⛻14〗─1─強制的に市民を無視して新首都・東京を防火都市へと改造した。明治時代。~No.70No.71No.72 @ ⑧ 

明治の東京計画 (岩波現代文庫)

明治の東京計画 (岩波現代文庫)

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・  
 明治新政府は、江戸改め東京を首都として欧米の都市に負けず劣らない近代都市に改造するべく、大火に対する都市防災とコレラ・ペストなどの疫病に対する公衆衛生に力を入れた。
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 江戸時代、江戸の町は火事・大火が多かった。
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 庶民が住む町中の茅葺家屋は、狭い敷地一杯に家を建てていた為に、玄関先と庭先は明かりが入ってもそれ以外の部屋は障子・襖・板戸で仕切られ、室内の明かりは蝋燭や行灯しかない薄暗かった。
 明治新政府は、伝統的家屋の欧米風という破壊を伴う近代化は大金が掛かる為に、手軽に廉価でできる方法として灯油ランプと板ガラス窓の普及を進めた。
 板ガラス窓は、住宅の近代化として、横浜などの外国人居住に建てられた商館やキリスト教会で用いられていた。
 輸入品であった板ガラスは高価であった為に、屋根瓦の一部を剥いではめ込んで天窓(トップライト)とした。
 新政府は、火事の類焼防止として、明治20年に東京の中心部の全家屋を瓦葺に葺き替えを強制し、裕福な家やその一部を天窓にした。 
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 2015年12月24日号 週刊新潮 「建設そもそも講義 藤森照信
 松田道之の防火策
 明治14年の東京防火令による防火改造・改修が明治20年に完了後、大正12年の関東大震災までの36年間、東京では100棟以上焼失の火事は起きていない。大火とは100棟以上焼失を指すが、ついに江戸以来の日本の木造都市の宿痾ともいうべき大火は、明治新政府の政策により克服された。
 路線防火(蔵造化)と屋上制限(瓦葺化)という江戸このかたの伝統的防火策によるから、方法を新しいとはいえないのに、どうして江戸幕府には難しかったことが新政府には出来たのか。
 現金によって改築費を
 資本主義経済の育成のためには都市防火が不可欠だったことが大前提としてはあるが、東京府知事松田道之の政策が優れていた。江戸幕府は路線防火と屋上制限をたびたび発しながら、ただ命令するだけで経済的な配慮を欠いていたからだ。
 木造と塗壁造の家屋1,697棟を高価な蔵造に作り替え、茅葺や松葺屋根の家々3万1棟を瓦に葺き替えようとすれば、当然、〝そんな資金はないから出来ない〟という家主は出てくる。
 そんなことは先刻承知の松田は、当初、無利子の改造貸付金を計画したが、政府の許可が下りない。それでは江戸幕府ろ同じ轍(てつ)を踏むことになり、松田も志士の端くれとして参加した明治維新をやった意味がなくなる。
 そこで、改造の期限を予定より延ばす代わりに、その間に月々積金(貯金)をし、満期になったところで下ろして改造費に充てる、という策を編み出した。
延期期限は最長60ヶ月(5年)だから、中心3区に家を持つほどの者なら5年もかければ貯まる。
 具体的には、まず改造費を算出し(蔵造なら、間口の間数×3×50円)、その額を延期月数で割った額を月々区役所に積み立てる。
 郵便局が積金業務を代行
 苦肉の策を拒む市民はなく防火は着々と進むが、どこにも依怙地な人はいる。
 『九段に、松葉楼という大きな家が一つ残った。どうしてもやらない、家は大きいし、18ヶ月猶予してやって、尚着手しない、一軒残って強情を張っている。30日の期限を28日までやらない。それから吾輩決心して、(警視庁に対し)あれはどうしても命令を奉じない、あれこそ破棄するから手順を取ってくれ、いよいよ毀す、人足まで手当すると、えらいものだ、前夜に其家を自ら毀した。そこで初めて一軒も毀さずして、屋上制限は済んだ』
 以上の話で二つ追加説明が必要になる。まず、『区役所に積み立てる』といっても区役所にそんな業務は出来ないから、近くの郵便局が代行する。1万人以上の東京市民が、総額100万円になんなんとする貯金を月々、郵便局に積み立てた。当時、銀行より利子がよかったとはいえ、1万人100万円規模の新客を郵便局が獲得するのはおいそれとは出来ない。そもそも郵便局の本務は金融ではない。あるいはこの防火積立金が元になって〝簡易保険〟などの郵便局金融が始まったのかもしれない。
 滞納には建築警察が出動
 もう一つ説明を要するのは、防火上の政策に警視庁がからむ件だろう。戦前まで、建築関係の取り締まりは警察が行い、東京の場合、建築の確認申請は桜田門の警視庁が受け付け、所属する建築技術者が許可印を押していた。これは『建築警察』といい、ドイツに習っている。
 1万人以上の中には不届き者もおり、建築警察の出動となる。たとえば神田の吉川五郎は、『屋上制限積立滞納につき、本日引き立てかた照会により、すなわち巡査を差遣わしそうろう』。
 それでも滞納を続ける者に対しては、松葉楼のように取り壊すか、もしくは強制的に競売にかけている。
 かくして、明治を代表する地方行政官の知恵により、首都の大火は鎮められたのだった。
 なお、事業がスタートした翌年、松田は43歳の若さで急逝し、成功を見届けてはいない」


 
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明治東京畸人傳 (中公文庫)

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絵で見る 明治の東京

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最暗黒の東京 (講談社学術文庫)

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