⚡16】─1─北海道地震。北海道電力「ブラックアウト(大停電)」の裏を読む。〜No.92・ 

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 産経新聞iRONNA
 北海道電力「ブラックアウト」の裏を読む
 北海道地震では、日本の電力会社で初めて管内すべての電力供給が止まる「ブラックアウト」に見舞われた。直接の原因は震源近くの火力発電所に電力供給を依存していたことだったが、むろん今回の事態はどこでも起こり得る。なぜ電源は崩壊したのか。脆弱な電力供給の背景を読む。
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 「たかが電気」どころじゃない! ブラックアウトの経済的損失がヤバい
 『上念司』 2018/09/12
 上念司(経済評論家)
 まずは北海道で被災された方々にお見舞い申し上げます。
 日本で初めてのブラックアウトが起きてしまった。これは由々しき問題だ。ご存じの通り、電力の供給と消費は「同時同量」でなければならない。例えば、今年の夏のように猛暑が続くと、昼間の電力消費が急激に増える。電力会社は「同時同量」を維持するために発電所の稼働を上げてそれに備える。もしそれをしなければネットワーク全体がダウンしてしまうからだ。
 今回のブラックアウトは消費側ではなく、供給側の発電所地震によって停止したために発生した。苫東厚真火力発電所は、出力165万キロワットで北海道全体の電力需要310万キロワットの約半分を占めていた。ここが地震で止まったことで、「同時同量」が維持できなくなってしまった。
 そもそも、なぜ北海道電力の電源構成が苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所に偏っていたのか? その理由は人災である。すでに指摘されていることではあるが、もし泊原発が動いていれば全道停電などという事態は避けられた可能性が高い。そして、泊原発を7年も停止状態に追い込んだのは菅直人だ。この点に関しては以下の論説に詳しいのでぜひこちらをお読みいただきたい。
 澤田哲生「北海道地震、未曽有の大停電は菅直人にも責任がある」(iRONNA 2018/09/07)
 技術的な問題は専門家に譲るとして、私は経済的な損失について考えてみたい。まず停電によって失われる経済的な付加価値について考えてみよう。電力中央研究所は次のように試算している。

 「産業連関表(2005年、ただし全国版4)によると、生産活動に中間投入される電力(の金額)は、GDPの2・3%程度であり、その逆数をとると約44である。短期的には電力は代えが効かないとみると、経済活動は、電力コスト1の投入を前提に、その44倍の付加価値を生み出しているという言い方ができる。
 需給対策コストカーブの概観 (今中健雄 電力中央研究所 社会経済研究所)」

 では、この44倍という数値を今回のケースに当てはめてみる。被害を受けた北海道電力の発電コストは部門別収支計算書(平成29年4月1日から平成30年3月31日まで)に書いてある。これによれば、電気事業費用の総計は6564億円だ。これを365日で割ると、1日当たりの発電コストが17・9億円になることがわかる。これを44倍した791億円が1日の電力コストを消費して得られる経済的な付加価値だ。
 今回のケースではブラックアウトは約2日間だったので、その分の経済的付加価値の損失は1582億円と試算される。
 ここまでがすでに失われた経済的付加価値だ。しかし、損失はこれにとどまらない。今後も続く電力不足による経済的な悪影響についても見積もる必要がある。
 北海道電力の不眠不休の努力によって、全道停電状態は9月8日の昼頃には解消した。しかし、実際のところはギリギリの綱渡りだ。苫東厚真石炭火力発電所の完全復旧にはまだかなりの時間を要すると見られており、それまで電源不足は続く。既述の通り、電力は「同時同量」なので、供給側に余裕がないとこの近郊が崩れかねない。再びバランスを崩せばブラックアウトに逆戻りだ。
 そうならないようにするために、今緊急にできることは需要側の制限だ。そのため、政府および北海道電力東日本大震災の時に実施したのと同じような計画停電の検討をしているとのことだ。ただ、現時点(9月9日)ではまだ具体的な実施計画は決まっていない。
 とはいえ、仮にこれが実施されたとすると、経済的な損失はさらに拡大する。東日本大震災計画停電に伴う経済的な損失については以下のような試算があった。
 
 「三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストの佐治信行氏が一定の前提を置いたうえで試算したところによると、1都8県(東京都、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、神奈川県、山梨県静岡県の一部)の対象地区が3時間の停電を4月末まで続けた場合、5・4兆円、1年間のGDPの1・04%が失われる。
(ロイター 2011/03/15)」

 実際には複雑なサプライチェーンがあり、どのような影響がでるのか試算は難しいが、ざっくり県内生産額で比較すると今回の被災地は東日本大震災の被災地の10分の1位程度になる。これを単純に当てはめると、仮に東日本大震災の時と同程度の期間計画停電が行われるとするなら、損失は年間で5000億円程度になる。
 また、仮に計画停電がなかったとしても、いま政府が呼びかけている20%の節電は現実に続いている。先程の試算に基づくなら、20%の節電によって失われる経済的な付加価値は1週間あたり1107億円だ。果たしてこれだけで済むかどうか、予断を許さない。
 ここまで試算した停電に伴う損失を合算すると累計損失額は最低でも2700億円、最大で6600億円にもなる。これはあくまでも試算だが、停電に伴う経済的な損失はこれほど膨大な数字となるのだ。「たかが電気」などと揶揄していたミュージシャンがいたそうだが、ぜひこの損失金額を見てよく考えてほしいものだ。
 ちなみに、北海道電力泊原発の再稼働に向けた安全対策の予算は約2000~2500億円である。この損失額に比べれば安いものではないだろうか?
 北海道電力は24日、泊原子力発電所(泊村)の再稼働に向けた安全対策に2011年度から18年度までの8年間で2000~2500億円を投じると発表した。原子力規制委員会の新規制基準に対応するため、従来計画より5割ほど増やす。11月を想定していた再稼働時期については、記者会見した真弓明彦社長が「かなり厳しい」と発言し、12年5月から続く停止期間が長引く見通しを示した。
 北電、泊原発の安全対策に2000億円超 8年間で(日経新聞 2015/3/25)
 東京工業大先導原子力研究所助教の澤田哲生氏によれば、今回の地震泊原発が観測した揺れはせいぜい10ガル以下である。泊原発は100~300ガルの揺れを観測すると安全のため緊急停止するが、10ガル以下では全く運転に支障はない。もし泊原発が再稼働済みだったら今回の地震では停止せず運転を続けていた可能性が高い。泊原発の1号機と2号機は57・9万キロワット、3号機は91・2万キロワットの出力がある。3基とも稼働していたら出力の合計は苫東厚真石炭火力発電所の出力165万キロワットを上回る。おそらくブラックアウトもなければ、計画停電も不要だったのではないか? 仮に一時的な停電が発生していたとしても、復旧は早く被害は桁違いに少なかっただろう。
 今回、全電源が停止したことによって、人工透析を受けている人、ICUで処置中の人に多大なる迷惑がかかっていたと聞く。電源喪失は人の命に関わる問題であることを再認識すべきではないだろうか? 原発をタブー視して議論を避けてばかりでは何も始まらない。泊原発地震対策について具体的に議論し、安全な再稼働を検討すべき時期に来ていると私は思う。
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原発を止めるリスク」北海道大停電が教えてくれた再稼動の意義
『奈良林直』 2018/09/12
奈良林直(東京工業大特任教授)
 9月6日午前3時8分、北海道南部の胆振(いぶり)を震源とする最大震度7地震が発生した。胆振管内厚真町では、丘陵地帯で数百メートルにおよぶ大規模な土砂崩れが発生し、流れ落ちた土砂が麓(ふもと)の民家を押しつぶした。震源に近い、苫東(とまとう)厚真火力発電所の1、2号機のボイラーが損傷し、4号機のタービンで火災が発生した。
 この損傷により、道内の電力の50%を供給していた総出力165万キロワットの火力発電所が運転停止した。このため、需給バランスが崩れ、過負荷による損傷を防ぐためにドミノ倒しのように全道の火力発電所水力発電所が送電系統から切り離され、本州からの海底ケーブル(北本連系線)での受電も停止する事態となった。
 これによって、北海道全域で大停電が発生し、行政、病院、乳業、鉄道、航空、物流、百貨店、スーパー、コンビニなどの機能が停止した。行政や病院などは非常電源を所有しているところが多いが、燃料に限りがあり、機能の縮小を余儀なくされた。また、人口200万人の大都市である札幌市でも清田区を中心に深刻な液状化現象を発生し、家が傾き、道路が陥没した。そして9月9日時点で、全道の死者は36人に達した。
 結論を先に言えば、北海道の全道大停電は、泊原発1、2、3号機(総出力207万キロワット)が動いていれば防止できたであろう。言い換えれば、火力発電所の今回の全道大停電の責任は、原発を止めて、半年で終わるはずの審査が5年以上もかかり、一向に再稼働させない原子力規制委員会にある。
 全道大停電の影響は深刻だ。例えば、病院の自家発の燃料が尽きていくと酸素呼吸器や生命維持装置、透析装置などが止まっていき、手術もできなくなる。実際、0歳女児の酸素呼吸器が停止して重体に陥った。外来の診察治療も停止した。
 報道されていないが、地震による負傷者の救急医療にも影響があったはずだ。ポンプが動かないので、水道も断水して水も飲めない。北海道東部の標津町に住む40代男性会社員と、上川の上富良野町に住む70代の自営業の男性2人が、6日夜、停電のため、ガソリン式の発電機を使い、一酸化炭素中毒で死亡した。こうした人の命にかかわる激甚災害を作ったのは、原発を何の法的根拠もなしに運転を停止させて再稼働させない規制によってもたらされた人災である。要は「原発を止めるリスク」は非常に高いのだ。
 そもそも、変動電源である太陽光、風力は火力や原子力、水力などの安定電源が動いていないと接続できない。北本連携線の本州からの直流送電も、道内火力が動いていないと交流に変換できない。送電網の「素人集団」である原子力規制委はこのようなこともご存じないらしい。真冬の北海道で同じ事態が起きたらそれこそ何万人にも凍死する事態になる。原子力規制委も政府も、原発を止めているリスクの高さを認識していない。
 この大停電のリスクを筆者は櫻井よしこ氏との共著『それでも原発が必要な理由』で警告しているが、本来ならこの全道大停電の人的・経済的大損失の責任を原子力規制委と政府が負わなければならない。
 厚生労働省によると、地震の影響で北海道内の376の病院で停電し、そのうち11の病院は災害拠点病院で自家発電機を使って対応した。水などが使えない病院も82施設あり、医療ガスが使えない病院が11施設に上った。
 また、日本透析医学会によると、停電の影響によって北海道内で透析ができなった医療施設が17施設に達した。透析が3日間できないと深刻な事態になる。また、病院などの冷蔵庫に保管されているワクチン、例えばインフルエンザ、ジフテリア、ポリオ、風しん、ボツリヌス、肝炎、日本脳炎狂犬病などあらゆる種類の病気や検査のワクチンも2℃から8℃の間で保管されていなければならず、10℃を超えると廃棄しなければならない。
 地震による建物の倒壊で骨折したり、頭部をけがして救急搬送されてきた患者のX線撮影やCTスキャンによる頭部検査もできない。実際、外来患者の受け入れを中止した病院も多かった。手術や現在の高度な医療も電気に支えられているのだ。震災時にこそ、医療が重要になるのは言うまでもない。
 また、北海道の主力産業である酪農も打撃を受けた。乳牛の搾乳機が使えなくなると乳牛は乳房炎にかかりやすい。さらに、ミルクが絞れたとしても今度は、出荷できない。ミルクが廃棄されたことも報道されている。
 そして物流への影響も大きかった。ガソリンやディーゼルエンジンの燃料である軽油などの流通が滞り、苫小牧埠頭では、停電の影響でタンカーで運ばれたガソリンや石炭などの荷降ろしができなくなった。タンクローリーに移すにもポンプを回す電力が要る。
 長距離トラック便や、道内の鉄道貨物の輸送も停止した。物流が滞ると野菜などの農産物、乳製品の出荷もできないだけでなく、百貨店やスーパー、コンビニなどの食料品の冷凍ができなくなる。本州へ送られる収穫期のジャガイモやタマネギなどの農作物が輸送できずに山積になったという。
 一方、新千歳空港では8⽇早朝に国際線ターミナルビルの閉鎖が解除されるまで、国際線の運航が停止した。7⽇に再開した国内線は乗務員の⼈繰りなどのため36便が⽋航。約1200⼈が空港に宿泊した。9⽇にも国内線28便が欠航。JR北海道では、8⽇になっても一部の普通列⾞やすべての特急列⾞を含む855本が運休した。札幌と帯広、釧路を結ぶ特急は運休が続いた。この時期、北海道を訪れる人は多く、観光客への影響も甚大だった。
 ではなぜ、このような全道停電という事態に陥ったのか。そもそも、耐震補強を徹底的に施した原発に比べ、火力発電所地震に弱い。ボイラーの伝熱管群は、熱膨張を避けるために垂直に数十メートルの長さがあり、上部で吊っているので今回のように直下型の縦揺れには弱いのだ。運転中は高温高圧になった伝熱管群が数十センチも下方向に伸びて下がってくるので、垂直方向には固定できない。
 このため、1、2号機のボイラーの伝熱管が損傷し、高温高圧の蒸気が吹き出した。4号機はタービンで火災が発生し、復旧にはケーシング(建具材)が冷えるまで待ち、分解点検して修理しなければならないので、修理期間は約1カ月と報じられている。その一方で、原発の燃料集合体は厚さ約20センチもある鋼鉄製の原子炉容器に収納されており、接続される配管も太く堅牢(けんろう)だ。
 つまり、最新補強工事が徹底的になされ、地震には非常に強くなっている。ソーラーパネルは台風で飛散し、風力発電所も倒壊したことが報じられている。このため、原発は現在の電源の中で最も頑健(がんけん)となった。
 マスコミ報道やインターネット上には、泊原発が震度2で外部電源が喪失し、もし運転中だったらメルトダウンして爆発する危険性があるというような意図的に原発の危険性を煽る情報がたくさん出ている。
 しかし、原発は今やほとんど全ての自然災害への頑健な対策を取り、震度2程度ではびくともしない。外部電源が喪失したのは、火力発電所のせいであって、泊原発のせいではない。非常用ディーゼル発電機が2台とも起動停止する確率は1/1000以下である。そして、原発は、外部電源喪失や負荷遮断といった外乱は織り込み済みで、設計と実際のハードウエアで対処可能となっている。
 少々、専門的になるが、外部電源が喪失し送電もできない負荷遮断状態になると、まず自動的に制御棒が挿入されていき、出力を5%ぐらいまで絞る。蒸気タービンは、余剰な蒸気は、タービンバイパスと言われ、タービンを回さずに直接復水器に放出される。蒸気タービンは回転が続いているから発電が続き、所内動力といって、原発が必要とする電気は自前で供給し、所内単独運転という状態で待機する。
 水力発電所などが運転を再開すれば、その給電で、運転を再開できる。非常用ディーゼルが起動するのは、所内単独運転に失敗したときのみだ。このときは、タービン動補助給水ポンプにより蒸気発生器に給水され、主蒸気逃がし安全弁から蒸気が放出されて、蒸気発生器を介して原子炉が冷却される。
 タービン動補助給水ポンプが起動に失敗しても、電動給水ポンプが代わりに給水する。さらにこれらに失敗しても、たくさんのモバイル電源、非常電源、給水車などが所用台数の2倍以上も準備されており、炉心損傷確率は隕石の落下確率以下となっている。さらにフィルタベントが設置されるので、万が一の炉心損傷が発生しても、放射性物質は濾(こ)し取られ、地元の汚染は防止される。今や原発の安全性は、3・11前の原発とは比較にならないほど頑健になっているのである。
 ここまで書くと、もはや原発を動かすリスクよりも、止めているリスクの方が高いことが分かる。原発を止めることにより、大停電のリスクは上がり、二酸化炭素の排出は増える。太陽光や風力では火力によるバックアップがないと運転できないので原発を止めると二酸化炭素の排出が増え、地球温暖化のリスクが上がる。
 ゆえに、太陽光や風力が原発の設備容量を上回るほど普及したドイツや日本で二酸化炭素は減っていない。1キロワット時の電気を得るのに、排出する二酸化炭素の質量で比較すると、ドイツも日本も先進国の中で最悪の二酸化炭素排出国なのだ。
 ドイツと我が国の再エネ政策は失敗しており、経済産業省と政府は第5次エネルギー基本計画を見直す必要がある。世界一になった太陽光に見切りを付けて原子力に大きく舵を切った中国の選択は正しいと言える。ちょっとデータをみれば、そうすべきことはだれでも分かる。このような重要なデータを報じないマスコミの責任も重いと言えるだろう。
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