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2020年8月17日 MicrosoftNews 東洋経済オンライン「マレーシアを侮る日本人が驚くコロナ後の日常 意外にハイテク先進国の新常態はこんなに凄い
海野 麻実
© 東洋経済オンライン ショッピングモールの入り口には、自動で検温する装置が設置されている。通行する客がマスクをしているかも瞬時にチェックされ、マスクがない場合は注意喚起の音声が流れる(筆者撮影)
コロナ後の「ニューノーマル(新常態)」が世界で取り沙汰されるなか、東南アジアで急速な勢いで進展を見せているのが、いわゆる「リープフロッグ現象」だ。
リープフロッグ現象とは、文字どおり“かえる跳び”のこと。固定電話回線やパソコン、光ファイバーなどを含め、既存の社会インフラが整備されていない東南アジアなどの新興国において、スマートフォンなどが急速に普及することで先進国が歩んできた技術進展を一気に飛び越え、多様な最先端のデジタルサービスが発展することを指す。
東南アジアでは、今やオンラインショッピングでも「パソコンよりスマホ」を利用するという、いわゆるスマホネイティブ世代が多く、日常生活のあらゆる側面でデジタル化が浸透してきている。
人口の125%に当たる携帯端末契約数
とくに、マレーシアは人口の125%に当たる4000万の携帯端末が契約されているモバイル国家であり、今、コロナ禍を経た「ニューノーマル」において、デジタルを駆使したサービスが急速な進展を遂げている。
「ニューノーマル」を推進するに当たり、マレーシア政府が経済復興策として新たに発表した施策には、デジタルを活用したものが目立つ。まず、デジタル化を促進するために政府と民間企業がそれぞれ12億リンギ(約300億円)を拠出する半官半民のファンドを設立。そのうえで、政府主導で積極的なデジタル化推進のための施策を次々に打ち出している(下記)。
・ギグ・エコノミー(ネットを通じて単発で仕事を請け負うなど)の活性化に向けて7500万リンギを拠出。
・7億5000万リンギを投入し、電子決済の促進を目的とする「E-PENJANAプログラム」を設立。Eウォレットの利用者に対して1人当たり50リンギを支給。
・自宅からのリモートワーク促進策の一環として、会社からコンピューターや携帯電話を支給されリモートワークを義務づけられた従業員に対して、月給5000リンギ分の所得税控除を可能とする。
・午前8時から午後6時までのインターネット接続は、1ギガバイトまで無料。(対象は政府関連サイトや教育、ビデオ会議目的での使用など)
政府が旗振りをしての急速なデジタル化が進むマレーシア。
では、コロナ後の“ニューノーマル”において、実際にマレーシアの国民が直面する日常生活での変化とは、どのようなものなのだろうか。
●AI技術を活用した自動体温検査
首都クアラルンプールのショッピングモールに入店しようとすると、三脚に設置されたデバイスと小さなサーモグラフィーカメラがじっとこちらを見つめる。傍らで監視している警備員に端末の前で立ち止まれと指示され、画面をのぞき込むと、自分の顔がまず映し出され、「マスクをちゃんとつけていますね」と確認の音声メッセージが流れた。同時に、瞬時に体温が測定され表示される。表示された体温が37.5度以下であれば入店が許可される。
このように、AI技術を活用した「顔認証デバイス」と「高速体温測定システム」などを設置することで、入館者のマスク着用有無や体温チェックなどを迅速化させる試みは至るところで見られる。ちなみに、マスクを着用していないと入店を拒否される店舗などもあり、大型ショッピングモールの入り口では、マスクを忘れた客のためにその場で割安で購入できるようになっている。
●「QRコード」かざしてレストラン入店
また、マレーシア政府は、感染者の追跡調査を確実に遂行させるために、レストランやスーパーマーケットなどの入店前にも、氏名、電話番号、ID番号、入店日時、体温を記録することを求めている。規制は一部緩和されつつあるものの、入店前に毎回それらの情報を記入することはもはや、日常生活における必須行為として浸透している。
QRコード利用が浸透
しかし、それらの記入行為にはペンを使い回しすることでの接触や、いちいち手書きで記入する煩わしさから不満の声も上がり、各レストランや店舗ではQRコードにアクセスして必要情報をスマホから簡単に入力できる独自のシステムを次々に構築。システム構築の金銭的余裕がない小さな飲食店や屋台でさえも、白い紙に印刷した“手作り”のQRコードでデジタル化対応を始めるなど、いかにマレーシア国民の生活にQRコード利用が浸透しているかが浮き彫りとなっている。
(※これまではショッピングモール内の各店舗でもそれぞれ記入が求められたが、モール入り口内のみに簡素化されるなど、感染者数の減少に伴い規制は緩和されつつある)
●Zoomでラマダン明け祭りハリラヤをお祝い
さらに、イスラム教国家ならではだが、ラマダン(断食)明けの祭り「ハリラヤ」も、デジタル化が進んでいる。例年であれば親族一同が里帰りして、100人程度が集う祝宴が催されるが(※イスラム教徒は大家族が多く、1人ひとりの名前を覚えきれないほど従兄弟やおい、めいなどがたくさんいるケースなども少なくない)、今年はコロナの感染拡大抑止のため里帰りは禁止となった。そのため、各家庭は都市部から地方に至るまで、親族一同が老いも若きもパソコンやスマートフォンでZoomをつなぎ、1年に1度のラマダン明けを祝った。
「里帰りできないハリラヤは初めて」
「これまで人生、生きてきたなかで、里帰りできないハリラヤは初めてだったよ!」と、クアラルンプール在住のワン・カマルディンさん(65) は豪快に笑いながら語る。
「Zoomを使ったハリラヤは、初体験のおっかなびっくりな試みで、親族一同があちこちの画面で入り乱れて、幼い子どもたちが次々に叫んでいたり、誰が何を喋っているのかもはやカオス状態だったけれど、離れていて会えない親族の顔がこうしてオンライン上でも拝めて、皆の元気な様子を確認できただけでもうれしかったよ」と、初めての“デジタル・ハリラヤ”の体験を満足げに話す。
●コロナ後に献血イベントが盛況 イスラム国家の寄付精神
一方、コロナ禍で人々の外出が制限されたため、不足が深刻化しているのが医療用輸血のための「血液不足」だ。寄付精神が旺盛なイスラム教の国家にあって、献血行為は市民生活になじんでおり、献血会場には長蛇の列ができることも少なくない。
しかし、厳しい外出制限令が敷かれたため病院や買い出し以外での目的で出かけることが禁じられ、その影響は献血にも及んだ。そのため、外出禁止令が緩和されて真っ先に行われたのが、各地の大型ショッピングモールのスペース中心部を大々的に貸し切った形での「献血イベント」だ。煌びやかなジュエリーがショーケースに陳列された宝飾店や海外ブランドの店などが立ち並ぶ高級ショッピングモール内に突如、白いカーテンで雑多に仕切られた空間が登場。イスラムのヒジャブをまとった看護師たちが忙しそうに動き回り、ソーシャルディスタンスを保って並べられたいすに横たわったマレーシア市民らが続々と献血を行っていた。
「人々の結束はオンライン上でより高まった」
献血会場でボランティアをしていた、看護婦の卵であるという地元の女子大学生は、困難な状況だからこそオンライン上で拡散され始めた人々の連帯感に、微かな希望を見いだしていた。
「血液不足を本当に心配していましたが、ロックダウンが緩和されてから、たくさんの人が行列を作って献血に協力してくれています。コロナ禍で人々の結束は、直接会うことができずともオンライン上でより高まった感じがします。SNSなどでは、献血のみならず寄付や助け合いなどを呼びかける人々の連帯感も増したことを日々実感しますし、コロナを機にポジティブな変化があることは確かです」
急速に進みつつある、イスラム教国家のコロナ後における「ニューノーマル」。それに伴い、東南アジア各国では政府主導でデジタル化が加速している。既存の概念を軽々と覆して、柔軟に変容を遂げてゆくその生活様式には、第2波が懸念される日本も参考にできるヒントが隠されているかもしれない。
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