💫10}─1・B─デニソワ人DNA解析。デニソワ人・ネアンデルタール人・現生人類との交雑判明〜No.76No.77 

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・  
 2020年4月19日 読売新聞「サイエンス
 DNA解析 絶滅人類復元
 デニソワ人 現生人類と交雑判明
 
 デニソワ人に関する驚きの1つは、ネアンデルタール人と同様に、現生人類と交雑が判明したことだ。ニューギニア島メラネシア人やオーストラリアの先住民らは、DNAの4~6%がデニソワ人由来と推定された。
 ほかのアジアのアジアの現代人のDNAにも交雑の証拠が残っている。ペーボ教授の同研究者であるデービッド・ライク教授らの分析によると、南アジアに住む人の一部はDNAの0.3~0.6%、日本人を含む東アジア人は0.2%がデニソワ人由来だった。ライク教授は、デニソワ人の交雑が起こったのは、5.4万~4.4万年前と推測している。
 現代人のDNAに残っているのは、ほとんどが生存に影響しない無害な部分とみられるが、チベットの人々は、高地など低酸素環境で有利に働く遺伝子の変異をデニソワ人から受け継いでいる。」
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 4万年前 デニソワ人。シベリア・アルタイ山脈のデニソワ洞窟にネアンデルタール人とは違う、新種の旧人が住んでいた。
 アジア内陸部に移住した現生人類は、ネアンデルタール人やデニソワ人と交配して新たな子孫を産みながら東アジアやチベットに生息圏を広めていった。
 いつしか、デニソワ人はネアンデルタール人と共に忽然と絶滅した。
 ネアンデルタール人の喉仏(のどぼとけ)は、ホモサピエンスに比べて少し上にあった為に、母音の発音が難しく言語体系が整わずコミュニケーションが発達しなかった。
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 デニソワ人のDNAの謎解明か 16万年前にチベット高地に適応 研究
 2019年5月2日 10:23 発信地:パリ/フランス [ フランス ヨーロッパ チベット アジア・オセアニア ロシア ロシア・CIS ]
 1980年に中国甘粛省夏河の白石崖溶洞で見つかった下顎骨の右半分だけをデジタル処理した画像。独マックス・プランク進化人類学研究所提供(2019年4月29日提供)。(c)AFP / Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology / Jean-Jacques HUBLIN
 【5月2日 AFP】チベットの山岳地帯で見つかった初期人類デニソワ人(Denisovans)の顎骨の化石から、人類はこれまで考えていたよりもはるかに早い時期に高地での居住に適応していたことが分かったとする論文が1日、英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された。デニソワ人の化石がロシア・シベリア(Siberia)南部以外で発見された例はこれ以外になく、見つかった顎骨は少なくとも16万年前のものと思われる。専門家らは、現生人類(ホモ・サピエンス)の一部が低酸素の条件に耐えられるよう進化した謎を解く鍵になるとみている。
 デニソワ人は、同時代に生きていたネアンデルタール人と同様に、解剖学的現代人である現生人類によって絶滅に追い込まれたとみられているが、デニソワ人の存在が初めて明らかになったのは10年前。シベリア南部のアルタイ山脈(Altai Mountains)にあるデニソワ洞穴(Denisova Cave)で発掘された指節骨の破片1個と臼歯2個によって特定され、約8万年前のものとされた。
 しかし、チベットの僧侶が30年近く前に地元でたまたま発見していた化石から、研究者らは今回、デニソワ人はこれまで考えられていたよりはるかに人数が多く、時代もはるか昔にさかのぼるとの結論を導き出した。
 論文の主著者で、独マックス・プランク進化人類学研究所(Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology)の古人類学者ジャンジャック・ユブラン(Jean-Jacques Hublin)氏は、「個人的な見解では、これは私が立てていた作業仮説を裏付けている。つまり、35万年前から5万年前の中国および東アジアの(ヒト族の)化石はおそらく、ほぼ全てデニソワ人のものではないかという仮説だ」と主張している。
 最近発表された別の研究論文では、人類がヒマラヤ(Himalaya)山脈北方の広大な山岳地帯であるチベット高原に到達したのは約4万年前とみられるとされていた。ユブラン氏は、「だが、今回の私たちの発見は4倍も古い」として、「非常に驚くべきことだ」と述べている。
 ■シベリアのデニソワ人になぜ低酸素症を防ぐ遺伝子変異が?
 顎骨の発見はさらに、人類学者を何年も悩ませてきた謎への答えを示している。
 研究者らは2015年、高地に住むチベット人漢人には、血液に酸素を行き渡らせるヘモグロビンの生成量を調整する遺伝子「EPAS1」に変異がみられることを発見した。
 チベット人から見つかった変異は、ヘモグロビンと赤血球の生成量を大幅に抑制し、標高4000メートルを超える高地に行ったときに多くの人が経験する低酸素症の問題を防いでいる。この変異は、標高700メートル未満のシベリアで発見されたデニソワ人のDNAで見つかったものとほぼ同じだった。
 ユブラン氏は、その理由は誰にもつかめていなかったとして、「デニソワ人が高地に住んでいたことは知られていなかったため、この遺伝子(EPAS1)は彼らの生存にとっては不要だ(と考えられていた)からだ」と説明し、こう続けた。
「だが今、その理由が分かった。このDNAは(シベリアの)デニソワ人のものではなく、チベットのデニソワ人のものだったのだ」 (c)AFP/Patrick GALEY
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 NEWSJAPAN
 「母はネアンデルタール人、父はデニソワ人」 ロシアで発見の化石 DNA鑑定で
 2018年08月23日
 ヘレン・ブリッグス BBCニュース
 昔々ロシアの洞窟で、異なる種の旧人類2人が出会った。5万年後、科学者らは2人には娘がいたことを突き止めた。
 この洞窟で発見された骨から検出された遺伝子によって、この骨の持ち主の少女はネアンデルタール人の母とデニソワ人の父を持つことが分かった。
 学術誌「ネイチャー」に発表されたこの発見は、現生人類に最も近いヒトの生活について、貴重な情報をもたらしてくれた。
 ネアンデルタール人とデニソワ人は我々と同じヒト属だが、違う種に属している。
 独マックス・プランク進化人類学研究所(MPI-EVA)の研究員ビビアン・スロン博士は、 「これまでの研究から、ネアンデルタール人とデニソワ人の間に子どもができていたことは推測されていた」と話した。
 「しかし実際に両者の間にできた子どもを発見できるとは思っていなかった」
 人類はネアンデルタール人の子孫?
 現在、非アフリカ系の人類の遺伝子にはネアンデルタール人を起源とするものが少量含まれている。
 そのうち一部地域に住んでいる人はさらに、アジア地域に住んでいたデニソワ人の遺伝子も持っている。 
 何世代にもわたって受け継がれてきた遺伝子によって、種の異なるヒト同士で交配があったことが示されている。
 しかし、デニソワ人とネアンデルタール人両方の化石が見つかっているのは、シベリアのアルタイ山脈にあるデニソワ洞窟だけだ。
 さらに、これまでにDNA鑑定を受けた化石人類はとても少なく、20体以下だという。
 スロン博士はBBCニュースの取材で、「このとても少ない鑑定の中から、種の異なる父母を持つ個体を見つけた」と話した。
 他の研究なども考え合わせれば、「人類の進化の歴史は全て、混血によって成り立っているという説が浮上してくる」という。
 ネアンデルタール人とデニソワ人とは?
 ネアンデルタール人とデニソワ人は、ユーラシア大陸で同じ時期に生きていたことが分かっている。
 ネアンデルタール人は西側で、デニソワ人は東側で、共に4万年前ごろまで生きていた。
 その後、ネアンデルタール人が東に移住していくことで、デニソワ人や、現生人類の祖先に出会った可能性がある。
 MPI-EVAのスバンテ・ペーボ所長は、「ネアンデルタール人とデニソワ人が出会う機会はそれほど多くなかっただろう」と話した。
 「しかし一度出会えば、私たちがこれまで考えていた以上に頻繁に交配していたはずだ」
この家族について分かっていることは?
 数年前にデニソワ洞窟でロシアの考古学者が見つけた骨のかけらから、この少女の物語は始まった。
 骨は独ライプツィヒで遺伝子分析を受けた。
 カナダ・トロント大学のベンス・バイオラ氏は、「このかけらは長い骨の一部で、この人物が少なくとも13歳に達していたと推測できた」と説明する。
 研究者らは、この少女の母親はそれまでデニソワ洞窟に住んでいたネアンデルタール人より、西欧地域に住んでいたネアンデルタール人に遺伝的に近いと推測している。
 つまり、ネアンデルタール人は絶滅する数万年前から、欧州東西とアジアの間で移住を繰り返したことになる。
 遺伝子分析ではさらに、デニソワ人の父親には少なくとも1人、ネアンデルタール人の祖先がいたことも明らかになった。
 (英語記事 DNA shows cave girl was half Neanderthal)
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 両親はネアンデルタール人とデニソワ人 交雑の初証拠
 2018/9/8
 ネアンデルタール人女性の復元像。2008年に公開されたこの像は、古代のDNAの解析結果を利用して作成された最初の復元像だった(PHOTOGRAPHY BY JOE MCNALLY, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
 ドイツにあるマックス・プランク進化人類学研究所の博士研究員で古遺伝学者のビビアン・スロン氏が約9万年前の骨片のDNAを調べたところ、ネアンデルタール人のDNAとデニソワ人のDNAを、ほぼ等量持っていることが判明した。科学者たちは、数種のヒト族がいた時代、交雑があったと考えていたが、交雑によって生まれた子の存在が実際に確認されたのは今回が初めてだ。
 「ありえない」――ビビアン・スロン氏は当初、分析結果を信じられなかった。彼女は何かの間違いだろうと考えた。スロン氏は、骨片の別の部位からもサンプルを採集し、改めて分析したが、結果は変わらない。それでも疑念は払拭できない。最終的に6つのサンプルを分析してみたが、分析結果は変わらなかった。その骨片は、10代の少女のもので、母はネアンデルタール人、父はデニソワ人だった。
 この発見は、2018年8月22日に科学誌「ネイチャー」に発表された。2種のヒト族の交雑によって生まれた子どもの初の決定的な証拠であり、古代のヒト族同士の関係の理解を進めるヒントだ。
 米ハーバード大学の遺伝学者デイビッド・ライク氏は、「ものすごい発見です」と言う。「交雑の第一世代の子など見つからないと思っていましたから」。同氏は今回の研究には関与していない 。
 彼女は、どんな少女だったのだろう? 彼女の化石は、人類の歩みの研究に、今後どんな影響を与えるのだろうか?
 デニソワ人はどんなヒト?
 人類の系譜にデニソワ人が加わったのは2010年、つい最近のことだ。そのため、デニソワ人についてわかっていることは、まだ少ない。
 2010年、マックス・プランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ氏が率いる国際チームが、シベリアのアルタイ山脈のデニソワ洞窟で発掘されたヒト族の小指の骨と親知らずの歯から、未知のヒト族のDNAが発見されたと発表した。新たに発見されたヒト族は、洞窟の名称にちなんでデニソワ人と名付けられた。
 その後の研究により、デニソワ人がネアンデルタール人と近縁で、約39万年前に共通の祖先から分岐したことが明らかになった。彼らは、ネアンデルタール人が絶滅に向かいはじめた4万年前頃まで生きていたようだ。
 では、デニソワ人は、どんなヒトだったのだろう。外見は? 何人ぐらいいたのか? 発見されたシベリアの洞窟のまわりだけに生息していたのか? 疑問をあげればキリがない。一番の問題はデニソワ人の化石が非常に少ないことだ。科学者がデニソワ人について知るためには、同じ洞窟から発見された4人のデニソワ人の3本の歯と1本の小指の骨という、ごくわずかな手がかりに頼るほかないのだ。
 動物の骨に紛れて放置されていた少女の骨片
 今回の研究に使われた骨は、2012年にデニソワ洞窟で発見されたもの。分析の結果、約9万年前に13歳前後で死亡した少女の腕か脚の骨の破片であることがわかった。
 幅が5ミリ程度しかないこの骨片は、見た目からはヒト族のものとはわからない。実は、同じ洞窟で発見されたライオンやクマやハイエナなどの数千個の骨片と一緒に置かれ放置されていたものだった。
 シベリアのデニソワ洞窟は、ネアンデルタール人、デニソワ人、初期の現生人類の化石が見つかっている唯一の場所である(PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK, NATIONAL GEOGRAPHIC)
 数年後、英オックスフォード大学のサマンサ・ブラウン氏が、放置されていた数千個の骨片に含まれるコラーゲンペプチドを調査して、それぞれの骨がどの動物かを分類した。その過程で、今回調査されたヒト族の骨片が見つかったのだ。
 スロン氏は発見されたヒト族の骨片のミトコンドリアDNAを調べた。ミトコンドリアDNAの遺伝物質は母親からのみ受け継がれる。すでに、このときの分析結果は2016年に「ネイチャー」に発表され、この骨がネアンデルタール人を母にもつヒト族のものであることが確認されている。
 「これだけでも大興奮の発見でした」とスロン氏は言う。「けれども核DNAを調べはじめると、興奮はさらに高まりました」。核DNAは母親と父親の両方から受け継がれるため、父系もたどることができる。「そのとき、この骨のDNAに少し変わったことがあることに気付いたのです」とスロン氏。
 まず、父系はデニソワ人の遺伝的特徴とはっきり一致した。ただ、この少女のゲノムは驚くほど多様性に富んでいた。そこで両親の遺伝的な近さを調べるため、ヘテロ接合性を調べた。両親が同種であればヘテロ接合性は小さく、ヒト族の別々の種ならヘテロ接合性は大きくなるのだ。
 少女の骨は「ヘテロ接合性が大きかった」と、米カリフォルニア大学サンタクルーズ校のコンピューター生物学者リチャード・E・グリーン氏が言うように、交雑だとわかったのだ。同氏は、今回の研究に携わっていない。
 古代、交雑していたのはデニソワ人とネアンデルタール人だけではないと考えられている。ネアンデルタール人は、おそらくアフリカを出た直後から現生人類と交雑をはじめている。今日、ほとんどのヨーロッパ人とアジア人のDNAの約2パーセントはネアンデルタール人に由来するものだ。同じように、デニソワ人の痕跡も残っていて、現代のメラネシア人のゲノムの4~6パーセントはデニソワ人から受け継いだものだ。
 交雑したヒト族と私たちに直接的な類縁関係があるかどうかを特定するのは難しい。しかしライク氏は、デニソワ人の祖先をもつ人は全員、多かれ少なかれネアンデルタール人の祖先をもっていると言う。
 ヒト族の交雑はよくあった?
 新たな研究は、ヒト族同士の交雑が以前考えられていたよりも一般的だった可能性を示唆している。というのも、これまでに塩基配列が決定されたヒト族はほんの一握りという状況で、今回交雑による第一世代の子が見つかったからだ。スロン氏は、この確率は「衝撃的」だと語っている。
 ただ、グリーン氏は、その原因はサンプリングの偏りのためではないかと指摘する。洞窟では骨が保存されやすいし、おそらく多様な集団が出くわすことも多かっただろう。「洞窟は更新世ユーラシアの婚活バーのような場所だったかもしれません」と氏は冗談っぽく続けた。
 現在、デニソワ人について分かっていることは、発見された3本の歯と1本の小指の骨から導き出されたものだ(PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK, NATIONAL GEOGRAPHIC)
 研究が進み、ほかにも交雑の痕跡がわかっている。少女のデニソワ人の父親にも、ネアンデルタール人の祖先がいた形跡がある。また、2015年には、ルーマニアの洞窟から、わずか4~6世代前にネアンデルタール人の祖先がいた人の顎の骨が発見されている。
 今回の発見は、ヒト族どうしが自由に交雑する古代世界の様子を垣間見せてくれると、ライク氏は言う。「こうした発見があるたびに、人類に対する見方が大きく変わります。ワクワクしますね」
 (文 Maya Wei-Haas、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
 [ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年8月24日付]
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 謎の古代人類 デニソワ人の骨格をDNAから復元
 2019/10/7
 謎に包まれたデニソワ人の想像図。最新研究によると、狭い額やがっしりした顎など、デニソワ人は多くの点でネアンデルタール人に似ていたようだ(ILLUSTRATION BY MAAYAN HAREL)
 謎の多い古代人類「デニソワ人」の骨格を再構築することに研究者が初めて成功、2019年9月19日付けの科学誌『セル』に発表された。
 デニソワ人は数万年にわたりアジアに暮らしていたと考えられているが、その化石は、小指の骨と頭蓋骨の破片、割れた顎骨、数本の歯しか見つかっていない。
 この謎の人類の骨格を浮かび上がらせるため、今回の論文を執筆したデビッド・ゴクマン氏は最も説得力ある証拠を利用した。DNAだ。
 イスラエルエルサレムヘブライ大学の博士課程学生だったゴクマン氏らは、デニソワ人の小指の骨から抽出したDNAを調べて骨格に関する32の特徴を抽出、デニソワ人の骨格を提案するという快挙を成し遂げた。
 「科学が夢の国を見せてくれた」
この研究は、デニソワ人のプロポーションについて具体的な数値を与えるものではないものの、現生人類(ホモ・サピエンス)やネアンデルタール人と比較したときにデニソワ人がどのように見えるかを示している。
 「このような手法で過去を再現できるのはすばらしいことです。科学が夢の国を見せてくれました」と、スペイン国立人類進化研究センターのマリア・マルティノン=トレス所長は喜ぶ。
 ナショナル ジオグラフィック協会も助成している今回の研究は、新たなデニソワ人化石発見につながるヒントも与えてくれる。科学者たちはここ数年、ヒト族の系統樹にうまく当てはまらない化石をアジア全域で多数発見している。しかし、比較に使えるデニソワ人の骨がほとんどなく、温暖なアジアの化石からDNAを抽出できる可能性も低いため、こうした化石の多くが「旧人」という曖昧な分類の中でくすぶっている。
 新たに提案された特徴は、こうした化石を同定するのに役立つかもしれない。今回の研究はすでに、中国河南省許昌市近郊で発見された2点の頭蓋骨の破片がデニソワ人のものである可能性を示唆している。
 この研究は「人間とは何か」という大きな問いにも関わると、研究チームを率いたエルサレムヘブライ大学のリラン・カーメル氏は説明する。かつて地球上には多様な種類のヒト族がいたのに、生き残ったのはホモ・サピエンスだけだった。その理由は誰も知らない。
 「今回の研究は、この疑問に答えるための大きな一歩です」とカーメル氏は言う。
 85%の精度で予想
 デニソワ人の存在が最初に報告されたのは2010年のこと。シベリアのアルタイ山脈のデニソワ洞窟から出土した1本の小指の骨と1本の大きな歯から抽出されたDNAが決め手となった。
 「DNAのみに基づいて新種の人類が発見されたのは、科学の歴史上初めてでした」とカーメル氏は言う。「新種と同定されたものの、その姿は謎に包まれていました」
 その後の遺伝学的研究から、デニソワ人の姿が徐々に見えてきた。デニソワ人は少なくとも40万年前にはネアンデルタール人から分岐していて、ネアンデルタール人がヨーロッパと中東に定着したのに対し、デニソワ人は東に進んでアジアまで来た。途中、デニソワ人は現生人類の祖先と交雑し、その遺伝子の特徴は今でもアジア系集団に残っている。
古人類学者は伝統的に、化石骨格を利用して古代ヒト族を分類してきた。しかし、デニソワ人の化石はなかなか見つからず、その姿を復元できずにいた。
 そこでカーメル氏らの出番となった。DNAは、身体的特徴を決定するタンパク質の設計図のようなものだ。しかし、この設計図は本のように単純に読むわけにはいかず、どの文字の連なりがどのタンパク質に対応していて、個々の遺伝子がどのくらい活性化しているかがわかっていないと読み解くことができない。
 進化の過程で遺伝子の活性が抑えられる場合があるが、その方法の1つが、DNAの特定の場所にメチル基のタグをつける「メチル化」である。例えば、ゲノムの特定の場所に付いていたメチル基が失われると、さまざまな種類のがん細胞がいっせいに成長を始めることがある。
 デニソワ人の発見の報告から約1年後、ゴクマン氏らは古代人類のDNAにたまたま保存されていたメチル化のパターンを調べていた。彼らはネアンデルタール人と現生人類のゲノムのメチル化のパターンの地図を作り、解剖学的特徴や疾患と関連づける研究をしていたが、さらに大胆な一歩を踏み出すことにした。DNAのメチル化を利用してデニソワ人の身体的特徴を予想しようというのである。
 現在は米スタンフォード大学の博士研究員であるゴクマン氏は、「どんな結果になるのか、確信はもてませんでした。過去にそんな研究は行われていなかったからです」と説明する。
 メチル化が果たす役割を見きわめるため、研究チームはヒトのさまざまな疾患の基礎となる遺伝子変異のデータベースを詳細に調べた。遺伝子変異はメチル化と同じように特定の遺伝子を不活化する。データベースは、特定の変異によって指が長くなるか短くなるかなど、変化の方向を知るのにも役立った。
 研究チームは用心のため、遺伝子と無理なく結びつけられるような骨格上の特徴だけを予想した。例えば、1つの特徴をコントロールする遺伝子が複数あるときには、各遺伝子の変化の方向が同じである場合にのみモデルに含めることにした。
 「つまり、ある特徴について、遺伝子Aが『アヒルに似ている』と言い、遺伝子BもCも同じことを言っている場合にかぎり、『アヒルに似ている』と予想するのです」とゴクマン氏。「『ガチョウに似ている』と言う遺伝子が1個でもあれば、その特徴は予想から除外します」
 こうして同じ方向の変化だけを集めた彼らは、同じ方法で、現生人類と比較したときのネアンデルタール人チンパンジーの骨格の違いを予想してみた。その結果、85%の精度で骨格の違いを予想することができた。
 ネアンデルタール人に似ているが
 Jason Treat, NG STAFF. SOURCE: Liran Carmel and others, Cell, September 2019.
 意外ではないかもしれないが、研究の結果は、狭い額やがっしりした顎など、デニソワ人の外見が既知の最も近い親戚であるネアンデルタール人によく似ていることを示している。けれども重要な違いもある。
 「私たちが見ているのはネアンデルタール人ではありません」と、ニュージーランド、マッセイ大学のマレイ・コックス氏は言う。「現生人類ともネアンデルタール人とも大きく異なる、第三のグループの人類です。非常に興味深いものです」
 注目すべきは頭頂骨(頭蓋の上部にある左右一対の四角形の板状骨)の幅の広さだ。河南省で発見された10万~13万年前の2点の頭蓋骨の破片は、この頭頂骨の幅が非常に大きかった。そのうちの1点の測定値は同時代のものの中で最大だった。多くの専門家がこの化石はデニソワ人だろうと考えているが、DNAがないため断定できずにいる。
 今回の研究は、頭頂骨の幅が現生人類やネアンデルタール人よりも広いことが、デニソワ人の手がかりとなると予想する。河南省で出土した頭蓋骨化石の8つの特徴のうち、7つが研究チームの予想と一致していた。
 カーメル氏はそのときの気持ちを「最高の喜び」と振り返り、「神からの啓示のような発見でした」と語る。
モデルを検証する機会は2019年の5月にもあった。チベット高原のはずれにある洞窟で デニソワ人の顎の骨が発見されたのだ。シベリア以外の場所でデニソワ人の化石骨が発見されたのはこれが初めてだった。この発見を聞きつけたゴクマン氏は、すぐに自分たちの予想があっているかどうかチェックした。驚いたことに、下顎の高さから歯列弓の長さまで、新たに記載された特徴のすべてが一致していた。
 見事としか言いようのない研究
 今回の研究は早くも古人類研究者たちを熱狂させ、予想値と各種の化石との比較が始まっている。中国の古脊椎動物学・古人類学研究所(IVPP)の呉秀傑氏は、今回提案されたデニソワ人の特徴は、中国北部の許家窯遺跡で発見された正体不明の化石とよく一致しているようだと言う。
 ただし、特徴のすべてが一致しているわけではなく、エナメル質の厚さや指先の幅の広さなどは一致していない。しかし、カナダ、トロント大学の古人類学者でデニソワ人の化石形態学の第一人者であるベンス・バイオラ氏は、こうした特徴に固執していると全体像を見落とすことになると指摘する。
 「見事としか言いようのない研究です」と彼は言い、限られた情報から最大限の知見を引き出した研究チームの努力を讃える。今回のモデルの精度は、小さな化石をデニソワ人のものと特定できるほどは高くないが、将来の研究の指針として大いに役立つはずだと彼は言う。
 ロンドンの自然史博物館のクリス・ストリンガー氏は、「古代のゲノムから探り出すことのできる情報の限界を広げるもので、胸が踊るような研究です」と言う。ただし、この研究は「推定に推定を重ねたもの」であるため、今後、科学コミュニティーによる評価が必要だと付け加える。
 例えばコックス氏は、今回の研究でデニソワ人集団内のばらつきがどの程度見落とされているのか不明であると指摘する。コックス氏自身の研究を含め、デニソワ人の遺伝学的研究からは、この集団が非常に広範にわたっていて、一部の集団は数万年にわたり独立に進化していることがわかっている。ある系統のデニソワ人は、ネアンデルタール人との違いと同じくらい、ほかの系統のデニソワ人と異なっていた。
 非営利組織トランスレーショナル・ゲノミクス研究所のヒト遺伝学の専門家ニコラス・バノビッチ氏は、今回調査された「メチル化」について、遺伝子の活性を微調整するボリュームのつまみのようなものとたとえる。したがって、研究チーム自身も強調しているように、予想される骨格の特徴は、現生人類やネアンデルタール人と比較した場合にのみ明らかになるものだ。変化の大きさを測ることは今回の研究の範囲外である。
 とはいえコックス氏をはじめ、研究者たちは今回の研究に興奮している。「デニソワ人の形態については、私たちはほとんど何も知らないのです」と彼は言う。「どんなに小さな知見でも、私たちには大きな意義があるのです」
 (文 Maya Wei-Haas、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
 [ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年9月24日付]
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