
- 作者:高橋 五郎
- 発売日: 2008/03/01
- メディア: 単行本
関連ブログを6つ立ち上げる。プロフィールに情報。
・ ・ {東山道・美濃国・百姓の次男・栗山正博}・
戦後の日本人は、正論をボソボソと相手に聞き取れないように小声で自信なさげに話すのみである。
外交能力は中国共産党に比べてレベルが低く、交渉能力も中国人に比べて稚拙で子供だましに近い。
現代日本は、世界的な影響力は弱く、国際的立場は低い。
・ ・ ・
日本は、食料自給率低下で飢餓が起きる。
・ ・ ・
2016年5月1月 サンデー毎日「TPPの罠 中国編 2 青沼陽一郎
食料爆買い 習近平の野望
動き出した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を横目に、中国の習近平国家主席が周到に立ち回っている。──連載中国編第二回では、『食料輸入国』へと舵を切って習近平の『本音』とその『深層』を探る。
米国の思想家レスター・R・ブラウンが『誰が中国を養うか』と題する論文を発表したのは、1994年のことだった。
当時から中国の人口は12億人を超え、その台頭による将来の食料危機を叫び、世界中に衝撃が走った。
折しも、その翌年の95年、中国を凶作が襲った。
70年代の終わりから、訒小平の改革開放政策によって、世界市場とも関係を深め、外貨も蓄えていた中国は、コメ、小麦、トウモロコシを純輸入量1,800万トンも輸入した。
これが世界中にショックを与えた。
特に慌てたのが、中国のあとを追う途上国だった。
『中国の輸入が増えると、国際価格が上昇し、途上国は食料が買えなくなる』
というのが、その理由だった。安定的に食料が供給されるはずの食料安全保障が壊れる。
この懸念は、途上国の盟主を自負していた当時の中国の江沢民指導部にとって衝撃だった。
そこで、96年10月、中国は『食糧白書』を初めてまとめ、同年11月にローマで開かれた世界食糧サミットにおいて李鵬首相(当時)が、『中国は95%の食料自給率を維持する』と世界に向けて公言したのだ。これが中国における食料政策の基盤となった。
それが、習近平が国家主席に就いた2013年末、中国指導部はいくつもの重要会議において、自国の食料安全保障について強い危機意識を表明すると同時に、これまでの食料政策の見直しに踏み切った。
『95%んp自給率維持』というそれまでの政策を捨て、人が直接食べるコメや小麦の主食穀物の『絶対的自給』とトウモロコシや大豆などの飼料用穀物、油糟種子などの『基本的自給』、すなわち輸入依存を高める方針を打ち出したのだ。堂々と穀物輸入をはじめると公言したに等しい。
その習近平が最初に視線を向けたのが、米国だった。
国家主席に就任する前年の12年2月、当時国家副主席だった習近平は訪米している。
まず首都ワシントンDCを訪れ、オバマ大統領、バイデン副大統領ら要人と会談する。翌年の国家主席の就任は既定路線であり、米国への『挨拶』『顔見せ』の意味もあった。だが、それだけではなかった。
そこから、習近平が向かったのがアイオワ州だった。
この連載でも、幾度も登場してきたアイオワ州は、『ホッグ・リフト』によって生きた豚を日本に空輸し、近代の養豚を根付かせ、日本での穀物飼料輸入の需要を生み出したところだ。
『習近平なら、俺の家に来たよ』
州都デモインにあるアイオワ大豆協会を訪れると、市場開拓ディレクターのグラント・キンベリーが、事も無げに言った。協会本部には、黒いロングコートを着た習近平が大豆農家を歩いている写真が飾られている。
……
大豆43億ドル買い付けた副主席時代
そして、未来の国家主席はこの時、驚くべきことをやってのけた。その日のうちに、43.1億ドルの大豆の買い付け契約を、随行してきた中国の取引業者に結ばせたのだ。
『たった1回の取引で43億ドルなんて、記録的だ!』
市場開拓ディレクターが目を輝かせて驚くのも無理はなかった。
43億ドルといえば、日本の大豆輸入額の2年分を超える。
日本は大豆の生産自給率がわずか6%で、残りを輸入に頼る。そのうち60〜70%を米国に依存している。そこにいきなり中国が横入りしてきたようなものだ。
『中国と米国は、大きな船のようだ。波によってどちらかに揺らぐ。中国と米国が農業での関係を強くできたら、船は揺れないようにできる』
習近平はそう語っていたという。もはや中米が世界の食料事情における主導権を握り、太平洋に浮かぶ日本という小国には目もやらない。そんな言いぐさだ。
つまりは、この時から中国の食料政策転換の布石を打っていたことになる。
いま、中国は大豆の世界の消費量の約3割、輸入は60%以上を占める巨大な〝胃袋〟になっている。『米国産大豆の60%は中国に行く』(グラント)というように、世界最大の大豆生産国である米国にとっては、輸出相手国のトップにくる。
では、なぜ米国だったのか。習近平はなぜ米国の穀倉地帯に目をつけたのか。
いわゆる『パナマ文書』で、習近平の義兄が海外のタックス・ヘイブン(租税回避地)になる会社の株主になっていたことが判明しているが、彼の実姉はずっとカナダで暮らしている。
また、人民解放軍に所属する国民的歌手の妻・彭麗媛との間に生まれた一人娘の習明沢は、ハーバード大学に通い、卒業している。それだけ米国には親和感で、遠からず縁もあるのだが、実は習近平自身が若い頃に米国でホームステイしていた経験がある。しかもその場所が、アイオワ州だった。
州都デモインから、東へ車で約3時間。イリノイ州との境を流れる北米最大の河川ミシシッピ川の畔(ほとり)に、人口約2万2,000人のマスカティンという小さな町がある。1985年、当時31歳だった習青年はこの田舎町の1軒の家にホームステイしていた。
……
トウェインに憧れ、食品工場に興味津々
『とても礼儀正しく、好奇心が強くて、なんでも興味を示す青年だったわ!それに、明るく、笑顔が絶えなかった』
当時、習青年を地元に招いたホストファミリーのひとり、サラ・ランディは、開口一番、彼をそう評して誇らしげに語った。
……
当時は河北省正定県の書記だった。同省のトウモロコシ視察団の随行幹部としれ渡米している。
……
『それからハインツの工場に興味を示して、見学に行っていたわ』
『ハインツ』といえば、ケチャップで世界一を誇る米国の食品メーカーだ。ここにも同社の大型工場があった。そこをいまから30年前に未来の国家主席が訪れていた。それも自ら希望して。
もうこの頃から、米国との食料供給に強い関心を抱いていたことがわかる。
『2年前にもここに戻ってきて、それは大騒ぎだった』
一晩で43億ドルの大豆を買い付けた前日、国家主席はわざわざこの田舎町にやってきていた。
『ここに来ると家に戻った気分だ。みなさんは私が会った最初の米国人であり、私にとって米国そのものだ』
習近平はそうスピーチしたという。
食料政策を転換させた国家主席の原点は、米国の穀倉地帯と『自由』がテーマの冒険小説にあったのだ。
……
ブラジルからも大豆輸入、世界中に触手
胡錦濤前国家主席の後継と争った李克強首相も、海外でのホームステイ体験を持つ。sれが、日本だった。それも小沢一郎元民主党代表の自宅だった。
果たして、李克強が国家主席になっていたら、視線が米国大陸に向かうことはあったろうか。
この米国における大豆の爆買いはもとより、毎年の大豆輸入量の伸びは、そのまま中国の需要と重なる。生産量の増加もあって、ここ最近は米国よりブラジルからの輸入が急増している。2015年の中国の大豆輸入は、前年比14.4%増の8169.4万トン。このうちブラジルから4007.8万トン、米国から2841.4万トンだった。
このブラジルの大豆生産量を支えたのが、実は田中角栄だった。
1973年、世界中が冷却化傾向の異常気象に見舞われる。これにより、ソ連が大規模な凶作となり、米国から小麦や大豆を大量に買い付けたことから、穀物相場が高騰。当時のニクソン米大統領が緊急輸出禁止措置をとった。これに大慌てしたのが、大豆を米国に依存する日本だった。『豆腐が食えなくなる』と国内は大騒ぎになった。
この経験から、首相としてブラジルを訪問した田中角栄が、エルネスト・ガオゼル大統領(当時)に共同の農業開発プロジェクトを提唱。79年から総面積2億400万ヘクタールの荒れ地だったブラジル中部のセラード地域の農業開発協力事業がはじまった。それがいまでは、このセラードだけで世界の大豆生産の約3割を占める巨大生産地帯となっている。
相手国の輸出禁止による食料危機に備えて、田中角栄がブラジルの大豆生産に橋渡しをしたはずが、いまでは中国のために貢献している。田中が描いた日本の食料供給の理想を中国が実用している。
TPPの発効によって、日本の食料安全保障は維持できるのか。その議論はまったくないない。中国はその陰で、したたかにその触手を世界に伸ばしている。」
・ ・ ・
古代から中国の領主は、領民・兵士を食を与え飢えさない事が最優先課題であった。
領民・兵士は、金銀財宝より食べ物を領主に要求し、食べ物をよこさず飢えさせる領主は無能で徳がないとして見限って立ち去るか、殺して新しい領主を迎えた。
故に。孔子は、社会秩序を保つに最も重要なのは食べ物や武器ではなく徳と礼節であると説いた。
領民・兵士は、天帝の命を受けて天子となった君主には忠誠を尽くし、その命を天の命として絶対服従として受け入れなければならないと。
が、中華の本質は古代も現代もあまり変わってはいない。
依然と「面従腹背」で、表向きには徳や礼節に従って品行方正に行動していたが、実際はそうではなかった。
空腹・ひもじさを満たし飢えて死なない為に欠かせないのは、金銀財宝ではなく、食べ物であった。
自分一人が生き残る事が最優先された、利用価値のない他人は殺して持っている食べ物を奪った。
中国人の爆買い心理とは、食べられ時にはき出しそうになるまで腹一杯に食べるという飢餓民の餓鬼心理に通じて、日本人のような腹八分、程ほどで止めるておくという自制心は存在しない。
「いまは食べたくないから食べたくなるまで待とう」という考えはなく、空腹ではないが食べられるのなら食べる、さもないと二度と食べられなくなるかもしれないから。
つまり、中国は飢えたイナゴの巣である。
イナゴは、食べ物を食べ尽くしたら食べ物がある土地へと飛び立ち、飛び立った後に残されるのは食べ物がない不毛な土地だけである。
それが、爆買いの真実である。
昔の日本人は、難しい漢籍を原書で読み、難解な漢文を正しく理解していただけに、決して中国には深入りせず、中国人と親密に交わらず、敬遠して遠ざけていた。
教養ある日本人は、古典に描かれた聖人君主の理想像的中国人は現実には存在しない偶像で、安易に中国人と付き合うと痛い目を見て不幸になると知っていた。
ゆえに、894年に菅原道長が遣唐使を廃止して1871年に日清修好条規がむすばれるまで約1000年間、日本と中国の間には正式な国交も友好関係も存在しない。
ただし、平清盛、足利義満などの権力者と僧侶、寺院の仏教勢力による私的な交流は極僅かの期間だけあった。
中国と深く関係を持たなかった時期が、日本にとって本当の意味で平和で幸福な時期であった。
最悪な中国の代表が中国共産党で、中国共産党結党以来の日本との関係を見れば「悲劇」を通り越して「悲惨」という一言でか片付けられる。
中国共産党は、幾ら言葉を巧みに駆使して日本との友好を飾り付けても、反日は党是である。
中国人(13億人)と中国共産党(6,000万人)は、ハッキリいって別である。
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5月29日 サンデー毎日「TPPの罠 中国編4 青沼陽一郎
国土汚染で〝毒食〟だらけ習近平の輸入食争奪戦
耕作地20%から重金属、化学汚染物質を検出
環太平洋パートナーシップ(TPP)の先行きが不透明感を増す中、世界中で『食料爆買い』に走る中国の存在感が際立つ。中国編連載最後では、食料輸入路線を驀進する習近平体制が直面する『汚れた土地』に焦点を当て、現地取材を交えてリポートする。
畑の一部が休耕地となり、さらには植樹の苗木を植えてある場所が見える。それも1ヶ所や2ヶ所ではない。所々に、かつては畑であった場所に植樹が進んでいる。よく見ると山肌も整備され、至る所に植樹が施してある。
『最近では、収穫のよくない土地では耕作をやめて、植樹を進めるようになっています』
地元の住人が言った。
『それにいままでは認められていた放牧も、いまは禁止。理由は砂漠化につながるから。いまはみんな養畜しか許されません』
〝世界の工場〟と呼ばれ、急速な経済発展を遂げてきた中国。経済規模は日本を抜き世界第2位にまで上り詰めた。
経済が発展すると食生活も多様化し、国民の食肉需要が増加するのは、もはや世界の趨勢である。
中国も例外ではない。1996年11月にローマで開かれた世界食糧サミットで『中国は95%の食料自給率を維持する』と公言したことが、そのまま中国の食料政策として継承されてきた。これを引っ繰り返したのがいまの習近平だった。
国家主席に就任した2013年末、人が直接食べるコメや小麦の主食用穀物の『絶対的自給』と、トウモロコシや大豆などの飼料用、油糟種子の『基本的自給』、すなわち輸入依存を高める方針を打ち出した。
いまや中国国内の食肉生産のために、飼料穀物の海外からの輸入が増加し、日本の飼料が値上がりして酪農産業が打撃を受ける。
だが、中国が食料を輸入に依存しなければならない事情はそれだけではなかった。米国でのホームステイ体験を持ち、同国の食料の豊かさを知る習近平が政策転換を求められた核心的な理由が他にある。
それが、汚染である。
そもそも中国という国は、13億人超の世界最大の人口を抱える。世界人口が約72億人だから、世界の20%近くを占める。
その中国は意外なことに、世界の農耕地の約9%しか持っていない。『95%の食糧自給』が基本であったことからすれば、これまで世界のわずか9%の農地で、世界の約2割の人間を養ってきたことになる。
農地は汚染で限界
切り札は『退耕還林』
ところが、2年前の14年4月、中国環境保護省が衝撃的な事実を公表する。同省が調査したところによると、中国本土の土壌の約16%に何らかの汚染があることが判明したのだ。
しかも、農耕地に限っては、19.3%が汚染されていたのだ。公害の圧倒的大半は、基準値を超える重金属や化学廃棄物が検出されたものだった。
つまり、世界の9%の農地しか持たない上に、そのうちの約2割は汚染地だったのだ。
それが現実だった。中国は食料生産には適さない大地と化していたのだ。
そこで中国政府が実施した政策が、習近平の下放の地に見られた。『退耕還林』だった。すなわち、あえて農耕を後退させ、もとの林に還す。樹木を増やすことによって、二酸化炭素を還元する。地球温暖化を防ぐ。さらには大気汚染物資PM2.5までを緩和させる。
『限界に来ている土地を休ませ、自然に近い持続可能型農業をこれから目指すということです』(中国農業の専門家)
……
深?は香港との境界の街でもあり、『来科加工』すなわち原料を持ち込んで加工する工業特区として急速に発達した場所でもある。
それが先鞭(せんべん)であったように、〝世界の工場〟として、低価格商品を大量生産して世界に売りだし、経済発展を遂げてきた。工業製品ばかりでなく、日本の食料の中国依存高まっていったことも歴史の示す通りだ。
2001年には、中国が世界貿易機関(WTO)に加盟する。これによって、経済成長は加速する。個人所得は急増し、食への支出が拡大をはじめる。食の需要が増加する。
深刻な土壌汚染拡大
毛沢東生誕地の惨状
それでも、『95%の自給率維持』を掲げていた中国は、驚くことに、04〜14年まで、気候変化に関係なく、1年連続で食料の増産を実現してきていた。
こんなことは歴史上ないばかりか、その増産はもっぱら農地の収穫高を上げる単収増加によってもたらされたものだった。
『農地を増やしたくても、土地がない』(前出)
中国の国土は、欧州がすっぽり収まってしまうほどに広い。だが、その割に砂漠や山間部が多く、農地には向かない土地が多い。あっても、工業に利用され、むしろ田畑を潰して工場建設が進む。
限られた農地でとにかく収益を上げる。ここに大きく貢献したのが、化学肥料と農薬の大量使用だった。
効率的に農地を利用しようと、毎年のように連作を繰り返す。すると土地は痩せ衰える。それを補うためにまた化学肥料と農薬を使う。これがいつしか土に浸透し、やがて地下水や河川を汚染していったのだ。
一方で、急速な工業化は深刻な環境汚染を引き起こした。田畑の真ん中に重化学工場が建つことも珍しくなく、ここから化学物質が流出し、土地が汚れ、水が濁り、大気中に危険物質が放散していった。
しかし、そうすることでこの短時間の間に世界第2位の経済大国にのし上がることもできた。だが、その代償は大きかった。
もはや汚れた土地はどうしようもなくなっていた。それは、国家主席の父・仲勲が推し進めた改革開放政策のつけ回しだった。
その中国国内で毒食問題が顕著化し、世界中で中国食を不安視する声が高まったのは3年前の今ごろだった。上海の川では死んだ豚が大量に流れ着いて大騒ぎとなり、かつて習近平の父が省長を務めた広東省広州市圏では、基準値を遙かに超えるカドミウム米の流通が発覚して問題になった。
このカドミウム米は、隣の湖南省で収穫されたものだった。湖南省は『魚米の里』と呼ばれ、水資源が豊富な、魚と米の産地として知られた。しかし、その一方で銅や鉛など非鉄金属の生産でも国内上位5位内にランクされている。やはり14年4月に中国環境保護省が公表した資料によると、湖南省は甘粛省と並んでもっとも土壌汚染の拡散している地域である。
……
『ワックス米』も登場
カネ儲けで毒食氾濫
……
中国の毒食の歴史は、人民公社の廃止にはじまるとされる。
『人民公社がなくなって、作ったコメが自分のものになるようになってから、みんな備蓄するようになった。相場を見て売る。ところが黴(かび)が生えてしまうから、もう一度精米をして売ろうとする。だけど削り過ぎて見た目が悪くなる。だから、つや出しに工業用ワックスを塗って販売した』
中国で聞いた実話だ。
『食品の問題で有名なのは、白酒に工業用のアルコールを混ぜて販売して、みんな目が悪くなっちゃったこと。1985年くらいのことっだった』
他にも、四川省などでは牛油を使うはずの鍋に、見た目がいいからと工業用ワックスを使ったことや、湯葉を漂白剤で白くしていたこともあったという。
『中国人でもそんなのは信じられないよ』
無知と欲望がいっしょになって、人為的に毒食が拡散していく。そこに経済発展に伴うカネ儲け思考によって、他人の健康を顧みない確信犯的な毒食が氾濫する。豚の赤身肉が高く売れるからと、赤身を増強する『痩肉精』がそのいい例だ。習近平が最初にこの問題を公にし、米国産の豚肉に使用される『ラクトパミン』も含め一切を禁止しているのは、ひとつでも例外を認めようなら、国内に危険な紛(まが)い品が横行してしまうからだ。
それがいまでは、人為的な毒食だけではなくなった。健全な農業を営もうにも、収穫される作物が毒に塗れてしまう。土地が汚れてしなった。中国の大地に限界が来ている。
経済発展による肉食の増大は趨勢であることは述べた。ところが中国では、この需要を海外に依存しようとする動きが強い。自国の毒食に懸念を持っているからだ。肉を食べるにも、海外のもののほうが安全と考える。国内産を敬遠する。
2014年末に中国が豪州と自由貿易協定(FTA)を結んだのも、この時流に沿ったものだ。
一人っ子政策を捨て食の海外依存強まる?
さらに13年には、全米で豚肉生産のシェア25%以上の第一位を誇る、世界最大の豚肉生産加工会社『スミスフィールド』を、中国食肉大手企業『万洲国際』が、約47億ドルで買収している。中国は世界最大の豚肉消費国だ。
この連載でも見てきたように、TPPによって日本の畜産業、それも豚肉は米国産の流入によって大打撃を受けるとされる。それが為に、対策が急務となった。
しかし、その米国産の豚肉もやがて中国との競合する可能性が高い。豪州産の牛肉も、TPPによって関税が9%になる16年後よりも先に、低い関税の中国が買い占める。
安倍政権の掲げる『攻めの農業』『輸出拡大』とは威勢がいいが、その一方で現行の食料自給率39%の日本の食料の安定供給、すなわちフードセキュリティー(食料安全保障)は堅持できるのか。
米国の思想家レスター・R・ブラウンが『誰が中国を養うのか』と題する論文を発表して世界を震撼させたのは、1994年のことだった。
それから20年以上が過ぎ、世界の人口は70億人を突破し、予想では2030年に85億人、50年には90億人を超えるとされる。
そうした中で、中国は一人っ子政策をやめた。限界にきている国土を休め、食料の海外依存を確実に強化している。
習近平政権の中国では、『城鎮下計画』と呼ばれる新型都市化政策が進められている。地方の農村部を都市化して、農民を都市生活者に変えていく。退耕によって溢れた離農者の受け皿になると同時に、都市生活型の可処分所得の増加と内需拡大によって、行き詰まりを見せ始めた中国経済の打開を図る。だが、それは国内農民人口の減少と、食料海外依存の必要性がさらに求められ、激しい争奪と溢れる人口でやがて食料危機の引き金になる。食料争奪に敗れた国の住民が餓死に至る。
そこでいま、日本が考えるべきことは、『誰が日本を養うのか』ということではなかろうか。TPPがフードセキュリティーの担保になるとは到底思えない。
ましてや、今年11月の米国大統領選挙が近づく中で、有力候補とされる共和党のドナルド・トランプも、民主党のヒラリー・クリントンも、一斉にTPP反対を唱えている。日本の国会においても、TPP審議は先送りされ、先行きは不透明になってきた。トランプ候補の言動においては、米国の孤立主義も予見される。
食料自給率のさらなる低下が予測されるTPPと並行して、フードセキュリティーの議論が尽くされないことは、この国の未来を暗澹たらしめる。中国はTPPの枠組みを超えて、少なくとも食料に関しては、着実に世界に覇権を伸ばしつつある」
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気弱な日本人には、強靭な精神力を持つ中国人には勝てない。
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