🌌53}─16・S─戦争時対応に強い自衛隊。新型コロナウイルスと自衛隊中央病院。~No.285  

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 2020年5月27日10:50 産経新「尖閣周辺に中国船 44日連続
 尖閣諸島沖縄県石垣市)周辺の領海外側にある接続水域で27日、中国海警局の船2隻が航行しているのを海上保安庁の巡視船が確認した。尖閣周辺で中国当局の船が確認されるのは44日連続。
 第11管区海上保安本部(那覇)によると、1隻は機関砲のようなものを搭載。領海に近づかないよう巡視船が警告した。」
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 産経新聞iRONNA
 対コロナに賞賛、やっぱり自衛隊は強かった!
 新型コロナウイルスに関する支援に従事した自衛隊に賞賛の声が相次いでいる。大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」という特殊な環境下や病院などで隊員の感染者を出すことなく遂行し、「強さ」を示した。常に有事に備えた自衛隊ならではの危機管理能力と、見えざる敵に対峙する覚悟と精神とはいかなるものなのか。
 最前線支援で感染させない、対コロナで魅せた自衛隊の覚悟と精神
 『濱田昌彦』 2020/05/27
 濱田昌彦(元陸上自衛隊化学学校副校長)
 新型コロナウイルスへの対応について、自衛隊が一層注目されている。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス(DP号)」をはじめ、自衛隊が「やっぱりすごい」という話をよく聞く。確かにDP号でも、自衛隊中央病院(東京都世田谷区)での患者受け入れにおいても、自衛隊員は一人も2次感染者を出していない。防衛省の庁舎横にある「ホテルグランドヒル市ヶ谷」でも軽症者を受け入れているが、ここでも感染の話は聞かない。「なぜなのか」と、聞かれることも多い。
 これに対しては、「やはり士気が高いから」「もともと生物兵器に対応していたから」「最初から完全防護で個人防護具(PPE)をフル装備で動いていたから」など、いろいろな意見がある。
 どれも当たっていると思う。ある意味、その要因は「日本だけ、どうして死者数が欧米と比較して2ケタ少ないのか」という疑問にも重なる部分がある。自衛隊の感染者ゼロの秘密を知れば、消防や警察、医療や老人介護関係者も感染をゼロに抑えられ、出口戦略が見えてくるかもしれない。
 実際に防衛省自衛隊は、1月29日に中国武漢からのチャーター機に看護官(看護師資格を持つ自衛官)2人を派遣して以降、約1万3千人もの隊員が新型コロナウイルス感染拡大防止のための任務に従事してきた。そして一人の感染者を出すことなく、任務を継続しているのである(5月23日現在)。
 「(自衛隊の活動が)そんなにうまくいくかなあ」といった声が聞こえてくるような気がするが、実はそれほどすごいことではなく、当たり前のことを当たり前にやっているからに他ならない。そんな単純でつまらないことを愚直にやるのが自衛隊の強さの要因かもしれない。ただし、そこには「覚悟」が欠かせない。
 「新型コロナウイルス感染拡大を受けた防衛省自衛隊の取組」の中には、「基本の徹底」という言葉が何度も出てくる。そこで陸自OBである私の独断と偏見に満ちた見解を紹介しよう。
 今回の新型コロナウイルスの対応がうまく行くか、失敗するかのキーワードの一つが「クロスコンタミネーション(Cross contamination)」であると私は思う。
 これを日本語に直すとうまくニュアンスが伝わらない。例えば、感染者一人のウイルスが、くしゃみや咳(せき)をした後の右手人さし指からエレベーターのボタン、そして次の乗客の指先に付着し、さらに手すりやドアノブ、レストランのテーブルなど、クロスしていく様子を想像してくれたらいい。
 これに意識があるかどうかで、感染拡大するか否かを左右する。陸上自衛隊化学部隊にとってみれば、VX(猛毒の神経剤の一種)のような持久性化学剤のイメージに近い。
 それだけに、DP号での自衛隊の活動は、このクロスコンタミネーションを十分に認識しながら活動していたことがよく分かる。
 なお、自衛隊がDP号で実際に実施したのは、診察、薬の処方、生活支援や生活物品などの搬入、船内における金属部分などの共同区画の消毒の他、下船者の輸送支援など多岐にわたる。これらを見ても、実に感染リスクの高い活動であることが分かる。また、巨大で複雑な構造のクルーズ客船内での活動で、前例のないオペレーションでもある。
 思い出すのは、2011年に起きた東日本大震災による福島第1原発事故の後、住民の一時帰宅の際に現場部隊を視察したときのことだ。そのときも、タイベック(高密度ポリエチレン繊維不織布)スーツにN95マスク、シューズカバーを装着した。オーバーブーツについては、度重なる水素爆発の後で、住民のモニタリングをした際に、ほとんどの靴底にセシウムなどが付着していた。
 さらにさかのぼるが、1995年の地下鉄サリン事件でも同様だった。プラットホームと車両の除染を深夜に終えた除染部隊指揮官の3等陸佐が、旧営団地下鉄(現東京メトロ丸ノ内線車両基地で「おい、おれの足を洗ってくれ!」と化学防護衣のゴム長靴を洗わせる映像が残っている。乗客の中にも、サリンを踏んだまま救急車に乗った人も多かっただろう。
 同様に、DP号の床は患者の咳やくしゃみでウイルスに満ちていた。オーストラリアの医療関係者の規定では、コロナ患者を診る際、安い靴を買っておいて家に入る前に外で履き替え、衣服も外で着替えることになっている。そこまで徹底が求められるのだ。
 自衛隊関係者以外でも、DP号においてはPPEやマスク、手袋をしていたことは間違いない。それではなぜ、感染者が複数発生してしまったのだろうか。可能性として、ありうることを列挙してみよう。
 例えば、防護服を着たままトイレに行くことがある。その度に着替えることは難しいかもしれないが、ウイルスはふん尿から感染しうることが、かつて重症急性呼吸器症候群(SARS)が問題になった当時から指摘されていた。公共のトイレは、街中などでも感染源となりうるのだ。
 また、食事の際はマスクを外すだけに、当然だがリスクは高まる。いろいろな所に触り、その手で顔や鼻、口を触る。防護服は着用していても、袖や裾、ウエストなどに隙間があればウイルスは中に入ってしまう。
 手袋をはめていても、カルテを作成する際には、カルテそのものや使用するペンも汚染される。訓練を受けていた医療関係者でさえ、あれだけの高率で感染してしまったのは、そんな要因があったのかもしれない。前述のオーストラリアの医療規定では、職場のペンや財布さえも持ち帰ることを禁じている。
 いずれにせよ、クロスコンタミネーションの可能性を踏まえると、たとえある程度のPPEで守られているとしても、接触感染のリスクがなくなったわけではない。空調は全部つながっていて、人々の動線も複雑に絡み合っているだけに、隊員への感染が起こりうる密閉空間だったのである。
 中国において医療関係者の感染が相次いだとのニュースは、当初から伝わっていた。なぜ、ゴーグルや防護服、N95マスクも着用している彼らが高頻度に感染したのか。それを考えれば、飛沫(ひまつ)感染以外の接触感染やクロスコンタミネーションが起こっていたことを推測できたかもしれない。
 ちなみに自衛隊は、活動拠点として民間フェリーである「はくおう」や「シルバークイーン」を活用し、大がかりなロジスティクス(物資の供給)準備および支援を実施していた。はくおう内でも、感染のリスクに応じて動線を分けることなどの対策を講じている。隊員には栄養ある食事を3食とらせて、休憩時間や睡眠時間を十分に確保することで、心身の健康を維持し免疫力を落とさないよう着意していた。
 さらに防護を徹底するために、ウイルスを防護するタイベックスーツなどの着用において自衛隊独自の高い基準を適用し、その上で二重の手袋とテープを使用していた。防護服などの装着・脱着においては2人一組でのバディシステムを採用し、脱着作業において帽子が髪の毛を完全にカバーしているか、隙間がないかなどを確認していた。
 私がまだ1等陸尉の頃に、陸自の集団防護システム(CPS)の研究開発に短時間ではあるが参画していたことがある。CPSとは、いわゆるシェルターのことだ。外の環境が化学兵器放射能生物兵器で汚染されているときに、中でPPEを脱いでリラックスして休養したり、食事をとったり、あるいは作戦会議や指揮統制活動をするものである。
 実はこの出入りがとんでもなく面倒なものであった。入り口に続くウォームゾーン(化学剤または生物剤が存在しない場所に、汚染された人や物があらかじめ来ると予測され、かつ汚染の管理ができている付近一帯)においてPPEや防護マスク、オーバーブーツ、手袋などを規定の手順通りに脱いでいかなければならない。
 こうしなければ、中のトイレにも行けない。逆に外に出て行くときには、またPPEを着用することになるが、できれば全部新品を使いたい。一方で、高価な防護服を使い回さなければ兵站(へいたん)が持たないという事情もある。そこで汚染されてしまえば元も子もないからだ。
 だが、CBRNe(化学:Chemical、生物:Biological、放射性物質:Radiological、核:Nuclear、爆発物:Explosive)に対応するということは、ある意味でこうした面倒くさいことに耐えることである。そして、その「面倒さ」に耐えてきたのが自衛隊とも言えるだろう。自衛隊から感染者が出ていないのは、そうした「面倒さ」を愚直に実践できるところにあるのかもしれない。
 現在コロナウイルス患者を受け入れている自衛隊中央病院の看護官は、そのほとんどが自衛隊の幹部である。当然、階級章をつけて所定の基本教育を受けており、その中にはバイオを含むCBRN(Explosiveを除いたもの)教育および訓練も含まれている。
 いったん緊急事態となり、新型コロナ患者が大量に入ってくるとなれば、命令一下、ミリタリー組織として動き出すのは当然である。看護部長の階級は、昔風に言えば大佐である。これは連隊長に匹敵する。
 また、医官(医師資格を持つ自衛官)も含めてCBRN防護に関する教育が、同病院の隣にある陸上自衛隊衛生学校でなされている。細目名で言えば、特殊武器衛生がこれにあたる。特殊武器というのは、自衛隊特有のCBRNを表す用語である。砲兵を特科、工兵を施設科と呼ぶのと同様である。
 なお、同病院は国内最多規模の感染者を受け入れ、3月19日には患者104人の症状に基づく分析結果を関係者全員の同意に基づき速やかに発表している。もちろん、病院関係者の2次感染は一切なかった。これはゾーニング(現場や後方地域を3段階に医療区分すること)、接触感染予防、飛沫感染予防などの徹底した感染予防策があったことは言うまでもない。
 また、第一種感染症指定医療機関としての感染患者受け入れ訓練や、首都直下型地震などを想定した大量傷者受け入れ訓練からのノウハウが、今回の事案対処において大きく活用されている。
 ちなみに、同病院に入院した外国人の患者に対しても細やかな配慮がなされていた。具体的には、患者と各国在京大使館との通訳支援や、本国間の連絡や母国語での情報収集を可能とするためのWi-Fiルーターの設置、病院食の工夫などが含まれている。入院していたドイツ人夫婦から、感謝の手紙が届いたというのも分かる気がする。
 ただ、自衛隊の対応とは対照的に、DP号でのオペレーションについて政府や行政が非難される場面がよく見受けられたが、なぜだろうか。DP号での自衛隊のオペレーションはどのように遂行されたのかについて、私の考えは以下の通りだ。
 まず、オペレーションを実行するにあたって次のキーワードが重要となる。
{・作戦、情報、地域の見積
 ・状況判断の思考過程
 ・必ず達成すべき、達成が望ましい目標
 ・各行動の分析と比較 }
 これらは陸自の幹部なら必ず経験する戦術教育のキーワードである。もちろん、新型コロナ対応に当たっている医官や看護官、その他の薬剤官などの衛生科幹部も例外ではない。
 DP号への要員派遣や自衛隊中央病院への患者受け入れにあたっても、先ほどのキーワードを用いた思考プロセスはいずれかで活用されたと推測される。ただ、ここで難しかったと予想されるのは次の点だ。
{・地域見積において、大型クルーズ船がどんなものなのか見当もつかないこと
 ・情報見積において、敵の特性、すなわち新型コロナウイルスの性質が今一歩不明であったこと
 ・作戦見積において行動方針を列挙するにしても、何をどこまでやるのか不明確であったこと }
 それでも、現場は状況判断して決心するしかない。彼らが設定した「そのときに重視すべき要因」、あるいは「必ず達成すべき目標」の一つは「部隊の健在」であったかもしれない。なぜなら、状況不明の中で自ら感染者を出してしまえば、今後の国家への寄与を困難にする可能性が大きいからである。
 オペレーションに対する、こうした戦術の思考過程の活用も自衛隊員の感染者ゼロの要因かもしれない。なお、福島原発事故の後の放水冷却作戦において、前線拠点となったサッカー施設「Jヴィレッジ」(楢葉町広野町)に集まった消防、警察、航空自衛隊海上自衛隊などの全体の指揮を執ったのは、陸自中央即応集団副司令官の陸将補である。
 中長期的な計画を策定し、さまざまな組織をまとめるにあたり、きちんとした思考プロセスを踏んで至当に状況判断するには、戦術に造詣の深い陸自の上級幹部が最適であったためであろう。
 今回のDP号での対応は主に厚生労働省が指揮を執ったが、もちろん自衛隊にはバイオに関する防護専門部隊がないわけではない。陸自の対特殊武器衛生隊がそれに該当するが、新型コロナ対応で、自信を持って活動する基盤と言えるかもしれない。創隊時からPCR検査の設備も備えており、今回のDP号への対応でも、この部隊が動いていた。
 自衛隊中央病院の近くにある三宿駐屯地に所在し、現在は陸上総隊の隷下である。この部隊が2008年に創設されたのは、01年に米国で炭疽菌が郵送され感染者が死傷したテロ事件以降、それまでよりも一段と生物兵器バイオテロの脅威が高まったとみなされたためであろう。
 対特殊武器衛生隊は、中央特殊武器防護隊や他の衛生科部隊と連携し、核・生物・化学(NBC)攻撃による傷病者の診断・治療を行う。
 これは2個対特殊武器治療隊編成であり、特に生物兵器対応が主眼だ。また、生物兵器同定のための機材の他、治療用の機動展開ができる衛生検査ユニットや陰圧室ユニットを装備している。医官や看護官、臨床検査技師資格を持つ自衛官らで編成されており、バイオのエキスパート集団として知られている。
 このように、今回の新型コロナウイルス対応では、改めて自衛隊の存在が際立った。だが、その一方で新型コロナウイルスの発生源とされる中国が尖閣諸島を含め、軍事的圧力を高めている。自衛隊がますます注目され、任務が増大する中で、装備や人員、予算という壁、そして自衛隊そのものの「在り方」という課題も浮き彫りになりつつある。
 次回はその「在り方」について、筆を執りたいと思う。
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