
- 作者: 黒川伊保子
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2012/12/01
- メディア: 新書
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会話において、女性脳は途切れなき経過を重視する複雑系プロセス指向共感型モデルであるが、男性脳は断片的なキーワードを重視する単純系ゴール指向問題解決型モデルである。
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女性脳は敏感で神経を巡らすが、男性脳は鈍感で無神経である。。
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2017年9月号 正論「怖い妻たち
なぜ妻は夫にムカつくか 黒川伊保子
『あなたはわかってくれない』『だってあの時も・・・』と逆ギレされ、ことあるごとに過去のあやまちを蒸し返された夫たちへ──人生を劇的に変える、男と女の脳科学入門編。」
夫婦脳の不可解
妻というのは、常に不機嫌である。
世界中の妻が、夫にムカついているし、世界中の夫が、妻の機嫌に手を焼いている。別に悪いことをしているわけでもないのに。
これは、男女それぞれの脳が創りだす原初的かつ普遍のものがたりであって、なんびともこれを免れることはできない。
しかし、がっかりすることはない。これが、人類普遍の脳の反応であって、自分や相手が悪いのではないとわかれば、けっこう心の余裕ができるものだ。妻の理不尽な発言にも、夫の愚鈍な態度にも、心を硬くせずに『やはり、そうきたか』と、くすりと笑えるようにさえなる。
では、人生を劇的に変える、男と女の脳科学。その入門編をお楽しみください。
*
私は、人工知能の研究者である。1983年、大学を卒業して、コンピューターメーカーに就職した私は、縁あって人工知能の開発に従事することになった。
1980年代は、世界が『未来』に憧れた時代だ。目前に迫った(ように思えた)21世紀を目指して、人工知能の基礎テクノロジーが、さまざまに花開いたのである。今では当たり前になった音声認識、画像認識、ニューラルネットワーク(ディープラーニング)などなど。
ちなみに、1991年に全国の原子力発電所で稼働した、史上初の日本語対話型データベースは、私が開発した。こう見えて、日本語対話システムの草分けの開発者なのだ。私は、論文を書くくらいなら本を書いた方が役に立つと思ったので(人工知能の知見は、ロボットに活かす前に、生身の男女に役に立つ)、学者としては認められていないのだが、開発者として役に立つくらいの歩みはしてきたつもりだ。
さて、世界初と言われた日本語対応を実現するに先だって、私たちの開発チームには、あるミッションがもたらされた。ヒトとロボットの対話の研究である。
やがてやってくる人工知能時代。人の思いや動線を察して動く自律型のメカたちは、人と対話をすることになる。そのメカたちが、どのようにことばを紡いだら、私たち人類は、ストレスなくメカと共存できるだろうか──しゃべる携帯電話も想像上の産物だった35年前のことである。
その研究の比較的早い時期に、私は、男女の会話のスタイルが違うことに気づいたのだった。
男女の会話は方向の真逆
男女の会話は、方向が真逆だ。
何かことが起こったとき、女性はことの発端から話したがる。『そういえば3ヵ月前、あの人にこう言ったら、ああ言われ、こうしたら、ああなって・・・』というように。
女性脳がこれをするのにはわけがある。女性脳をデータベースとして見立てて分析してみると、女性脳は、プロセスから知を切りだすこと長けているのがわかる。
女が長々とプロセスを語るのは、脳がその裏で、無意識のうちにプロセスから知をきりだすかめだ。誰が悪くてこうなったのか、どうすればいいのか、私にもできることはなかったのか・・・。
女性脳は、気持ちよくしゃべらせておけば、裏で真実を探し出す演算を行い、最適解を弾きだしてくる。この演算は、最も合理的で、最も謙虚なのだ。
だから、女の話は、邪魔しちゃいけない。共感しながら、気持ちよく聴く、がセオリーなのだ。
プロセス指向共感型モデルと、私は読んでいる。
一方、男性脳の方は、女性脳よりはるかに小さなワーク領域で会話を片付けなきゃいけないので(男性脳には、おしゃべりとは別の仕事がある)、非常に合理的な会話スタイルを持つ。
最初に、この会話の目的や結論を明らかにし、余分なことはなるべく排除する。そして、相手の話に問題点が見つかれば、それを素早く指摘して、会話を終わりにしたいのである。ゴール指向問題解決型モデルである。
女性脳は、ことが起こると、その経緯を共感(『きみの気持ち、よくわかるよ』)によって気持ちよく聴いてもらい、真実演算を施すように作られている。
なのに、男性は、『何の話?』『結論から言ってくれる?』『あー、それは、◯◯だよな』『きみも◯◯すればよかったのに』なんて、余計な問題解決で一刀両断にしてくる。もちろん、すばらしい問題解決で他者を救おうとするのは、男性脳の正義と誠実でるのは間違いない。
しかし、これをされると、女性脳の真実演算がアポートされる。アポートとは、演算が中断して、それまでの中途演算が全て無為になることだ。多くの場合、同じ質の演算は二度と起動できない。
このため、女たちはショックを受ける。脳に渦巻くあまりのストレス信号に、逆ギレするしかないないのである。
男の方は、びっくりである。わかりにくい話をしんぼう強く聞いてあげたいのに『あなたは私の話をちっとも聞いていない』となじられ、親切にアドバイスしたのに『そんなこと聞いていない』とキレられる。いやいや、相談事があるって、言ったじゃないか・・・。
かくして、男は無神経、女は度し難し、となるのだが、これは、脳の操作を間違っただけ。
この世には、何語であろうと、二つの対話スタイルがあり、女性は主にプロセス指向共感型で、男性は主にゴール指向問題解決型で対話を進めたがる。
そして、異なる対話モデルでしゃべろうとすると、お互いに傷つけあうことになるのだ。
そんな重要なことを、なぜ、義務教育の国語と家庭科で教えないのだろうか。30年ほど前、若き日の夫の言動に、あれこれ傷ついた私は、人工知能研究が教えてくれた知見に、あんぐりと口を開けてしまった。
だから、である。この知見は、人工知能の研究室に閉じ込めておくのはもったいないと痛感した。生身の男女の知るべきだと。そうして、論文を書く時間があったら、本を書いて世間に知ってもらおうと決心したのだ。
女にとって、共感はいのち
女性脳によって、共感は重要だ。真実演算をうまく走らせるだけではない。余剰なストレス信号が、共感してもらうことによって鎮静化するという機能もある。
女性は、例えば、危険な目に遭って怖い思いをしたとき、『怖い』という感情が長引くようにプログラミングされている。
理由は、危険な事態に自分を追い込んだプロセスを、脳が解析する時間を稼ぐためだ。
感情を長引かせて、その感情に至るプロセスから知を切りだし、自分を二度とその事態に追い込まないように(逆にいい感情から再びその事態に至るように)、脳に書き込むのである。特に経験の少ない若い女性脳にこの傾向が強く出る。
だから、若い女の子は『あ〜ん、こわかった〜』とか『かわいい〜』とかを大袈裟に言い募るのである。単にかわいこぶってるわけじゃない。
女は、転びそうになったけど転ばなかった話とかする。あれって、情報量ゼロだよな、と、ある男子が言ったけど、それは女性脳を知らないからだ。
『怖い』『ひどい』の感情が長引いて、他のことに集中できなくてつらいとき、女性は周囲にその感情を訴える。『怖かったね、かわいそうに』と共感してもらえると、ストレス信号が減衰するからだ。『転びそうになって怖かった(転んでないけれど)』には、『お願い、優しく共感して、私のストレス信号を減衰させて』という注意書きが付いている。男には見えないけれど。
というわけで、妻が『なんだか、腰が痛くて』と言ったときも、するべきは共感。『あー腰が痛いのか。そりゃ、つらいな』と言うのである。
それだけで、妻の脳では、ストレス信号が減衰。ときには、痛みもちゃんと軽減する。
なのに、『医者に行ったのか』なんて言われた日には、ストレス信号が倍増する。『もんでやろうか』なんて言われるのも、余計なお世話。
しかし、ゴール指向問題解決型の男性脳は、たいていは、どちらかを口にする。かくして、妻はいつも不機嫌な生き物、となってしまうわけだ。
だから、とにかく共感してあげて、と男性たちに説いて回っているのだが、男性たちからは、『そうやすやすと共感はできないよ』というため息が漏れる。
たとえば、妻と隣の奥さんがトラブルになったとき、どう考えても妻が悪かったら、共感なんてできないだろう、と。
いや、そんなときこそ、篤く共感してやるべきなのだ。『きみの気持ちは、よくわかると』と。
『気持ちがわかる』と『でも、きみが悪い』は、女性脳の中では共存できる。『気持ちはわかるよ。ほんとに、よく、わかる。でも、相手の言っていることも一理あるかも』は、ありなのだ。
男は、間違っている相手に共感することができない。正義漢が強いからね。
でも、ここは、正義漢を少し曲げてほしい。『気持ちがわかる』と言ってあげれば、ストレス信号が沈静化して、人の話を聞けるのだから。消火器で火を消すのと変わらない。
女同士は、これを駆使している。女同士でパフェを食べるとき、一人が『今どきならマンゴーパフェよね』と盛り上げれば、他の女子たちは『そうよね、今どきのマンゴーは美味しいもんね〜』と口々に言い合ってあげく、『でも、私、チョコ』『私、いちごね』と言うのである。マンゴーを推薦した女性は全然気にせず『そうよね、あやちゃん、チョコ好きだもんね。マンゴーひとくちあげるね』と微笑んでいる。
男子は、これができない。無責任に共感できず、うなずきもせずに『あ、俺、チョコだから』とか言って、彼女の気持ちに冷水を浴びせてしまうのだ。
気持ちはわかる、でも俺こっち、は、女子的には大いにあり。覚えておいた法がいい。
女は蒸し返しの天才
女は、なぜ、過去のことを何度も蒸し返すのか。
これは、男性からよく寄せられる質問である。
女性脳の中では、一部の体験記憶が、その記憶を脳にしまうときの心模様(感情より、もっと微細に色合いの違う情動)と共にしまわれている。
そして、心が動いたときに、その心の動きによく似た体験記憶を、一気に引きだしてくるのである。心模様を検索キーワードにして、データを網羅する。
これは、子育てのために進化してきた力だ。初めてのトラブルに見舞われても、過去の類似体験を一気に脳裏に取り揃えて、何をしたらいいかを決することができる臨機応変力なのである。
しかし、男性から見れば、この素晴らしい才能には副作用がある。
夫や上司がなにか無神経なことを言えば、過去の無神経な発言をすべて、一気に脳裏に取り揃えるってことだからだ。しかも、心の動きと共に想起するので、今もう一度、あらためて傷ついているのである。
ここであやまりそこねたら、女性脳のストレス信号は倍増して恐ろしいことになる。しかし、これがあるから子育ても、将来の夫の介護も難しくこなしていけるのである。観念してください。
過去の蒸し返しを止める方法
女性脳が、過去を蒸し返してしまう構造なのはよくわかった。では、その蒸し返しを止める方法はないのだろうか?私はよく、男性にこの質問を受ける。私は、『キレられたときではなく、比較的幸せなときに、深く後悔としてあやまってみてほしい』と答えている。
女性脳の感情トリガーの記憶連鎖を止めるのはたいへん難しく、必ずしも成功するわけではないのだが、これが唯一の手段だからだ。
私の父は、母が私を出産したときの思いやりの無さを、30年以上も言い続けていた。
母は若いうちに母親を亡くし、里帰り出産はかなわなかった。父の田舎で出産した母は、姑に遠慮して、帝王切開のわずか2週間後のお正月に、一日中嫁として立ち働くことになってしまったのだ。父は陽気に酔っぱらって、母を休ませることをしなかった。あげく、母は高熱を発して倒れ、生死の境をさまよったのである。
父が無神経なあるいは威圧的な発言をする度に、この件は、母の口の端にのぼった。父は、この件を突き付けられると、たいていはしゅんとしてあやまりのだが、時には逆ギレをすることもあり、母の中にあるわだかまりを消すことができないでいた。
母は、何度か『娘のお産を手伝うまでは死ねない』と口にしたことがある。私は、若き日の母が受けた情けなさを思うと、胸が痛かった。このわだかまりは、父が一生背負っていく十字架だな、と、娘でさえ思っていた。
そんな、大きなわだかまりがある日、ぷっつり消えてしまったのである。私のお産の日に。
私が息子を産んだ日、夫は不在だったため、父は、何時間も腰をさする羽目になってしまった。陣痛が襲う度に全身全霊で腰をさすってくれた父が、やがて、傍らにいる母に、しみじみとこう言った。
『お産っていうのは、本当に、大変だなぁ。・・・あのとき、おまえの傍らにいてやればよかった』
母がほろりと涙をこぼし、以後二度と、産後の失態の話は蒸し返されなかった。
もしも、過去のあやまちを何度もなじられているのだとしたら、なじられたときではない別のシーンで、しみじみと後悔してあげてほしい。心から溢れ落ちた一言だけが、心のわだかまりを氷解させる。
夫婦というもの
父と母は仲良くしだったのか、そうでなかったのか。
母のお見合い写真に一目ぼれしたという父は、母をよく愛したと思う。
私が小学校5年の時、母と私がケンカして、母の理不尽さを父に訴えたことがある。そのとき、父はこう言ったのだ。
『どっちが正しいか俺はしらん。だが、お前に言っておくことがある。この家は、母さんが幸せになる家だ。母さんを泣かせた時点で、お前の負けだ』
私は?然として、次に父をカッコイイと思った。男は、ある女を妻と決めたなら、良い悪いを判断せずに潔く暮らすものなのだということを思い知った気がした。
そんな父の晩年、母の部屋から、こんな会話が聞こえてきた。
『もう、自分の部屋に帰ってくれない?本を読みたいの』『もう少し、傍にいてもいいだろう、この飴玉を食べ終わるまで』『じゃ、ちゃっちゃっと噛んじゃって』『うん』
母には悪気はなく、父も期を悪くしていない。
母はけっして意地悪な性格じゃなく、心優しい人で、母が弱い人たちにしていたさまざまな支援は、私に多くのことを教えてくれた。なのに、父に対してだけは、ちょっとクールだったのだ。
そんな母が、父のお葬式の後しばらくして、お骨の前から、泣きながら電話をかけてきた。『いろいろ考えてみたの。お父さんは、私には、最高の人だった。私には、どう考えても、お父さん以外の人はいなかった。それを、生きているうちに伝えたかった』
私は、『お母さん、間に合ってよかったね。49日までは魂が傍にいるって言うから、そのことば、お父さんも聞いているわよ』と言って、一緒に泣いた。
半日ほどして、母からまた電話があった。『お父さん、ちゃんと聞いているのかしら。15分だけ化けて出てきて、とお願いしてるのに、出てこないのよ』としょんぼりしている。
私はふと気になって、『なんで15分なの?』と聞いてみた。『あら、だって、それ以上いたら、うざいじゃない?』だそうだ。
夫婦とは、面白い縁である。
大切なのに、鬱陶しい。55年も一緒にいて、大事なことを伝えそびれる。
そりゃこんなに違う脳なのだものね。それでも、一つだけ言えるのは、ただただ一緒にいることのすごさである。
ちぐはぐだからこそ完結せず、伝えそこねた愛だからこそ胸に響く。それまで一興と言えなくもない。
母は、父の写真に語りかけながら暮らしている。父は、生前、そんな母を想像しただろうか」
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