🌌44}─1─9万年ぶりの阿蘇山破局噴火で逃げ場がなく1,100万人が数時間で全滅!~No.215No.216No.217 

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 誰も知らない阿蘇山破局噴火」は起こるか
 推定マグニチュード7・3を観測した熊本地震震源に近い阿蘇山で16日、小規模な噴火が起きた。気象庁は一連の地震との関係に否定的な見解を示したが、火山の専門家は9万年ぶりの「破局噴火」への警戒を呼び掛ける。列島最大規模の巨大噴火の実績を持つ阿蘇山。ついにその時が来るのか。
 1100万人が数時間で全滅! 日本人が知らない「破局噴火」の恐怖
 『早川由紀夫
 早川由紀夫(群馬大教授)
 4月14日21時26分に熊本県益城町震度7の揺れを観測した。マグニチュードはM6.5でさほど大きな地震ではなかったが、震源が浅かったために直上の狭い範囲が強く揺れた。しかし、大きな地震ではなかったのに、余震がいつまでも続くので奇妙だといぶかしく思っていたところ、28時間後の16日1時25分にM7.3の地震が発生した。益城町西原村震度7を観測し、宇城市から南阿蘇村までの広い範囲が震度6強で揺れた。地震はそのあとも続いて震源域を北東に拡大させ、阿蘇地方や大分県内でもM5.0を超える地震が起きて現在も進行中である。
 地震帯が阿蘇カルデラを南西から北東に横切っているため、阿蘇が噴火するのではないかと心配する人もいるようだ。じっさい、この原稿を執筆中の16日9時に阿蘇が噴火したと気象庁が発表した。ただし、中岳中央火口からいつも出ている白煙に火山灰が少し混じって灰色になった程度で、めざましいことが起こったわけでは、まだない。地震が頻発して人々が阿蘇に注目したからこそ、気象庁が噴火を認定した気配が濃厚だ。多分にバイアスがかかっている。
 この頻発地震が大きな噴火を誘発するかどうかが気がかりだが、現代火山学でそれはわからない。誘発するとも誘発しないとも言えない。火山学が未発達だから言えないのか、それとも原理的に言えないのかの見極めは学術的にたいへん重要な議論だが、ここではそこに立ち入らない。その代わりに、阿蘇が過去に並外れて大きな噴火(カルデラ破局噴火)をしたことを紹介しよう。カルデラをつくるほどの大規模な火砕流噴火を現代火山学は経験したことがないから、それを予知するのはむずかしい。予知できないと言うのが正直だろう。しかし予知はできないが、カルデラ破局噴火はいったいどれくらいの確率で起こるものなのか、もしそれが起こったらどうなるかをあらかじめ知っておくことはきっと有意義にちがいない。
 カルデラ陥没と火砕流
 だれも見た人はいないが、火山の地下にはマグマだまりがあると考えられている。マグマは、岩石が高温のためにドロドロに融けた状態のものを言う。マグマはふつう地下でじっとしているが、ときどき地表に顔を出す。これが噴火だ。
 地下から大量のマグマが地表に噴き出すと、マグマだまりの天井が支えを失って下に落ち込む。地表には大きな窪地が残される。これをカルデラという。
 カルデラの中には、しばしば水がたまって大きな湖ができる。北海道の屈斜路湖支笏湖洞爺湖、それから東北の十和田湖などがそれだ。カルデラの直径はどれも10キロ~20キロほど。天井が陥没するためには、それくらい大きなマグマだまりが必要らしい。
 大量のマグマが一気に噴き出すときは、火口の上に噴煙の柱を高くそびえ立たせて、そこから軽石や火山灰が、やおら降るより、むしろ火口の縁から四周にこぼれ出すほうが手っ取り早い。そのとき、軽石と火山灰と火山ガスからなる高温の粉体混合物が猛スピードで地表を走る。これが火砕流だ。実際どのカルデラの周囲にも、火砕流がつくった台地が何十キロも先まで広がっている。
 阿蘇カルデラは8万7000年前にできた
 九州中央部にある阿蘇カルデラだ。ここにもかつて湖があった。しかし黒川と白川がカルデラの壁を破って西へ排水したため、いまは乾いて広い平原になっている。そこにいくつもの街がある。阿蘇屈斜路湖に次いで日本で2番目に大きいカルデラだ。
 阿蘇カルデラは、8万7000年前に起こった阿蘇4という噴火で一昼夜のうちにできた。このときの火砕流は九州の山なみをジェットコースターのように高速で乗り越えて、鹿児島県を除く九州全県と山口県に達した。火砕流の到達範囲内にいた旧石器人は、数時間以内に全員焼け死んだはずだ。
 カルデラ破局噴火は繰り返す
 阿蘇火砕流に焼き払われた大地の上にいま1100万人が住んでいるが、阿蘇カルデラ破局噴火はもう起こらないのだろうか?
 じつは阿蘇カルデラでは、40万年前と11万5000年前にも同様のカルデラ破局噴火が起きた。阿蘇1と阿蘇3だ。カルデラの地下に潜むマグマだまりは火砕流を一回だけ大量に噴き出して死に絶えるのではなく、数万年あるいは数十万年の長い時間を隔ててそれを繰り返すらしい。
 阿蘇4噴火では、2兆6000億トンという途方もない量のマグマが噴出した。体積でいうと一辺10キロの立方体に相当する。九州の山なみを覆いつくした高温の火砕流は巨大なホットプレートになって上昇気流を発生させ、火山灰を空高く舞い上げた。こうやってできた火山灰の雲は、上空の風に流されて北海道まで達して、網走に5センチの厚さで降り積もった。
 火山噴火の大きさは噴出したマグマの量で測る。噴火によってマグマの量は何桁も異なるから、対数を使った噴火マグニチュードで表現すると便利だ。阿蘇4噴火のマグニチュードは8.4になる。阿蘇4噴火は、過去100万年間に日本で起きた最大の噴火だった。
 噴火マグニチュードと発生頻度は反比例の関係にある。小さな噴火は頻繁に起きるが、大きな噴火はめったに起きない。日本ではマグニチュード8.0を超える噴火が10万年に1回程度、マグニチュード7.0を超える噴火が1万年に1回程度の頻度で起こることが、過去の噴火堆積物を調べてわかった。
 カルデラ陥没を伴う破局噴火のマグニチュード下限は6.5だから、日本では1万年に2~3回そのような噴火が発生する。
 カルデラ破局噴火のリスク
 いま阿蘇4噴火と同じ噴火が起こると、鹿児島県を除く九州全県と山口県の人口1100万人が数時間で死亡する。火砕流に飲み込まれた地域の住民はひとり残らず灼熱の風に焼かれるか、厚い砂礫の下に埋まる。地域住民全員が等しく犠牲になるカルデラ破局噴火災害は、地域住民の数パーセント以下だけが死亡する地震災害とまったく異なるのだ。
 同じ噴火がいま起こったときに失われる人命の数を、その噴火のハザードと呼ぶことにする。阿蘇4噴火のハザードは1100万だ。大正関東地震の犠牲者数は15万人だったから、阿蘇4噴火のハザードがいかに大きかったかわかる。
 しかしカルデラ破局噴火はめったに起こらないから、ハザードの大きさだけで災害の重大性を判断するのは適当でない。ハザードと発生頻度の積で決められるリスクを評価する必要がある。

 リスク=ハザード×発生頻度
 M(マグニチュード)=噴出量の常用対数
 ハザード=それと同じ噴火がいま突発的に起こったら
 失われるだろう人命の数
 リスク=ハザード/年代

 阿蘇4噴火の発生頻度をきちんと決めることはむずかしいがが、いまは桁が得られればよしとして、噴火年代の逆数でそれに代えることにしよう。噴火年代は8万7000年だから、リスクは126になる。同様に、2万8000年前に姶良カルデラから発生して鹿児島県・宮崎県・熊本県に広いシラス台地をつくった噴火のハザードは300万、リスクは107になる。
 リスクは、ハザードで示される死者数を1年あたりにならした期待値に相当する。少なくとも九州においては、カルデラ破局噴火のリスクは地震リスクと同程度もしくはそれを上回る。
 カルデラ破局噴火にどう備えるか
 カルデラ破局噴火のときに発生する火砕流は、あらかじめダムをつくっておいても止めることができない。この種の火砕流は、高さ500メートル程度の障壁など難なく乗り越えてしまう。カルデラ破局噴火から助かるためには、事前にそこから退去しているしかない。
 だからカルデラ破局噴火の防災は、施設の建設や補強に頼ってきた従来の施策とはまったく違うものになる。災害文化の形成ともいうべき、何世代にも渡る知的努力の積み重ねが必要になる。
 一方で、ひとの一生の長さはせいぜい百年だ。カルデラ破局噴火のようなめったに起こらないリスクを心配して気に病んだり、その防災対策に莫大な投資をしたりを疑問視する向きもあろう。
 一生の間に遭遇する確率が1パーセントに満たないカルデラ破局噴火を心配するのは、杞憂なのかもしれない。しかし、深夜静かに、地球上のどこかの現代都市をいつか必ず襲うにちがいないカルデラ破局噴火に想いをめぐらすと、火山学者の私は思わず身震いをしてしまう。
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