、天の川銀河における「見える物質の質量」は、大きくは変わりません。やっぱり太陽質量の約1000億倍です。
 一方、物体の質量は、その物体が及ぼす重力から見積もることもできます。
 天の川銀河の質量を、その重力から見積もると、太陽質量のおよそ1兆倍であることが分かります。
 これは見える質量と大きく食い違います。いくら大雑把な天文研究者でも見過ごせない違いです。
 天の川銀河には、見えない質量が、見える物質の何倍もあるのです。
 この事情は、よその銀河でも同じです。宇宙に散らばる無数の銀河もまた、見えない物質でほぼできています。
 また、銀河と銀河の間の空っぽに見える空間も、この見えない物質で満ちていることが分かりました。というか、歴史的にはそっちが先に分かりました。
 ダークマターでできてるよ
 この見えない物質は、なにしろ見えなくて暗いので、ダークマターと呼ばれます。
 ダークマターは電波でも可視光でも赤外線でもX線でも見えません。電磁波を吸収も放射もしないのです。
 ダークマターと名づけられた1930年代には、これほど見えないと誰も思わなかったのですが、その後発明されたあらゆる観測装置・検出機器は、どれもダークマターの正体を見破ることはできず、今に至ります。
 ダークマターの正体は何でしょうか。大量の木星型天体、ブラックホールニュートリノ、未知の素粒子・・・これまで、ありとあらゆるアイデアが提唱されてきました。が、そのほとんどは、観測データと合わず、どうもダメそうだと分かりました。
 現在、ダークマターの説明として有望だと考えられているのは、未知の素粒子という説です。人類がまだその貧弱な粒子加速器で確認することに成功していない素粒子が、宇宙に大量に浮いているという説です。アクシオンと呼ばれる粒子や超対称性粒子などがその候補です。
 まあこれは、知っている物質が全部ダメだったので、おそらく知らない物質だろうという、消去法のような説明です。この論法だと、観測によってダークマターにどんな新奇な性質が見つかっても、そういう性質を備えた未知の素粒子が存在するのだといえば、否定されることはまずないです。
 ともあれ、私たちが現在理解するところでは、宇宙に最も多い「物質」はダークマターと呼ばれる未知の素粒子です。
 銀河とか銀河団といった天体は、ほぼこのダークマターからできています。
 そこにおまけとしてちょっぴり付随している通常物質が、星々を形成し、光を放って見えているのです。
 超巨大ブラックホールとは
 さて話は変わって、宇宙に住んでるもうひとつの訳の分からない勢力、超巨大ブラックホールについてです。
 ブラックホールは重力が強すぎて光も脱出できない天体です。まるで真っ黒な穴ボコのようだというので、ブラックホールと呼ばれるようになりました。
 これに「とはいうものの、見た人はいません」と続けるのが科学解説の常套句だったのですが、2019年にはイベント・ホライズン・テレスコープによって、超巨大ブラックホール「M87*」が撮像されました(図)。
 超巨大ブラックホールM87*の光の輪。輪の内側はブラックホールの「事象の地平面」が「見えて」いる。 Image by The Event Horizon Telescope Collaboration, under CC BY 3.0.© JBpress 提供 超巨大ブラックホールM87*の光の輪。輪の内側はブラックホールの「事象の地平面」が「見えて」いる。 Image by The Event Horizon Telescope Collaboration, under CC BY 3.0.
 M87*はここから5500万光年離れた楕円銀河の中心にあります。
 空に散らばる無数の銀河は、その中心部に、こういう、太陽質量の数百万倍~数十億倍の超巨大な質量を持つブラックホールを住まわせていると考えられています。
 つまり宇宙には超巨大ブラックホールが無数にあるのです。
 こういう超巨大ブラックホールの存在は、1970年代から次第に明らかになってきました。超巨大ブラックホールの中には、周囲の物質をどんどん飲み込んでいるものがあるのですが、飲み込まれる物質がその際に強い電波や可視光やX線ガンマ線を放射するので、望遠鏡で見つけられるのです。
 そしてそれらの正体がどうもブラックホールで、しかも超巨大だと分かってくると、超巨大な疑問が人々の頭に浮かびました。
 そうした超巨大ブラックホールはいつどのように生まれたのでしょう。
 超巨大ブラックホールって何でできてる?
 超巨大ブラックホールの生成機構は、ダークマターの正体と並ぶ、宇宙物理学のもうひとつの未解決問題です。
 小さめの、といっても、質量が太陽の数倍~数十倍あるブラックホールなら、誕生の仕組みがほぼ分かっています。大質量の恒星が自分の重力で潰れて、中性子星またはブラックホールになる、というのが定説です。自分の重力で潰れる際、恒星の外層は逆に宇宙空間に弾き飛ばされ、これは超新星爆発となります。
 それでは超巨大なブラックホールはどうやって作ればいいのでしょうか。超大質量の恒星が超々新星爆発を起こして作るのでしょうか。
 ところが、太陽の数百万倍~数十億倍もある恒星は、作るのが難しいのです。
 恒星の原料は宇宙空間にただよう希薄なガスです。超大質量の恒星を作るには超大質量のガスが必要なのは当たり前ですが、しかしそれだけでは不十分なのです。太陽質量の数百万倍~数十億倍ものガスがあると、放っておくと、太陽程度の恒星が数百万個~数十億個できてしまいます。全部まとめて1個のばかでかい恒星にはまずならないのです。
 ではいきなり超巨大ブラックホールを作るのは無理として、ガスの成分を工夫するなどして、まず中ぐらいのブラックホールを作り、それから周囲の物質をどかどか放り込んで、超巨大に育てるという案はどうでしょう。あるいはブラックホール同士が互いに食い合って成長するのでしょうか。
 これらの案は、どれが正しいか、それとも正解はどれでもないのか、まだ分かっていません。
 超巨大ブラックホールはどこの銀河にも1匹いるようなので、どんな銀河でも確実に超巨大ブラックホールができあがるような、当たり前の平凡な道があるはずです。しかしまだそれを見つけた人はいません。
 研究者は、ブラックホールを作って実験することはできないので、計算機の中でブラックホールを作ったり餌を工夫して育てたりして、超巨大ブラックホールになるかどうか調べています。
 ヒョウタンから駒、ダークマターからブラックホール
 2020年12月31日、アルゼンチン・ラ・プラタ大学のカルロス・アルゲイレス博士、フランス・ソルボンヌ大学のマヌエル・ディアス博士、ICRANetのアンドレアス・クルト氏とラファエル・ユーニス氏のグループは、超巨大ブラックホールダークマターから形成されたという計算結果を発表しました*1。
 ダークマターの正体は分かりませんが、それが未知の素粒子だとすると、集まるとガスのように振る舞うはずです。天の川銀河の場合なら太陽の1兆倍もの質量を持つガスです。
 アルゲイレス博士らは、ダークマターのガスの性質を仮定し、密度や角運動量などを調整し、何が起きるか計算してみました。
 すると条件がそろえば、ダークマターのガスのかたまりは潰れて、その中心に超巨大ブラックホールが誕生したのです。(計算機の中での話です。)
 これが正しいなら、超巨大ブラックホールダークマターからできたことになります。驚きの出生の秘密、衝撃の真相、ルーク・スカイウォーカーもびっくりです。
 確かにこの説はいくつかの謎を解決します。例えば、これなら中型ブラックホールが成長するために物質をどかどか飲み込む必要がありません。物質をどかどか飲み込む中型ブラックホールが見つからないことが説明されます。
 しかしこの説を証明するには、さらなる議論が必要です。通常物質のガスに超大質量恒星が作れないのに、本当にダークマターにはそれができるのでしょうか。
 そして何より、まだダークマターの正体は解明されていません。今後ダークマター粒子を検出し、その正体を突き止めることが絶対に必要でしょう。(突き止めたら、ブラックホールを作るなんて到底無理な代物だと判明しちゃうかもしれません。)
 それにしてもこれはなんだか、ダークマターと超巨大ブラックホールというふたつの謎を掛けあわせて、一挙に謎を解決するような、そんな大胆な研究です。今後の議論に注目です。
 *1: https://ras.ac.uk/news-and-press/research-highlights/new-study-suggests-supermassive-black-holes-could-form-dark
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